花粉症の原因

2010年12月27日の日経Trendy netの記事を転載しました


アジュバントが凶悪化させた“都会の花粉”が“田舎の花粉”よりヤバイ理由~もっと知りたい花粉の話

ウェザーニューズ(東京都港区)の2010年10月の発表によると、2011年のスギ花粉は、前年に比べて、全国的に5倍、関東では7~8倍、近畿 では10倍の量が飛散し、過去に大飛散が観測された1995年や2005年と同等か、それ以上の可能性もあると予測されている。

 毎年、激しい咳やくしゃみ、不快な目のかゆみや倦怠感などに打ちのめられている花粉症の人間にとって、過去最大級のスギ花粉が飛散するらしい来年の春を思うと、すっかりブルーになってしまう。

『せめて、スギ林の多い田舎には近づかないよう、できるだけ都会で過ごすしかないな』と考えていた矢先、そんな一縷(いちる)の望みさえもぶち壊す話が飛び込んできた。

 なんと、スギやヒノキの山林から遠く離れた“都会の花粉”は、“田舎の花粉”よりもひどい花粉症を引き起こすというのだ!

「アジュバント」で都会の花粉が凶暴化!

 なぜ、そんなことが起こるのか?

 理由は、“都会の花粉”に「アジュバント」と呼ばれる物質が付着・吸着するからだという。

ディーゼル粉塵粒子などアジュバント物質が付着した“都会の花粉”

田舎のスギ花粉(左の写真)に比べて、都会の花粉(右の写真)には、花粉以外の物質が多く付着している。これが「アジュバント」と呼ばれる物質だ。

 確かに、見た目は、アジュバントと呼ばれる物質をいろいろくっつけた“都会の花粉”の方が、どことなくヤバそうに見える。

 でも、こんな小さな物質をくっつけたからといって、本当に“都会の花粉”の方が“田舎の花粉”より花粉症の症状をひどくしたりするのだろうか。

 早速、花粉症を含めて、アレルギー疾患の研究に長年携わっている医学博士、国立環境研究所 環境健康研究領域の高野裕久 領域長に話を聞いた。

 「花粉症と同じく、アレルギー性疾患の1つである『喘息』に関する動物実験が行われていま す。アジュバント物質の代表格であるディーゼル排気微粒子(DEP)、いわゆるディーゼル粉塵をアレルゲンと一緒に与えると、与えない場合に比べて、喘息 の症状が出る際に認められる炎症細胞の数が7、8倍に増えます。指標となる物質によっては、約20倍に増えるものもあります。ですから『アジュバントはア レルギー反応を10倍、20倍に悪くする』という表現は、まちがいではありません」

 動物実験においては、すでにアジュバントが花粉症などのアレルギー疾患をひどくすることが確認されていたのである。


 高野領域長の話によると、アジュバント物質の代表格であるディーゼル粉塵の花粉症への影響については、1980~90年代に指摘され始めたという。

「かつて、栃木県の日光で疫学調査が行われた結果、スギ花粉の量より、むしろ、交通量の多さの方が花粉症の頻度と相関していました」

 1987年に論文発表された栃木県日光市の疫学調査によると、交通量の少ない小来川地区と、重要国道であり交通量の多い日光杉並木の周辺地区を比 較した結果、スギ花粉の1日の平均飛散数は大差なかったが、スギ花粉症の出現頻度は、小来川地区が5%に対して、日光杉並木の周辺地区である杉並木地区は 13%だった。

 このことから「スギ花粉が舞っている地域では、交通量(ディーゼル粉塵などの大気汚染物質)の多さによって花粉症の出現頻度を増す可能性が高い」と結論づけられたという。

 ディーゼル粒子などのアジュバント物質と一緒になった花粉の方が花粉症を引き起こしやすい。一方、田舎のスギ林でまき散らされた花粉は、風に乗 り、都市へと移動する途中、あるいは都会の大気中で、交通量の多い道路や工場などから排出された大気汚染物質(アジュバント物質)を吸着する。

 よって、よりアジュバント物質を吸着した率の高い“都会の花粉”の方が、発生源近くで舞い落ち、花粉のみの状態を維持する率の高い“田舎の花粉”よりも、猛威を振るうというワケだ。

“都会の花粉”が“田舎の花粉”より強力になるのは「アジュバント」が原因だというのはわかった。

 しかし、そもそも、この聞き慣れない「アジュバント」とは何なのか?


もともとは役に立っていた「アジュバント」

「人の体は、抗原、つまりアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に対して、抗体というものを作ります。アレルゲンをやっつけるものですね。その実験の際、より抗体を作らせやすくするために使っていたものがアジュバントです」

 そう高野領域長が説明するように、「アジュバント(Adjuvant)」とは、抗原と一緒に生体に投与することで、投与した抗原に対する免疫応答(反応)を増強する物質。ラテン語の「adjuvare(助ける)」に由来し、「抗原性補強剤」とも呼ばれている。

「ですから、アジュバントとは、もともとアレルギーを念頭に置いた言葉ではありませんでした。ただ、今はもう少し広い意味で『アレルギー反応(免疫応答)をより活性化する(強くする)作用があるもの』という形で使われています」(高野領域長)。

 ということは、アジュバントって、悪者どころか、役に立つ物質の呼び名だったってこと!?

「ですから、免疫の実験で研究者が使っているアジュバントと、花粉症で“悪玉”として扱われているアジュバントでは、イメージが全然ちがうんですよ」

 なのに、“善玉”のアジュバントが、花粉症をひどくする“悪玉”にもなってしまったのは、なぜ?

「我々の体の免疫反応というのも、もともとは人の生体防御に働くものでした。しかし、逆にそれが不適切に活性化されると、病気にも結びつくことがあ ります。それが、花粉症も含めたアレルギー疾患です。最近、そのケースが増えてきたため、『免疫をより強くする』という意味ではいいものだったはずなの に、アレルギー疾患を悪くする物質の呼び名としても使われるようになりました」

 では、いつから「アジュバント」は、花粉症をひどくする“悪者”としても注目され始めたのか。

「アジュバントがぜんそくや花粉症などの観点から注目され始めたのは、1990年前後だと思います。最初は『ディーゼルの粒子が抗体を増やす』という論文が出たのですが、それは花粉症関連ではなく、ただ『抗体を増やす』という内容でした」

 高野領域長によると、ディーゼル排気微粒子とアレルゲンを腹部に注射したり、点鼻投与する動物実験が行われ、いずれも抗体が上がった。また肺の中 にアレルゲンを入れ、喘息を起こすモデルを作り、そこにディーゼル粉塵粒子を入れても、やはり抗体が上がった……というふうに、順に検証されていったとい う。

「大気汚染全体から研究していた方が、実験的にやったのですが、窒素酸化物などのいろいろなガス状の大気汚染物質を与えても、喘息アレルギーを悪くしなかった。『ならば粒子が悪いのではないか』というかたちで、だんだん粒子の影響の研究が進められていったのです」



都会の花粉の“身なりの怪しさ”に刺激されて

 では、たとえば、アジュバント物質であるディーゼル粉塵は、アレルギー反応をどのようなかたちで不適切に活性化させているのだろうか。

「アジュバント物質は、免疫反応のいろんな段階で作用していますが、ディーゼル排気微粒子の場合、粒子成分よりも化学物質成分の影響の方が大きいと思います」(高野領域長)。

 え? でも、先ほどは、アレルギーに対するアジュバントの影響について、ディーゼル粉塵の“粒子”の研究が進められて……というお話でしたが。

「ええ、化学物質の影響が大きいのですが、化学物質成分と粒子が一緒になると、さらにとてつもなく悪くなる。ですから、粒子と化学物質がともにあるディーゼル粒子がとても悪いということになるんです」

 そう言って、高野領域長はある実験結果を見せてくれた。

アレルゲンがアジュバント(ディーゼル粉塵粒子)と同時に摂取されるとアレルギー性炎症が強く起こるこを示す実験結果。「アレルギー反応を指標とした化学物質のリスク評価と毒性メカニズムに関する研究」(国立環境研究所特別研究報告平成14~16年度より)(画像クリックで拡大)

 このマウスによる実験では、喘息の症状の指標として炎症に関わる白血球「好酸球」が使われた。好酸球の細胞数が増えれば増えるほど、炎症がひどくなる、つまり、喘息の症状が悪化することになる。

 グラフをみると、溶かすための溶液(vehicle)、ディーゼル排気微粒子の化学物質をそれぞれ単体で投与しても、好酸球はほとんど増えないのがわかる。アレルゲンを投与すると、好酸球は少し増えた。さらに、ディーゼル排気微粒子全体の投与は、好酸球を少し増やす。

しかし、何と言っても好酸球を増やすのは、化学物質とアレルゲンを一緒に投与した場合であり、さらに、粒子と化学物質とアレルゲンを3つ揃えて投与すると、別々のときのおよそ2倍近くも好酸球が増える。

 つまり、ディーゼル排気微粒子の化学物質もアレルギー症状を悪化させるが、粒子と化学物質が一緒になると、飛躍的に症状を悪化させることになるわけだ。

 化学物質がアレルギー症状を悪化させるというのは、イメージしやすい。

 けれど、粒子も悪さをするのは、なぜだろう?

「粒子があると、体内に取り込まれやすくなったり、体内では免疫に関わるいろんな細胞に食べられてしまうため、そこに長時間居続けて、少しずつ化学 物質を出すことになってしまうので、刺激を持続させたり、直接免疫担当の細胞を活性化するなどして、影響が出やすいのでは、と考えられています。つまり、 粒子から徐々に溶け出す化学物質が免疫の細胞を不適切に活性化させ続けてしまう。たとえば、花粉症の場合、極端な言い方をすれば、無視していればいいもの を、アジュバント物質のせいで、花粉に対して免疫の反応が不適切に起こりやすくなってしまうとでも言えるでしょうか」(高野領域長)。

 だとすれば、たとえば、体内の“警察官”である免疫細胞が、純朴な田舎の花粉が入って来たのを知って「調べてみようかな、どうしようかな」と迷っていると、今度は、ゴテゴテとアジュバント物質を見につけたいかにもワルそうな“都会の花粉”が目の前に現れて……。

「あ、これはほっておけんぞ!って、免疫細胞が思い出したと(笑)。そんなイメージの方が、わかりやすいかもしれませんね。私自身も実験によって、 アレルゲンとディーゼル排気微粒子を入れたとき、動物のモデルとしてぜんそくは悪くなることを確かめました。その後は、ディーゼル粒子のなかのどういった 成分が悪いのか、アレルギー疾患を悪くする細胞レベル、分子レベルのメカニズムについて研究してきたのです」


質(アジュバント)と量(花粉)のダブルで来る!

 たとえばどんな粒子がアジュバント物質として挙げられるのか。高野領域長に訊ねると、花粉と同じく春の迷惑な風物詩(?)となっている「黄砂」の名前が上がった。

「黄砂には、粒子であることはもちろん、化学物質だけでなく生き物成分も付着しています。大陸の砂漠の砂といっても、生物、特にカビやばい菌などは たくさん棲んでいますし、大都市の空を飛べば大気汚染物質がくっつきます。なおかつ粒径20ミクロンくらいの大きい黄砂は大陸で落ち、日本に飛んで来るの は5ミクロンくらい、ちょうど吸い込みやすい大きさになって飛んで来る……それがたいへんな問題になりえます」

「化学物質も生き物成分も持った吸い頃の大きさの粒子」という黄砂は、花粉症の人間にとっては、まさに“最凶”のアジュバント物質と言えそうだ。

 花粉&黄砂……怖さも倍増する。何か対策はないのだろうか?

「ですから、花粉症の方は、花粉情報と黄砂情報の両方に注意すべきでしょうね」

 まずは花粉情報と黄砂情報をこまめにチェックして、花粉と黄砂が大量に降り注ぐ日は、できれば外出を控えることである。



ほかには、どんなアジュバント物質があるのだろうか?

「どれだけの量でどれだけ悪さしているのかというのはまだわかっていませんが、実験レベルで言いますと、プラスチック製品に可塑剤として入っている フタル酸ジエチルヘキシルや、酸化チタン、ポリスチレンなどのナノ粒子も、アレルゲンと一緒になると症状を悪くするというデータが出ています」

 なかでも、ディーゼル粒子が多く舞っている交通量の多い都会に、アジュバント物質となる粒子が多いため、さらに“都会の花粉”が凶悪となるという理解でよいのだろうか。

「都会では、交通量も多いし、工場も多いですから、工場やクルマに由来する大気汚染物質は、田舎より多いかもしれません。ただ、現代の生活に伴って 増えている化学物質は、田舎にも蔓延しています。便利な生活には落とし穴がある。ディスポーザブル(使い捨て)の多い生活をすれば、田舎でも、化学物質の アジュバントにさらされる機会は、都会と同じようにあると考えられます」(高野領域長)。


 なんだか、気持ちが暗くなってきた。でも、めげてばかりいても始まらない。どうしても外出しなければいけないときは、マスクで完全防備して……。

「直径が5ミクロンほどの黄砂など、大きなものに対しては、マスクやメガネで防御できます。しかし、ディーゼル排気微粒子みたいに小さな粒子になってくると、完璧に防御するのは不可能ですね」(高野領域長)。

 それでは、来年の春、スギ花粉が過去最大級の飛散量になるということですが、それにアジュバントが加わったら、いったいどうなってしまうのでしょうか?

「もともと花粉症を持っている人にとって、花粉の量は非常に大きな問題です。花粉が多く飛べば、花粉症の症状は出てしまいます。その意味で、アジュバントが加われば『量と質のダブルで来る』という言い方になるでしょうか」

 量と質のダブルで来る……怖い、怖すぎる! なんとか防ぐ方法はないのでしょうか!?

「花粉を抑えればいいんです」

 は? と言いますと?

「両方あるのが悪いので、どっちかを抑えることができればいい。そういう意味では、花粉の方が大きいので、抑えやすいんですよ(高野領域長)」


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以上が日経Tredy netに載っていた記事です。


これだけ読むとトラックのディーゼルエンジンから出る黒煙が犯人だということが分かります。

しかし環境問題にうるさいヨーロッパではディーゼルエンジンが非常に普及していることをご存知の方も多いと思います。

筆者には、ホンダでサスペンションや燃料電池自動車の開発に携わった従兄弟がいます。

彼が言うには、「ヨーロッパでは軽油を十分精製し、また不完全燃焼の軽油を再回収して利用するエンジンのため黒煙が出ない。そのためディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりもCO2の排出が少なく、森林が減ってきているヨーロッパでは環境に優しいエンジンとして評価されている。日本でも同じことができるはずなのに、やっていない。石原都知事がペットボトルに回収して振っていた黒煙の成分は、ディーゼルエンジンが悪いのではなく、軽油の燃焼させ方が悪いから起きている現象だ。」とその従兄弟は言っていました。

いつの日か心ある政治家が運輸業界に対してディーゼルエンジンの規制をして、石油業界にも軽油の精製についての基準を示して欲しいと願っています。

あるタレントがTVで、「花粉症が辛いから杉を植林しないで欲しい。」とバカな発言をしていましたが、植物は減ると子孫を残そうと、より一層花粉を多く飛ばすものです。

こういう人が政治家に転身すると困ります。

政治家になるため一般常識や科学、英語等の試験を課して欲しいと思います。