<発熱>

<要約>

発熱の約80〜90%はウイルス感染によるもので、インフルエンザや水痘など一部例外を除いて特効薬がありませんが、

脳症等の合併症を起こさなければ殆ど無治療で自然治癒します。これらは抗生剤による治療は無効です。

小児科医の仕事は数%しかない細菌感染症を、多くの発熱児の中から見分けて抗生剤で治療することです。

年齢、発熱の程度、全身状態、嘔吐の有無、感染のFocusの有無から採血をするか決定します。

化膿性髄膜炎、化膿性関節炎、尿路感染症のように気道症状が無い場合は特に要注意です。

3歳未満児の39℃以上の発熱は、全身状態が良く、感染のFocusが明確な場合を除いて採血してもらうことをお勧めします。

血液検査によって、ウイルス感染症か細菌感染症か、細菌感染症であれば菌血症の可能性があるかどうか概ね判るからです。

特に発熱してから半日~1日経過していると正確に判断できます。

菌血症のリスクが高い場合、抗生剤の点滴が推奨されます。ウイルス感染症と判れば抗生剤を控えるべきです。

最新のサーベイランスでは、肺炎球菌の耐性化率85%、インフルエンザ桿菌の耐性化率77%と非常に高く、

治療に苦労することが多いため、細菌を耐性化させないようにウイルス感染症に抗生剤を使用しない努力が必要です。

小児科医を訪れる理由で最も多いのが発熱で、その約80〜90%はウイルス感染によるものです。

小児科医の仕事は細菌感染症、特に髄膜炎等の重い疾患を、多くの発熱児の中から見分けて抗菌薬で治療することです。

(発熱の原因としてウイルス感染症と細菌感染症でほぼ全てですが、稀に膠原病や腫瘍によるものもあります。)

<ウイルス感染症>

ウイルスには抗生剤が無効です。

だからよく「風邪に効く薬はない」と言われているのです。

風邪は、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、

ヒトメタニューモニアウイルス、エンテロウイルス等のウイルス性上気道炎の総称ですから。

インフルエンザに対するオセルタミビル(タミフル)や水痘に対するアシクロビル等の一部を除いて

殆どのウイルス感染症では抗ウイルス剤が存在しません。

(HIVでは抗ウイルス剤が充実していますし、ガンシクロビル、リバビリン、インターフェロンといった

抗ウイルス剤は存在しますが、通常入手できるのは上記2剤のみと言えます。

また漢方薬には麻黄や桂枝のように弱いながらも抗ウイルス作用のあるものが存在します。

だから当院では苦くて不味いにもかかわらず発熱の時に漢方薬をお勧めしているのです。)

そして殆どのウイルス感染では脳症などの数千人から数百万人に1人という稀で不運な状況に陥らなければ

放っておいても自然治癒します。

またウイルス感染症は放置していても自然治癒するだけでなく、乳幼児ではしばしば軽症化することがあります。

これは幼いほど免疫学的寛容性が高いからです。

<細菌感染症>

一方、ウイルスでは症状を軽くしてくれた乳幼児の”免疫学的寛容性”が、

細菌感染症では症状を軽くしてくれることはなく、

上気道炎→気管支炎→肺炎→敗血症→化膿性髄膜炎 という最悪のコースと辿ることがあります。

また気道感染症だけではなく、尿路感染症、骨髄炎、関節炎、蜂窩織炎、中耳炎といった

気道以外の場所に感染を起こすことがあります。

乳幼児に起きた細菌感染症は放置してもすぐに治ることは少なく、

放置すれば長期間高熱が続き、後遺症を残すことになったり、最悪の場合死亡することもあります。

そして原因の細菌が”耐性化”(突然変異によって抗生剤が効かなくなること)していると治療は困難となるので、

不要な時には抗生剤をできるだけ使用しないように多くの医師が気を付けているのです。

耐性菌を作り出すのは、抗生剤の量よりも期間が重要になります。

抗生剤を使用するときは、本当に必要かを確認して、必要な場合には耐性化させないために

「用量は多く期間は短く」が原則です。

(ただし百日咳や溶連菌では症状が軽快しても抗生剤が2週間程度必要とされています。)


<細菌感染症の診断方法>

発熱が始まってから半日~1日ほど経過していれば採血して白血球やCRPという肝臓で作られるタンパクの数値によって

細菌感染かウイルス感染かを概ね見分けることができるようになります。

細菌に感染した場合、発熱して数時間経過していれば、白血球(正常値は4000~9000程度)が1万を越えることが多いですし、

発熱2日目であればCRPが4を越えることが多いので、発熱直後でなければ採血で概ね判断できるのです。

またこのような血液に反応がしっかり出るような細菌感染症は通常39℃を越えます。

例外としては、免疫学的に寛容な新生児~乳児早期は発熱しないまま敗血症を起こしたり、

学童期以降では39℃を越えないまま細菌感染症が自然治癒することがあります。

これらは免疫学的に寛容であるか、逆に免疫系が十分確立されている場合の例外です。

ウイルス感染症ではせいぜい上がっても白血球は15000程度ですし、通常12000を超えないことが多く、

また発熱2日目以降でもCRPは4を越えないことが殆どです。

(ただしアデノウイルス感染症は例外的にCRPが著しく上昇します。)

採血で判断できると言いましたが、痛いことに積極的な親子はあまりいませんし、発熱児全員を採血するわけにはいきません。

我々小児科医は、年齢(月齢)、全身状態、発熱の程度、咳・鼻汁・下痢といった随伴症状、

ウイルス迅速検査キット、家族内や園での流行状況、咽頭や聴診所見等によって

痛い採血をできるだけ減らす努力をしています。

<抗菌薬と採血>

咳であろうが熱であろうがすぐに抗菌薬を出す治療というものはとても楽です。

我々も泣く子を押さえ付けて採血する手間が掛からないし、患児にとっても痛いことをされないのですから。

しかし抗菌薬を頻用すると患児にも我々医師にも不利益なことが幾つかあります。

1.耐性菌を作り出し、本当に抗菌薬が必要な時の治療が困難になる。

2.培養を取る前に抗生剤を使い始めると、起因菌が判らなくなり、抗菌薬の変更が難しくなる。

というのが主なものです。

鼻腔や口腔内常在菌が”耐性化”することを減らすために

必要のない抗菌薬投与を減らすという努力を、(近年は北欧やアメリカを始め世界中の)小児科医が行っています。

海外では「不必要な抗菌薬投与は有害無益です。」というキャンペーンをしているほどです。

発熱の程度が軽く(38℃台前半以下)、全身状態が良く、食欲もある場合は殆どの場合、ウイルス感染症なのですが、

乳児期の発熱に対して抗菌薬を使用しない場合、例外を避けるため当院では血液検査を勧めています。

痛くて手間が掛かるけれど子供の”安全”のためです。

<発熱児の見方>

・発熱の程度

・全身状態

・年齢

の3点を中心に診ていきます。

<発熱の程度>

まず熱の測り方についてです。小児の体温には特徴があります:

1.成人よりも0.2~0.5℃高く、通常37.4℃以下は正常と見なします。

2.環境温に左右されやすく、暑い所にいた後、泣いた後、暴れた後等は再検を要します。

3.生理的日内変動:午後2~6時に高く、午前2~4時に最低となり、この差は0.5℃以上に及ぶことがあります。

従って仮に37.5℃を越えたとしても午後に高く、夜間下がる”正常熱型”であれば問題ないと考えます。

<年齢別の発熱の見方>

1.月齢1未満

2.月齢1~月齢3未満

3.月齢3以降~1歳

4.1~5歳未満

5.5歳以上

この中で、1.と2.は同じグループで、免疫学的寛容性が大きい時期です。

細菌感染を起こしていても明らかな発熱がないことも稀ながらあります。

母体からの免疫グロブリンによって守られているので、感染のリスク自体は大きくありません。

<月齢1未満>

38℃以上の発熱があればほぼ全例入院として、観察を行うことを勧めます。

明らかな発熱がなくても「元気がない」とか「哺乳力が今一つ」という時には要検査です。

異常を感じたらすぐに小児科医に診せてください。翌日まで待てないことがあります。

38℃未満かつ全身状態が良ければ自宅で経過観察できます。

細菌感染症の起因菌としては、B群溶連菌と大腸菌が圧倒的に多い時期です。

ブドウ球菌やリステリア菌が原因のこともあります。

<月齢1~月齢3未満>

38℃以上の発熱、活気がない、哺乳力が弱い、といった症状が一つでもあれば検査対象と考えます。

異常を感じたらすぐに小児科医に診せてください。翌日まで待てないことがあります。

38℃以上でも全身状態が良く、検査をしてウイルス感染症が間違いない時以外は外来で診ていくことも可能ですが、

入院を前提とした方が安全と考えます。

38℃未満かつ全身状態が良ければ自宅で経過観察できます。

細菌感染としては、肺炎球菌、B群溶連菌、ナイセリアが多い時期です。

インフルエンザ桿菌、リステリア菌、ブドウ球菌等が起因菌のこともあります。

3.の時期は免疫学的寛容性が残ってはいるものの、細菌感染を起こしているのに発熱しないということはまずありません。

しかし月齢6~7頃は母体からの免疫が切れる頃で、人生で最も細菌感染症のリスクが高い時期です。

同様に人生で最もウイルス感染症のリスクが高い時期でもあります。

抗生剤の使用によって腸内細菌叢が乱れ、アレルゲンとなるタンパク質が十分消化されず、

大きなペプチドのまま血中に侵入してきます。

アレルギーの既往歴や家族歴がある場合、こうしてアレルゲンに感作されることがあると言われています。

可哀想ですが、積極的に採血して抗生剤の使用を細菌感染症だけに厳しく制限すべき時期です。

4.の時期は免疫学的寛容性はほぼ消失しています。細菌感染症は必ず発熱を伴います。

幼児早期の免疫系はまだ成人のものと比べると弱く、しばしば細菌感染症を起こします。

ウイルス感染症も同様です。

このリスクは0~1歳をピークに徐々に低下していきます。

多くの親が、「3歳を過ぎると病気しなくなった。」と感じます。この印象は統計上正しいのですが、

実際は4歳代までは細菌感染症が他の年齢層よりも有意に多いので、3歳前後で分けることはしませんでした。

2歳未満はやはり積極的に検査を受けた方が良いでしょう。

3歳を過ぎると発熱の程度、全身状態によって採血をせず様子を見ることも可能です。

免疫学的寛容性がないばかりか、免疫学的過剰反応とも言える高サイトカイン血症によって

川崎病やインフルエンザ脳症を含めた各種脳症が起きやすいのも1~4歳代の時期です。


<月齢3~1歳未満>

39℃前後(少なくとも38.5℃以上)の発熱、活気の低下、食欲の低下があれば

発熱して早くても5~6時間以降に採血することを勧めます。

(発熱直後は白血球やCRPの上昇がはっきりしないことがあるからです。)

遅くとも発熱2日目には小児科を訪れてください。

38℃前後(高くとも38.5℃以下)の発熱で活気も食欲もそれほど低下していない場合は

自宅で様子を見ることも可能です。

乳児期の発熱は毎日小児科医に診せるぐらいのつもりでいてください。

(必要ない場合は小児科医から「次は *日後に来てください。」と指示があります。)

この時期の細菌感染症の起因菌は肺炎球菌とインフルエンザ桿菌で80%程度を占めます。

他のはブドウ球菌や、尿路感染症では大腸菌や腸球菌が主な起因菌となります。

<血液検査>

発熱初日でWBC≧15000/μl or Neut.≧10000/μl

第2病日以降に、CRP≧5.0 の場合、菌血症(occult bacteremia)のリスクが高くなるとされています。

CRP≧4.0は一般的に細菌感染症の可能性が高く、抗菌薬の使用が考慮されます。

<尿検査>

Focus不明の発熱で、1歳までの男児、2歳までの女児では検尿が必須です。

検尿にてWBC反応や亜硝酸塩が陽性の場合、尿路感染症の可能性が高く、更に尿培養の採取が推奨されます。

発熱時した乳幼児が深刻な細菌感染症でないことを見分けるための評価方法であるRochester criteriaを紹介しましょう。

<Rochester criteria>

1.全身状態良好

(熱は高くても哺乳良好で機嫌が良く、あやして笑うようなら問題ない。

全身状態の評価方法として、Yale observation scaleというものがありますが”母親の直感”で構いません。)

2.周産期や既往歴に異常がない。

(満期産で基礎疾患がなく、感染症や高ビリルビン血症の既往もない。)

3.皮膚、軟部組織、骨、関節、耳に異常がない。

4.検査データに下記のような異常がない。

a) WBC 5000~15000/μl

b) Stab≦1500/μl

c) 検尿正常(WBC≦10/hpf)

d) 検便正常(下痢を伴っている児のみが対象)

e) 髄液検査、胸部単純で異常なし(月齢3未満児のみが対象)

以上がオリジナルのものですが、日本小児科学会の抗生剤の適正使用に関するワーキンググループでは、

f) CRP正常

を加え、検便を削除しています。

これらを全て満たした時のみ外来で乳児を診ていくことがRochester criteriaでは許されています。

そして24時間以内に再診することが勧められています。

(筆者注:5歳未満児に対して細菌感染症があるかを調べるためには採血は必須ですが、

胸部レントゲンは月齢3未満で必須とされているだけで、検尿の方が重要性が高いことに注意してください。)


<1歳~5歳未満>

基本的に月齢3以降の乳児期と同じ方針ですが、

・1歳を過ぎると抗菌薬によって腸内細菌叢を乱してアレルゲン感作が進むリスクが少なくなります。

乳児期ほど抗菌薬の適正使用に神経質になる必要はなく、

怪しいケースでは診断と治療を兼ねて抗菌薬を積極的に用いることができます。

・状態によっては再診を48時間空けることも可能です。

・3歳を過ぎると細菌感染症がかなり少なくなり、5歳を過ぎると稀になってきます。

・4歳を過ぎると意思疎通が比較的容易になり、感染のfocusを探す作業が容易になります。

といった違いがあります。

起因菌は乳児期とほぼ同じで、肺炎球菌とインフルエンザ桿菌で80%程度を占めます。

他のはブドウ球菌や、尿路感染症では大腸菌や腸球菌が主な起因菌となります。

乳児期にはなかった細菌性の消化管感染症が起こることがあります。

5.の時期は免疫学的に成人とほぼ同様に扱えます。

細菌感染症のリスクは低くなります。細菌感染症で最も恐ろしい化膿性髄膜炎も5歳以降では

免疫不全や副鼻腔炎、中耳炎といった基礎疾患や頭部外傷がなければ滅多に起きません。

川崎病やインフルエンザ脳症のリスクも5歳以降は急速に低下します。

採血も高熱持続例や全身状態があまり良くない場合に限られます。

咽頭発赤や咽頭痛が著明な時は溶連菌迅速検査は必要なことがあります。

発熱に対する抗菌薬は殆ど必要ありませんが、

咳に対してはマイコプラズマ、クラミジア、百日咳等のリスクが5歳未満の時期より高くなります。

血液検査なしでもマクロライド系抗菌薬を出す必要がしばしばあります。


<発熱に関する他の注意事項>

・全年齢層でも39℃以上の高熱が3日間、高熱でなくても夜間に高くなる発熱が5日間以上続いたら

検査を受けることをお勧めします。

・全年齢層で、初回の受診時の血液検査が悪くなくても、経過中に全身状態が悪化した時はすぐに再診する必要があります。

・脳性麻痺、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患がある児は発熱”直後”でも採血が必要です。

こういった児では発熱直後でもCRPの高度上昇を認めることがあります。

<細菌感染症のfocusの特定>

細菌感染症かウイルス感染症かは採血で概ね判るので、次の作業は感染のfocusの特定です。

基本的には、ウイルス性も細菌性も気道感染症が大半なのですが、以下のような例外があります。

1.<尿路感染症>

→ 乳児期は検尿でしか判りません。繰り返すと腎機能へのダメージがあります。

咳、鼻汁、咽頭発赤がない場合はまず最初に疑います。乳児期の細菌感染症の10%以上と高い頻度です。

年長児でも腎尿路感染症の既往があれば検尿が必要です。

2.<中耳炎>

→ 耳鏡を用いることで判ります。見落としても鼓膜を破って排膿し、自然治癒する傾向があります。

3.<蜂窩織炎>

→ 見れば誰でも判ります。膿瘍や敗血症を起こすことがあり、自然治癒を待つことはできません。

4.<骨髄炎、関節炎>

→ 通常四肢のどれかを動かさなくなります。親と医師の注意深い観察が必要です。

キーワードは「親が抱くことを嫌がる」です。子供はどんなに体がきついときでも親を拒むことはありませんから。

検査は患部のレントゲンです。自然治癒することはありません。

化膿性関節炎の場合、2~3日以内に関節を開けて洗い、潅流する治療を開始しないと生涯の後遺症を残すことがあります。


<バラフの発熱乳幼児に対する血液培養ガイドライン>

(Practice guideline for the management of infants and children 0 to 36 month of age with fever without a source

Baraff et al. Pediatrics 1993; 92: 1-12)


<Occult bacteremia>

・定義:重篤な全身症状がない菌血症のこと。(全身の重篤な症状を伴うものを敗血症(Sepsis)と呼ぶ。)

・好発年齢:月齢3~3歳未満の乳幼児

・合併症:化膿性髄膜炎、急性喉頭蓋炎、化膿性関節炎、骨髄炎等の重症細菌感染症を5~15%に合併する。

・起因菌:occult bacteremiaの84%が肺炎球菌によるもので、13%がHibによるものです。

頻度は肺炎球菌の方が多いが、髄膜炎への移行のし易さはHibの方が12倍高い。

また化膿性髄膜炎の起因菌として、Hibの方が神経学的予後が悪い。

・好発時期:肺炎球菌によるoccult bacteremiaは、1~2月と7~9月に少なく、3~6月と11月に多い。


<Baraffの血液培養基準(アメリカではこれが標準となっている)>

1) 月齢3~3歳までの感染箇所がはっきりしない発熱児

(現在ではHibワクチンと肺炎球菌ワクチン未接種者のみが対象となっている。)

2) 体温39℃以上

3) WBC≧15000/μl あるいは好中球数≧10000/μl

以上の3つ全てを満たす時、15%がoccult bacteremiaであり、血液培養が推奨される。

培養採取後、CTRX 50mg/kgの経静脈的投与もしくは筋注を行う。


<Baraffのガイドラインの評価>

発熱1日目の臨床症状から、

・重篤な症状は20%程度

・髄膜刺激症状は4%以下

・嘔吐は50%程度(ウイルス性胃腸炎と紛らわしく、嘔吐が頻回でなければ初日に点滴・採血をしないことが多い。)

発熱1日目の検査所見から、

Baraffのガイドラインから過半数が洩れてしまう。特にHibではガイドラインから洩れることが多い。

1) 年齢(3歳未満)→3歳以上が15%

2) 発熱(39℃以上)→39℃未満が30%

3) WBC≧15000/μl→15000/μl以下が60%

即ち、0.85×0.7×0.4=24%しかスクリーニングできない!


<日本における血液検査では実際にどうか?>

・インフルエンザ桿菌による化膿性髄膜炎症例の統計

第1病日 WBC 11100±8100/μl →多くの例が正常範囲内である。

CRP 7.6±6.9mg/dl →比較的多くの症例がCRP≧5.0であるが、CRP≦2.0も少なくない。

第2病日 WBC 13800±6700/μl →9000~10000/μl以上で切ると比較的多くの症例をスクリーニングできる。

CRP 20.5±7.7mg/dl →ほぼ全症例でCRP≧5.0である。


・肺炎球菌による化膿性髄膜炎症例の統計

第1病日 WBC 17400±5900/μl →WBC≧11500μlで切れば83%程度をスクリーニングできる。

CRP 8.5±9.1mg/dl →比較的多くの症例がCRP≧5.0であるが、CRP≦2.0も少なくない。

第2病日 WBC 15400±3000/μl →WBC≧12000μlで切れば85%程度をスクリーニングできる。

CRP 15.7±7.9mg/dl →ほぼ全症例でCRP≧5.0である。


→Hib髄膜炎を発熱初日に予見することは非常に難しい!

例えば、私案であるが、

1) 年齢5歳未満

2) 39℃以上の発熱、もしくは咳込まない突然の嘔吐

3) WBC≧10000/μl

と条件を厳しくすることもできる。

しかしこうすると、高熱と嘔吐下痢症の児は片っ端から採血されることになり、

細菌感染症が疑わしければ、軽症細菌感染症でも殆ど全例血液培養を行うことになってしまう。

まずHibワクチンを普及させて、今後、更にガイドラインを改良していく必要がある。


<抗生剤の適正使用について>

<各国の現状>

2001年の時点で、各国のペニシリン耐性肺炎球菌の分離率は、

日本64%、スペイン37%、イタリア9%、イギリス4%、デンマーク3%、スウェーデン3%、オランダ1%、

です。これは各国1000住民当たりの抗菌薬一日平均使用量の順位と一致しています。

(2007年の日本小児科学会で発表された最新のサーベイランスでは、

肺炎球菌の耐性化率85%、インフルエンザ桿菌の耐性化率77%と残念ながら改善傾向はありません。)

耐性菌による重症細菌感染症を治療することは時に困難を伴います。

重症細菌感染症を確実に治療するために、軽症細菌感染症は抗菌薬を使用せずに自然治癒を待つか、

菌薬を使用しても短期間にとどめるということを、北欧諸国とオランダでは徹底して行っています。

アメリカも抗菌薬の適正使用を推奨するキャンペーンを行っていますが、

訴訟大国だけに外来小児科では不必要な症例に抗菌薬を出さないことがなかなか徹底できないようです。

日本もここ数年、小児科だけでなく内科でも抗菌薬を控えるようになってきていますが、

まだまだ不必要な症例への処方は少なくないため、世界の中でも耐性菌が最も多い国となっています。


<気管支炎に対する抗生剤投与の評価>

急性気管支炎の原因の約90%が呼吸器系ウイルス(インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、

RSウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス)に依るものです。

(Carroll KC. et al JCM 2002; 40:3115)

また、百日咳菌とパラ百日咳菌が数%、肺炎マイコプラズマが数%、肺炎クラミジアが数%と報告されています。

(このうち、百日咳と肺炎クラミジアが10%以上の合併頻度があると言われています。)

細菌(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリス)の頻度は不明ですが、

海外では急性気管支炎の起因菌としてのエビデンスはないとされています。

これら気管支炎(ただし成人患者700症例)に抗生剤もしくはプラセボを投与した6文献のメタアナリシスによると、

7~11病日における改善は有意差がありません。(Fahey T. et al. BMJ 1998; 316: 906)

湿性咳嗽を伴う気管支炎の成人患者74例のRCTでは、やはり投薬による湿性咳嗽の改善率に有意差は出ませんでした。

(Williamson HA. et al. J Family Practice 1984; 19: 481)

<急性中耳炎に対する抗生剤投与の評価>

van Buchem et al.(Lancet 1981)によって急性中耳炎に対する抗菌薬投与と鼓膜切開の有効性について評価しています。

24時間経過した時点ではどの治療法も有意差が無く、1週間経過した時点でも無治療群の耳痛残存率10%と比べて

どの治療法も有意差がありませんでした。しかし無治療群では鼓膜所見の残存率が28%でしたが、

菌薬を使用すると、鼓膜切開の有無に関わらず約10%程度まで低下しました。

鼓膜切開のみでは無治療と変わりありませんでした。

80文献のメタアナリシスによると、小児急性中耳炎患児の87~97%は自然治癒することが判り、

7病日の時点で抗生剤の寄与は少ないようです。

(Takata GS. et al. Pediatrics 2001; 108: 239)

またRosenfeld et al.による急性中耳炎患者1892症例のメタアナリシスでは、

3病日、1週間後、2週間後はわずかな有意差を持って抗菌薬が症状を改善させていますが、

24時間以内、1ヶ月後の貯留液、3ヶ月後の貯留液に有意差はなく、

短期と長期的改善に有意差がないとされています。

急性中耳炎症例の約0.3%に見られる乳様突起炎についてですが、

乳様突起炎患児の43%以上に頻回の中耳炎歴を認め、中耳炎罹患がリスク・ファクターです。

(しかしアメリカでは中耳炎の既往がない乳様突起炎も39%と多いことに注意が必要です。)

約半数が3歳以下であるものの、幅広い年齢層に起きます。

耳痛(頻度86%)、耳介後部痛(同80%)、発熱(同71%)、耳漏(同40%)等の症状が3日以上続いたら疑う必要があります。

44.4%が抗菌薬を投与されているにも関わらず発症しています。

(スイスでも乳様突起炎患児の52%に経口抗菌薬の前投与がされていたと報告されています。)

起因菌は、急性中耳炎と異なりインフルエンザ桿菌は殆どなく、

肺炎球菌32%、緑膿菌29%、嫌気性菌11%、ブドウ球菌19%、ジフテリア14%という割合です。

(Goldstein NA et al. Otolaryngol. Head Neck Surg. 1998 Nov; 119(5):444-454.)

メタアナリシスによる抗菌薬の前投与と乳様突起炎発症について、

菌薬非投与群 2名/1802名(0.11%)

菌薬 投与群 4名/ 566名(0.71%)

という結果でした。乳様突起炎の症例数が少なく、はっきりしたことは言えませんが、

菌薬の前投与は有効ではなさそうです。

台湾からの報告では、乳様突起炎患児の血液検査にて、

WBC≧15000/μl (21%)、CRP≧2.0mg/dl(26%) という結果でした。

日本では、平均WBC=14100、平均CRP=10.4という報告もあります。


<急性細菌性副鼻腔炎>

上気道炎症状が10~14日以上持続する時、もしくは39℃以上の高熱や膿性鼻汁が3~4日以上続く時に疑います。

随伴症状は、顔面の腫脹や疼痛、後鼻漏、無臭症などで更に強く疑います。

4~7歳の急性上気道炎患者60名をMRI検査した結果、68%が中等度以上の急性副鼻腔炎で、20%が軽度の急性副鼻腔炎でした。

急性上気道炎罹患時にはかなりの頻度(おそらく80~90%)で急性副鼻腔炎を合併していますが、

慢性化する例は少なく、自然治癒傾向が強いとされています。

2週間後のMRIでは30%以上の例が完全に治癒しています。

急性副鼻腔炎に対して抗菌薬を投与したRCTでは、プラセボ群と有意差がありませんでした。

(Garbutt JM. et al. Pediatrics 2001; 107: 619)

→自然治癒傾向が強いことを意味します。

<抗生剤投与は化膿性髄膜炎への進展を防げるのか?>

(Rothrock SG et al. Pediatrics. 1997; 99: 438-444)

・肺炎球菌

無治療群: 257例中7例(2.7%)が髄膜炎を発症

抗生剤投与群:399例中3例(0.8%)が髄膜炎を発症

有意差は明確ではないが、髄膜炎を減らしている可能性があります。

・Hib

経口抗菌薬は無効だとされています。

(経静脈的抗菌薬投与や抗菌薬筋注でも髄膜炎の発症を完全には防止できません。

最高体温が38℃以下で、CTXが複数回投与されていてもHib髄膜炎に進展した症例があります。)