1日1回以下の歯磨きは頭頸部がんリスク

アジア初のコホート研究で確認


名古屋大学などの研究グループは、頭頸部がん発症リスクに歯磨き回数が関連していることを歯科医師集団のコホート研究で確認した。歯磨き回数が1日2回に比べ1日1回以下(0~1回)では頭頸部がんの発症・死亡が2.2倍に増えていた。頭頸部がんと歯磨き回数の関係はこれまでも症例対照研究で報告されてきたが、コホート研究で確認されたのは初めて。第28回日本疫学会(2月1~3日)で発表された。

喪失歯数は関連なし

 この研究を行ったのは、名古屋大学大学院予防医学の塚本峰子氏、准教授の内藤真理子氏、教授の若井建志氏、8020推進財団などのグループ。

 頭頸部がんの危険因子としては飲酒や喫煙の他、歯周病や歯の喪失、歯磨き回数などが報告されている。これらが危険因子として挙げられるのは口腔環境が頭頸部がん発症に密接に関係しているため。口腔内細菌が、プラークから発がん性物質のニトロサミンを産生、たばこ煙中のニトロサミンなどの有害物質を活性化、残留アルコールから発がん性物質のアセトアルデヒドを産生することにより起きる炎症や歯周病などが頭頸部がん発症の引き金になっていると考えられている(図1)。歯磨きはそれらの有害物質を除去できるため有益に働くと推察されている。

図1. 口腔ケアと頭頸部がんリスクとの関係


今回の研究は日本歯科医師会会員を対象に、2001~06年に喪失歯数、口腔衛生習慣などを自記式調査票で調査。原則2014年まで頭頸部がんの発症・死亡を追跡した。調査票回答者のうち同意書未提出、性・年齢不明などを除いた2万445人を解析。歯磨き回数別、喪失歯数別にCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を算出した。この研究は、頭頸部がんに関して喪失歯数、歯磨き回数を検討した初のコホート研究になるという。

 ベースライン時の平均年齢は51.8歳、追跡期間は平均9.5年。観察期間中の頭頸部がんの発症・死亡は62例だった。部位では、食道がん41例、咽頭がん10例、口腔がん7例、舌がん4例。

 その結果、喪失歯数頭頸部がんリスクとは有意な関係が見られなかった。しかし、1日の歯磨き回数では、2回に対する1回以下のHR2.2と有意だった(図2)。調査開始から1年以内の発症を除外しても、HRは2.0と有意なのは変わらなかった(モデル3)。


図2. 喪失歯数別、歯磨き回数別の頭頸部がん発症・死亡リスク (図1、2とも塚本峰子氏提供)


 喪失歯数は症例対照研究で頭頸部がんは関連することが指摘されているが、2件のコホート研究では関連が見られておらず、今回もそれらと同様の結果だった。一方、歯磨き回数に関しては症例対照研究のみで関連が報告されているだけだった。

 研究グループは、コホートが歯科医師という口腔ケアの知識が一般よりも高いと考えられる点については「一般集団での結果と異なる可能性がある。一般集団における大規模なコホート研究が必要」としている。