<日本脳炎>

日本脳炎ウイルスは豚をホストとして蚊の媒介により豚の間で循環するというライフサイクルを送ります。

哺乳類や鳥類に広く感染しうるが多くの動物では感冒症状~無症状で、人と馬だけが脳炎を起こします。

人から人へは感染しません。

ワクチン普及以前の日本では年間5000人以上の日本脳炎患者が出ていました。

そしてその1/3は死亡し、1/3は後遺症を残して助かり、1/3は後遺症なく助かるという予後不良の疾患でした。

ワクチン普及前は患者の分布は小児期と60歳以上にピークがあり、特に患者全体の70%が小児でした。

現在、ワクチンのおかげで日本全体で年間発症者は10名以下です。その殆どが関東以西で特に九州と近畿地方に多い。

現代でも死亡率は15~30%と高率です。

現在でも西日本の豚は80%以上が感染中~既感染であることが多く、蚊の少ない冷涼な地域では豚の感染率が低い。

特に北海道の豚には日本脳炎ウイルスが殆ど感染しておらず、

感染した豚が北海道に持ち込まれても蚊が少ないため豚の間に広がることがありません。

しかし青森以南には感染した豚が存在します。

日本脳炎は海外でも中国東北部、東南アジア、インドまで東~南アジアに広く存在し、暑い地域ほど流行が大きい。

(中南米とアフリカでは同じフラビウイルス科である黄熱ウイルスが流行しています。

世界の暑い地域には日本脳炎と黄熱病のどちらかがあると思って間違いありません。)

<日本脳炎ワクチン>

不活化ワクチンであり、基礎免疫成立後も4~5年ほどしか免疫が続きません。

4~5年に1回程度の頻度で追加接種を受け続ければ生涯免疫が持続します。

日本脳炎ワクチンによる日本脳炎発症予防率は91%です。

過去に流行していた時代も日本では3歳未満の発症者が少なかったことから標準的な接種時期は3歳からとされていますが、

居住地域や流行によっては3歳未満の接種も可能です。

ただし月齢6未満児は母体からの移行抗体の影響下にあるため接種対象外です。(月齢6未満の発症者も稀ながらいます。)

月齢6~3歳は半量の0.25mlを接種、3歳以降は0.5mlを接種します。

<第1期> 3歳に1(~2)  4週間以上間隔を空けて2回接種し、1~1.5年後に1回追加接種します。この3回の接種により4年間程は免疫が持続します。
            (昭和40年頃まで年間に2000〜5000名程度の日本脳炎が発症していたため、国民に急いで打ってもらうため1週間空けて打つことになっていましたが、免疫学的には4週間以上空けた方が抗体上昇が見込まれます。生後半年から接種可能です。

<第2期> 小学校4年生頃に1回接種

<第3期> 中学2年生頃に1回接種(第3期は後述する理由で現在中止されています。)

日本脳炎ワクチンが普及してから1980年代は日本脳炎患者が全国で毎年20~40名程度となり

そのうち6歳未満と40歳以上に患者が多かった。

更に1990年代になって患者が年間10人以下となると患者の殆どが60歳代以上となりました。

30~40歳代以降は免疫が切れてきているため、西日本の都市部以外に住む者(特に養豚場が近くにある場合)や、

南~東アジア地域に居住する場合には40歳前に第1期と同じ方法で接種し、

その後も4~5年に1回ずつ追加接種を受けた方が安全です。

中国やインドでは近年でも毎年数千~数万人規模の発症者があります。しかも途上国ではこれは氷山の一角かも知れません。

1990年代、第2期と第3期の日本脳炎ワクチン接種率は70%程度でしたが、現在休止中となり第1期も含めてほぼ0%となりました。

また30歳以上では10~30%以下です。(日本脳炎への危機感がなくなった現在もっと低下しています。)

日本脳炎は人から人へ感染しないので、成人に達した人の日本脳炎ワクチン接種率が高いことは

現在日本脳炎ワクチンの接種を受けなくなった小児への感染を防ぐことには(麻疹等他のワクチンと違い)全く役に立ちません。

豚の日本脳炎ウイルス保有率が、数千人の患者が出ていた時代と全く変わっていないのに

たった1例の重症ADEMが発生したからといって代替ワクチンが完成していない状態で、

現行の日本脳炎ワクチンを休止としたことは厚生労働省の愚策で無責任極まりない。

住環境が良くなり、都市部周辺で水田が減ったことにより蚊に刺されるリスクは減っていますが、

養豚場の近くで蚊に刺されれば、現在の小児は日本脳炎患者が5000人以上発生していた1950年代の子供達と同じリスクを

厚生労働省に背負わされたのです。

後述するように現行の日本脳炎ワクチンは2007年の時点では世界で最も有効で副反応が少ないワクチンです。

死亡例がなく100万接種に1例程度のADEMを恐れてワクチンを中止することと、どちらが危険か考えて欲しいと思います。

このリスクを比較した上で、親の希望があれば日本脳炎ワクチンは接種できるのです。


<日本脳炎ワクチンの副反応>

539万接種に対して、

・アナフィラキシーが5例

・脳炎/脳症が2例(接種15~28日後に起こる。)

・痙攣が2例(接種後24時間以内に起きる。)

・運動障害が1例(接種15~28日後に起こる。)

・その他の神経障害が2例(接種1~7日後に起きる。)

が報告されました。

・局所の発赤、腫脹、疼痛、硬結が起きることがある。通常2~3日以内に軽快します。

・発熱が接種後2日以内に1%以下の頻度で見られる。通常2~3日以内に軽快します。

・悪寒、頭痛、倦怠感も同程度の頻度で見られる。通常2~3日以内に軽快します。

・過敏症状(発疹、蕁麻疹、掻痒、紅斑)が24時間以内に0.1%以下の頻度で見られます。

次回の接種に当たっては希釈液の皮内テストが必要です。

・急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が10万接種に1例以下、おそらく100万接種に1例程度の頻度で接種後2~17日後に発症します。

発熱、頭痛、痙攣、運動障害、意識障害等で発症します。

多くは後遺症を残さず治癒しますが、過去に後遺症が残った例が4例報告されています。

そのうち1例は重症で2006年の時点でも全身が完全に麻痺し、人工呼吸管理を受けているそうです。

今のところ日本脳炎ワクチン接種後のADEMによる死亡例はありません。