B型肝炎

B型肝炎ワクチンの意義

1.世界初のガン予防ワクチンは子宮頚癌ワクチンではなく、B型肝炎ワクチンである。

日本においてB型肝炎ウイルス(以下、HBV)による肝細胞癌の死者は4000~5000名/年で、

子宮頚癌の3000名/年を超えている。

2.3歳までにHBVに感染するとキャリア(=ウイルスを体内に保有し続ける人)になりやすい。

3歳以降ではGenotypeAという遺伝子型を除いてキャリア化せず、一過性で終わることが多い。

(劇症型はありうる。)

本当に守るべきは3歳未満児である。

3.不思議なことに、他の多くの不活化ワクチンと違って幼いほど抗体の上昇が良い。

接種時期は、日本の従来の母子感染プログラムのような月齢2、3、5ではなく、

月齢0、1、6がベストだということが分かっている。

0歳で3回接種すると、ほぼ100%の乳児に十分な抗体が誘導されるが、

成人の場合、3回接種しても70~80%程度の人にしか、十分な抗体が誘導されない。

(10代なら90%を超える。)

4.生後間もなく児のHBs-Ag(B型肝炎の表面のタンパク)が陽性でも、

HBVに対するγグロブリンと3回のB型肝炎ワクチンを完遂すると

少数だが、HBs-Ab(B型肝炎ウイルスを中和する抗体)が誘導されて、

HBs-Agが消えるケースがあるので 諦めるべきでない。

HBe-Ab(+)無症候性キャリアは発ガン性低く、完遂群では、この比率が高くなる。

Totalでの発ガンリスクも減らせるのだそうです。

(注釈:HBe-Ag(-)、HBe-Ab(+)→この状態はHBVの活動性が抑えられた状態。

HBe-Ag(+)、HBe-Ab(-)→この状態はHBVの活動性が高い状態。)


<その他のポイント>

・HBVにはGenotypeが8種類あり、外国から輸入されたGenotypeAが都市部で増えてきている。

GenotypeAは成人でもキャリア化することが多い。

ヘプタバックスはGenotypeA、ビームゲンはGenotypeCのみを抗原に含むが

抗原性に普遍性があり、1種類の抗原で8種類をカバーする。

子宮頚癌ワクチンのような交叉性の問題は無い。

・海外では全ての年齢に10μgの抗原を投与しているが、

日本では9歳までは5μgと世界標準の半量と少ない。

・HBV carriorとなった児の内訳:

母子感染が65%、父子感染が25%、同胞間感染が4%、経路不明が8%、

Komatsu H, Inui A, Fujisawa T, et al. Hepatology Res. 2009; 39: 569-576

・唾液や涙>10^5 copies/ml, 尿>10^3 copies/ml,

Realtime PCR 陽性率:尿74%、唾液92%、涙100%、汗100%、

Komatsu H, Fujisawa T, et al. 2010

・母がHBe抗原(+)→HBIG2回、HBワクチン3回、

(放置した場合は感染率100%、キャリア化率80~90%)

母がHBe抗原(-)→HBIG1~2回、HBワクチン3回、

(放置した場合は感染率約10%、キャリア化率:極めて稀)

HBワクチン3回目から1ヶ月後にHBs-Ag/Ab検査→10以上なら追加接種不要。

・HBワクチンは日本では5回まで接種できるが、そのことを知らない医師が多い。

・アメリカでは、思春期にもう一度、Boost(追加免疫)するか、議論になっているそうです。

しかし、このような議論になっているのも、アメリカでは0歳で全員が接種できているからで、

大きくなってから接種しても、抗体上昇が悪いので、0歳で接種できていないケースでは

追加接種は必要だと思います。

・汗、唾液、涙、尿、からウイルスが分離される。

レスラー同士で集団感染した事例が報告されている。

汗も感染源となる。

・保育園での噛み付き事故で感染しうる。

・米国疾病管理予防センター(CDC)の「予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)」によると、HBVは環境的に安定しており、環境表面で少なくとも7日間感染性を維持すると解説している。

CDC. Immnization of Health-Care Personnel. MMWR 2011;60(No.RR-07)

・1986年にワクチンができた。この頃は日本はHBVの研究で世界をリードしていたが、

多くの国で、universal vaccination(全ての生まれてきた乳児に接種する方法)が進む中、

日本では母子感染対策のみで、世界から取り残されてしまった。

・HCVは小児期に発ガンしない。HCV感染小児患者の2%だけが肝硬変になるが、

小児期には肝細胞癌には移行しない。

一方で、HBVではしばしば小児期でも肝細胞癌に移行する。

・先進国では日本とイギリスで定期接種になっていませんが、2012年時点で近々イギリスは定期接種化する予定です。

途上国では非常にHBV carroir の率が高いです。

例えば台湾ではワクチンが始まる前は人口の30%がキャリアでしたが1980年代からの定期接種化で

10%まで減りました。

こういった外国人の汗や涙や唾液で感染することがありますが、外国人や日本人キャリアを汚い者として

嫌悪するのではなく、全ての人にワクチンを打って、差別を無くすべきと考えます。

・筆者は針刺し事故で感染する確率が、HBVは30%、HCVは3%、HIVは0.3%と教わりました。

C型肝炎とHIVが輸血や性行為(STD:sex-transmitted disease)としてしか感染しないのに比較すると、B型肝炎はキスや唾液程度からでも感染するほど感染力は強力です。

乾燥したものの表面で約1週間HBV粒子は活性を失わないそうです。

・HCVやHIVのキャリアは通常の生活で他人に感染させることはあり得ないので、職業の制限を受けることはありませんが、残念ながらHBV carroir は制限されるべきです。(ここは筆者の私見です。)

現在の日本では3歳未満児に触れる職業に就かない方が良いでしょう。

生後、すぐに全ての乳児にB型肝炎ワクチンを接種するようになったら、就けない職業は産科やNICU勤務のみになります。

HBV carroir の人の多くは本人に責任が無く、乳児期に感染してしまった不幸な人です。

下記の佐賀県の保育士は園児に集団感染を引き起こした後、自主退職したそうです。

感染した方も、感染させた方も不幸です。こういった事例を減らすためにも出生直後からの定期接種が望まれます。

家族にB型肝炎のキャリアがいる場合は、絶対に産科を退院する前から接種してください。

そうでない場合は、

1.出生直後から月齢0,1,6で接種。

2.Hibや肺炎球菌やDPTと同時接種する。(乳児期前半)

3.Hibや肺炎球菌やDPTが終わってから接種する。(乳児期後半)

4.保育園や幼稚園に入る前に接種する。

5.思春期に入る前に接種する。(子宮頚癌ワクチンと同様に小学校高学年~中学生)

の順にお勧めです。

理想は、1.ですが、抗体獲得率から言って、0歳のうちに済ませてください。


<以下に佐賀県の保育園で発生したB型肝炎の集団感染の事例を紹介します>

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http://kansen.pref.saga.jp/kisya/kisya/hb/houkoku160805.htm

保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について

今般、「佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会」は、当該保育所における感染拡大の防止を確認するとともに、再発防止策を取りまとめたことから、公表します。


【ポイント】

○ B型肝炎の感染経路は、従来の知見では、直接に患者の血液、粘液、分泌液に接触する行為(母子感染、性行為、医療行為等)と考えられていたが、今回の事例では、日常生活の中でも感染が起こりうることを確認し、その感染様式には出血及び滲出液を伴う皮膚疾患が関与している可能性が示唆されたこと。

○ 今回の事例では、感染拡大を防止するために、標準的な予防策に加えて、ワクチン接種を勧奨し感染拡大を防止した。このことは、感染防御策にワクチン接種を加えることが有効であることを示しているものと思われること


1.事例の概要

○ 平成14年4月、佐賀医科大学付属病院(現佐賀大学医学部付属病院)から佐賀中部保健所に急性B型肝炎発生届けがあり、当該患者の通園している保育所におけるB型肝炎の集団感染が疑われたことから、県では平成14年5月、「佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会」を設置し、①当該保育所におけるB型肝炎の蔓延防止に努めるとともに、②原因の究明と③再発防止策の検討を行ってきた。

○ 県では、当該保育所に対する衛生指導や園児に対するワクチン勧奨などを行い、平成16年2月の追跡調査において新たな感染者はなかったことから、平成16年3月、「佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会」は感染拡大防止を確認した。


2.原因の究明(感染源・感染経路の究明など)

(1)集団感染の疑いを確認

○ ①佐賀市、佐賀郡内の症例検索、②保育所関係者のスクリーニング検査、③感染源検査、④感染経路調査等を行った結果、合計25名の者(園児19名、職員6名)が当該保育所内でB型肝炎に感染した疑いがあることが明らかとなった。

(2)感染源

○ 感染源は、HBVキャリアである元職員から検出されたウイルスの塩基配列が他のウイルス陽性者9名と一致していることと疫学調査の結果から、元職員がもともとの感染源であると推定されたが、元職員がすべての感染者の感染源になっているとは言えず、個々の感染源を特定するには至らなかった。

(3)感染経路

○ 感染経路については、疫学的には①HBVキャリアの元職員から園児への感染、②園児間の感染、③園児から職員への感染、④兄弟間、4つの可能性が考えられ、現場の状況調査や保育士等からの聞き取り調査等から、感染につながりえることを否定できない様々なエピソードが確認され、感染様式に血液や滲出液を伴う皮膚疾患の一定の関与が疑われたが、特定するには至らなかった。

(4)感染リスクの分析結果

○ 再発防止策を検討するために、感染リスクを分析した結果、①皮膚疾患を有する場合や②年少児の保育は相対的に感染リスクが高いと推定された。


3.感染拡大防止策の実施

(1)感染源対策

○ 皮膚疾患の治療、出血部位の保護及び長袖着用などの服装の指導等を行った。

(2)感染経路の遮断

○ 処置行為の改善、タオルやスプーンの共用中止及び玩具の適切な管理等の指導を行った。

(3)環境衛生の改善

○ 医務室の改善、消毒管理の徹底等の指導を行った。

(4)感受性対策

○ ワクチン接種を指導した。


4.再発防止に向けた今後の対応策(提言)

(1)ワクチン接種の勧奨

○ 集団保育を早期から開始する場合で、身近にHBVキャリアが存在している場合には、乳幼児には標準的予防策を求めることは難しいことから、ワクチン接種を勧奨することも一考すべきである。

(2)保育所・幼稚園の関係者に対する衛生教育の徹底

○ 今回の事例では感染経路の完全な特定は困難であったが、血液や滲出液を伴う皮膚疾患を介して感染した可能性があることが示唆されている。このため、血液だけでなく滲出液についても血液と同様に十分留意して取扱うことなどを周知徹底していく必要がある。

(3)母子感染防止の徹底と母子感染の実態等の把握

○ 市町村に対してHBVキャリア妊婦の発見とHBVキャリア妊婦に対する保健指導の徹底を指導するとともに、医療機関に対してHBVキャリア妊婦・出生児への適切な対応を要請していくことが求められる。

(4)感染症発生動向調査のB型肝炎の届出の徹底

○ 医療機関への周知徹底


(参考資料)

1.B型肝炎の感染経路

○ B型肝炎の主な感染経路は母子感染、性行為、医療行為等であり、日常の生活では容易に感染しないと考えられている。

○ 性行為で感染した場合、成人は免疫力が発達しているため、急性肝炎を経て、ほとんどの人が体からウイルスを排除でき治るが、母子感染の場合、乳幼児は免疫力が弱いため、ウイルスを体から排除できず、キャリア化してしまうことがある。

2.B型肝炎の母子感染予防対策

○ わが国では1985年から母子感染予防対策(キャリア妊婦からの出生児に対するワクチン等を投与)が導入されており、この結果、わが国における小児のHBVキャリア率は約0.3%から0.03%に激減しているとされている。


20116記載

<B型肝炎ワクチンの種類>

日本ではビームゲンとヘプタバックスという2種類のB型肝炎ワクチンがあります。

違いは殆どありません。

抗体獲得率は、それぞれ約96%と約92%で、約4%程度ビームゲンの方が優れていて

一方、ヘプタバックスはチメロサールというエチル水銀を含みません。

因みに水俣病を引き起こしたのはメチル水銀で、体に蓄積しますが、エチル水銀は蓄積せず、体から排泄されます。昔はチメロサールが200μg/vialも含まれていましたが、現在ではおおよそ5μg/vial程度に減量されています。

最近10年間の日本人の汚染物摂取量調査結果より、水銀一日摂取量の平均値が8.42μg/人/日(58.9μg/週)であり、このうち魚介類から6.72μg(47.0μg/週)、その他の食品から1.70μg(11.9μg/週)でした。

妊婦の耐容量は2.0μg/kg体重/週ですので、妊婦の平均体重を55.5kgとすると一週間当たりの耐容量は (2.0x55.5=111で)111μg/週となります。すなわち、妊婦を含めた日本人は平均的に現在妊婦耐容量の半分を少し上回る量の水銀を摂取して いることになります。

魚介類からの水銀摂取(47.0μg/週)のうち一般魚介類からの割合をどれくらいに見積もるかについては、我が国の15~49歳の女性における水銀摂取量の調査で、一般魚介類からの水銀摂取量はほぼ半量(47.0÷2=23.5μg/週)であったとされています。

魚に含まれる水銀の75~100%がメチル水銀なので、チメロサールが元々体に蓄積しないことを考えると取るに足らない量だということが分かります。従って当院ではビームゲンを用いています。

副反応は両者共に少ないワクチンで、ヘプタバックスは疼痛4%、発熱2.4%、発赤2% です。


B型肝炎6割、慢性化傾向の型

ジェノタイプAが増加、「首都圏」「男性」「若年」に広がる

第47回日本肝臓学会総会 (2011年6月2日~3日)

国立国際医療研究センター、肝炎・免疫研究センターの伊藤清顕氏は、6月2日のワークショップで講 演し、B型急性肝炎の遺伝子型(ジェノタイプ)調査の中間集計について発表、増加していると考えられているジェノタイプAが6割近くに達しており、慢性化 しやすい可能性が示されたとして、「慢性化例が増えると予想される場合には、全国民を対象としたB型肝炎の『ユニバーサルワクチネーション』の導入も考慮 する必要がある」と説明した。

ほとんど届け出されていない

B型急性肝炎のジェノタイプAはかねて増加していると考えられていた。しかも大きな問題は、ジェノタイプAの感染による急性肝炎が成人の初感染で10%程度が慢性化する可能性が指摘されていることだ。

伊藤氏らの研究グループ(厚生労働科学研究 肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎ジェノタイプA 型感染の慢性化など本邦における実態とその予防に関する研究」班、研究代表者:溝上雅史)は、「現状の把握および対策が急務」ととらえて、全国規模で症例 を収集。ジェノタイプAの最新情報、慢性化率および慢性化要因を調べた。研究の対象は1982年から2010年に発生したB型急性肝炎1,088人。

一つ課題として浮上したのは、5類感染症法により義務付けられているB型急性肝炎の届出がほとんどされていないという実態だ。今回の調査では、実際に届出されたのは5%から6%と低率にとどまっていた。

首都圏を中心に広がっているのも特徴だ。首都圏のデータによると、ジェノタイプAは1990年代半ばより増加傾向に入り、2010年には約70%を占めた。やや遅れて同様の傾向が地方部にも拡大している。1990年代後半から増え始め、2010年に60%程度になった。

臨床的な特徴としては、「男性」「若年」に多い点が重要だ。ジェノタイプAとそれ以外のジェノタイ プの臨床的な特徴を比べたところ、ジェノタイプAの群では年齢が若いことが分かった。さらに、ジェノタイプAの群では男性の症例を多く認めた。「これは、 ジェノタイプAが若い男性の性的活動の活発な時期に性行為感染症により拡大していることが原因と考えられる」(伊藤氏)。

ウイルス消失しにくく

HBeAgの陽性率、HBV-DNAの値が高い点も、ジェノタイプA群に特徴的な点だった。具体的には、ジェノタイプA群は発症時のHBeAgの陽性率が高く、ピーク時のHBV-DNAが高値となっていた。

血液検査上もジェノタイプA特有の所見が見られた。ピーク時のALTが低く、プロトロンビン活性(%PT)は高い傾向が見られた。

ジェノタイプAの大きな問題として、欧米では成人の初感染ででも慢性化しやすいとされていたが、今 回の検討で本邦でも慢性化することが裏付けられた。HBsAgの消失時期を比較すると、ジェノタイプAでは有意に延長していた。6カ月以上のHBsAg持 続陽性を指標とした慢性化率では、ジェノタイプAは15.4%、それ以外では3.0%と、ジェノタイプAにおいて慢性化率が高いという結果であった。

ジェノタイプAは慢性化しやすい半面で、発症後6カ月から12カ月の期間にHBsAgが消失する症例も多かった。「今後、慢性化をどう定義するかということも再度検討する必要がある」(伊藤氏)。

さらに、HIVとの共感染の比率が高い点も診療上は重要になりそうだ。HIVとの共感染率については、ジェノタイプAでは10%だったのに対して、ジェノタイプA以外では1%と大きく異なっていた。

伊藤氏は、「ジェノタイプAにおいては、ピークのALTが低値で、プロトロンビン活性が高値であり、肝炎の程度が軽度な症例が多い。HBsAg消失までの時期が長期にわたり慢性化に関与する可能性が示唆された」と解釈する。

さらにB型肝炎の届出について、「実際の発生数を把握し、感染対策を考える上で非常に重要。今後は、届出方法の簡易化、届出義務の周知徹底等の対策を立てる必要がある」という。

伊藤氏は、「B型急性肝炎の慢性化の定義を再検討し、実際の慢性化率を明らかにしていく必要がある。その上で、ユニバーサルワクチネーションの有用性を検討する必要がある」と説明している。