<タバコによる健康被害>

タバコの煙は子どもへの虐待です。

どもにどのような害があるか、

A.妊娠中の母親の喫煙

B.妊娠中の母親の受動喫煙

C.小児期の家庭内での受動喫煙

D.子供自身の喫煙

という場合に分けて見ていきましょう。


A. <妊娠中の母親の喫煙が胎児に与える影響>

・日本では1990年代に妊婦の喫煙率が約2倍になり、現在妊婦の10%が喫煙しています。

・妊娠中に喫煙していた母親から生まれた児は、喫煙していない母親から生まれた児と比べて11歳の時点で計算能力が低く、

母親が1~9本喫煙していた児ではIQが5.7程度、母親が10本以上喫煙していた児ではIQが6.6程度、低下しています。

・流産、早産、低出生体重児になりやすい。

妊娠中の喫煙と低出生体重児の出現率

非喫煙の母親のリスクを1とすると、

妊娠前期のみ喫煙⇒1.2倍

妊娠前期と中期のみ喫煙⇒1.25倍

妊娠中期と後期のみ喫煙⇒1.9倍

妊娠中ずっと喫煙⇒2.5倍

とリスクが増えます。

妊娠中の喫煙と男児の将来の犯罪率

(海外の統計なので犯罪率のベースが日本より高いことに注意)

妊娠中の1日喫煙本数が0本 ⇒ 7.7%

妊娠中の1日喫煙本数が1~2本 ⇒ 9.0%

妊娠中の1日喫煙本数が3~10本 ⇒11.8%

妊娠中の1日喫煙本数が10~20本⇒14.4%

妊娠中の1日喫煙本数が20本以上⇒16.8%

<要点> 切れる子供、犯罪者になりやすい。

妊娠中の喫煙と女児の将来の妊娠率

胎内で受動喫煙した女児が成人した時、15~20%程度は妊娠率が低下します。

20%近くが1年間以上妊娠できない不妊傾向となります。

・妊娠中の精神的ストレスは児の出生体重に殆ど影響しません。(イギリスの大規模調査の結果)

禁煙のストレスが胎児に悪影響を及ぼすことは殆どありません。

一方、喫煙により児の出生体重が平均200g前後減少します。胎児に酸欠とニコチン暴露というストレスを与えます。

・胎児期の母親の喫煙によって口唇口蓋裂、斜視、白血病、悪性リンパ腫、脳室内出血の発生率を上昇させます。

・胎児期の母親の喫煙によって学童期のADHDの罹患率が上昇します。

<要点> 将来、不妊になりやすい。(女児のみ)

B. <妊娠中の母親の受動喫煙が胎児に与える影響>

・妊婦が受動喫煙を受けていた場合、新生児の出生後第一尿中ニコチン濃度は、妊婦自身が喫煙していた場合の約1/7に達します。

・羊水中のコチニン濃度は、受動喫煙妊婦では喫煙妊婦の場合に比べて約1/3です。

(羊水は殆ど胎児の尿なので受動喫煙でも胎児に到達していることが判ります。)

C. <小児期の受動喫煙による子供の健康被害>

尿中コチニンを指標とした小児の受動喫煙の評価

非喫煙の親を持つ児のニコチン暴露スコアを1とすると、

ドアを閉めて屋外で喫煙⇒2.0倍

ドアを開けて屋外で喫煙⇒2.4倍

台所の換気扇の下⇒3.2倍

喫煙場所不定⇒10.3倍

屋内で喫煙⇒15.1倍

とホタル族や換気扇の下で喫煙していても子供に副流煙を吸わせているのです。

・受動喫煙によって小児の鉛の血中濃度が30%程度上昇します。

・アメリカにおける研究では、受動喫煙によって小学生時代の身長の伸びが男児は0.5~1.6cm、女児は1.0~1.3cm低くなります。

・日本では乳幼児突然死症候群(SIDS)のため毎年数百人が亡くなっていますが、

親が喫煙している家庭の子供はそうでない家庭の子供に比べてSIDSで亡くなる確率がかなり高く、

両親の喫煙をなくせばSIDSの6割は防げると推定されています。

・子供が受動喫煙すると、喘息、呼吸器疾患、中耳炎の原因になります。

受動喫煙により喘息発作で救急外来を受診する確率は2.8倍、入院する確率は6.6倍に上昇します。

病気による入院が有意に増えます。

・子供時代に受動喫煙すると、視力が落ちます。

・子供時代の受動喫煙によって成人後の発癌リスクが高くなる。

・子供が受動喫煙すると、身長だけでなく体重の増えが悪くなります。


D. <子供自身の喫煙>

小児の喫煙頻度と疫学

・小学生の5~7%は喫煙経験者です。

小学生の喫煙経験者のうち40%が小学校入学前に喫煙を経験しています。

小学生のタバコの入手経路は殆どが家庭内です。

小学生の喫煙場所の半数以上が自宅です。親が喫煙の入り口となっていることが多い。

・喫煙経験率は中学1年で20%、高校3年男子で55.7%(そのうち毎日喫煙する者が25.9%です。)

・日本では成人の喫煙率は男性52.8%、女性13.4%です。(禁煙した喫煙経験者を除く。)

・中学生の喫煙経験者のうち1/3が幼稚園~小学校低学年で喫煙を経験しています。


小児自身の喫煙による健康被害

・喫煙開始年齢が低いほど、癌や虚血性心疾患で死亡するリスクが上昇します。

・常に血中一酸化炭素濃度が高く、身体・知能の発達が妨げられます。

逆に大学受験合格率が禁煙により改善します。

・成人喫煙者ではニコチン依存症になるのに数年~20年かかりますが、

中学生では数週間~数ヶ月で依存症となります。

・扁桃肥大やアデノイド腫大が起きやすくなります。

・中耳炎の罹患率が上昇します。(親からの受動喫煙よりもリスクが高い。)

・後年、肺癌を発症するリスクを上昇させます。

E. <親と子供への禁煙指導>

・95%の親が自分の子には喫煙して欲しくないと思っています。

⇒自分の代で喫煙の連鎖を断ち切りましょう!

・喫煙する親の8~9割が自分の喫煙を止めたいと思っています。

⇒ニコチンガムやニコチンパッチをお勧めします。

・喫煙する親の1~2割は喫煙を止める意志がありません。

⇒非喫煙者では70歳までに死亡するのは20%ですが、喫煙者は70歳までに半数が死亡します。

子供が成人する前に親が死亡するリスクが上昇するのです。

・喫煙する父親の約1/3が子供の前で喫煙しています。

アメリカの研究で、喫煙シーンのある映画を多く見たグループが喫煙を開始する確率は、

見ないグループの2.6倍高いことが判っています。

⇒子供の前で喫煙することは、我が子が喫煙するように教育しているようなものです。

例え禁煙できなくても、子供のいる場所や起きている時間帯には吸わないようにしましょう。

・タバコ1本で2トントラックを200m~670m走行させるのと同等の粉塵が発生します。

⇒せめて家の中では吸わないでください。

・受動喫煙による非喫煙配偶者のCOPD発症率は、受動喫煙のない家族の5.65倍高い。

⇒これは配偶者だけではなく、子供にも同様のリスクをもたらします。

・いわゆるニコチンの少ない「軽い」タバコの方が臭いを消すための添加物が不完全燃焼し、

ニコチンの多いタバコより発ガン性物質の放出量が多い。(厚生労働省調査による)

⇒軽いタバコでも家族への健康被害は減りません。

・空気清浄機はタバコの臭い成分(個体相~液体相)を除去しますが、ガス相にある有害物質は除去できません。

⇒空気清浄機を購入しても屋内で吸っていいことにはなりません。

・人工栄養のみで育児している母親の喫煙率は約40%、混合栄養と母乳栄養で育児する母親の喫煙率は共に約5%です。

⇒子供のために禁煙だけでなく、母乳育児にも取り組んでください。


行政とJTの問題点

・たばこ産業(JT)は女性を大きな市場と見ています。

(1990年代以降、日本人全体の喫煙者が若干減る中で女性喫煙者は倍増しました。)

・JTはタバコの健康被害が最大の問題であるのに、ポイ捨てや副流煙の臭いの迷惑問題としてすり替えています。

・タバコの自動販売機は全国で63万台を超え、中高生の7割以上が自販機で購入しています。

また広告規制の強化により、自販機は屋外の唯一の広告塔になっています。

タバコの自動販売機によって未成年の顧客確保を狙っていることは明らかなのに行政は規制しません。

・イギリスではタバコ1箱800円です。先進国で日本のタバコは最も安く、通常先進国では1箱500円近くします。

(喫煙者は肺ガン、喘息、COPD等の呼吸器疾患の発症率が高く、国民が払う健康保険費を浪費しています。

筆者はタバコの税金をもっと高くして呼吸器疾患の治療費補填に充てるべきと思っています。)

・公共の場における喫煙に対して罰則が軽く、事実上野放しです。

日本は先進国の中で最も喫煙に対して甘い国と言えます。


OECDヘルスデータ2007年版


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CTは9.26台、MRIは4.01台(OECD平均は、CT2.06台、MRI 0.98台)。

・日本はOECD各国中で最長寿を享受している。これは特に心疾患死亡率の低下によるところが大きい。

・日本の新生児死亡率は、OECD各国中最小で、出生1万件あたり28人である。(OECD平均は54人)

・肥満率は、日本の3%、韓国の3.5%から、米国の32.2%までばらつきがあるが、OECDすべての国において増加傾向にある。

・喫煙率は、OECD平均24%に対し、日本は30%と高い。

特に日本人男性の喫煙率は46%で、韓国、トルコ、ギリシャ、オーストラリアに次いで高い。

(筆者注:因みにOECDの中で韓国、トルコ、ギリシャは日本より医療費が少ない数少ない国です。)


<要点>

タバコの煙は子どもへの虐待です。

・親の喫煙によって子どもの身長が約1cm低くなります。IQが5~7程度下がります。

・親の喫煙によって女児は将来、不妊症になりやすく、男児は将来、犯罪者になるリスクが上昇します。

・親が禁煙することによって、乳幼児突然死症候群(SIDS)の6割が防げます。

・胎児期の母親の喫煙によって口唇口蓋裂、斜視、白血病、悪性リンパ腫、脳室内出血、ADHDの発生率を上昇させます。

・アメリカの研究で、喫煙シーンのある映画を多く見た子の群が喫煙を開始する確率は、見ない子の群の2.6倍高いことが判っています。

→子供から見える場所で喫煙することは、我が子が喫煙するように教育しているようなものです。

・成人喫煙者ではニコチン依存症になるのに数年~20年かかりますが、中学生では数週間~数ヶ月で依存症となります。