2023年の展望とワクチンについて

時間が無いため文献は紹介しませんが、オミクロン株に対してPfizerとModernaのmRNAワクチンは2回ではほぼ無効で、3回接種してようやく有効になります。しかし効果は長期間持続しません。

デルタ株以前は2回で十分有効性を示せていたため、オミクロンはワクチンを以ってしても難敵です。

外来でよく訊かれる質問ですが、幼児にワクチンを打った方が良いか?という質問の答えです。

結論は「どちらかと言えば打った方が良い」というのが私の答えです。
「どちらかと言えば」という枕詞が付くのは小児用ワクチンには2023年1月時点でオミクロン対応株が入っていないからです。2回ではほぼ無効で3回接種してようやく効果が期待できる程度です。

生後6ヶ月〜4歳に対するワクチンの副反応は成人のものより少なく、発熱は成人の場合、Pfizerが37%程度、Modernaが70%弱ですが、小児は13〜14%程度と1/3程度です。(インフルエンザワクチンより多く、肺炎球菌ワクチンより少ないです。)心筋炎も稀には起こりますが、それでもSARS-CoV-2自体に感染して起きる心筋炎より確率も程度も低いです。

殆どの小児にとって肺炎も起きずに高熱は2日間程度で終わってしまうので怖くないという印象を持っているかも知れません。それは確かに当たっています。しかしインフルエンザより少ない印象ですが、私が関わる保育園でもSARS-CoV-2によるLong CoVIDや脳症も起きています。副反応の少ないワクチンなので打って損は無いと思います。

オミクロン以降は感染力もほぼ風疹レベルに到達し、マスクだけでは防ぎきれません。2022年1月から広まったBA.1から爆発的に患者が増えました。

2022年夏から流行したBA.5はさらにBA.1の1.3倍程度の感染力になり、スーパーマーケットぐらいしか行かなかった人や、バイク通勤の人まで感染するようになり、季節性コロナウイルスに免疫を持っているはずの小児科医も7月頃から続々と感染したという知らせが届くようになりました。そして私も2022年8月に感染してしまいました。

2022年冬からBQ.1(BA.5の直系子孫)が流行し、2023年になってからはXBB.1.5(BA.2.10とBA.2.75.3の組替え体)に置き換わってきているようです。

アメリカやヨーロッパのようにmRNAが普及し、マスクもせずに大声で話す人たちはおそらく既に6〜7割の国民が既感染の状態にあり、増え方が緩やかです。日本でも2022年12月時点で47都道府県の中で最も多くの住民(5割程度)が既感染状態にあった大阪と沖縄は感染者数の立ち上がりが緩やかでした。(しかし大阪も今は増えてきているようですが。)

逆に今までコロナが殆ど抑え込まれていた中国では悲惨なことになってきています。
これは中国製のコロナワクチンの成績が良くないものだったことと、肺への親和性がデルタ株並みのオミクロン株に対して一気に感染対策を緩和したことが大きな要因で、イギリスの調査機関によると毎日大量の死者が出ているそうです。


これらアメリカと中国の状況の違いが現時点でのワクチン対策に対する私の答えです。つまり、

0。もはや風疹並みの感染力なので完全防御は中国や台湾でも不可能。
1。平時から有効なワクチンを接種する。
2。流行が大きくなった時は感染対策を取る。
3。小児の方が感染してもワクチンを打っても軽く済むので、子どもはワクチンを打って普通に活動するべき。
(感染者はもちろん1週間隔離が必要。)
4。この感染力になると冬季は常に国民の1〜2%が感染者という状況が続くと思うので、インフルエンザとの混合ワクチンを毎年接種することになるでしょう。
5。オミクロン株対応ワクチンは原則今後もBA.1、BA.2、BA.5の子孫が組み替えをしながら変異を繰り返していくでしょう。オミクロンから別の何かに飛び出す可能性は低いように思いますが、今のところ交差反応はあるようなので、BA.1対応でもBA.5対応でもどちらでも良いと思います。
6。低病原化がいつやって来るか分からない。2020年に訊かれた時に私はOC43が6年で低病原化したので、おそらくSARS -CoV-2は3年ぐらいじゃ無いかと答えていましたが、低病原化によってパンデミックが終わるとは思えず、むしろ(ワクチン接種後であれ)小児期に感染することで免疫を獲得もしくはBoostが掛かって肺炎を起こしにくい状況になっていくように思います。OC43とは少し違った状況になると予想しています。
7。実は最も繁栄している(個体数が多いという意味です。洞窟の巣には1m^2に5000匹ぶら下がっています。)哺乳類はコウモリです。そしてまだコウモリは数十以上、ひょっとしたら100以上のコロナウイルスを持っています。今後も新たなパンデミックは起こるでしょう。

第8波はグラフを見て分かるように第7波より低い波です。やっとパンデミックの山頂を越えてゴールが見えてきたところです。

一方でインフルエンザは本来R0≒1.3程度なのでマスクと手洗いでかなり防ぐことができます。この冬は最後の大きな山場です。頑張ってください。

(2023/01/08記載)