母乳哺育は感染症リスクを低減するが、食物アレルギーリスクは予測せず

Pediatrics(2014;134:S13-S20. S21-S28)

母乳哺育による便益は数多く報告されているが,完全母乳哺育の期間や離乳食の開始時期が,乳児期以降の児の健康アウトカムに及ぼす影響についてはエピデンスが確立していない。

米食品医薬品局(FDA)と米疾病対策センター(CDC)が妊婦を対象に実施した縦断研究(InfantFeeding

Practices Study(IFPS) II)の6年後の追跡調査(Y6FU)から,完全母乳哺育の期間や離乳食の開始時期は,6歳時点の感染症リスクの低減と関係する一方で,食物アレルギーの発症リスクを予測しないとする2件の研究結果がPediatrics(2014;134:S13-S20. S21-S28)に報告された。


<6歳時点の健康アウトカムを追跡調査>

IFPS I は2005-07年に米国の妊婦を対象に行われた縦断研究で,妊娠第3期から生後12カ月まで,晴育状況や母子の健康状態,育児環境などに関する聞き取り調査が毎月,郵送で行われた。

IFPSllに参加した母親に対し,児が6歳となる2012年に再ぴ郵送で調査票を送付し、6歳時点の発育状況

や食生活,食物アレルギーや感染症などの健康アウトカム,生育環境などについてY6FUを行った。


<母乳哺育が乳児期以降も感染症リスクを低減>

母乳哺育が乳児期の感染症の発症リスクを低減することは知られているが,長期的な便益が得られるかどうかは結論が出ていなかった。

CDCのRuowei Li氏らは、 IFPSIIおよびY6FUのデータを用いて,母乳哺育状況と乳児期以降の感染症リスクとの関連を検討した(2014;134;S13-S20)。

両調査に参加した1,542組の母子のうち,データ不備例などを除外した1,281組を解析対象とした。

解析の結果,追跡調査の前年には, 66%が感冒または上気道感染症に, 25%が耳感染症, 24%が咽頭感染症にそれぞれ1回以上罹患していた。


交絡因子を調整した多変量ロジスティック回帰分析の結果, 6歳時点での耳感染症および咽頭感染症,副鼻腔感染症の罹患リスクは,母乳哺育の期間および完全母乳哺育の期間,混合哺育時の母乳の割合と有意な関係が示された。


母乳哺育が9カ月以上の児では、母乳哺育が0-3カ月未満の児と比べて,前年の耳感染症、咽頭感染お

よぴ副鼻腔感染症のオッズ比が有意に低かった〔それぞれ調整オッズ比(aOR) 0.69 (95%CI 0.48-0.98), 0.68(同0.47-0.98),0.47 (同0.30-0.72))。


完全母乳哺育が6カ月以上の児では, 0-4カ月未満の児に比べてこれらの感染症のオッズ比が有意に低かった〔それぞれaOR0.37(95%CI 0.14-0.98), 0.23 (同0.07-0.76),0.13(同0.02-0.97。))


混合哺育の場合,最初の6カ月間に母乳が占める割合が高かった(66.6%以上)グループでは,母乳の

割合が低かった(33.3%未満)グループに比べて副鼻腔炎のオッズ比が有意に低かった(aOR 0.53, 95%CI 0.35-0.79)。


これらの結果を受けて,同氏らは「母乳哺育は,乳児期以降も耳感染症および咽頭感染症,副鼻腔感染症に抑制的に働く可能性がある」と結論付けている。


<食物アレルギー発症リスクと哺育状況の関係は限定的>

一方,乳児期以降の食物アレルギー(FA)リスクとの関係を検討した研究からは,哺育状況や離乳食の開始時期よりも,むしろ母親の社会経済的因子や児のアトピー性疾患リスクが予測因子となることが示された。(2014; 134 :S21-S28)。


FDAのStefano Luccioli氏らは, 6歳時点でFAの診断を受けている児をFA可能性(pFA)例と定義し, 1歳未満の時点ではFAの診断を受けていなかった児を新規pFA,アトピー性疾患の危険因子を有する児を高リスクpFAに分類。

pFAの発生頻度と完全母乳哺育および離乳食の開始時期との関係を検討し,6歳時点でのpFAの予測因子を評価した。


Y6FUコホートにおけるpFAの有病率は6.34%だった。交絡因子を調整したロジスティック回帰分析の結果,

母親の学歴世帯収入の高さ,FAの家族歴,一歳未満の乳児湿疹歴が, 6歳時点でのpFAを予測する最も有望な予測因子であることが示された。


中でも, FAの家族歴がある児では,そのリスクは約2倍高かった(aOR 1.86, P<0.05)。

離乳食の開始時期は,全体新規高リスクのいずれのpFAとも有意な関係は認められなかった。

(管理者注:2018年時点の知見では、生後4ヶ月未満の開始もしくは6ヶ月以降の開始と極端に早いか遅い場合はpFAリスクは上昇します。)


一方,完全母乳期聞が4カ月以上のグループでは,母乳を全く与えなかったグループに比べてわずかながら新規pFAのオッズ比が低かった(aOR 0.51, P=0.07)が,この便益はアトピー性疾患リスクを有する高リスク児では認められなかった。


(⇒注:健康な児では、母乳は免疫寛容を誘導する可能性があるが、アトピーがあると経皮感作が主な感作経路になるので、経口の免疫寛容の効果が掻き消される可能性があると思われます。)


これらの結果を受けて,同氏らは「社会経済的因子およびアトピー性疾患のリスク因子が6歳時点のpFAを予測する主要な因子と考えられる」と結論付けている。