小児期でも肥満によって動脈硬化が起きる

簡便な検査法の普及で早期からのスクリーニングをめざす

京都府立医科大学小児科の肥満外来は、もっぱら栄養不足への対応が指摘され、小児の肥満という概念がまだ乏しかった1967年に、楠 智一氏により設けられた。それ以来46年間にわたり、臨床研究、基礎研究にもとづく栄養指導や運動指導に取り組むなど、我が国における肥満外来の草分け的な存在として知られている。そして、現在も肥満によって引き起こされる小児の生活習慣病に対する、基礎及び臨床研究に積極的に取り組んでおり、今回ご紹介する「小児の動脈硬化と相関する指標」についての研究も、その一環として行われたものである。


この研究を取りまとめた、小児内分泌・先天代謝異常・小児栄養学を専門とする小坂喜太郎氏は、「今、小児のメタボリック症候群の診断基準が確立されつつありますが、メタボリック症候群の一番の問題は動脈硬化です。従って、小児における動脈硬化の適切な指標があれば、スクリーニングや早期介入を行う際に、非常に役立つし、将来的に成人の生活習慣病の発症を阻止できるかもしれません」と、今回の研究に着手した背景について語る。

簡便で扱いやすいPWV測定

PWV検査は、心臓の拍動が動脈を通じて手や足に届くまでの速度の違いにより

動脈硬化の進み具合を判断している。

例えば動脈壁が厚くなったり硬くなったりすれば弾力性が失われ、

脈波が伝わる速度(PWV)は速くなる。

PWVは年齢によって多少異なるが、13.5m/sec以上であれば動脈硬化が進行していると考えられる。

もちろん、頸動脈エコーで内膜中膜複合体の肥厚を測定したほうが精度的には優れているが、

子どもの場合、精密な検査を行うのが難しく、検査施行者によって結果が左右されることから、

検診などに用いるには使いやすいPWVのほうが適している。


「若年から動脈硬化が進行することは、いろいろな研究から明らかにされており、

我々も肥満児を対象にPWVで調査したところ、同様の傾向が認められました」(図1)。

もちろん小児の場合は、成人とは異なり、適切な介入が行われれば動脈硬化も治ること

が知られており、それだけに適切な介入を行うかどうかが、

その子どもの将来を左右するといっても過言ではない。

予想外の指標が動脈硬化と相関

小坂氏らが行った「小児の動脈硬化と相関する指標」の研究では、PWVで測定した結果と、

身長、体重、腹囲、体脂肪率やTotal-コレステロール、TG、HDL-C、IRI、ALT、HbA1cのうち、

どれが最もよくリンクするかが検討された。


対象となったのは、京都府立医科大学小児科肥満外来受診児34名で、

年齢は11.4歳±2.5歳、肥満度は62.8±17.9%、体脂肪率は35.1±6.4%、腹囲身長比は0.586±0.053であった。


「当初、動脈硬化と関連する指標になると予想していたのは、

総コレステロールとHDLコレステロールから求められる動脈硬化指数ではないか

と考えていました(図2)。

しかし実際に測定したところ、動脈硬化指数はもとより、

中性脂肪や肝機能は関連性がみられず、腹囲身長比もそれほど関連していませんでした。

PWVが示す動脈硬化と最もリンクしていたのは体脂肪率でした(図3)」

運動習慣を身につけさせるために

小児のPWVについては正常値を示すデータが少なく、共同研究者である藤原 寛氏が

全国からデータを収集している。

それによれば7歳くらいの子どもでも+2SDを上回るケースもみられるという。


「このような子どもは体脂肪が多く、メタボリック症候群の基準にも引っかかってきます。

従って、PWVを用いた簡易な検査法でスクリーニングが行われるようになれば、

適切な介入と定期的なフォローにつなげることができると期待できます」


個人情報保護から、学校における血液検査を中止している地方自治体もあるので、

血液検査に代わって検査できるのもPWVの利点であろう。


子どもの動脈硬化を抑制する方法としては、今回の研究から肥満の是正が重要なこと

はわかったが、肥満を抑制する最も身近な食事療法は、

「成長中の子どもにとって、食事の基本を守りながら食べすぎを防ぐことは難しいのです。

また肥満児でも動けるような子どもはまだ問題が少ないほうで、

体を動かすことが嫌いで、すぐゴロゴロしてしまうような子どもが、

将来、肥満化することが問題です。

できれば運動習慣が固まる前の小学校低学年から介入し、

運動神経の良し悪しは個人差があるので、リズム感や柔軟性を身につけることで、

ゴロゴロするような習慣は避けられるようになればと考えています」。


実行の難しい運動療法を後押しするため、京都府立医科大学小児科では、

京都第一赤十字病院、京都第二赤十字病院、まつおこどもクリニック、

京都教育大学体育学科学校保健研究室などと協力し、

ジュニアフィットネスクラブを運営するなど、地域ぐるみで

子どもの肥満、生活習慣病の予防に努めている。