体の健康を維持すると脳の健康も向上

壮健な体を維持することは、脳構造の維持、記憶力の増進、的確かつ迅速に思考する能力の向上にも役立つ可能性があることが、ミュンスター大学(ドイツ)精神医学部門のJonathan Repple氏らによる新たな研究で示された。この研究は、欧州神経精神薬理学会議(ECNP2019、9月7~10日、デンマーク、コペンハーゲン)で発表され、「Scientific Reports」9月9日オンライン版に同時掲載された。


 この研究は、1,200人以上の健康な若年成人(平均年齢28.8歳、45.5%が男性)を対象に体の健康と脳(白質)および認知機能の関係ついて調べたもので、Human Connectome Projectの一部として実施された。対象者は、2分間の歩行試験(筋力は評価していない)、記憶力や判断力などを測る認知機能検査、脳スキャン検査を受け、Repple氏らはそれらの検査結果の解析を行った。


 その結果、2分間歩行試験で歩いた距離が長かった人(歩行速度が速い)は、歩行距離が短かった人に比べ、認知機能検査の成績が良好であり、男女ともに脳の白質の神経線維が健康であることが分かった。白質は神経細胞間の情報伝達の連絡路として重要な脳の領域である。


 Repple氏は、こうした体と脳の関連を説明するいくつかの仮説を示している。まずは、「運動により炎症が減少し、それが脳細胞にも便益をもたらす」というもの。また、健康であるということが、神経線維の絶縁性を高め、神経細胞や神経接続の成長を促すことも考えられるという。さらに、体が健康な人は単純に「脳への血液供給が良好」であるのかもしれないとも付け加えている。


 米メイヨー・クリニック神経学教授のDavid Knopman氏はこの考えを支持し、「体が健康な人ほど傾向として血管の健康状態も全体的に良好であるが、今回の研究結果はこの傾向を示しているのだと思う」と述べている。しかし同氏は、「体の状態が良い人は、健康に関する意識がより高く、健康に良い行動をとっている」ことを指摘し、体の健康を意識したそのようなさまざまな行動が一体となって、最終的には脳の健康の維持につながっている可能性にも触れている。


 では、全く運動をしない人は、少しでも体を鍛えて健康を増進すれば脳に有益な効果が得られるのだろうか。今回の研究の対象者20~59歳で、年齢、性別、高血圧、糖尿病、BMIを考慮しても、結果は同じであったという。


 しかし、Repple氏によると、今回の研究で観察したのは現在の状況だけであり、今から体を鍛えることで、脳の健康(認知機能)が増進するかどうかについて、確かなことは言えないという。それでも、体と脳の関連は、一方が改善すれば、それに応じて他方も改善するものであることを同氏は強調する。また、「年齢に関係なく、運動が常に有益であることは多くの研究でも示されている」とも述べている。


 一方、Knopman氏は、「この研究が意味するのは、血管の健康に良い行動を始める時期が早いほど、後々大きなベネフィットが得られるということだ」と総括している。

White matter microstructure mediates the association between physical fitness and cognition in healthy, young adults.

Nils Opel, Stella Martin, Susanne Meinert, Ronny Redlich, Verena Enneking, Maike Richter, Janik Goltermann, Andreas Johnen, Udo Dannlowski, Jonathan Repple

Scientific reports. 2019 Sep 09;9(1);12885. doi: 10.1038/s41598-019-49301-y.


Abstract

We aimed to extend our knowledge on the relationship between physical fitness (PF) and both white matter microstructure and cognition through in-depth investigation of various cognitive domains while accounting for potentially relevant nuisance covariates in a well-powered sample. To this end, associations between walking endurance, diffusion-tensor-imaging (DTI) based measures of fractional anisotropy (FA) within brain white matter and cognitive measures included in the NIH Toolbox Cognition Battery were investigated in a sample of n = 1206 healthy, young adults (mean age = 28.8; 45.5% male) as part of the human connectome project. Higher levels of endurance were associated with widespread higher FA (pFWE < 0.05) as well as with enhanced global cognitive function (p < 0.001). Significant positive relationships between endurance and cognitive performance were similarly found for almost all cognitive domains. Higher FA was significantly associated with enhanced global cognitive function (p < 0.001) and FA was shown to significantly mediate the association between walking endurance and cognitive performance. Inclusion of potentially relevant nuisance covariates including gender, age, education, BMI, HBA1c, and arterial blood pressure did not change the overall pattern of results. These findings support the notion of a beneficial and potentially protective effect of PF on brain structure and cognition.