食事で分かっているエビデンス

下の写真のある津川友介先生の著書は、子どもの食事を世話する人は一度読んでおいて損は無い本です。

「個人の感想です」というような内容では無く、エビデンスに基づいています。

何でも中庸が大事であり、加工しすぎてはいけません。


2億年前から樹上で、恐竜に追われながら昆虫・木の実・果実・葉を食べてきた我々の祖先は、6650万年前に恐竜が絶滅して、リスほどの小動物だった哺乳類は急速に分化しました。

そして6300万年前には猿のグループになり、180万年前に狩猟者になるまで肉や魚を食べることは殆どありませんでした。

特に肉を主食としたのは、アフリカを出た6万年前以降に北極圏まで行ってしまい、マンモスやアザラシ以外に食べ物がなかった一部の地域の人だけでした。

180万年の淘汰の歴史の中で我々ホモサピエンスは採取生活+狩猟生活に最適化されています。

現在の狩猟民族ですら、男性が狩猟で得た肉のカロリーよりも、女性が拾い集めてくる果実や穀物のカロリーの方が通年では多いということが観察されています。狩猟しかできない地域では餓死者が多数出たはずです。

(肉は子どもの脳の発達に必要で、男性は狩猟というギャンブルを楽しんでいるだけの怠け者だと貶めたい訳ではありません)

大きな脳や体の発育には今やどちらか一方だけでは成立しません。

この13000年の農耕生活にすら、まだ最適化できていません。

昔から住む地域に伝わっている食事は基本的に良い食事なのです。

(ただし保存のため大量に使っていた塩分だけは、汗をあまりかかなくなった現代人には当て嵌まりません。)


牛乳450mL/日以上は糖尿病が増えるとか、果物は健康に良いが、100%果物でもジュースにすると不健康になるなどが書かれています。

樹上生活を止めて地上に降り立った400万年前から狩猟を始めた180万年前までは主に昆虫か根茎を食べていたようです。

我々の腸内には約1000種類(高度肥満の人は平均250種類程度しか無いと報告されています。)の嫌気性菌を飼っています。

嫌気性菌は元々地中にいた菌で、これらが哺乳類の腸内に住めるように最適化していった子孫と我々は暮らしているのです。

腸内細菌はただ住み着いているだけでは無く、食中毒を起こす病原性菌から守ってくれたり、セロトニン等のホルモンや、ビタミンKや、酪酸や乳酸を合成したり、鉄の吸収を助けてくれたりしています。また我々の代謝やメンタルにも影響を与えています。

このようなことが2008年頃から急速に分かってきているのです。

腸内細菌叢(Gut Microbiota)

腸内細菌叢は人間にとって無くてはならない隣人であることが2009年頃から急速に分かってきました。

この記事を書いているのは2016年ですので、今後も大きく変わっていくはずですから記事や引用文献の古さを気に掛けてください。

出生前~出生後にPre/Probioticsを与えるとアトピーの発症が抑制できることが分かっています。

一方、0歳の時に抗菌薬を投与すると、アトピー性皮膚炎のリスクが上昇します。

2歳未満にスペクトラムが広い抗菌薬を投与すると将来、肥満のリスクが上昇します。

乳幼児期の頻繁な抗菌薬投与はCrohn病のリスクを上昇させます。

社交的であるとかの性格や、自閉症も腸内細菌叢と関連していることが判りつつあります。

腸内細菌叢を良い状態に保つためには、ケストースを初めとしたオリゴ糖を摂取すること、

食物繊維を摂ること、ショ糖、果糖を摂りすぎないこと、

抗菌薬内服を最小限に控えること(発熱、咳、鼻汁などの原因の8~9割がウイルス性で抗菌薬は不要です。)

便秘治療は大切です。

医学的エビデンスを見ていきましょう。


<総論>

まずは一般論からです。成人や動物実験を含みます。


人の腸内細菌叢は安定(これは成人の話しです。)

12人の肥満の成人を脂肪制限食または糖質制限食で1年間続けた。

Firmicutesが減り、Bacteroidetesが増えた。

両群共に体重減少の程度と、Bacteroidetesの増加は相関した。

Nature 444: 1022-1023, 2006


★細菌の命名

Domain Bacteria

>Phylum(門) Proteobacteria

>Class(綱) γ-Proteobacteria

>Order(目) Enterobacteriales

>Family(科) Enterobacteriaceae

>Genus(属) Escherichia

>Species(種) Escherichia coli

(大腸菌を例にしました。)


★ヒトの腸内細菌叢

4つの大きな門のみがヒトの腸管に定着できる。

1.Firmicutes :大腸付着菌の65%-Clostridium IV、XIVが主体。

2.Bacteroidetes :大腸付着菌の23%。

3.Proteobacteria :E.coliなどのEnterobacteriaceaeは相対的に少なく8%。

4.Actinobacteria

十二指腸は、StreptococcusとLactobacillusが主体で10^2程度。

空腸もStreptococcusとLactobacillusが主体で10^3程度。

回腸は、Clostridium 、Bacteroidetes、が主体で10^7~10^8。

大腸は、Bacteroidetes、Bifidobacterium、Clostridium 、Fusobacteriumなどが主体で10^11程度。


★いわゆる善玉菌と悪玉菌とは

<善玉菌>

乳酸桿菌(Lactobacillus属、通性嫌気性菌)

乳酸球菌(Lactococcus属)

ビフィズス菌(Bifidobacterium属、偏性嫌気性菌)

<悪玉菌>

腐敗菌(大腸菌、Bacteroidetes、ウェルシュ菌など)は、

未消化のタンパク、アミノ酸からアンモニア、アミン、フェノール、インドール、H2Sを作る。

乳酸菌が優勢な酸性環境下では生きられないものが多い。

※糠漬け

まずは大腸菌や枯草菌が増殖するが、酸素を使い果たした後に、乳酸菌類が増殖して腐敗菌が減っていく。


★脂肪酸

短鎖脂肪酸(C2~C6):酢酸(C2) 、プロピオン酸(C3) 、酪酸(C4) 、

プロピオン酸は主に肝臓で糖新生に使われる。

酢酸と酪酸は直接、ミトコンドリア内に取り込まれてエネルギー源になる。

中鎖脂肪酸(C8~C10):母乳、バター、ココナッツオイルに含まれる。

カルニチンを必要とせず直接ミトコンドリア内に取り込まれて、栄養になる。

特に心筋にとっては大切なエネルギー源。

長鎖脂肪酸(C12以上):

自然界の多くの油脂は長鎖脂肪酸で、ミトコンドリア内に取り込まれるためにはカルニチンを必要とする。

多価不飽和脂肪酸(ω-3)であるα-リノレン酸(C18)、EPA(C20)、DHA(C22)はいずれも長鎖脂肪酸。

α-リノレン酸(C18)は紫蘇油・亜麻仁油に多く、EPA(C20)は鯖・鰯・秋刀魚、DHA(C22)は鮪・鰹に多い。


★おならの正体

1.飲み込んだ空気が70%、食物の分解によるガスが30%、

一日量は0.5~2L。 400種類以上の成分が含まれる。

2.N2が23~80%、CO2が5~29%、H2 が0.1~47%、O2が0.1~2.3%、メタン0~26%

これらは無臭。

3.臭いはアンモニア、インドール、スカトール、H2S、揮発性アミン、短鎖脂肪酸など。

4.おならも遺伝する。成人の2/3がメタン産生菌を持つ。1/3は持たない。

これは生涯変わらない。家系的にも一定。

(環境では無く、遺伝的にメタン菌を選んで定着させる)


腸内細菌叢の成立

まず産道内の乳酸菌類が口腔から入る。

母親の手などを介して腸内細菌叢が児に移行していく。

上記の4つの門以外の菌は通過するだけで、定着できない。

腸内細菌叢に影響する因子

1.母親からの伝搬

2.衛生環境

3.食事

4.抗菌薬

Sekiron I. et al, Physiol Rev 2010;90:859-904

健康成人に比べて、100歳以上の高齢者の腸内細菌叢は

・Bacteroidetesの増加

・Bifidobacteriumの減少

・Clostridium Cluster IXの減少

(Clostridium Cluster IVもわずかに減少。)


無菌マウスは高カロリー食を与えても体重が増えない

Backhed F et al. PNAS 104:979, 2007

無菌マウスに腸内細菌叢を成立させると、

脂肪組織が42%増加、

皮下脂肪が47%増加、

酸素消費が35%増加、

餌の摂取量は逆に低下傾向!(この効果は内因性のもの!)

Proc Natl Acad Sci USA 101: 15719, 2004


嫌気性菌による食物繊維の発酵

食物繊維、非消化性デンプン、非消化性タンパクなどを嫌気発酵して

短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、酢酸)ができる。

・呼吸促進

・Na+吸収を抑制

・Cl-吸収を抑制

・ムチン合成を促進

・タンパク合成を促進

・細胞分裂を促進

・腸管運動や血流を促進

・肝臓で中性脂肪の合成に使われる。(ヒトの必要エネルギーの10%以上)


Bacteroidetesは糖質の代謝に関係する酵素に富む

(Glycoside hydrolase, Carbohydrate-binding molecules,

Glycosyltransferase, Polysaccharide lyases, Carbohydrate esterase など)

Firmicutesは物質の輸送に関わる遺伝子に富む。

体重減少の程度と、Bacteroidetesの増加と相関している。

Firmicutesは逆にやや減少する。

Nature 444: 1022-1023, 2006


★Gut Microbiotaはヨーロッパとアフリカの子どもでかなり違う。

痩せているアフリカの田舎の子どもでは、Bacteroidetesが73%、Firmicutesは12%、

太っているヨーロッパの子どもでは、Bacteroidetesが27%、Firmicutesは51%、

しかもBacteroidetesの亜種が全く違う。

De Filippoa C, et al. PNAS. 2010; 107:14691-6


★成人の場合、痩せている人と太っている人で、有意に違うのは、

・Fusobacteriumが痩せている人にはいない。

・Firmicutesが太っている人では多い。

Andoh A et al. J Clin Biochem Nutr. 2016; 59:65-70


腸内細菌層には地域性がある

Andoh A et al. Biomed Rep. 2013; 1:559-562

世界中の2型糖尿病患者のGut microbiota のMetagenomeの地域性の関連

Nature 490: 55:2012


痩せ形の腸内細菌層の移入は、メタボリック症候群患者のインスリン感受性を改善する

Gastroenterology 2012; 143: 913-916


IBDと腸内細菌層

IBDとは炎症性腸疾患のことで、主に潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病があります。


★双子を対象にした腸内細菌層のプロファイルを調べると、

健常人とUC患者のプロファイルは殆ど同じで、回腸CDと大腸CDは互いに殆ど重ならないプロファイルだった。

(Pyrosequence analysisという方法で、腸内細菌層全体の遺伝子の相同性を調べる.)

Gastroenterology 2010; 139: 1844-1854


★CD患者では健常者とSpeciesレベルでもかなり違う。

増えている菌は、

Shigella boydii GTC779

Shigella dysenteriae ATCC13313

Clostridium hathewayi DSM13479

Blautia wexlerae

減っている菌は、

Faecalibacterium prausnitzii ATCC 27768

Blautia faecis M25

Rinomicocuus torques

Clostridium lavalense CCR1-9842

Eubacterium fissicatena DSM3598

Clostridium lituseburense ATCC25759

Clostridium asparagiforme N6

Clostridium disporicum DSM5521

Clostridium lactafifermentans G17

Eubacterium ventriosum ATCC27560

Eubacterium desmolans ATCC43058

Blautia luti BInIX

Ruminococcus abeum

Clostridium bartlettii

Clostridium chartatabidum DSM5482

Eubacterium moniliforme JCM9990

Lachnospira pectinoschiza 150-1

Clostridium scindens ATCC35704

Takahashi K et al. Digestion 2016; 93: 59


Clostridium がTregを誘導する

Nature 2013; 500: 232-6

Clostridium が誘導する酪酸がTregを誘導する。

Nature 2013; 504: 446-50

正常な状態ではDendric cell が、TGF-βを高く、IL-6, IL-23を低く保ち、

Tregが盛んに分化誘導させる。

Dysbiosis(Clostridium属の減少、Enterobacteriaceae科の増加)によって酪酸産生が減る。

⇒IL-6, IL-23が高くなり、Tregの誘導が阻害され、Th1有意になって、

同時にTh17が増殖してIL-17が分泌される。

食物繊維がFaecalibacterium prausnitziiによって分解され、酪酸が産生される。

Tregの誘導を行うと共に、腸管粘膜のTight junctionを強固にする。

26 Feb. 2015 Vol.518 Nature S9


Clostridium difficile BI/NAP1/027 の産生するBinary toxin によって起きる腸炎

日本では抗菌薬投与後の菌交代現象によって起こることが多い。

アメリカでは年間45万人発症し、3万人近くが死亡する。

女性(1.26倍)、白人(1.72倍)、65歳以上(8.65倍)に多い。

抗菌薬(MNZ+VCM)ではせいぜい30%程度しか治らないが、便を移植すると60~90%程度が軽快する。

便移植(Fecal microbiota transplantation;FMT)

17世紀にイタリアで報告された。

1958年にEisemanが偽膜性腸炎に対して施行。

Surgery 1958; 44: 854

現代でも、NEJM 2013; 368: 407-15

Gastroenterology 2013; 145: 946-53

など、報告がある。

<やり方>

健康なドナーの便150gを生理的食塩水(高血圧の人は普通の水で良いと思います)に懸濁し、

右側臥位の患者に大腸内視鏡で撒布。散布後、1時間側臥位を維持。

<ドナーの条件>

60歳未満 患者家族

<ドナーのスクリーニング>

高血圧、糖尿病、脂質異常、アレルギー、数週間以内の抗菌薬使用。

便秘、下痢。

Homosexuality、刺青、

・血液検査

HIV, HTLV-1, 梅毒、肝機能異常、HepA, HepB, HepC, CMV, EBV, アメーバ

・便検査

H. pylori, エルシニア、キャンピロバクター、赤痢菌、サルモネラ、病原性大腸菌

ロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、

寄生虫・虫卵

CD toxin A/B

健康なドナーをどのように定義するか、難しいが、Synthetic stool を作る試みがある。

10年以上抗菌薬を投与されたことの無いドナーから33種類の菌を分離培養して、

それらを混合して注腸する。

実際の成功例も出ている。

Petrof et al. Microbiome 2013, 1:3


メタアナリシスではUCに対する便移植の効果は22%程度と十分ではない

(Crohn病に対する有効率は60.5%)

Ruben, Coleman et al. J Crohns Colitis. 2014 December 1; 8(12): 1569-81

※Crohn病には漢方治療が奏効せず、一方、UC患者の7割程度に漢方治療が有効です。

ペンタサぐらいしか出番が無くなります。

烏梅丸が主役で、寒証なら八柱散、熱証なら葛根?連湯。標治として青黛を使う。


胃酸分泌抑制剤(PPI)の腸内細菌層に対する影響

ランソプラゾール投与後に、Actinobacteriaが減り、Bacteroidetesが有意に増加する。

ボノプラザン投与後に、Bacteroidetesが有意に増加するが、Actinobacteriaが減るのはp=0.61と有意では無い。

PPIによって胃酸が出ないため、フィードバックが掛かって高ガストリン血症が起きる。

長期投与の場合は、ガストリン値を測って500以内なら問題ないが、1000以上なら高すぎる。

高ガストリン血症⇒神経内分泌細胞過形成⇒胃体部ECL cells増加⇒胃体部ECM(+)⇒カルチノイド

となるため、ECM(+)となったらPPIを中止しないといけない。

H2-blockerではECM(+)やカルチノイドは起こらない。


PPIの弊害 ~PPIよりタガメットを使いませんか

H2-blockerは明らかにPPIより安全です。(しかし効果はPPIの方が優秀です)


PPIとCKDの関係

PPIを長期服用していると慢性腎臓病の発症数が増加する。

JAMA(Journal of the American Medical Association 米国医師会雑誌)に「Proton Pump Inhibitor Use and the Risk of Chronic Kidney Disease」(JAMA Intern Med. 2016;176(2):)とのタイトルで掲載されています。

・45歳から64歳の米国人1万482人を対象として6年間追跡調査した。

・PPI使用者322人中56人が慢性腎臓病になっていた

・PPIを使用していない人1万160人中、慢性腎臓病になった人は1382人だった

・1日2回PPIを服用している人は1日1回服用している人より慢性腎臓病になるリスクが高かった

ということです。これは統計学的にPPIの服用と慢性腎臓病(CKD)の発症リスクは有意に関連があることをこの論文は伝えています。


PPIと認知症の関連

JAMAの関連医学誌JAMA Neurologyに掲載された「Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia」(JAMA Neurol. 2016;73(4):410-416.)。

ドイツの公的保険制度を記録を調べ前向きの調査によって結果、逆流性食道炎や胃潰瘍にPPIを定期的に使用していると、PPI使用者の認知症発生リスクは非使用者の1.44倍になる。


PPIを長期に渡って服用していると、変形性関節症・尿路感染症・深部静脈血栓症になりやすい

「Confounding in the association of proton pump inhibitor use with risk of community-acquired pneumonia.」(J Gen Intern Med. 2013 Feb;28(2):223-309)によれば3ヶ月PPIを処方されていた人は前述の病気になりやすい。


小児の腸内細菌叢(intestinal microboita)

Group1. Bifidobacterium dominant at 3-4 days after birth

Bacteroidaceae

Eubacterium

Bifidobacterium

Peptostreptococcus

Group2. Lactobacillus

E. Coli

Streptococcus

Veillonella

Group3. Clostridium perfringens

Bacteroidaceae

Pseudomonas aeruginosa

E. Coli

Proteus

Staphylococcus aureus

生後3~4日でGroup2.3.が低下し、Group1.が優性になる。

Mitsyoka T, Asia Pacific J Clin Nutr, 1996; 5:2-9


腸内細菌とアレルギー

無菌マウスでのIgE免疫寛容に腸内細菌が必須

Sudou et al.

抗菌薬投与による腸内細菌除去とTh2優位

Oyama et al.

★乳幼児期の抗菌薬投与とアレルギー性疾患の増加

★アトピー発症児の生後0~3ヶ月の便中ビフィズス菌減少

★腸内細菌による免疫制御

Probiotic bacteriaはTreg優位にさせる。

LPS, CpG, YeastはTh1を亢進させる。

Hyphae, Helminths はTh2を抑制する。

★2歳のアレルギー発症児は、健常児に比べて出生後の腸内細菌叢Bifidobacteria(ビフィズス菌)定着が少ない。

Bifidobacteriaが少ない状態は生後からずっと続いている。

生後しばらくはアレルギー児でEnterococciが有意に少なく、Lactobacilliが多いが、

生後3ヶ月までに健常児との有意差が無くなる。

St. aureus、Bacteroides、Clostridiaは生後から一貫して健常児と有意差が無い。


生後の腸内細菌叢の異常とアレルゲン感作・アレルギー発症

★生後3週、3ヶ月におけるBifidobacterium/Clostridium は1歳までのアレルゲン感作と相関

Kalliomaki 2001

★生後4ヶ月のBacteroides増加で、1歳時点のIgE高値、卵白IgE抗体陽性の増加。

Numbu 2004

★1歳までのアレルギー発症児でビフィズス菌を検出しない割合が多い。

1ヶ月15%、3ヶ月7.7%

Suzuki 2007

★Bacteroides/Bifidobacteriumと2歳のアレルギー発症が相関(ビフィズス菌が少ないとアレルギー発症が多い)

Suzuki 2008

★生後1週~2ヶ月の乳酸菌群低下、B, adolescentis, C. difficile の低下と5歳までのアレルギー性疾患の罹患率増加。

猫特異的IgE抗体陽性の増加

家族数の多い児に便中ビフィズス菌増加とエンドトキシン増加

Sjogren 2009

★1ヶ月のE.Coliと、2歳までの湿疹との関連、

アレルゲン感作リスク児のToll-like receptor4 SNP rs10759932 TT 発現児で、E.Coli定着と関連。

Penders 2007

★C. Difficile 定着、1ヶ月の便定着(TLR4 SNP rs10759932 TT 発現児でのみ)

2歳までの湿疹、アレルゲン感作リスク低下(957人コホート)

Penders 2010

★1ヶ月の便中L. paracasei 定着が2歳までの湿疹リスクを減らす。(381人のコホート)

L. rhamnosus 定着と homozygotes major allele (CC) における湿疹増加。

heterozygotes(CA) における湿疹の減少が関連。

Penders 2010

★腸内細菌叢の定着率と6歳までのアレルゲン感作、好酸球数、鼻炎発症が逆相関。

Bisgaard 2011

★Promising candidates for prevention of allergy

生後早期の腸内環境の是正は、以下のエビデンスにより小児期のアレルギーを予防できる。

1.疫学調査:乳児早期の細菌暴露、定着がアトピーリスクに影響する。

2.動物実験:腸内細菌が免疫機能の発達、特に耐性機能に重要である。

3.種々の介入試験は乳児期早期の腸内細菌に影響する可能性がある。

James E. Gern J Allergy Clin immunol. 2015; 136: 23-28

★出生前から出生後のProbioticsによるアトピー発症予防効果

15論文のメタアナリシスで、RR:0.88, [95%Cl: 0.78-0.99]; P=0.035

Nancy Elazab et al. Pediatrics 2013; 132: e666-76

★Probioticsによるアレルギー発症予防効果

エビデンスとしては低いが、湿疹を減らす効果がある。

J Allergy Clin immunol. 2015; 136: 952-61

★Probioticsの菌種混合によって湿疹を有意に減少させた。

RR 0.78 [95%Cl: 0.69-0.89], P=0.0003

Allergy 2015; 70: 1356-71

★出生前~出生後のProbioticsで有意にアトピー性皮膚炎発症を低下させた。

出生前のみ、出生後のみでは有意差なし。

Zhang GQ Medicine (Baltimore). 2016; 95: e2562


Prebiotics(オリゴ糖)によるアトピー発症予防効果

生後6週~6ヶ月の間に、加水分解乳+オリゴ糖群、加水分解乳+マルトース群を比較すると

オリゴ糖(GOS/FOS)群では4週で、Bifidobacterium、Lactobacillusが有意に増加し、

生後6ヶ月のアトピー発症が低下した。

Moro, G et al, Arch Dis Child 2006; 91:814-819


アトピーのリスクの低い児に対して、1歳までの湿疹の発症率を人工乳群、母乳群、ミルク+オリゴ糖群で比較

人工乳群では約10%が湿疹を発症しているのに対して、

人工乳+オリゴ糖群は母乳群と同程度にアトピー発症のリスクを低下させた。

1歳の時点ではオリゴ糖群の湿疹発症率は5%程度。

P=0.0377

C Gruber, J Allergy Clin immunol. 2010;126:791-7

特定の腸内細菌および産生された短鎖脂肪酸(特に酪酸)が誘導すること、

消化管バリア機能強化にも関与し、腸管におけるDysbiosis(腸内細菌叢のバランス異常)が

アレルギー・炎症を発症させている可能性がある。

(短鎖~中鎖脂肪酸はカルニチンが無くてもミトコンドリア内に入ってTCAサイクルで利用される。

特にC5までの短鎖脂肪酸は吸収が速い。)

★特定の細菌種(Bifidobacterium infantisなど)の定着により経口耐性誘導の正常化が見られる。

一方、Clostridium perfringensなどの定着では起こらない。

Heormonnsperger G. J Allergy Clin immunol. 2012; 129:1452-9

★腸内細菌叢と腸管粘膜バリア、腸管免疫とアレルギー発症

Prebiotics(難消化性オリゴ糖)は健常児で増加している腸内細菌(Bifidobacterium 、Lactobacillus)の成長を促進する。

→TLR2/TLR9を介して、粘膜バリアを強化。

TLR9はNF-κB抑制とCD103+D活性によるTreg増強。

Bacteroides fragilisなどはTLR2を介したTh1, Tregを活性化する。

一方、オリゴ糖はアトピー児で増加している腸内細菌(Proteobacteria spp, Clostridium spp, Enterobacteriaceae)の増殖を抑制する。

これらの細菌はTLR4を介して粘膜のバリアを傷害する。

→Th2を活性化。

Dde Kivit S, Tobin MC, Forsyth CB, et al. Front immunol. 2014; 5: 60

★アトピー性皮膚炎における便中ビフィズス菌は

皮疹重症度と逆相関して減少。

相関係数R=0.470、p<0.001

Watanabe S. J Allergy Clin immunol. 2003; 111:587-91

★食物アレルギーの関与する乳幼児アトピー性皮膚炎の

皮疹重症度と便中ビフィズス菌

対象は月齢20±10

軽症と中等症では腸内細菌に占めるBifidobacteriumの割合は50%±18%で有意差は無かったが、

重症では14±20%で有意差(p<0.01)あり。

軽症と中等症でも抗菌薬を投与すると便中ビフィズス菌が有意に減少する。(20±13%)

減少した状態は数ヶ月続く。

Shibata R. APAPRI 2011

★アトピー性皮膚炎の重症度と腸内細菌叢の多様性が逆相関

アトピー性皮膚炎の重症度と酪酸産生菌数が逆相関する。

Nylund L. Allergy 2015; 70:241-4

★Probiotics単独では治療としてアトピー性皮膚炎を改善させない。

(メタアナリシス)

Lee J. JACI 2008; 121: 116-21


アトピー性皮膚炎とPro/Prebiotics

・Hoang 2010 L. rhamnosusを投与 14例 月齢8-64 Open label 皮疹への効果あり。

・Woo 2010 L sakai を投与 75例 2~10歳 皮疹への効果あり。

・Nermes 2011 L. rhamnosus GG を投与。 36例 3ヶ月間で評価 皮疹改善。消化管バリア改善。

・Moroi 2011 Heat killed Lactic acid bacterium L. paracasei 34例 成人AD 12週で評価 皮疹改善。

・Torii 2011 L. acidophilus L92 小児AD 治療補助効果。

・Larsen 2011 B. lacits 50例 小児AD 8週間観察 皮疹への効果なし(便細菌叢への効果あり)

・Roessler 2011 Probiotic mixture (L. paracasei , B. lacits ) 15例 健常成人と15例のAD患者を比較。 皮疹への効果あり。

・Gore 2012 L. acidophilus 月齢3~6の乳児湿疹 効果なし。

・Han 2012 L. phantarum GJLP133 12ヶ月~13歳 12週間観察 皮疹への効果あり。

・Shibata 2009 オリゴ糖(ケストース) 12例vs29例 乳幼児RCT ビフィズス菌が有意に増加

・Gerasimov 2010 synbiotics(Lacidophilus B lacis + フルクトオリゴ糖) 90例 1~3歳 中~重症AD 8週間観察 皮疹への効果あり。 リンパ球サブセット改善。

・Van der AaLB 2010 B. breve + ガラクトオリゴ糖/フルクトオリゴ糖 90例 7ヶ月以下の乳児 12週間観察 IgE関与のADで皮疹改善。Bifidobacterium 増加。


Probioticsによるアトピー性皮膚炎治療効果メタアナリシス 2014年

★1歳以上の中等度以上のADで治療のオプションになる。

2013年までの25件のRCT。対象は小児も成人も含む。SCORADで評価。

1歳未満では効果無し。

Lactobacillus種の混合で有益。Bifidobacterium species単独では効果無し。

Kim SO Ann Allergy Asthma Immunol. 2014 Aug;113(2):217-26

★Synbiotics(オリゴ糖と混合細菌種)は1歳以上で有意差あり。

6件のRCT。8週間の観察。p=0.03

★オリゴ糖ケストース(Kestose)によるPrebiotics

Kestose= Glucose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose という6環-5環-5環という3糖体

Nystose= Glucose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose

1-Fructosylnystose= Glucose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose-β-D-Fructofuranose

この3種類をFOS(フラクトオリゴ糖)と言う。

ケストースは白色の円柱状結晶。

★ケストースとFOSの腸内細菌への影響

無菌マウスではFOSではコントロール群に比べて2~4週間後にBifidobacteriumが増えているが、

6週間後にはむしろ減っている。

ケストース結晶を与えるとBifidobacteriumがコントロール群に対して有意に増える。

成人ボランティアに毎日2gのケストースを内服してもらうと、Bifidobacteriumが増え、Clostridiumが減る。

★ビフィズス菌減少症例におけるケストースによる皮疹重症度の改善効果

便中ビフィズス菌数増加効果(Open pilot study)

12週間の連日摂取で皮疹重症度(6週でp<0.05、12週でp<0.001)

便中ビフィズス菌数が有意に改善(12週でp<0.05)

ShibataR. Clin Exp Allergy 2009; 39: 1937-1403

★Faecalibacterium prausnitzii(フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ)と腸炎、アトピー病態への関与

・最も多い腸内細菌群に属し、成人腸内細菌の5~15%を占める。

・抗炎症作用があり、腸内環境・代謝に重要な細菌である。

・F. prausnitziiは重要な酪酸産生菌であり、酪酸はアレルギー制御に関わるTregを誘導する。

・炎症性腸疾患でのF. prausnitziiの減少と酪酸の低下、PrebioticsによるF. prausnitzii増加と腸炎改善が報告されている。

・最近、アトピー性皮膚炎でF. prausnitziiとの関連が報告されている。

・Crohn病でF. prausnitzii減少。(小児のCrohn病でもClostridium属が減っている。)

Sokol H, Proc Natl Acad Sci USA 2008; 105: 16731-6

・PrebioticsによるF. prausnitzii増加とCrohn病治療効果。

Benjamin JL, Gut 2011; 60: 923-9

・潰瘍性大腸炎(UC)におけるF. prausnitziiの定着と寛解

Varela E, et al. Aliment Pharmacol Ther 2013;38:151-61

・F. prausnitzii strain A2-165 と培養液によるTNBS誘導腸炎の予防

Miquel S, Curr Opni. 2013 Jun; 16(3):255-61

★Crohn病腸内細菌叢の変化

多様性の減少

Clostridium(F. prausnitzii)の減少

硫酸還元菌の増加

・酪酸産生能の減少による抗炎症活性(抗NF-κB)の低下、Treg誘導の低下、

・上皮細胞へのエネルギー供給の低下、粘膜修復の異常

・粘液分解による抗原の侵入

・硫化水素誘導による酪酸利用の阻害

安藤朗 分子消化器病 2014; 11:215-220

★F. prausnitziiのDysbiosis

細菌バランスの異常とアトピー性皮膚炎の発症機序

アトピー性皮膚炎ではF. prausnitziiの亜種L2-6が優位で酪酸産生能が弱い。

(高酪酸産生型A2-165劣勢、低酪酸産生型A2-6が優性)

⇒酪酸・プロピオン酸産生を低下させ、通性、病原性細菌の増加、消化管上皮の障害を来す。

⇒消化管透過性亢進によりアレルゲンや毒素、微生物の体循環への侵入、サイトカイン活性などにより

皮膚で異常なTh2-typeの免疫反応を起こす。

Song H. J Allergy Clin immunol. 2016;137:852-60

★F. prausnitziiの生後の腸内定着状況

1歳過ぎに成人レベルを超える。2~7歳でピークになり17歳頃までが人生で最も多い。

成人から老人になると次第に減っていく。

Hopkins, Balamurugan, Van Tongeren et al.

Bifidobacteriumでも乳児と成人では亜種が全く違う。

乳児では産道由来のものが多いと推測されるが、腸内細菌の多くが嫌気性菌なので培養困難。

★アトピー児の腸内細菌の年齢毎に変化

アトピー性皮膚炎のある0歳児の過半数で、F. prausnitziiは検出感度以下。

0-5歳のAD児にケストースを投与すると、F. prausnitziiは12週間で有意に増加。

乳幼児アトピー性皮膚炎におけるケストース投与によって F. prausnitzii増加と皮疹改善効果を検証。

2~5歳でケストース6週間摂取時にF. prausnitzii数とSCORADの改善度に正の相関が見られた。

0~1歳では菌数とSCORAD改善の相関関係は見られなかったが、

ケストース12週間投与でF. prausnitzii、B. catenulatum、B. dentium、B. longum の著明な増加あり。

Koga Y. et al. Pediatr Research. 2016;167

★ケストース2.5%以上含む餌を4週間食べたラットで、糞便中の酪酸と乳酸が有意に増加。

5%含む餌では2.5%群の2倍以上の酪酸と乳酸が増えた。

1%群では有意差は無かった。

★ケストース含有食品「ベビーオリゴ」物産フードサイエンス株式会社(Amazonで購入可能)

栃尾巧 アレルギーの臨床 2016

★ケストースによるタイトジャンクションの強化

ケストースはCa++存在下においてタイトジャンクションを強化する。

ケストースにより腸管バリア機能が再構築される。

Shirai T. et al. Int Probiotics Prebiotics Vol.8, No2/3, pp.53-60, 2016

★オリゴ糖のPrebitics効果の機序仮説

小腸では難消化性

⇒腸上皮への直接作用(タイトジャンクションの強化)

⇒透過性改善

大腸ではF. prausnitzii増加、Bifidobacterium増加

⇒酪酸を含む短鎖脂肪酸SCFAsの増加

⇒腸管の免疫調節

★乳幼児アトピー性皮膚炎の腸内細菌叢とPro/Prebiotics~まとめ

1.出生前~出生後にかけてPre/Probioticsを行うとアトピー性皮膚炎発症を減らすことができる。

2.皮膚炎重症度とBifidobacterium数が逆相関する傾向がある。

3.Pre/Probioticsは1歳以降の中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対して治療効果がある。

4.ケストースは酪酸産生型F. prausnitziiを増加させ、食物アレルギーを持つアトピー性皮膚炎幼児で皮疹を改善させた。

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★黄色ブドウ球菌とアトピー性皮膚炎

・AD病巣にはブドウ球菌がコロニーを作っている。

・正常上皮ではコロニーは減少

・皮膚炎マウスにブドウ球菌ペプチドグルカン塗布:TLR2を介したMast cell活性化、脱顆粒⇒皮膚炎悪化

Supajatura V J Clin invest 2002

・AD患者皮膚で抗病原体ペプチドDefensin2の発現低下

Ong PY. NEJM 2002

★TSLP(thymic stromal lymphopoietin)

TARC(thymus and activation-regulated chemokine)

TARCとは特定の白血球を遊走させるケモカイン群に一つ。71個のアミノ酸から構成されるタンパク。

表皮細胞から産生されるTSLPによって表皮角化細胞などから産生誘導。

TARCは、Th2を病変部に引き寄せて、アレルギー反応を亢進させる。

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