<解熱剤の弊害>

解熱剤はウイルス感染症や細菌感染症の治療に当たって促進的に働くことがあるのでしょうか?

短時間では症状の緩和に役立っているという論文は存在しますが、

中長期的に見て、ウイルスや細菌の排除に有効と言えるエビデンスはないようです。

逆に解熱剤が有害であるという論文は動物実験や in vitroで行われたものが多いようです。

・Satoko Kuroiwa et al. Journal of infectious diseases 155; 991-997. 1987

ウサギに麻疹類似ウイルスを感染させてメフェナム酸を投与。

メフェナム酸を投与した群は10羽中7羽死亡。未使用群では6羽中1羽死亡。

ウイルスの量は、解熱剤を投与したウサギの方が約1000倍高く検出された。

人工的に敗血症を起こさせる実験です。

・イグアナに細菌(Aeromonas hydrophiria)を注射し感染させる。

サリチル酸ナトリウム非投与群では12匹中1匹死亡。

サリチル酸を投与し、解熱させた群では7匹中7匹死亡。

・ウサギに細菌を感染させる。自然経過では高熱を出し、2日後にはほぼ解熱。

解熱剤を使用すると当初は発熱は軽度だが、効果消失後、未使用群よりも高熱になり全数死亡。

・in vitroで行われた実験では人間にとって平熱環境よりも、39℃の環境の方が白血球の活性が高かった。

・人間でのデータでは、解熱剤使用群の方が最終的な有熱期間が24時間以上延長する。

・(DZP坐薬と違い、)解熱剤が熱性痙攣を抑制する効果は否定的とする論文が多い。

4500名程度のインフルエンザ罹患小児を対象とした厚生労働省の統計では、

アセトアミノフェンは熱性痙攣を全く抑制していない。

(年齢による補正前はむしろ熱性痙攣を増加させている。)

http://www.medicalhi-net.co.jp/article/2006/info_1026.html#sankou

成人用の解熱剤であるジクロフェナクナトリウムとメフェナム酸がインフルエンザ脳症の予後を悪化させることは有名ですが、

厚生労働省の4500名ほどの小児インフルエンザ患児の統計では、

・「アセトアミノフェンはインフルエンザ罹患時に意識障害を有意に増加させる。」

と発表されています。

つまり「インフルエンザ脳症の予後を悪化させない」ことから使用されていたアセトアミノフェンが、

「インフルエンザ脳症の発生率を上昇させる」可能性があり、

今後(タミフルの副作用に絡んで)更に大規模な調査が行われるようです。

・感冒全般に対して875名の患者で取った統計がある。結果は以下の通り。

西洋薬単独治療群の治療日数:6.7日、治療費用203.8円

漢方薬単独治療群の治療日数:4.0日、治療費用119.6円

併用治療の治療日数 :5.0日、治療費用215.9円

古い統計なのでインフルエンザや咽頭結膜熱も混入した大雑把なデータだとは思われます。

この大雑把なデータからも、漢方治療が1.7日治癒を早めていることが解ります。

また漢方薬単独治療群よりも、併用治療群の方が1日治癒が遅れているのは、

解熱剤が治癒を24時間程度遅らせているからだと考えます。

以上のことから、解熱剤は短期的に症状を緩和するが、中長期的にはウイルスや細菌の排除が遅れて

合併症や予後が悪化する可能性があるため、使用しないことが得策です。

多くの生薬で証明されている非特異的免疫賦活化作用や、

麻黄、桂枝、甘草で証明されている抗ウイルス作用を期待して、

やはりウイルス感染症には漢方薬を積極的に使用することをお勧めします。

予防接種後の乳幼児に見られる発熱は正常な免疫反応の一部分だが、高熱と熱性痙攣に対する懸念から、解熱薬が予防的に投与される場合がある。チェコ共和国国防大学のRoman Prymula氏らは、アセトアミノフェン(論文で用いられた名称はパラセタモール)をワクチン接種後24時間に3回投与したグループと投与なしのグループを比較した。この結果、予防的投与群では38度以上の発熱を示す小児の割合が有意に少なかったものの、誘導される抗体のレベルも有意に下がる可能性を示した。」

(Lancet, 2009;374:1339-1350)