スウェーデンの政策

2020年08月時点で、世界で唯一押さえ込みに成功している台湾だけは別格(中国や韓国も十分に押さえ込めていませんし、ニュージーランドやフィジーは台湾よりかなり人口が少ないため難易度がかなり違います。)として、スウェーデンも別の意味でパンデミックの影響を少なくすることに成功している国の一つと言えます。


3月頃から一貫して分かっていることですが、CoVID-19で亡くなる人の平均年齢はどこの国も80歳前後です。

平均余命は10年も無い老人が主体なのです。


歴史的にワースト3だった、ペスト、麻疹、天然痘と比べると、CoVID-19は遙かにショボいパンデミックであり、エボラやH5N1インフルエンザと比べても、かなり見劣りのするものです。


ですからCoVID-19では若い人への影響、特に経済死を減らすことが重要だと考えています。


テグネル氏が「失敗だった」と述べているのは、介護施設への感染を抑制できなかったことに関してです。

ロックダウンしなかったことを後悔している訳では無いようです。


SARS-CoV-2の受容体であるACE2が体中の多くの部分、特にT cell にまで発現しているため、若い人でも1割程度に慢性疲労症候群を起こすことがあるため、若い人への後遺症についてと、

スウェーデンで本当に集団免疫が完成したのかは、注視していく必要がありますが、次の春までにはその答えが出ると思います。

(長引く嗅覚障害は、その人のQOLを低下させますが、労働できなくなる訳では無く、肺の後遺症もその人はいずれCOPD等で同様の症状になるリスクのある人だったと考えますので、働けなくなるような上記の症状に比べたら些細なことだと考えています。)


2020/08月時点で、特効薬は存在せず、クロロキンは害が多く、アビガンは無効、レムデシビルも殆ど効果は無く、3月頃までは「禁忌」と言われていたステロイド投与だけが少し有効という状況です。


既存の薬剤を使う in vitro の試験では、これらが候補薬になったのですが、結局、in vivo ではほぼ無効だった訳です。抗ウイルス薬は簡単には開発できず、人体への副作用を確かめるために多くの年月を要します。


つまり今のところは、

1.ワクチンの完成までロックダウンを繰り返しながら待つか、

2.高齢者だけを隔離しながら社会を回していくかの二択になっているのです。

(本当は台湾のような、完全に感染を制圧して、国内の経済だけでも自由にするという選択肢もあるのですが、ステルス性の高いSARS-CoV-2では、オードリー・タン氏のような天才が仕切らないと不可能でしょう。)


1.か2.を選択しないといけないなら、2.の方がまだ社会のダメージが少なく済みます。

イギリスが止めてしまったのが残念です。



(※ 以上は2020/08/23時点における管理者の私見です。)


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”このパンデミックで感染対策の指揮を取るスウェーデンの国家疫学者、テグネル氏は、ロックダウンにははっきりとした学術的エビデンスがないとした。そうであるとすれば、スウェーデンの政策が「壮大な社会実験」と呼ばれるのは不本意である。

今までに経験したことのない今回のパンデミックにおいて、ロックダウンすることも、ロックダウンをしないことも、どちらもある意味で社会実験であると言えるのかもしれない。

ロックダウンという治療には、感染拡大抑制という効果と同時に、看過できない副作用がある。

スウェーデンの専門家グループは、効果と副作用のバランスを考慮して「ロックダウンには、副作用こそあれ大きな効果はない」とした。

また、今回のパンデミックは長期戦になることが予想されたため、長期間持続可能な政策が望ましいが、ロックダウンすることは、経済的にも国民の精神衛生上的にも長期間の継続は難しいとした。

しかしながら、実際には国民の日常生活にはある程度の制限が加わっており、部分的ロックダウンであったといえる”

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Forbes誌によるストックホルム·カロリンスカ大学病院の宮川絢子先生のスウェーデン報告第三段です。

この直前に英国ガーディアンが「スウェーデン国民の集団免疫のためなら高齢者の死亡の多さは容認できる」と書いたスウェーデン公衆衛生庁のCOVID-19対策の元締Anders Tegnell医師のe mail内容を暴露して物議を醸しました。


■前編 新型コロナ「第二波がこない」スウェーデン、現地日本人医師の証言

2020/08/19 Forbes

https://forbesjapan.com/articles/detail/36353/1/1/1

■後編 スウェーデンで医療崩壊が起きなかった理由 現地日本人医師の考察

2020/08/19 Forbes

https://forbesjapan.com/articles/detail/36354/4/1/1

そして英国ガーディアンの暴露記事。

■Sweden's Covid-19 strategist under fire over herd immunity emails

https://www.theguardian.com/world/2020/aug/17/swedens-covid-19-strategist-under-fire-over-herd-immunity-emails?fbclid=IwAR2CWLh0UGeFTJthVjebUNYSREhjzaYIJkn-KK2JprrJL0-SlntbnSj0zVQ


======================Forbesの記事です。図表は上からNo.1からNo.13までです。

【前編】

「新型コロナウイルス第二波到来」で、不安にじわじわとさいなまれる日本。アメリカからは「死者数15万人超」との発表が海を渡り、1日に7万人を超える新規感染者数が報告されている。

だが「都市封鎖せず」と独自路線の新型コロナウイルスソフト対策を貫き、一時は世界の注目を集めたスウェーデンの現状については、あまり多くの報道がされていない。

Forbes JAPANで5月、6月、多くの反響を集めた「スウェーデンのコロナ対策」関連の記事に、スウェーデン在住の医師、宮川絢子博士に聞いた「スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する」と「スウェーデンの新型コロナ対策は失敗だったのか。現地の医療現場から」 がある。

宮川博士は、スウェーデン·カロリンスカ大学病院·泌尿器外科勤務の医師で日本泌尿器科学会専門医であり、スウェーデン泌尿器科専門医(スウェーデン移住は2007年)だ。

カロリンスカ大学病院はスウェーデンで最多の感染者、犠牲者を出したストックホルムにあり、国内で最多の感染者治療を行なった医療機関である。ピーク時には感染者の治療も担当した医師としての経験と多くのデータに裏付けられた検証にもとづき、宮川博士に再びご寄稿いただいた。今回はその前編である。

データで見るスウェーデンの現状

新型コロナウイルスパンデミックにおいて、ロックダウン政策を取らず、人口あたり世界上位の死者数を出してしまったスウェーデンにおいても、感染第1波は収束した。ロックダウン政策を選択し、その後ロックダウンを解除した国では、すでに第2波が始まりかけているところも多くあるが、スウェーデンでは今のところ感染の再拡大はみられていない。

スウェーデンで最も多くの感染者及び犠牲者を出した首都ストックホルムの、最も多くの感染者の治療を行なったカロリンスカ大学病院で、ピーク時には感染者の治療も担当した医師としての経験から、スウェーデンの現状をアップデートしてみたい。

スウェーデンの新型コロナウイルス感染対策は、「長期間継続することが難しいロックダウンという方法を取ることなしに、ソーシャル·ディスタンスを取り、高齢者を隔離することで感染のピークを抑え、医療崩壊を回避すること」であった。また、国民一人ひとりが感染対策に責任を持ち、自主性に任せるという、中央と国民の信頼関係に基づいたものであった。

しかしながら、これまで、スウェーデンでの死者は5700名を超えた。100万人あたりの死亡者数は570名であり、日本の約70倍にもなる。多くの犠牲者を出したが、毎日の死亡者数は、4月中旬をピークに減少してゆき、現在は、1日数名となった(図1)。

ICU治療が必要な重症者も減少し、入院者数は激減している(図2)。

3月に感染が急拡大し、感染者の追跡調査を諦めて以降、PCR検査は入院が必要な重傷者に限り行われていたが、徐々にPCR検査のキャパシティーは拡大し、6月に入りストックホルム市ではPCR検査や抗体検査を無料で行うようになるなど、PCR検査数が大幅に増加した。検査数の増加に伴い、新規感染者は一時的に増加したが、増加したのは軽症者だけであった(図3)。

そしてその後、新規感染者数(新規陽性者数)もPCR検査陽性率もともに減少してきている(図4·図5)。

スウェーデンでは6月後半から夏季休暇期間となった。国民は国内での移動制限を勧告されていたが、それが解除され、国内であれば自由に移動できようになった。EU内の渡航制限勧告も、特定の国を除き解除された。もともと国民は、それぞれの判断である程度通常の生活を行ない、休暇期間に入り、その自粛生活にも少し緩みが出ているようにも感じられるが、現在まで感染拡大の再燃は見られていない。

何故スウェーデンはロックダウンしなかったのか

このパンデミックで感染対策の指揮を取るスウェーデンの国家疫学者、テグネル氏は、ロックダウンにははっきりとした学術的エビデンスがないとした。そうであるとすれば、スウェーデンの政策が「壮大な社会実験」と呼ばれるのは不本意である。今までに経験したことのない今回のパンデミックにおいて、ロックダウンすることも、ロックダウンをしないことも、どちらもある意味で社会実験であると言えるのかもしれない。

ロックダウンという治療には、感染拡大抑制という効果と同時に、看過できない副作用がある。スウェーデンの専門家グループは、効果と副作用のバランスを考慮して「ロックダウンには、副作用こそあれ大きな効果はない」とした。

また、今回のパンデミックは長期戦になることが予想されたため、長期間持続可能な政策が望ましいが、ロックダウンすることは、経済的にも国民の精神衛生上的にも長期間の継続は難しいとした。しかしながら、実際には国民の日常生活にはある程度の制限が加わっており、部分的ロックダウンであったといえる。

ロックダウンができなかった大きな理由の一つは、憲法の縛りがあったことだ。スウェーデン憲法では、国民の移動の自由が保証されている。つまり、国が国民の移動を規制できないことになっている。

また同憲法では、公衆衛生庁などの公共機関は政府とは独立しており、政治主導の意思決定はできないことになっている。そして、感染症対策に関する法律には、感染症対策を担当するのは公衆衛生庁であると明記されている。つまり、感染症対策は政府の影響を受けることなく、公衆衛生庁が指揮を取ることが法律上担保されているのだ。

ロックダウンの一環として、学校などの教育機関の閉鎖についても議論された。スウェーデンでは、子供が教育を受ける権利が重視された。家庭環境に恵まれない子供が登校できなくなることで起こる弊害や格差の拡大が考慮された。また、学校が閉鎖されることで、医療従事者の約10%が勤務できなくなる試算で、そうなれば、医療現場を維持することが難しくなることが予測された。そのため、高校·大学などは遠隔授業となったが、保育園、小中学校は閉鎖されることはなかった。

ただし、感染拡大の程度によっては閉鎖しなければならないこともあるとして、学校を閉鎖できるように新法を整え、また閉鎖した場合であっても、保育や学童のサービスを受けられる親の職種のリストが発表されていた。スウェーデン社会を維持するために必要な職種とは、エネルギー供給関連、金融サービス、貿易·建築·製造業、医療·介護、情報通信、交通輸送、食品、行政、裁判所·警察·軍隊、公共社会保険、交通機関などであり、危機管理庁がリストを作成していた。

多くの死亡者が出た介護施設

2019年にはスウェーデンにおける70歳以上の高齢者は約150万人であった。19万1910人が自宅でヘルパーの助けを借りる要介護者であり、7万9410人が介護施設に居住する高度要介護者であった(2020年1月時点)。つまり、70歳以上の高齢者のうち、約18%が要介護者である。スウェーデンの新型コロナ感染症による死亡者の90%が70歳以上の高齢者であり、死亡した高齢者の約80%が要介護者である(図6)。

スウェーデンで高齢者を中心に死亡者が多く出たのは、介護施設でのクラスターが多発し、自宅に住む高齢者へもヘルパーを介して感染が持ち込まれたためである。この周辺については、前稿( https://forbesjapan.com/articles/detail/35156/1/1/1 )を参照されたい。

多くの犠牲者が出た介護施設であるが、介護施設の入居者の過半数は認知症を患っており、残りは、基礎疾患を複数持つ全身状態の良くない高齢者である。入居してから死亡するまでの期間は比較的短いことが知られている(図7)。入居期間が中央値で2年前後というこのデータは、予後が長い認知症患者を含むため、認知症以外の患者に関してはさらに短くなる。

同様に認知症の患者を含んだデータであるが、入居後18カ月までに約40%が死亡することがわかっている(図8)。介護施設の入居者は予後が良くないという理由により、社会庁は、介護施設での感染者は原則として病院には搬送しないとする指示を出していた。これは、新型コロナ感染症に限るはずであったが、介護施設で常駐医師がいないなど医療従事者が不足しており、医師が遠隔診断で病院に搬送しない判断をしたケースもあったようである。

その中には、適切な診断が下されないまま、救命目的の治療ではなく緩和治療に自動的に移行したケースもあり、不幸な転帰をとった高齢者も存在した。この点は、大きな社会問題となっており、今後、外部調査委員会の調査により、改善すべき点が明らかにされることになっている。

一方で、新型コロナ感染症による死亡者の平均年齢は、現時点での社会庁の統計によると83歳であり、2019年のスウェーデンの平均寿命は83.1歳である。83歳時点における平均余命は、スウェーデンの生命表によると7年程度であるが、前述の通り、介護施設に入居している基礎疾患を持つ要介護高齢者の予後は悪く、したがって、平均余命は短いと考えられる。

そのため、新型コロナウイルス感染により、死亡が若干前倒しになっただけだとする見方もある。もしそうであるとすれば、長期的には超過死亡率は相殺されてくるはずである。例年よりも多かった死亡者数は、現在では、例年以下にまで減少している(図9)

実際、超過死亡率は低下し、ロックダウンをした他のEU諸国と比べても、超過死亡率は多いとは言えない(図10)。

【後編】

「新型コロナウイルス第二波到来」で、不安にじわじわとさいなまれる日本。海外でも、アメリカからは「死者数15万人超」との発表が海を渡り、1日に7万人を超える新規感染者数が報告されている。

だが「都市封鎖せず」と独自路線の新型コロナウイルスソフト対策を貫き、一時は世界の注目を集めたスウェーデンの現状については、あまり多くの報道がされていない。

Forbes JAPANで5月、6月、多くの反響を集めた「スウェーデンのコロナ対策」関連記事に、スウェーデン在住の医師、宮川絢子博士へのインタビュー スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する、ならびに宮川博士よりの寄稿、スウェーデンの新型コロナ対策は失敗だったのか。現地の医療現場からがある。

宮川博士は、スウェーデン·カロリンスカ大学病院·泌尿器外科勤務の医師で日本泌尿器科学会専門医であり、スウェーデン泌尿器科専門医(スウェーデン移住は2007年)だ。

カロリンスカ大学病院はスウェーデンで最多の感染者、犠牲者を出したストックホルムにあり、国内で最多の感染者治療を行なった医療機関である。ピーク時には感染者の治療も担当した医師としての経験と多くのデータに裏付けられた検証にもとづき、宮川博士に再びご寄稿いただいた。今回はその後編である。

ICU病床数は2倍、野戦病院の設営も

スウェーデンでは、「感染のピークにおいて、医療崩壊を回避すること」が最も大きな政策の柱であった。感染の拡大が最も著しくなった4月よりも前に、ICUの病床数は2倍に増床され、多くの一般病棟が感染病棟となった。ストックホルムの国際会議場には、野戦病院が設営され(結局、使用されることはなかったが)、600床のベッドが用意された。

ICUへの配置換えの場合、給与220%

大病院の役割分担が行われ、新型コロナ治療にあたる病院が、例えばストックホルム県ではカロリンスカ大学病院の他3病院と決められた。予定手術や治療は、可能な限り新型コロナ感染症治療を行わない病院へ委託された。カロリンスカ大学病院では、ICUのベッド数は5倍近くまで拡張された。

重症者は、地方自治体の枠を超えて、地方からストックホルムへ搬送された。ICU治療は、救える命を救うという方針により、80歳以下で基礎疾患のない患者は入室できるという基準が示されたが、ICUが満床となったことはなかったこともあり、個々の症例に関しては現場医師の判断に任されていた。

しかし、感染者が重症化し、ICU治療が必要となった場合、通常の疾患よりも遥かに長い期間のICU治療が必要となるために、常に十分な空きベッドがないと、救える命も救えない状況になってしまうため、感染収束が見えていない状況では、ICUの入室制限は必要なことであった。

治療に当たるスタッフも、配置換えや各種ボランティア、医学部最終学年の学生の動員や、休職状態にあるスカンジナビア航空のキャビンアテンダントを再教育し労働力をシフトするなど、多様でフレキシブルな対応がなされた。また、ICUへ配置換えするスタッフへのインセンテイブとして、通常の220%の給与を保証した。結果として、ICUが満床になることもなく、医療崩壊は起きなかった。

医療従事者のマスク着用は「手術時のみ」

スウェーデンでは、未だにマスクの使用が勧められてはいない。パンデミック発生当初は、マスクの感染予防や感染拡大防止に関するエビデンスはほとんどなかった。パンデミックを通して、マスクにある程度の効果があるとする報告が少しずつ出始め、WHOを始めとして多くの国がマスクを推奨するようになった。

しかしながら、マスクの意義に関するエビデンスが確立された訳ではなく、ソーシャル·ディスタンスを取ることが第一であることは、多くの専門家の意見が一致するところである。

8月3日のWHOの記者会見でも、マスクを推奨してはいるが、テドロス事務局長自ら「マスクは常に携帯し、ソーシャル·ディスタンスを取ることが難しい場合には使用するようにしている」。と発言している。同様にテグネル氏は、マスクをして慢心し、ソーシャルディスタンスを取らなければ本末転倒であることを強調している。

そういった事情から、公衆衛生庁はマスク使用を推奨することはしていない。病院においても、医療従事者は手術などの処置以外でマスクをしていない。日本から見たら、信じられない光景であると思う。

スウェーデンの輸出のGDPにおける割合は47%であり、輸出量の73%はヨーロッパ諸国で、残りはアメリカと中国である。したがって、全世界を巻き込んだパンデミックでは、内需だけではなく外需への影響は避けられないため、スウェーデンの経済も大きな打撃を受けた。2020年第一四半期のGDPは、スウェーデンはユーロ圏で唯一のプラス成長した国であった。第二四半期におけるGDPの落ち込みは8.6%で、他のロックダウンしたヨーロッパ諸国ほど経済への打撃は受けなかったと考えられる(図11)。

しかしながら、国により内需外需のバランスや、パンデミックにおいても需要があるかどうか(例えば、医薬品の輸出であれば影響を受けない)など個別の状況があるため、GDPで比較をすることは必ずしも適当であるとは言えない。そのため、感染症による被害状況や政策の違いが経済に与える影響度を判断することは難しい。

入院患者、ピーク時の20分の1に

パンデミックの第一波が収束し、スウェーデンで最も多くの感染患者を治療したカロリンスカ大学病院でも、入院治療を受ける感染者がピーク時に比べ20分の1以下の20名程度になった。病院は通常診療に戻り、医療従事者も4週間の夏季休暇を取得できている。国内では、ソーシャル·ディスタンスを取ること、衛生の徹底、50人以上の集会禁止、症状があれば自宅待機、高齢者には屋外で会うことなどの対策は続けられている。

通常は前乗りで料金を支払って乗車するストックホルムの公共バスも、運転手を感染から守るために前乗りが禁止され後ろ乗りで、事実上、無料で乗車できる。また、秋以降も在宅勤務が可能な者は在宅勤務を継続するように推奨されている。一方、保育園、小中学校は、今まで通り開校、高校も秋の新学期から開校が予定されている。

「集団免疫はほぼ獲得された」

ロックダウンしないことの副産物として、集団免疫を早く獲得できる可能性が期待されていたが、6月に行われたスポット解析では、ストックホルムでの抗体保有率は20%近くに留まった。しかしながら徐々に、新型コロナウイルスに対するT細胞を介した細胞免疫が存在することを示す論文が、複数発表されるようになった。つまり、新型コロナウイルス感染に対し、感染を防いだり、軽症化させるような細胞性免疫が存在する可能性を示唆するエビデンスが次々と報告され始めた。

たとえば日本を含め、東アジア諸国では、人口当たりの死亡者数が欧米に比し2桁も低い。この大きな差は政策だけでは説明が難しいが、T細胞を介した免疫で説明がつくという説もある。

T細胞を介する免疫は抗体では評価できない免疫である。新型コロナウイルス感染に関して、T細胞を介する免疫が知られるようになる以前は、集団免疫域値(herd immunity threshold; HIT)は60%以上と高く考えられていたが、現在では20%前後と低くなるとも推測されている。

これらの報告を踏まえて、公衆衛生庁は7月17日、抗体による液性免疫だけでなく細胞性免疫を合わせれば、ストックホルムにおいては、およそ40%が新型コロナウイルスに対する免疫を獲得したと推測されたことを根拠に、「集団免疫がほぼ獲得された」という見解を発表した。

スウェーデンでは現在、ソーシャル·ディスタンスを取りながら、夏の休暇を楽しむ国民の姿が見られる。パンデミック発生当初から一貫して、国民の自主性に任せる政策に大きな変更はなかったことから、国民の動揺も少ないように見える。国民の80%以上は、公衆衛生庁からの勧告に従った行動をしている(図12)。

国民がある程度通常の生活を保ちながら、第一波の収束を迎えることができたことは幸いであった。政治家や公衆衛生庁など中央への信頼も、死亡者増加とともに多少減少はしたものの、常に過半数の国民は国を信頼しているとデータは示している(図13)。

ロックダウン解除後から感染の拡大が発生し、第二波が発生したとされる国が複数ある中で、スウェーデンでは、ロックダウンをしなかったことが有利に働いたと考えられ、現時点では、第二波など感染の再拡大は観察されていない。

未だ未知な部分が多いウイルスであるだけに予断は許されないが、第一波で新型コロナウイルスに対する診断や治療の経験が蓄積され、介護施設における問題点が明らかになったこと、また、スウェーデンの政策は、国民にとって今後も持続可能な政策であることから、スウェーデンに第二波が来たとしても、治療や感染対策の面では十分対応できるのではないかと考えている。

しかしながら、パンデミックが長期に及べば経済はさらに減速し、社会を支える若年者の命が失われるリスクが高まる。つまり、経済により失われる命がある訳だ。現在まで、感染により失われる命を救うことを免罪符として、経済を回す議論を行うことをタブー視する傾向があったが、今後人類は新型コロナウイルスと共存しなければならない可能性もあり、バランスの取れた政策の選択が望まれる。


宮川絢子(みやかわあやこ)◎スウェーデン·カロリンスカ大学病院·泌尿器外科勤務。平成元年慶應義塾大学医学部卒業。日本泌尿器科学会専門医、スウェーデン泌尿器科専門医、医学博士、カロリンスカ大学およびケンブリッジ大学でポスドク。2007年スウェーデン移住。