湯で手を洗うことはエネルギーの無駄

Brian Clark Howard,

National Geographic News

December 16, 2013


 インフルエンザの季節到来! 多くのアメリカ人が感染を避けようと、うがい手洗いに躍起になっている。しかし、ヴァンダービルト大学の研究チームの忠告によれば、手洗いに関する常識は 白紙に戻した方が良さそうだ。アメリカ人が蛇口をひねる度に、地球の病を悪化させている可能性が高い。


 テネシー州にあるヴァンダービルト・エネルギー環境研究所(Vanderbilt Institute for Energy and Environment)の助教アマンダ・R・カリコ(Amanda R. Carrico)氏はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、手洗いは多くの場合、「その人が最善と思う方法で行われているが、実際は間違った信念や時代遅れの認識に基づいている」と 述べている。


「確かに熱は有効だが、手洗いに使う水の温度には限界がある」。


 例えば、病原菌の汚染が疑われる飲料水は煮沸消毒が一般的だと、カリコ氏は説明する。しかし、手洗いに使う“温”水は、どんなに熱くても摂氏40〜55度の間。55度ならある程度は殺菌できるが、菌が死ぬまで洗い続ければヤケドしてしまう。


 カリコ氏の研究チームが科学文献を見直した結果、「人が耐えられる温度の水に殺菌効果があるという証拠は見つからなかった」。4.4度の冷水でさえ、手をこすって洗い、すすいできちんと乾かせば、減菌効果は温水と変わらないようだった。


 つまり、手洗いに温水を使う必要は全くない。それどころか、環境問題を考えれば、無駄を通り越して逆効果だとカリコ氏は断言。同氏らの調査によれば、 64%のアメリカ国民が温水で手を洗っているという。この数字を基に計算した結果、地球に及ぼす重大な影響が明らかになった。


「冷水か温水か? 手洗い1回毎の選択など取るに足りないことかもしれない。しかし、年間に合わせて8000億回近くも手を洗うわれわれは二酸化炭素を600万トン以上も排出しているわけだ」。


 この量は石炭火力発電所2基、あるいは乗用車125万台の年間排出量に相当する。エルサルバドル、アルメニアといった小国が排出する温室効果ガスより多 く、バルバドスの排出量と同程度。もしすべての国民が冷水で手を洗えば、エネルギー関連の二酸化炭素排出が29万9700世帯分も減る。


◆手洗いの現状


 米国エネルギー効率経済協議会(ACEEE)によれば、一般家庭のエネルギー消費は、冷暖房に次いで給湯が多いという。さまざまな家事に温水を使うため だ。アメリカと欧州連合(EU)のどちらも、家庭が消費するエネルギーの15%を給湯が占めている。ただし多くの場合、給湯器の設定温度は大部分の家事で 必要とされる温度よりはるかに高い。エネルギー効率の専門家は48.9度で十分だと考えており、ACEEE も5.6度下げるごとに給湯のコストを3〜5%ほど節約できると述べている。


 カリコ氏はまず、洗濯や食器洗いといった日常的な家事に目を向けてみた。2011年にノルウェーの研究チームが行った研究によれば、30度の水で洗濯し た場合、一般的に使われる40度の温水と洗い上がりは変わらないという。30%のエネルギー節約になり、しかも衣類の痛みが少ない。


 一方、1日に7度の手洗いがエネルギーや二酸化炭素排出に及ぼす影響に注目する者はそうそういない。


 そこで、カリコ氏らは国内の成人510人を対象に、手洗いのやり方や認識についていくつかの質問をした。手洗いの回数、時間、水の温度などだ。


 その結果、裏付けの有無は関係なく、回答者の70%近くが室温程度のぬるい水や冷たい水より、温水の方が効果的だと考えていることがわかった。


 カリコ氏らは、“快適な”温度の水での手洗いを勧めている。


◆公式見解


 米国疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)の手洗いに関する公式なガイドラインでは、水温に言及していない。両者とも、石鹸と水で20秒以上ゴシゴシする方法を推奨している。そして、洗い終えたら、しっかり手を乾かす。


 丁寧にそして頻繁に洗うことが肝心で、水温を気にする必要はないと、カリコ氏は念を押している。


 今回の研究結果は、「International Journal of Consumer Studies」誌7月号で発表された。