抗菌薬使用で大腸がんリスクが上昇

一部の抗菌薬が大腸がん(結腸がん、直腸がん)リスクの上昇をもたらす可能性のあることが、新たな大規模研究で示された。特に、嫌気性菌を標的とするペニシリンやセファロスポリンなどの抗菌薬の使用でリスク上昇がみられた。ジョンズ・ホプキンス大学(アメリカ)教授のCynthia Sears氏らが行ったこの研究の詳細は、「Gut」8月21日オンライン版に掲載された。

 今回の研究は、イギリスの臨床試験研究データベース(Clinical Practice Research Datalink)から抽出した、1989~2012年の間に大腸がんと診断された患者2万8,980人と、年齢および性別をマッチさせた非大腸がん患者(対照群)13万7,077人を対象にしたもの。Sears氏らは、研究登録時から大腸がんと診断される1年前までに患者が処方された経口抗菌薬を調べ、経口抗菌薬の使用と大腸がんリスクとの関連を検討した。

 その結果、肥満、糖尿病、喫煙などのリスク因子を考慮しても、抗菌薬を処方された患者では、対照群に比べ、結腸がんリスクにわずかな上昇がみられた。1~15日間の処方を受けた患者では、処方されていない患者に比べて結腸がんリスクが8%高く、60日以上処方された患者では17%高かった。その一方で、60日以上の抗菌薬の使用により、直腸がんリスクが15%低減することも分かった。この理由については不明だが、Sears氏は「結腸がんと直腸がんはまったくの別物であることを示しているのかもしれない」と説明している。

 抗菌薬が結腸がんリスクを上昇させる理由として理論上考えられるのは、腸内細菌叢への影響であるという。最近の研究では、腸内細菌叢のバランスが健康にさまざまな影響をもたらす可能性が示唆されている。Sears氏らは、腸内細菌叢のバランスが崩れると発がん性のある細菌が増殖しやすくなる可能性があるとし、大腸菌などの細菌が結腸がんの発症に寄与することも考えられるとしている。

 一方、今回の研究には関与していない、米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのEmmanouil Pappou氏は、「研究では、患者に抗菌薬が処方された理由が明確にされていない。また、患者の食生活や運動習慣は大腸がんのリスク因子として重要なのに、これらについての情報もない」と指摘し、今回の研究で認められたリスクの微増は、抗菌薬の直接的な影響であるとは限らないと話している。

 Sears氏も、研究で因果関係が明らかにされたわけではないと強調しながらも、「抗菌薬の過剰な使用は問題であり、医師と患者双方の教育が必要だ」と主張する。そして、風邪などのウイルス感染症への抗菌薬使用をやめるほか、長期にわたる抗菌薬治療は可能な限り控える必要があると付け加えている。

 Pappou氏は、抗菌薬によるリスク増大がわずかであることからも、この結果に過剰に反応すべきではないと警告している。同氏は、抗菌薬は慎重に使う必要があることは認めつつも、結腸がんリスクを低減するためには、有効性が示されている予防法、すなわち、定期的な運動、正常体重の維持、禁煙、節酒、健康的な食生活を実践するべきだと助言している。Sears氏はさらに、推奨される結腸がんスクリーニングを受けることも重要であると指摘している。

Oral antibiotic use and risk of colorectal cancer in the United Kingdom,

1989-2012: a matched case-control study.


Author

Jiajia Zhang, Charles Haines, Alastair J M Watson, Andrew R Hart, Mary Jane Platt, Drew M Pardoll, Sara E Cosgrove, Kelly A Gebo, Cynthia L Sears

Journal

Gut. 2019 Aug 19; pii: gutjnl-2019-318593.

BACKGROUND : Microbiome dysbiosis predisposes to colorectal cancer (CRC), but a population-based study of oral antibiotic exposure and risk patterns is lacking.

OBJECTIVE : To assess the association between oral antibiotic use and CRC risk.

DESIGN : A matched case-control study (incident CRC cases and up to five matched controls) was performed using the Clinical Practice Research Datalink from 1989 to 2012.

RESULTS : 28 980 CRC cases and 137 077 controls were identified. Oral antibiotic use was associated with CRC risk, but effects differed by anatomical location. Antibiotic use increased the risk of colon cancer in a dose-dependent fashion (ptrend <0.001). The risk was observed after minimal use, and was greatest in the proximal colon and with antibiotics with anti-anaerobic activity. In contrast, an inverse association was detected between antibiotic use and rectal cancers (ptrend=0.003), particularly with length of antibiotic exposure >60 days (adjusted OR (aOR), 0.85, 95% CI 0.79 to 0.93) as compared with no antibiotic exposure. Penicillins, particularly ampicillin/amoxicillin increased the risk of colon cancer (aOR=1.09 (1.05 to 1.13)), whereas tetracyclines reduced the risk of rectal cancer (aOR=0.90 (0.84 to 0.97)). Significant interactions were detected between antibiotic use and tumour location (colon vs rectum, pinteraction<0.001; proximal colon versus distal colon, pinteraction=0.019). The antibiotic-cancer association was found for antibiotic exposure occurring >10 years before diagnosis (aOR=1.17 (1.06 to 1.31)).

CONCLUSION : Oral antibiotic use is associated with an increased risk of colon cancer but a reduced risk of rectal cancer. This effect heterogeneity may suggest differences in gut microbiota and carcinogenesis mechanisms along the lower intestinal tract.