<漢方の利点>

1.副作用が少ない。

小児では殆ど副作用が出ることはなく、安心して使用できますが、

例外的に麻黄や地黄の入った処方で嘔吐等の胃腸障害が出ることがあります。

2.少なくとも、麻黄、桂枝、甘草には抗ウイルス作用が証明されています。

特にインフルエンザ罹患時の麻黄の抗インフルエンザ作用は、タミフルにやや劣るものの

有意差がないほど効果が高く、しかもノイラミニダーゼ阻害作用ではなく、

へマグルチン阻害作用を介して抗ウイルス作用を示しているようです。

従ってタミフルとの相乗的効果が期待できます。

自衛隊仙台病院からPhytomedicine. 2007 Feb;14(2-3):96-101. Epub 2006 Dec 1. に発表された論文では、

麻黄湯がインフルエンザAに感染した月齢5~13歳の小児に対して、

タミフルと比べても半日以上有熱期間を短縮したとあります。

症例数が少ないのが残念ですが、RCTで行われており信頼性はあります。

甘草の抗ウイルス作用は膜安定化作用を介して非特異的に作用するようです。

培養ヒト胎児線維芽細胞T水痘ウイルス(VZV)を感染させるin vitroの実験で、

グリチルリチンはVZVの増殖を抑制しました。単純ヘルペスウイルスの不活化作用も認められています。

HTLV-IIIをMT-4細胞に感染させ培養する実験で、グリチルリチンはプラーク形成を完全に抑制しました。

また感染により細胞表面に出現するHTLV-III抗原も顕著に抑制されました。

また無症候性のエイズウイルスキャリアーに対しグリチルリチンの大量療法を行ったところ、

異常増殖したLeu2およびLeu15陽性細胞の低下が認められました。

天然物由来の抗インフルエンザ素材としてお茶や紅茶のポリフェノール成分が報告されており

(感染症学雑誌 68(7) 824-829 (1994)、感染症学雑誌 70(11) 1190-1192 (1996))、

人を用いた試験により紅茶のうがいが実際のウイルス感染を抑えることが明らかになっています。

(感染症学雑誌 71(6) 487-494 (1997))

またオウゴン由来のフラボノイド成分が、ウイルスのシアリダーゼ阻害活性により

インフルエンザ感染抑制効果を示すことが報告されています。

(Chem. Pharm. Bull. 38(5) 1329-1332 (1990))

漢方製剤である桂枝二越婢一湯(特開平6-199680)、

黒房すぐり抽出物(特開2000-212092)、

馬鈴薯アントシアニン色素(特開2001-316399)、

グァバ葉抽出物(特開2000-273048)

羅布麻抽出物(特開平11-71296)等の抗ウイルス効果が報告されています。

製菓会社ロッテの研究所で行われた試験によると、

植物抽出物のうちで、インフルエンザウイルス(H3N2)のMDCK細胞に対する感染性の抑制効果を指標にして、

ラズベリー、ストロベリー、ブラックベリー、ワイルドストロベリー、

イチジク、アカザ、アグリモニー、ユーカリ、

モモ、リンゴ、ヴァイオレット、クロモジ、ガラナ、

ワタフジウツギ、ツユクサ、ナズナ、エンメイソウ、

ホアハウンド、マーシュマロー、オオバコ、

レモンバーベナ、ヤロー、アイスランドモス、アマチャヅル、フキの抽出物に

強いインフルエンザウイルスの感染抑制効果を有することが見出されました。

このように色々な天然植物成分に抗ウイルス作用があることが示されています。

今後、抽出技術が進み、新たな抗ウイルス剤の開発に繋がる可能性があります。

3.有効な治療法がない不定愁訴を訴える疾患に著効することがある。

後述する起立性調節障害(OD)、虚弱児、倦怠感、繰り返す風邪症状、夜泣き、乗物酔い、アセトン血性嘔吐症といった

血液検査や画像検査等には異常を認めない疾患や不定愁訴に著効することが多い。

4.多くの生薬に非特異的免疫賦活化作用があり、風邪を引きにくくなる。

通園児ではしばしばウイルス性上気道炎による発熱を繰り返します。

一部の生薬が持つ直接の抗ウイルス作用以外にも、多くの生薬に非特異的な白血球賦活化作用があり、

漢方薬を長期投与している患児では発熱の頻度が低下します。

アトピー性皮膚炎や喘息患児の親から「風邪を引きにくくなった」と言われることが多々あります。

5.アレルギー性疾患のコントロールが容易になり、ステロイドの使用量を減らせることがある。

柴胡(特にサイコサポニンd)や黄ごんといった生薬にはサイトカイン産生に影響を与えるものが幾つかあり、

細辛や辛夷のように1型アレルギーを有意に抑制する生薬があります。

6.服薬を終了後も症状がリバウンドせず、半永久的に飲まないといけないということが少ない。

これに関してはエビデンスと呼べるようなRCTもしくはDB-RCTに基づいた研究はなさそうでした。

便秘症については大建中湯によって完治し治療を終了できた症例が、

通常の緩下剤による治療より多いという統計が示されています。

漢方専門医の症例報告を見ると、2ヶ月~2年程度で内服を中止でき、その後も再発がないという例が多いようです。