<急性胃腸炎>

<要約>

・ウイルス性胃腸炎(嘔吐下痢症)4種と細菌性胃腸炎(食中毒)4種を紹介しています。

・下痢しているときの食事の内容についても紹介しています。

・軽症~中等症の脱水時に経口補液療法(ORT)は点滴(IVT)と同等の治療効果があると証明されています。

日本では低張性経口補水液であるソリタT2顆粒、OS-1、アクアライトORSの3商品のみが治療に適しています。

この順に治療効果が高く、価格が安いのもこの順です。しかし残念ながらこの順に不味いことが欠点です。

ポカリスエットは浸透圧が高過ぎ、アクエリアスはNa濃度が低過ぎて胃腸炎治療には適しません。

【急性胃腸炎】

急性胃腸炎にはウイルス性と細菌性があります。

一般的にウイルス性は嘔気が強く、嘔吐下痢症とも言われます。

冬季に流行し、家族内で広がる時も潜伏期の時間差を置いて次々に発症します。

一方、細菌性は腹痛が強く、夏季に多いという特徴があります。

複数の人に感染した場合、1~2日の差はあってもほぼ同時期に発症します。

食中毒とも言われますが、例外的にノロウイルスだけは人から人に感染する“嘔吐下痢症”の感染形式だけでなく、貝類から感染する“食中毒”の感染形式も取ります。

【ウイルス性胃腸炎 / 嘔吐下痢症】

ウイルス性の胃腸炎では腹痛の程度は軽く、特に第1~2病日に嘔気が強いことが多い。

乳児期や幼児早期では発熱することが多いが、学童期以降では通常発熱はないか微熱です。

下痢便に独特の酸臭を伴い、しばしば下痢便が白っぽくなります。通常血便はありません。

家族内で感染するときは2~3日差で次々に発症します。

学童期以降の人が感染すると嘔気だけのことが多い。

【細菌性胃腸炎 / 食中毒】

一般的にウイルス性の急性胃腸炎より腹痛の程度が強く、年長児でも高熱を出すことがある。

感受性のある抗生剤によって速やかに解熱します。嘔気はあっても軽いことが多い。下痢便に酸臭が漂うことはない。

血便を伴うこともあります。激しい腹痛と大量の血便を認めたら病原性大腸菌(か、乳児では腸重積)を疑う。

複数の人がほぼ同じ日に発症したらノロウイルスか細菌性の食中毒です。

【嘔吐下痢症の原因ウイルス】

・他には、ピコルナウイルス科に属するエンテロウイルス属(ポリオ、エコー、コクサッキーA/B、エンテロ68-71)、

ヘパトウイルス属(A型肝炎ウイルス)、ライノウイルス属、

コロナウイルス科に属するコロナウイルス属、トロウイルスによる急性胃腸炎がある。

【食中毒の起因菌】

小児で比較的頻度の多い急性胃腸炎の原因菌4種について紹介します。

【キャンピロバクター】

<感染経路> 小児の食中毒としては最も頻度が高い。

鶏の約50~80%が腸管内常在菌として保有しています。Campylobacter jejuniとCampylobacter coliは人間に胃腸炎症状を起こし、Campylobacter fetusは敗血症や髄膜炎を起こします。通常、C. jejuniの頻度が高い。

低温でも生存可能な菌である。鶏肉を介して感染するが、時には生乳を介して感染します。

<潜伏期>1~11日と長いが、通常1~3日です。

<症状> 発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛などの前駆症状の後、嘔気、腹痛、下痢が見られます。下痢は一般に頻回、水様で血液や粘液を混じることが多い。腹痛が強く、虫垂炎に類似することがありますが、サルモネラよりは軽症です。下痢や(小児では)血便が続くことが多い。腹痛、嘔吐、発熱、頭痛も通常伴います。

<合併症> 回復期にGuillain-Barre症候群やFisher症候群になることがあります。

<治療> 下痢消失後も2~3週間は便中に排菌が続くが、有効な抗生剤投与によって2~3日で除菌できる。

AZM、CAM、EM、FOMのいずれかを5~7日間投与します。

【サルモネラ】

<感染経路> 家畜類が保菌しており、環境にも存在するため制圧困難です。

夏季に多いが、冬にも起こり得ます。肉類、卵、マヨネーズ、ペット(犬、猫、ミドリ亀)が原因となります。

最も多い感染源は鶏卵で、卵殻だけでなく卵内も汚染されています。ネズミやゴキブリに媒介され、2次感染を起こすこともあります。新生児や乳児では不顕性感染も多い。

<分類> 発症機序から、チフス性疾患(腸チフスとパラチフス)と非チフス性サルモネラ症に大別されます。

抗原構造は、O抗原、H抗原、Vi抗原の3種類から成り、O抗原とH抗原で分類すると2000種以上になることから、通常O抗原のみで分類します。

<腸チフス、パラチフス>

年間100名前後の発症者がいます。南アジア~東南アジアといった発展途上国からの持ち込み感染が多い。

潜伏期は通常10~14日。

腸チフスでは悪寒と共に発熱し、段階的に上昇・稽留する特異な熱型となるが、近年軽症例も多い。

<非チフス性サルモネラ症>

潜伏期は5~72時間。通常8~24時間(平均12時間)です。無症候性保菌者も存在しますが、通常、急性胃腸炎、菌血症、敗血症、病巣感染という症状を来します。菌血症は10~20%に起きます。

保菌者には、健康保菌者と病後保菌者(1~3ヶ月間排菌)がある。

急性胃腸炎症状が最も多く、急激な発熱(通常38℃以上)、水様下痢、腹痛が主症状です。悪寒、頭痛、嘔気、嘔吐を伴うこともあります。他の起因菌に比べて胃腸炎症状が重く、高熱や頻回の下痢が持続したり、粘血便を呈することも多い。

感染部位は遠位小腸~結腸の粘膜固有層で、炎症が粘膜下にとどまるか、腸管外に波及するかは宿主側の防御因子と菌数、血清型等の菌側の因子によって決まる。幼児や老人では重症化し易く、菌血症の頻度も高い。

病巣感染は腹腔内が多く、他に髄膜炎、骨髄炎、関節炎、臓器に膿瘍形成等がある。時に急性腎不全を起こす。

<予後> 通常1週間以内に回復します。軽症なら抗生剤は不要。中等症以上ならニューキノロン、ABPC、FOMのいずれかを原則7日間経口投与します。抗生剤は症状と排菌期間を短縮せずST合剤やGMによってHUSが増悪したという報告もあるため、軽症者やリスクの低い年長児等では使用を控える。

死亡率は0.1~0.2%でエンドトキシンショックを起こさなければ治癒することが多く、予後は良好です。

【病原性大腸菌】

病原性大腸菌の潜伏期間は一般に12時間~3日であるが、EHECは2~10日(平均4日)と長い。

<腸管病原性大腸菌(EPEC)>

O55、O111、O119といった特定の血清型によって起きることが多い。

サルモネラ症に類似した症状で、下痢、腹痛、悪心、嘔吐、発熱が主症状です。

<腸管侵入性大腸菌(EIEC)>

途上国に多く、先進国では比較的稀です。

赤痢に類似した症状で、下痢、腹痛、発熱、嘔気を訴え、粘血便、膿粘血便を呈することが多い。

治療は赤痢に準じてニューキノロン系が第一選択で、NFLXやFOMも使用できます。

<毒素原性大腸菌(ETEC)>

途上国で水を介して感染します。輸入感染症として最も頻度が高い。

産生する毒素がコレラ毒素に似ており、下痢が“米のとぎ汁様”となることがあるが、通常コレラより軽症で、水様便もしくは軟便であることが多い。ORSが治療に有効です。抗生剤も有効ですが耐性菌が多い。

<腸管出血性大腸菌(EHEC)>

赤痢菌が産生する志賀毒素に似たベロ毒素(VT)を産生する大腸菌で、VTECと呼ぶ。VTECの70~80%がO157:H7であり、O111:H-やO26:H11等の血清型も原因菌となる。VTの他に溶血に関わる因子も産生する。ベロ毒素の蛋白合成阻害により大腸粘膜が破壊され、更にベロ毒素は腸から血液中に入り、赤血球を破壊しながら全身にまわる。VTEC自体は腸管から血液中に侵入しないので発熱やCRP上昇は軽い。典型例は出血性大腸炎として発症するが、無症候性保菌者からHUSによる腎不全、脳症によって死亡する例まで様々である。毎年1000~3000人以上の感染者が報告されている。患者の40%が5歳未満である。成人は軽い下痢のみのことが多いが、乳幼児では重症化する。

1次感染源は牛と豚で、生乳、ヨーグルト、牛肉、野菜、リンゴジュース等によって感染を起こす。特に牛のVTEC保菌率が高い。菌の感染力は非常に強く、100個以下の菌数でも感染するため実際は感染経路を特定することが困難である。胃液(pH<4)でも生き残り、人から人に感染することもある。低温に強いが、熱に弱い菌である。

(出血性大腸炎) 倦怠感を前駆症状とすることが多い。2~10日(平均4日)の潜伏期の後、下痢が始まり1日数回~10数回、時に20回以上に及ぶ頻回な水様下痢と腹痛が1~2日続いた後、大量の新鮮血を伴う血性下痢(便成分を殆ど認めない鮮血便)となることが多く、激しい腹痛を伴うため麻薬性の鎮痛剤が必要になることが多い。水様下痢で終わってしまうこともある。約20%が38℃を越えるが、通常、発熱はないか37℃台である。悪心・嘔吐を伴うことがある。有症状期は4~8日間で敗血症や腸管穿孔の合併はない。

(溶血性尿毒症症候群 HUS : Hemolytic Uremic Syndrome) 多くの出血性大腸炎は自然治癒するが、O157感染による有症状者の6~7%、あるいは出血性大腸炎の典型例の約10%にHUSもしくは脳症を発症する。特に小学校低学年以下に多く、下痢出現後4~10日に発症することが多い。血便を伴う重症下痢、傾眠、末梢白血球増多があるとHUS合併頻度が高くなる。HUS発症例の3%前後が死亡する。下痢が治まって1週間以上経過し、菌も陰性化していればHUSの心配はない。HUSは血栓性血小板減少性紫斑病の亜型と考えられ、次の3主徴を特徴とする。

1.溶血性貧血:破砕状赤血球を伴う貧血で、ヘモグロビン10g/dL以下

2.急性腎不全:乏尿、無尿、血尿、蛋白尿、年齢相当の血清クレアチニン基準値が1.5倍以上の上昇等

3.血小板減少:血小板数が半減または10万/μL以下

抗生剤投与に関しては賛否両論あるが、下痢発症3日以内に抗生剤を投与するとHUSの発症率が下がると言われており、日本では通常FOMかNLFXを3~5日間経口投与されることが多い。整腸剤は使用するが、止痢剤は使用しない。血便がなくても検尿は毎日、採血も最低2日に1回は行う。保菌者にも抗生剤を3日間投与する。抗生剤中止後48時間以上経過した便培養が陰性であることを確認する。

(脳症) HUS患者の約40%に発現する。脳症はHUSと同時期か、先行することが多い。頭痛、傾眠、不穏、多弁、幻覚などを前兆とし、数時間~12時間後に痙攣、昏睡に陥る。

<腸管凝集性大腸菌(EAEC)>

水様下痢を引き起こす。集団発生例は少なく、通常散発例である。

【ブドウ球菌】

黄色ブドウ球菌A型によるものが多い。

<感染経路> 感染源は料理人の化膿巣、切り傷、鼻腔内常在菌からご飯製品、乳製品、かまぼこ等に移り、繁殖する。耐熱性タンパクであるエンテロトキシンによって起こるため加熱は無効である。

<潜伏期>1~6時間(平均3時間)

<症状> 激しい嘔吐(胆汁色)、腹痛、下痢が2~8時間続き自然軽快する。全く発熱しない。抗菌薬無効。

【治療】

・ 嘔気のある時は、顔(と体)を横(~下)に向ける。

・ 止痢剤を使っても罹病期間はあまり変わらないとの報告が多い。基本は食事療法。

・ 症状が嘔気のみならば、誤飲の可能性も考慮する。

・嘔気・嘔吐が激しいときは、2時間は胃腸を休ませる。水分を欲しがっても最大50ml/回までとする。15~30分毎に与え、嘔吐しなければ少しづつ増量する。

・吐物の悪臭は嘔気を誘発するため嘔吐後は速やかに衣類や寝具を替える。できればうがいさせる。

・湯冷まし、お茶、OS-1、アクアライトORS、ソリタT2顆粒などが適当。牛乳や柑橘類のジュースなどは吐気を強くする。赤ちゃんで母乳の場合はそのまま与えて良いが、一回量が多くならないように。ミルクの場合はORSや湯冷まし等で嘔吐が誘発されないことを確認した後に少しずつ与える。

・食事は食欲が出てきてからで良い。離乳食は少しstep downさせる。

・嘔吐後は、高熱や顔色不良がなければシャワーを浴びさせても構わない。吐物臭を取ることも大切。

【食事指導】

経口補水液:ソリタT2顆粒、OS-1、アクアライトORS、(成人用はNa濃度が低く、糖濃度が高いため不適)

ジャガイモ、ニンジン、タマネギを煮込んだ野菜スープで五分粥を作り0.3%の塩味を付けたもの等を摂らせる。

ORS: 水1000cc+塩2g(小さじ1/3)+砂糖40g+レモン汁1/2,1回量は50mlが目安(20~100ml/回)

下痢の時は食事療法が大切。便の固さと同じ程度のものを与えるのが基本。

食物アレルギーの原因になるため、下痢が治っていない時に卵や牛乳は控える。

入浴しても良い。お尻がただれやすくなるのでできるだけ坐浴などできれいする。

下痢が長引くとき、乳児では乳糖不耐症が起こり易いので、その場合には乳糖を含まないミルクを代えるか、乳糖分解酵素を与えることも考慮する。 そういう時は便を見ることが大切なので便を持参する。

【下痢のときの食べ物(乳児)

【下痢のときの食べもの(幼児)】

<嘔気・嘔吐が激しい時> 絶食。ただし嘔気が軽くなれば早期にORSを試みる。

<下痢はひどくても、嘔気・嘔吐の軽くなった時>

原則、十分な排尿が確認されるまでORSのみです。 味噌汁の上澄み、コンソメスープ、野菜スープ、重湯+塩などORSに準ずるものが作れれば与えても構いません。母乳も与えた方が良い。

<便の硬さと同じ硬さの食事を与える>

1) 便が水のようなときには水分を中心に(ORS、麦茶、野菜スープ、味噌汁上澄み、重湯、りんごのすりおろし)

2) 便がドロドロの時にはドロドロの食べ物を(三分~五分粥、豆腐、パン粥、ベビーせんべい、ウェハース、バナナの裏ごし、にんじん・かぼちゃの煮つぶし、ジャガイモの裏ごし、かたくり)

3) 便が柔らかい程度なら柔らかい食べ物を(全粥、煮込みうどん、食パン、野菜煮付け、鳥ささみ、白身魚煮付、リンゴ、桃、イチジク、スモモなどの果実)

便が正常に近くなったとき> 卵、乳製品を与えても良い。

【経口補液療法(ORT)と経口補水液(ORS)】

<等張性ORSよりも低張性ORSの方が吸収が良い>

RCTによって等張性ORSと低張性ORSに割り振った15編のRCTのメタアナリシスでは、低張性ORSの方が下痢便量、嘔吐回数共に低かった。低Na血症の発生率に有意差はなかった。

等張性ORS(浸透圧311mOsm/l)かつNa90mEq/lよりも、低張性ORS(浸透圧≦250mOsm/l)かつNa60~75mEq/lの方が吸収が良いことが証明されている。

WHOのガイドラインでは低張性ORS(浸透圧≦250mOsm/l)かつNa75mEq/lが推奨されている。

ESPGHANのガイドラインでは低張性ORS(浸透圧240mOsm/l)かつNa60mEq/lが推奨されている。

<経口補液療法(ORT)は経静脈輸液療法(IVT)と同等の効果である>

Pediatrics. 2005; 115: 295-301.ではウイルス性急性胃腸炎により中等症の脱水となった月齢2~3歳までの児をRCTによって割り振って経口補液療法(ORT)と経静脈輸液療法(IVT)を比較検討した。治療2時間後の脱水回復度に有意差はなく、入院が必要となった児はIVTで約1/2、ORTで約1/3であった。ウイルス性胃腸炎による中等症の脱水に対して、経口補液療法(ORT)は経静脈輸液療法(IVT)と同等の効果を示した。

軽度脱水(体重減少3%程度まで)ではまずORTを試みるべきである。

中等症の脱水(体重減少が6%程度まで)ではORTを試みてもよい。

重症脱水(体重減少が9%程度が目安)では経静脈輸液が第一選択となる。

<更に低張な経口補液療法は有効か?>

更に低張なORS(Na35~50mEq/l)は経験的に安全かつ有効であるが、急速かつ大量のORTを行った場合、低Na血症の発生率に有意差があるかの研究がなく、今後の課題である。日本のORSや欧米のORSではこの濃度のORSが頻用されているが、問題は起きていない。

<低張性経口補水液(ORS)の各製品>

日本ではWHOやESPGHANの基準を満たすORSはソリタT2顆粒(浸透圧249mOsm/l, Na60mEq/l)だけである。

次いで、OS-1(浸透圧270mOsm/l, Na50mEq/lとやや高張)と

アクアライトORS(浸透圧200mOsm/l, Na35mEq/lとややNaが少ない)が良い。

海外製品では、Enfalyte(浸透圧200mOsm/l, Na50mEq/l)とPedialyte(浸透圧250mOsm/l, Na45mEq/l)が良い。

ポカリスエットは浸透圧が326mOsm/lと高過ぎ、Na21mEq/lと少なすぎる。

アクエリアスは浸透圧が260mOsm/lと概ね良いのだが、Na12mEq/lと少なすぎる。また両者とも糖分が多過ぎる。

【予防・消毒】

ノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスはどれもエンベロープを有しないウイルスであり、消毒薬に対する抵抗性が比較的強い。エンベロープを有しないウイルスの中で比較的親油性のあるロタウイルス、アデノウイルスについては、比較的消毒薬感受性が良いことが観察されている。家庭では石けんと流水での丁寧な手洗いが基本である。