<ポリオ>

IPVは少量でも有効です。量よりも回数が重要です。

文献:Resik S et al.Priming after a Fractional Dose of Inactivated Poliovirus Vaccine.N Engl J Med 2013; 368:416-424.

乳児310人を対象に、不活化ポリオワクチン(IPV)少量接種後の免疫応答を評価。ポリオウイルス1型、2型、3型に対する、初回接種後の基礎免疫獲得率は少量(5分の1)群で90.8%、94.0%、89.6%、全量群で97.6%、98.3%、98.1%だった。2回接種後の累積抗体陽転率は両群ともに90%以上だった。


Priming after a Fractional Dose of Inactivated Poliovirus Vaccine

Sonia Resik, M.D., Ph.D., Alina Tejeda, M.D., Roland W. Sutter, M.D., M.P.H.&T.M., Manuel Diaz, M.D., Luis Sarmiento, Ph.D., Nilda Alemañi, M.D., M.Sc., Gloria Garcia, M.Sc., Magilé Fonseca, M.Sc., Lai Heng Hung, M.Sc., Anna-Lea Kahn, M.Sc., Anthony Burton, B.S., J. Mauricio Landaverde, M.D., M.P.H., and R. Bruce Aylward, M.D., M.P.H.

N Engl J Med 2013; 368:416-424January 31, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1202541

METHODS

We compared the immunogenicity and reactogenicity of a fractional dose of IPV (one fifth of a full dose) administered intradermally with a full dose administered intramuscularly in Cuban infants at the ages of 4 and 8 months. Blood was collected from infants at the ages of 4 months, 8 months, 8 months 7 days, and 8 months 30 days to assess single-dose seroconversion, single-dose priming of immune responses, and two-dose seroconversion. Specimens were tested with a neutralization assay.

RESULTS

A total of 320 infants underwent randomization, and 310 infants (96.9%) fulfilled the study requirements. In the group receiving the first fractional dose of IPV, seroconversion to poliovirus types 1, 2, and 3 occurred in 16.6%, 47.1%, and 14.7% of participants, respectively, as compared with 46.6%, 62.8%, and 32.0% in the group receiving the first full dose of IPV (P<0.008 for all comparisons). A priming immune response to poliovirus types 1, 2, and 3 occurred in 90.8%, 94.0%, and 89.6% of participants, respectively, in the group receiving the fractional dose as compared with 97.6%, 98.3%, and 98.1% in the group receiving the full dose (P=0.01 for the comparison with type 3). After the administration of the second dose of IPV in the group receiving fractional doses, cumulative two-dose seroconversion to poliovirus types 1, 2, and 3 occurred in 93.6%, 98.1%, and 93.0% of participants, respectively, as compared with 100.0%, 100.0%, and 99.4% in the group receiving the full dose (P<0.006 for the comparisons of types 1 and 3). The group receiving intradermal injections had the greatest number of adverse events, most of which were minor in intensity and none of which had serious consequences.

CONCLUSIONS

This evaluation shows that vaccinating infants with a single fractional dose of IPV can induce priming and seroconversion in more than 90% of immunized infants. (Funded by the World Health Organization and the Pan American Health Organization; Australian New Zealand

2013年7月記)

以下の記載は2006~2007年頃に書きました。

現在は事情が異なるため補足します。

不活化ポリオワクチン(IPV)2回後に生ポリオワクチン(OPV)2回接種することが理想的と書きましたが、

1988年以降は抗原量を増やしたenhanced IPVが行われるようになり、十分な抗体価上昇を見込めるようになったことと実際に流行を押さえ込めることが実証され、先進国ではIPV4回接種が基本となっています。

従って、選択肢としては

1.IPV4回接種

2.IPV2回接種→OPV2回接種というsequential vaccination

3.OPV2~3回接種

があり、この順にお勧めします。

(2011年6月記)

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<ポリオワクチンの利点>

ポリオに自然感染すると1000人中に1~5名程度は麻痺が起こります。

生ワクチンを飲めば自然感染は完全にしなくなりますが、

生ワクチン中の弱毒ウイルスによる麻痺(VAPP)が初回投与時には75~240万人に1名程度に起こります。

2回目投与時にはVAPP発生率が510~2700万人に1名程度に低下し、免疫がある人には起きにくいことが判ります。

接触者(主に両親)が児に投与されたワクチンウイルスに感染し麻痺を来すリスクは550~930万接種に1例です。

これらを合わせて生ワクチンによる麻痺(VAPP)は平均200万~300万接種に1例起きますので、

自然感染による麻痺は1万倍近くリスクが高いことになります。

不活化ワクチンを打っても稀に自然感染することがありますが、ワクチンによる麻痺(VAPP)は全くありません。

不活化ワクチンのみを行っていたフィンランドで過去にポリオが流行したことがあります。

そのとき約10万人が感染し、そのうち10名に麻痺が発症しました。

自然感染と比較して不活化ワクチンは麻痺のリスクを1/10以下に減らしてくれていることが判ります。


<ポリオの症状>

潜伏期間3~21日、通常5~12日を経て、発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐、筋痛、頸部硬直などがみられます。

軽症の場合は軽いかぜ症状や胃腸症状ですが、重症例では筋肉、特に下肢の麻痺が起きます。

麻痺が現れる時期は様々で、中には発熱もなく突然麻痺のみが起こることもあります。

感染者の90~95%は無症状(不顕性感染型)です。

約5日程度の潜伏期後、軽度発熱、不快感、頭痛、眠気、咽頭痛などを示す不全型、

発熱、頭痛、嘔気・嘔吐、頚部硬直、四肢痛を伴う髄膜炎型があり、

顕性感染の後二者を合わせて約8%です。

感染者の約0.1~0.5%に上肢に左右非対称性の弛緩性麻痺を生じ、多くは後遺症として残ります。

不顕性感染の患者にも麻痺が発生することがあり、ウイルスも排出しているため感染源にもなります。


<ワクチンの方法>

生ワクチン(OPV)ですがブースター効果を得るためではなく、

血清型が1~3型の3種類あるため日本では6週間以上空けて2回投与されます。

日本の方式での抗体獲得率は2型で95%以上、1型で90%以上、3型で80%程度です。

これを90%以上にするためには3回以上の接種を行うしかありません。

また3型は増殖中に神経毒力復帰傾向が強く、時にVAPPの原因になります。

日本では流行がないためブースター効果がかからず、ワクチン接種回数も他国より少ないため、

流行地域に出掛ける前に追加接種を受けた方が良い。

成人に関しても、過去10年以内にポリオワクチンを受けていない場合で、

危険性のある地域への渡航の際は、WHOやCDCから接種が推奨されています。

成人への追加接種では1回の接種によって1~3型の全ての抗体価が上昇するため1回で十分です。

自己負担で、個人輸入をしている医療機関に申し込むことによって未承認である不活化ワクチン(IVP)を受けることが可能です。

欧米では生ワクチンだけなら3回、不活化だけなら4回、併用する国では生ワクチン2回+不活化2回が一般的です。

(米、英、独国は4回、インドは6回)

筆者は最初に不活化ワクチン2回でVAPPを避けながら基礎免疫を付けて、その後に生ワクチンで更に強く免疫を獲得する

デンマーク方式が最良と考えます。


<海外のポリオの流行>

天然痘に次ぎWHOが世界から根絶を目論んでいる感染症であり、実際、南北アメリカ大陸では

1991年のペルーの1例を最後に野生株ポリオの発生は現在までなく、

ヨーロッパでも1999年以降野生株は分離されていません。

日本でも1980年の1例を最後に野生株ウイルスによるポリオ患者は出ていません。

90年代はインド、パキスタン、バングラディッシュ、アフリカ諸国では数百~1000人以上の発症者が出ていました。

ポリオの常在国は2006年の時点で4カ国(ナイジェリア、インド、パキスタン、アフガニスタン)で、

その他の地域(主に上記途上国)でも散発的に発生していますが、小流行に留まっています。