Rhoファミリーを介した創傷治癒促進効果

第40回日本創傷治癒学会

桂枝茯苓丸のRhoファミリーを介した創傷治癒作用示唆

 近年,漢方薬の褥瘡治癒促進効果が報告されているが,それらは主に臨床の報告であり,作用機序の解明は進んでいない。群馬大学大学院皮膚科学の安部正敏講師はヒト線維芽細胞含有ゲル収縮モデルを用い,創傷治癒効果について基礎的な検討を行った。その結果,桂枝茯苓丸は創傷治癒における細胞増殖因子 と同様,低分子量G蛋白質(Rho)ファミリーのシグナル伝達を活性化し,線維芽細胞の遊走に作用することが示唆された。

線維芽細胞の遊走を活性化

 安部講師はまず,漢方薬の創傷治癒促進効果の検討方法を概説。それによるとヒト線維芽細胞含有ゲルを4時間浮遊させ,増殖因子を添加。それに漢方薬を加えヒト線維芽細胞含有ゲルに及ぼす影響から,その作用機序を検討した。

 漢方薬は創傷治癒に関連した報告のあるものを検索。八味地黄丸,黄連解毒湯,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸,補中益気湯,釣藤散,十全大補湯,黄耆建中湯,牛車腎気丸,人参養栄湯の10剤とした。

 それらを添加した結果,桂枝茯苓丸と黄耆建中湯の2剤で用量依存的にヒト線維芽細胞含有ゲルが収縮,さらにwound healing assayにより同細胞の遊走を示した。

 そこでこの2剤の作用機序を検討するため,RhoファミリーのPI3キナーゼを阻害するLY294002とRhoキナーゼを阻害するY27632の2剤をそれぞれ添加した。すると,桂枝茯苓丸によるゲル収縮はY27632の添加によって阻害された()。さらに,桂枝茯苓丸の線維芽細胞に関連した検討では,低分子GTP結合蛋白質RhoAの活性化を介して,線維芽細胞の遊走が促進されることが示された。

 これらのことから,同講師は「桂枝茯苓丸は創傷治癒において,細胞増殖因子と同様のシグナル伝達系を活性化することにより線維芽細胞に作用することが示唆された」と述べた。