<破傷風>

<DPTワクチン(三種混合ワクチン)>

DPTワクチンとは、ジフテリア、百日咳、破傷風の混合トキソイド・ワクチンのことです。

DPTワクチンは発熱等の全身への副反応が極めて少なく、百日咳罹患歴があっても接種して構いません。

日本では11~12歳時にⅡ期としてDTトキソイドの接種を行います。

アメリカではその後も10年毎にDTトキソイドの追加接種を行うことを推奨しています。


<破傷風の感染経路>

破傷風菌は嫌気性菌で土壌中に広く分布し、創傷面から感染します。

一般外傷患者の2~3%は破傷風菌に汚染されているという統計がありますが、外傷患者創傷面の入念な処置によって発症を減らせます。

擦り傷程度でも発症することがありますが、一般に古釘や木の切株を踏み抜いたような場合にリスクが高いとされます。

芽胞の形で創傷部に侵入し感染するため、人から人へは感染しません。


<破傷風の症状>

破傷風菌の産生する毒素によって随意筋痙攣を主徴とします。

光、音、振動によって痙攣が誘発されやすい。

高熱は来しません。

中枢神経(意識)は障害されません。麻痺・知覚障害もありません。

重症例では自律神経が侵されることがあります。

潜伏期は3日~3週間(平均7日)です。

微熱が1~2日続いた後、以下の症状が起きます:

第1期(1~数日間):創部付近の疼痛(顎の疲労感)

第2期(1~数日間):開口障害(患者の50~75%に起きる症状)→痙笑(咬筋痙攣のため)

第3期:後弓反張(背筋痙攣のため)、呼吸筋が侵され無呼吸状態になることもある。

激しい背筋の痙攣のため意識が清明のまま脊椎を骨折することがある。

重症例では尿閉、頻脈、血圧の変動等の自律神経症状も出ることがある。

第4期:寛解期

重症例では治癒までに3~6週間が必要です。


<重症度分類>

・重症: 開口障害から全身痙攣までの時間が48時間以内

・中等症:開口障害から全身痙攣までの時間が48時間以上

・軽症: 全身痙攣や後弓反張を来さない場合


<破傷風の予後と疫学>

日本ではDPT接種のおかげで年間発症者数は数十名で、その殆どが壮年期以降です。年間死亡者数は10~20名程度です。

日本では新生児の臍からの感染が多かったが、自宅分娩の減少により新生児の破傷風は殆ど見られなくなりました。

小児期の破傷風もDPTの普及により殆ど見られません。

日本における破傷風患者564人の統計では新生児破傷風の患者の致命率が76%で最も高く、

1~10歳が47%、61歳以上の年齢層の患者が45%とそれに続きます。

最も死亡率が低い11~20歳の年齢層でも24%が死亡します。

開口障害から全身痙攣までの時間が48時間以内は致命率が高いとされています。


<破傷風ワクチン>

小児期に正しくDPTワクチンの接種を受けていれば3~5年は有効な血中抗体価が保たれます。

5年以上経過した者、あるいは5年以内でも外傷の程度に応じてトキソイドによる追加免疫を行います。

DPTを2回以下しか受けていない者の免疫は不完全であり、外傷の程度によらずトキソイドを必要とします。

その際、T/DT/DPTの選択は患者の年齢と接種歴によって決定します。


<汚染の可能性がある外傷時の治療および破傷風の治療>

・まず創傷部の洗浄が大切です。

・ABPC等のペニシリン系抗生剤を14日間投与します。

・受傷時に破傷風免疫ヒトグロブリン(TIG)を打ち、創傷部位に残っている破傷風毒素の中和を行います。

神経繊維に吸着された毒素に対しては無効で、毒素は神経繊維内を1時間に1cmの速度で中枢に運ばれます。

・中等症~重症では抗痙攣剤や筋弛緩薬を投与し、人工呼吸管理を行います。

開口障害、嚥下障害、筋弛緩薬のために肺炎合併のリスクは高い。

・毒素は極めて少なく後天的な免疫はできない。

そのため破傷風の再燃もしくは再感染が起き得るため回復期には破傷風トキソイドを1ヶ月と6~12ヶ月間隔で3回接種します。

症例によってはDPTやDTワクチンを選択します。

破傷風トキソイドは致死量の数万倍の毒素量を無毒化したもので、十分に免疫が付く量です。