ピロリ除菌後PPI長期使用で胃がんリスク上昇

胃癌の90%以上が、Helicobacter Pylori菌によって起こっています。


中国・University of Hong KongのKa Shing Cheung氏らは、香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)に登録された成人6万例超のデータを解析した結果、Helicobacter pylori(H. pylori)除菌後のプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用により胃がん発症リスクが2倍以上に上昇し、リスクはPPIの使用頻度(用量)および期間とともに上昇することが示されたとGut(2017年10月31日オンライン版)に発表した。


除菌後PPI使用は2.7年

 これまでの研究からPPI使用と胃がんリスク上昇との関連は示されていたが、解析対象にH. pylori陽性例と陰性例の両者が含まれ、H. pylori感染が交絡因子として調整されていないことが問題視されていた。

 そこで、Cheung氏らはCDARSデータベースから、2003~12年に7日間以上のクラリスロマイシンを含む3剤併用療法によるH. pylori除菌を受けた成人6万3,397例(除菌時の年齢中央値54.7歳、男性46.5%)を抽出。初回処方日から胃がん診断、死亡、研究終了(2015年12月31日)までのいずれか最も早い日まで追跡した。陰性対照として、H2受容体拮抗薬(H2RA)の使用者でも同様の検討を実施した。

H. pylori除菌失敗例、除菌前または除菌後12カ月以内に胃がんと診断された患者、除菌時または除菌後に胃潰瘍と診断された患者は除外した。また、初発症状バイアスを回避するため、胃がん診断前6カ月以内のPPI/H2RA処方開始例も除外した。

 中央値7.6年の追跡期間中に週1回以上の頻度でPPIを使用した患者(PPI使用者)は3,271例(5%)で、使用期間の中央値は2.7年(IQR 1.5~5.1年)であった。


H2受容体拮抗薬は胃がんリスクと関連なし

 全体で、追跡期間中に153例(0.24%)が胃がんを発症した(人口1万人・年当たり3.2例)。全例が胃がん診断時にH. pylori陰性で、慢性胃炎を発症していた。H. pylori除菌から胃がん発症までの期間の中央値は4.9年〔四分位範囲(IQR)2.7~7.2年〕。PPI使用者の胃がん発症は19例(0.6%)であった(人口1万人・年当たり8.1例)。

 傾向スコアで調整したCox比例ハザードモデルによる解析の結果、PPI使用者は非使用者(週1回未満の使用)と比べて胃がんリスクが高かった〔ハザード比(HR)2.44、95%CI 1.42~4.20〕。PPI使用者と非使用者の絶対リスク差は人口1万人・年当たり4.29例(95%CI 1.25~9.54例)であった。

 一方、H2RA使用と胃がんリスク上昇との関連は認められなかった(HR 0.72、95%CI 0.48~1.07


3年以上のPPI連用でリスク8倍

 胃がんリスクはPPI使用頻度の増加とともに上昇し、非使用者と比べた胃がんのHRは週1回以上~6日以下の使用頻度では2.43(95%CI 1.37~4.31)、連日使用では4.55(同1.12~18.52)であった。

 さらに、胃がんリスクはPPI使用期間の延長とともに上昇し、非使用者と比較した連日使用者の胃がんのHRは使用期間1年以上では5.04(95%CI 1.23~20.61)、2年以上では6.65(同 1.62~27.26)、3年以上では8.34(同 2.02~34.41)であった。

 以上の結果から、Cheung氏らは「PPIの長期使用はH. pylori除菌療法を受けた患者の胃がん発症リスクを上昇させ、胃がんリスクはPPIの用量増加および使用期間延長とともに上昇する。したがって、H. pylori除菌の成功後も、PPIを長期処方する際には注意を要する」と結論付けている。


Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study.

Cheung KS, Chan EW, Wong AYS, Chen L, Wong ICK, Leung WK.

Gut. 2018 Jan;67(1):28-35. doi: 10.1136/gutjnl-2017-314605. Epub 2017 Oct 31.


Abstract

OBJECTIVE:

Proton pump inhibitors (PPIs) is associated with worsening of gastric atrophy, particularly in Helicobacter pylori (HP)-infected subjects. We determined the association between PPIs use and gastric cancer (GC) among HP-infected subjects who had received HP therapy.

DESIGNS:

This study was based on a territory-wide health database of Hong Kong. We identified adults who had received an outpatient prescription of clarithromycin-based triple therapy between year 2003 and 2012. Patients who failed this regimen, and those diagnosed to have GC within 12 months after HP therapy, or gastric ulcer after therapy were excluded. Prescriptions of PPIs or histamine-2 receptor antagonists (H2RA) started within 6 months before GC were excluded to avoid protopathic bias. We evaluated GC risk with PPIs by Cox proportional hazards model with propensity score adjustment. H2RA was used as a negative control exposure.

RESULT:

Among the 63 397 eligible subjects, 153 (0.24%) developed GC during a median follow-up of 7.6 years. PPIs use was associated with an increased GC risk (HR 2.44, 95% CI 1.42 to 4.20), while H2RA was not (HR 0.72, 95% CI 0.48 to 1.07). The riskincreased with duration of PPIs use (HR 5.04, 95% CI 1.23 to 20.61; 6.65, 95% CI 1.62 to 27.26 and 8.34, 95% CI 2.02 to 34.41 for ≥1 year, ≥2 years and ≥3 years, respectively). The adjusted absolute risk difference for PPIs versus non-PPIs use was 4.29 excess GC (95% CI 1.25 to 9.54) per 10 000 person-years.

CONCLUSION:

Long-term use of PPIs was still associated with an increased GC risk in subjects even after HP eradication therapy.

H.pyloriがいなければ、PPIは胃ガンのリスクを上げませんし、塩分も胃ガンのリスクを上げません。

しかしPPIは骨粗しょう症のリスクや、認知症のリスクを上げたり、塩分は高血圧のリスクとなるので、摂り過ぎても大丈夫という訳ではありません。


副作用の観点からH2RAの方が安全と言えるでしょう。


HelicobacterHeilmannii やEBVによる胃ガンもあるため、全ての胃ガンがHelicobacterPylori菌が原因という訳ではありませんが、多くの胃ガンはPylori菌が原因です。