感冒ウイルスの分類
感冒や風邪という言葉は漢代の医学から来ている。一般には「発熱、咳、鼻汁」等の症状を持つウイルス感染症を指すことが多い。
最も頻度が高いのが、ライノウイルス(Rhinovirus)で感冒の30%程度、次ぎにコロナウイルス(Coronavirus)で15%程度とされている。エンベロープという脂質の膜を持たないため消毒が無効で、2020年は小児の中では圧倒的に頻度が高かった。
重要性で言うと、麻疹、RSウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、インフルエンザウイルスが重要である。
アデノウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスもエンベロープを持たないため、消毒の効果は乏しいが、2020年はかなり減っていて、この差がなぜ起きたかは(少なくとも2021年時点の私には)分からない。
時間があれば、夏の咳風邪となるパラインフルエンザウイルス、夏風邪の一種であるエコーウイルス、コクサッキーウイルス、パレコウイルス、DNAウイルスであるヘルペスウイルス属、ポックスウイルスにも触れたい。
上の短い文章から始まって気が付いたらかなりの力作になってしまった。
ウイルスの分類だけで無く、もう一つのテーマがある。
<我々はウイルスであり細菌でもありHybridである>
1.ウイルスが生まれた。
原始の海(雷の放電が重要だったという説もあるので、海面近くの大気中だったのかも知れない)の中で偶然RNAが合成されては分解され、果てしない月日が流れ、とうとうそれが偶然Group II introns のような自己複製を行う高分子RNAになった。
2.生物(古細菌)の誕生
代謝を行うようになって生物となった。(私は自己複製を行うものはRNA単体であろうが”生物”だと思っているが。)
3.真核生物の誕生(原核生物が原核生物を取り込んだ)
古細菌から長くなった遺伝情報をDNAをヒストンに巻き付けて細胞核という部屋に収納することで、コンパクトに納めておく真核生物となった。細胞核のおかげで貪食したミトコンドリアの祖先や葉緑素の祖先を消化せず、同居させることになった。
ミトコンドリアは我々と共存している細菌なのである。腸内細菌叢は数兆個あり、色々合成してもらいながら我々は生かされているが、それ以前にミトコンドリアと共存していたのである。
そしてウイルスもRetrotransposons という細胞内で遺伝子を増殖させるがVirionを作らず、宿主のライフサイクルだけで完結する遠慮がちなウイルスのだけでなく、大きな進化上の変化はウイルスによって、一気にもたらされています。
4.ウイルスが生物の進化を加速させた
2億3000万年前に「皮膚のバリア機能を支える酵素を作る」SASPase遺伝子がウイルスによって、哺乳類に取り込まれた。(PT境界よりかなり遅いので、それまで乾燥対策は大丈夫だったのか?)
PEG10は2kbpの長さの胎盤を作る遺伝子で、1億6600年前に第7番染色体に持ち込まれた。
(paternally expressed genes = PEG・・父から受け継がれたときだけ発現する遺伝子
maternally expressed genes = MEG・・母から受け継がれたときだけ発現する遺伝子
はそれぞれ200個ずつ遺伝子情報ぐらいある。ホモサピエンスの遺伝子は2万個程度なので、その1%ずつが片方の性に依存する遺伝子。)
この恐竜から逃げるのに胎生が有利に働いたのだが、胎盤という特殊な機能を持った。
PEGやMEGを利用することを選んだため哺乳類だけが単為生殖する機能を失った。
雌雄2種類しか性別が無いのは、遺伝子の多様性を持たせながら、進化していくためには3より2という数字が有利なのは自明だが、単為生殖可能な個体同士が単為生殖せずに遺伝子交換するのが最も効率的だと思うのだが、なぜ哺乳類が覇者になったかは自明では無い。
Y染色体のようなペアになっていない不安定な遺伝子を導入した方が有利だったのだろうか?
ひょっとしたら不安定さと進化の速度は表裏一体なのかも知れない。
1億4800年前に左脳と右脳を繋ぐ脳梁を太くするRTL1遺伝子がウイルスから持ち込まれた。
多くの遺伝子はウイルスから持ち込まれ、飛躍とも言える進化を何度も生み出した。
1億6600万年前に哺乳類だけが獲得した胎生と同時に常染色体からX染色体とペアを解消し独立したY染色体は不安定になり、継代毎に次第に短くなっていて、今はX染色体の1/13の長さしか無い。あと500万〜600万年後にはホモサピエンスのY染色体は消滅すると推測されている。
X染色体には2000種類の遺伝子があるが、Y染色体には現代では50種類の遺伝子しか残っていない。その殆どは精子を作らせる遺伝子とSRY(性決定)遺伝子のみである。
Y染色体が消え去るまでにSRY(性決定)遺伝子を常染色体に転座させることができるかは分からないが、おそらく既に始まっている大絶滅をホモサピエンスが乗り越えられたら、転座させることができるようになっているでしょう。
ホモサピエンスとは、ポックスウイルス科の子孫であり、ミトコンドリアとして原核生物を取込み、ウイルスを細胞内にRetrotransposonとして飼っていて、同じ配列を増幅させて使い回している。進化するときは一足飛びにウイルスの持っていた遺伝子を利用してきた。そして体内に真正細菌とも共存して利用している。
汚物のように扱われるウイルスや細菌だが、我々は彼らのおかげで初期の多細胞生物から僅か5〜6億年の間にホモサピエンスまで進化することができた。
以上のことを念頭に置きながら、ウイルスの分類を読んで欲しい。
<生命とは?>
今までは細菌は我々と同様に代謝と自己複製が可能という点で、「生命」と考えられていて、
一方ウイルスは代謝系酵素を持たず、自己複製を自己完結できないという点で、生命では無く「物質」であると考えられてきた。
しかし細菌より大きなウイルスが発見されたり、代謝系酵素の遺伝子を持つウイルスが発見されたり、この境界は曖昧になってきた。
ここでは慣例に従って、ウイルスは生命では無いという前提で話しを進め、このページの一番下でもう一度、このことに触れる。
<生物の分類の原則>
生物では最上位の分類はDomainです。
1.動物・植物を含む真核生物(Domain Eukarya)
2.古細菌(アーキア)(Domain Archaea)
3.真正細菌(バクテリア)(Domain Bacteria)
の3つに分かれている。
元々ポックスウイルス科との共通祖先が代謝系酵素の遺伝子を獲得して古細菌が生まれた可能性が高い。
(この部分は私見です。Missing linkがあります。)
古細菌から分岐したのは真正細菌の方が早い。
動植物は、その後、古細菌から分岐した。
<真核生物Domain>
真核生物には以下の4つのDomainがある。
1.動物界(Kingdom Animalia)海綿動物門から節足動物門や脊索動物門まで30以上の門がある。
2.植物界(Kingdom Plantae)4つの門がある。
3.菌界(Kingdom Fungi)カビ、キノコ、酵母等。未だに門の分類法が議論されていて定まっていない。
4.原生生物界(Kingdom Protista)菌界にも植物界にも動物界にも属さない真核生物の総称。昆布、海苔、アメーバ、ゾウリムシ等。
<古細菌Domain>
Euryarchaeota、Proteoarchaeotaと2つの界があり、その下に10以上の門がある。
<真正細菌Domain>
70程度の門がある。このうちホモサピエンスと共存できるのは4つの門だけである。
<ウイルスの分類>
<ウイルスの分類> <脊椎動物の分類(ホモサピエンスの例)>
レルム(Realm; -viria) 脊椎動物で最上位分類はDomainという。
界(Kingdom; -virae) Animalia(動物)
門(Phylum; -viricota) Chordata(脊索動物)
亜門(subphylum ; -viricotina ) Vertebrata(脊椎動物)
綱(class ; -viricetes) Mammalia(哺乳綱。有袋類や単孔類を含む。)
下綱 Placentalia(有胎盤類)
目 (order; -virales) Primates(霊長類/サル目)
亜目 (suborder) Haplorrhini(直鼻猿亜目。メガネザル科を含む。)
下目 Simiiformes(真猿類。クモザルを含む。)
上科 Hominoidea(ホモ上科。オランウータン科とテナガザル科を含む。)
科 (family; -viridae) Hominidae(ホモ科。ギガントピテクス属を含む。)
亜科 (subfamily; -virinae) Homininae(ホモ亜科。ゴリラ属を含む。)
族 Hominini(ホモ族。チンパンジー属を含む。)
亜族 Hominina(ホモ亜族。700万年前にチンパンジー属と別れて以降のホモ族。)
属 (genus; -virus) Homo(ホモ属。Australopithecus属から別れ、石器を使うようになった250万年以降のホモ亜族。)
亜属 (subgenus)
種 (species; -virus) Homo sapiens(ホモサピエンス種)
亜種 Homo sapiens sapiens(ホモサピエンスとホモネアンデルターレンシスを同種とするとか未確定。)
株 (strain)
— 2019年,ICTV
2019年のICTV発表では、4レルム (realm)、9界 (kingdom)、16門 (phylum)、8亜門 (subphylum)、36綱 (class)、55目 (order)、8亜目 (suborder)、168科 (family)、103亜科(subfamily)、1421属 (genus)、68亜属 (subgenus)、6590種 (species)である。
青い文字はウイルスの分類のみに現れる分類。オレンジの文字は脊椎動物にあり、ウイルスには無い分類。
後にしばしば出てくる「Ortho-」や「Para-」という接頭詞はそれぞれ「正統の」と「傍流の」という意味です。
<ボルティモア分類>
ウイルスの分類は以下のように行われている。
+鎖(mRNAと同様に遺伝子が5'→3'方向に読み取られる)を用いる場合と、
-鎖(遺伝子が相補鎖を使って3'→5'方向に読み取られる)を用いる場合がある。
第1群 (Group I) - 2本鎖DNA (dsDNA)
第2群 (Group II) - 1本鎖DNA (ssDNA)
第3群 (Group III) - 2本鎖RNA (dsRNA)
第4群 (Group IV) - 1本鎖RNA +鎖(mRNAとして作用) ((+)ssRNA)
第5群 (Group V) - 1本鎖RNA -鎖 ((−)ssRNA)
第6群 (Group VI) - 1本鎖RNA+鎖逆転写 (ssRNA-RT)
第7群 (Group VII) - 2本鎖DNA逆転写 (dsDNA-RT)
https://www.nature.com/articles/s41564-020-0755-4?proof=t
<ウイルスの分類について>
ウイルス学では最上位分類をレルム(Realm)と言う。生物分類学ではDomainに相当する。
2020年時点では、4つのRealm(DNAウイルスが3Realm、RNAウイルスが1Realm)の下に9つのKingdomが分類されている。
二本鎖DNAウイルス
<Realm Varidnaviria>
<Realm Duplodnaviria>
一本鎖DNAウイルス
<Realm Monodnaviria>
RNAウイルス
<Realm Riboviria>
RNAウイルス
まずはRNAウイルスからです。種類が多く、節足動物を介して媒介されるもの(もしくは元々は節足動物によって媒介されていたもの)が多いことに驚きます。
<Realm Riboviria>
RiboviriaはRNA依存性RNAポリメラーゼないしRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)によってゲノムが複製されるウイルス群で、ribosomeを利用する共通祖先から進化したRealmである。
主に、二本鎖RNAウイルス、一本鎖プラス鎖RNAウイルス、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスという3つの大きな群を含むOrthornaviraeという一群がある。(第3群、第4群、第5群)
逆転写酵素を利用する一部のDNAウイルスも含まれるPararnaviraeという一群とに別れる(第6群、第7群)。
<Kingdom Orthornavirae界>
RNA依存性RNAポリメラーゼを利用する一群がOrthornaviraeである。(真ん中にRNAという文字が入っていることに注意。)
一般の人が想像する普通のウイルスの多くはここに含まれる。
★第3群 (Group III) - 2本鎖RNA (dsRNA)
◎ドゥプロルナウイルス門 Duplornaviricota - 2本鎖RNAゲノムを持つ。
目未帰属:Reoviridae科 > rotavirus属 > rotavirus A
★第4群 (Group IV) - 1本鎖RNA +鎖(mRNAとして作用) ((+)ssRNA)
◎レナルウイルス門 Lenarviricota - プラス鎖RNAゲノムを持つ原核生物に感染するウイルス
◎キトリノウイルス門 Kitrinoviricota - プラス鎖RNAゲノムを持つ真核生物に感染するウイルス群。
(Flaviviridae科等。日本脳炎やC型肝炎を含む。)
◎ピスウイルス門 Pisuviricota - プラス鎖RNAもしくは2本鎖RNAゲノムを持つ。
(Picornaviridae科等。コロナ、ライノ、エンテロ、ノロ、アストロを含む。)
★第5群 (Group V) - 1本鎖RNA -鎖 ((−)ssRNA)
◎ネガルナウイルス門 Negarnaviricota - マイナス鎖RNAゲノムを持つ。元々節足動物に感染する2本鎖RNAだった最重要ウイルス群。
<Kingdom Pararnavirae界>
逆転写酵素を利用する一群。名前に「RNA」という文字が入っているが、DNAウイルスも含まれる。
★第6群 (Group VI) - 1本鎖RNA+鎖逆転写 (ssRNA-RT)
Artverviricota門 > Revtraviricetes綱 > Ortervirales目 > Retroviridae科 > OrthoRetrovirus亜科 > Lentivirus属 > HIV-1, 2
Artverviricota門 > Revtraviricetes綱 > Ortervirales目 > Retroviridae科 > OrthoRetrovirus亜科 > GammaRetrovirus属 > HTLV-1, 2
という重要な一群を含む。
★第7群 (Group VII) - 2本鎖DNA逆転写 (dsDNA-RT)
Artverviricota門 > Revtraviricetes綱 > Blubervirales目 > Hepadnaviridae科 > Orthohepadnavirus属 > Hepatitis B virus
図. <Negarnaviricota門全体の分類>
この図には無い Kitrinoviricota門とPisuviricota門とArtverviricota門にも重要なウイルスが含まれるが、
Negarnaviricota門が最も重要。この図全体がNegarnaviricota門で、
更にその上半分Haploviricotina亜門の先端部分にあるMononegavirales目が最重要!
(下半分のPolyploviricotina亜門には出血熱のグループと、インフルエンザが含まれるので、軽視してはいけないが。)
<Negarnaviricota(ネガルナウイルス門)>
(−)ssRNAウイルス(Negative-sense single-stranded RNA virus)と書かれる。
元々はレオウイルス科に近い原始的な二本鎖RNAウイルス群だった。
Negarnaviricotaは以下の2つの亜門に分類される。
1.Haploviricotina (ハプロウイルス亜門):メンバーの大部分はゲノムが分節化されておらず、mRNAのキャップを合成するRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードしている。
2.Polyploviricotina(ポリプロウイルス亜門:メンバーはゲノムが分節化されており、宿主のmRNAからキャップ部分を切り取る(キャップスナッチング)RdRpをコードしている。
病原体として脊椎動物にとって最も重要な(−)ssRNAウイルスは節足動物と密接に関係しており、
伝染を節足動物に依存しているウイルスと、
現在では節足動物の助けを借りずに脊椎動物で複製することができるようになったウイルスとに非公式に分類されることもある。
有名な節足動物媒介性の(−)ssRNAウイルスには、リフトバレー熱ウイルスがある。
特筆すべき脊椎動物の(−)ssRNAウイルスとしては、エボラウイルス、ハンタウイルス、インフルエンザウイルス、ラッサウイルス、狂犬病ウイルスが挙げられる。
2億5000万年前のPT境界以前は酸素が現在の1.5倍ほど多く昆虫の時代だった。節足動物を宿主として(−)ssRNAウイルスは高度の多様性を獲得した。現在でも昆虫は種は、全ての脊椎動物を合わせた種よりも数倍多く、大量のウイルスの宿主として機能している。
植物に感染する(−)ssRNAウイルス、および脊椎動物に感染するように進化した(−)ssRNAウイルスは現在も昆虫に感染できる。
昆虫だけに感染するものが(−)ssRNAウイルスの中では最も原始的で、植物に感染する種や脊椎動物に感染する種はより進化したものである。
脊椎動物の中では昆虫を主に食べ、移動距離が大きいコウモリと齧歯類が多くのウイルスの共通媒介者となっている。
エボラウイルスはコウモリが宿主で、狂犬病は犬とコウモリが主な宿主となっている。
ラッサウイルスとハンタウイルスは齧歯類によって媒介される。
インフルエンザは鳥を宿主としている。
麻疹は元々数千年前に中東で牛からヒトに感染したが、今はヒトだけを宿主とする。
<Haploviricotina (ハプロウイルス亜門)>
ウイルスmRNAのキャップ構造を合成するRdRpをコードする(−)ssRNAウイルスが含まれ、通常分節化されていないゲノムを持つ。
以下の4綱から成る。
1.Chunquiviricetes綱:(ハプロウイルス亜門で最も分岐が古い) > Muvirales目 > Qinviridae科 > Yingvirus属
2.Yunchangviricetes綱:(2番目に分岐が古い) > Goujianvirales目 > Yueviridae科 > Yuyuevirus属
3.Milneviricetes綱(3番目に分岐が古い) > Serpentovirales目 > Aspviridae科 > Ophiovirus属
4.Monjiviricetes綱 > Jingchuvirales目
Monjiviricetes綱 > Mononegavirales目
> (Rhabdoviridae科(狂犬病等)+Lispiviridae科)と(Filoviridae科+Pneumoviridae科+Paramyxoviridae科)がすぐに2つに分岐した。
> 後者の共通祖先からまずFiloviridae科(エボラ等)が分岐。
次ぎにPneumoviridae科(RSV等)が分岐。残った群からSunviridaeが分岐して残った大きな群がParamyxoviridae科となった。
> Paramyxoviridae科 > Morbillivirus属(麻疹)とRubulavirus属(Parainfluenza virusやMumps)が分岐した。
<Polyploviricotina (ポリプロウイルス亜門)>
ウイルスmRNAのキャップとして宿主のmRNAのキャップを利用するRdRpをコードする(−)ssRNAウイルスが含まれ、分節化されたゲノムを持つ。
以下の2綱から成る。
1.Ellioviricetes綱 > Bunyavirales目 > Nairoviridae科(クリミアコンゴ出血熱)、Phenuiviridae科(SFTS)、Hantaviridae科等出血熱を起こす大きな群。
2.Insthoviricetes綱 > Articulavirales目 > Orthornaviridae(オルソルナウイルス科) > influenza A virus (種)
図. <Mononegavirales目全体の分類>
下半分のRhabdoviridae科が狂犬病のグループ。真ん中上方のピンクのFiloviridae科がエボラのグループ。
真ん中上方、やや右の赤い枠がRSウイルスのグループ。一番右が麻疹、パラインフルエンザ、ムンプスのグループ。
<Order Mononegavirales(モノネガウイルス目)>
11科を含む一群。
非分節マイナス鎖RNAをゲノムに持つことから「非分節=Mono」「マイナス鎖=Negative」と名付けられる。エンベロープを持つ。
モノネガウイルス目全般に神経向性があり、免疫学的脳炎を起こすことがある。
特に重要なものは以下の3科:
・Family Rhabdoviridae(ラブドウイルス科。Virionが銃弾型でギリシャ語で棒を意味するrhabdosに由来する。狂犬病ウイルス等)
・Family Filoviridae(フィロウイルス科。多形性でfilament状:直径80nm、長さ14000nm。マールブルグウイルス、エボラウイルス等)
・Family Paramyxoviridae(パラミクソウイルス科。myxo=「粘液・ぬめり」の意味。ニューカッスル病ウイルス、麻疹ウイルス等)
・Family Pneumoviridae(ニューモウイルス科。ヒトオルソニューモウイルス(別名RSウイルス)、ヒトメタニューモウイルス等)
・Family Bornaviridae(ボルナウイルス科。ボルナウイルス属:細胞核内に寄生する唯一のRNAウイルス。)
Paramyxovirius科 > OrthoParamyxovirus亜科 > Morbillivirus属 > measles virus は最も重要なウイルス。
麻疹を含むMorbillivirus属は強力な感染性と、血清型が単一で限られた宿主にのみ感染するため、ワクチンが作り易い。
Pneumovirus科は以前はParamyxovirius科だった。ウイルス蛋白やアクセサリー蛋白の特徴が似ていたが、独立した。
Rhabdovirus科 > Lyssavirus属 > Rabies lyssavirus(狂犬病)がMononegaviralesの中では重要である。
<麻疹ウイルス、パラインフルエンザウイルス>
Paramyxovirus科に属する麻疹はホモサピエンスの歴史で、ペストに次ぎ、悲惨なパンデミックを起こした。
高率に肺炎を起こす。
同じParamyxovirus科に属するパラインフルエンザウイルスはRSウイルスに似ていて、HPIV1型と2型は秋に流行し、3型は春〜夏に流行する。RSウイルスの流行期が冬から夏に移行した2010年代以降は鑑別が難しい。
RSウイルスとの違いはRSウイルスは咳や鼻汁が先行することが多く、パラインフルエンザウイルスは熱が先行したり、嗄声が起きやすく、鼻汁が少ないことぐらいで、酷くなると臨床症状だけでRSウイルスと鑑別が難しい。
<RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス>
乳幼児に急性細気管支炎を起こすことで有名なウイルスで、親や乳幼児にとってはインフルエンザよりきつい感染症です。
乳幼児の肺炎の約50%を占め、細気管支炎の50〜90%を占める。咳の無い不顕性感染は殆ど無いが、初期には胃腸炎症状が先行することもある。
代表的なウイルスにRSウイルスとヒトメタニューモウイルスがあります。性質や症状はかなり似ている。
オルトルナウイルス界 > ネガルナウイルス門 > ハプロウイルス亜門 > モンイウイルス綱 > モノネガウイルス目 >
Pneumovirus科(以前はParamyxovirus科だった) > Pneumovirus亜科 > Pneumovirus属 > RSV (種:species)
Pneumovirus科(以前はParamyxovirus科だった) > Pneumovirus亜科 > MetaPneumovirus属 > hMPV (種:species)
Paramyxovirus科 > Rubulavirus亜科 > Rubulavirus属 > Parainfluenza (種:species)
Paramyxovirus科 > Rubulavirus亜科 > OrthoRubulavirus属 > mumps virus (種:species)
Paramyxovirus科 > OrthoParamyxovirus亜科 > Morbillivirus属 > measles virus (種:species)
と分類され互いに遺伝子も類似しています。
RSVは冬に流行し、hMPVがそれより遅れて春に流行することが多かったのですが、RSVのウイルス粒子(Virion)は5℃未満と25℃以上という両極で安定する性質があるため、2010年代から日本では流行期が夏に移動してきました。
母親から抗体が移行するが、それは殆ど意味を為さないため、生後半年未満でも容易に感染して、重症化する。
<ボルナウイルス属>
4000万年以上前から霊長類の祖先に寄生している。我々ホモサピエンスのゲノムにも少なくとも7ヶ所以上に組み込まれていて、機能性タンパクをCodeしている。健康な人からも検出される。
核内で増殖する珍しいウイルスで、逆転写酵素を持たないが、宿主のretro transposonを利用して宿主のDNAに逆転写し寄生する。
Virionは見つかっていない。
馬と羊には感染性があり、髄膜脳炎を起こす。ヒトに脳炎を起こすが稀である。精神疾患(気分障害、統合失調症、自閉症、海馬硬化症)との関連も指摘されているが、精神疾患の原因としてはせいぜい1%以下で、未だ明らかでは無い。
鳥に感染すると消化管の神経節に感染し、消化管の動きが止まる。
多くの宿主の中では何も起こさない不顕性感染となる。
<influenza virus>
Orthornavirae界 > Negarnaviricota(ネガルナウイルス門) > Polyploviricotina (ポリプロウイルス亜門)
> Insthoviricetes綱 > Articulavirales目 > Orthornaviridae(オルソルナウイルス科) > influenza A virus (種)
インフルエンザウイルスもボルナウイルス属と同様に核内で増殖する数少ないウイルスである。
<19世紀以降のインフルエンザのパンデミック>
Spanish flu (1918-20)
Asian flu (1957-58)
Hong Kong Flu (1968-69)
Russian flu (1977-78)
H1N1/09pmd (2009)
<Reoviridae(レオウイルス科)>
ビリオンは直径60-80nmの正二十面体構造を示し、10-12本の線状の二本鎖RNAをゲノムに持つ。エンベロープを持たない。
ロタウイルスを含む一群。最も原始的で、上位分類が未確定である。
Negarnaviricota門全体とReoviridae科は近縁関係にあり、Reoviridaeの方がより原始的。
<Kitrinoviricota門(キトリノウイルス門)>
第4群 (Group IV) - 1本鎖RNA +鎖(mRNAとして作用) ((+)ssRNA)
Kitrinoviricota門 > Flasuviricetes綱 > Amarillovirales目 > Flaviviridae科 > Flavivirus属 > Japanese encephalitis virus 日本脳炎 (種:species)
フラビウイルス属には、日本脳炎の他にデング熱、西ナイル熱、黄熱病、ジカ熱等を含み、脳炎や血小板減少症を起こす。
フラビウイルス科には、C型肝炎ウイルスやG型肝炎ウイルスを含む。
下図の下1/4程度の範囲がフラビウイルス科である。フラビウイルス科の大半が蚊やダニのような節足動物を介して感染する。
<Pisuviricota門(ピスウイルス門 )>
第4群 (Group IV) - 1本鎖RNA +鎖(mRNAとして作用) ((+)ssRNA)
Nidovirales目 > Coronaviridae科
Picornavirales目 > Picornaviridae科 > Enterovirus属 > Rhinovirus , Enterovirus
目(order)は未帰属だが、
Togaviridae科 > Rubivirus属 > 風疹ウイルス
Flaviviridae科 > Flavivirus属 > 日本脳炎やデング熱や黄熱病等
Caliciviridae科 > Norovirus属とSapovirus属
Astroviridae科 > Mamastrovirus属 > Mamastrovirus 1-19型
Hepeviridae科 > Hepacivirus属(C型肝炎ウイルス)
が含まれる。
Picornaviridae科等。ライノウイルス属、エンテロウイルス属、αコロナウイルス属、βコロナウイルス属、ノロウイルスを含む。
下図の上から4番目がカリシウイルス科で、ノロウイルスとサポウイルスを含む。
図の右側に横倒しになった英語で「Picornavirales(825)」と書かれているのが、ピコルナウイルス目で「Picornaviridae(245)」と書かれたものが、ピコルナウイルス科で、Enterovirus(手足口病やポリオを含む)とRhinovirus(鼻風邪ウイルス)が含まれます。
その下の横倒しになった英語で「Nidovirales(73)」と書かれた群にコロナウイルス科が含まれます。
下から3個目がAstroviridae(アストロウイルス科)です。
<ライノウイルスの分類>
Orthornavirae(オルトルナウイルス界) > Pisuviricota(ピスウイルス門) > Pisoniviricetes(ピソニウイルス綱) > Picornavirales(ピコルナウイルス目) > Picornaviridae(ピコルナウイルス科) > Enterovirus(エンテロウイルス属) > Rhinovirus A , Rhinovirus B , Rhinovirus C species
と3つの種に分かれる。Enterovirus A-J の10個の種(Species)と合わせてエンテロウイルス属は13種になる。
Picornavirales(ピコルナウイルス目)にはCaliciviridae(カリシウイルス科)が含まれ、CaliciviridaeにはNorovirusとSapovirusが含まれる。
<症状と頻度>
感冒ウイルスの中で最も頻度が高いのが、Rhinovirusで「ライノ」とは鼻という意味です。いわゆる風邪症候群の中の30%程度を占めています。エンベロープという脂質の外殻構造を持たないため、アルコールで失活せず2020年は自粛下でも幼児では割合としてむしろ倍増しました。(分母となる感染症全体が減ったため仕方が無いことです。2020年はアデノやコクサッキーといったエンベロープを持たないウイルスが殆どを占めた。)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irv.12854
100種類以上の型があり、おそらくホモサピエンス以前から共存してきたのでしょう。多くのRhinovirusは鼻汁が主症状のいわゆる鼻風邪として発症しますが、時にはRSVのような急性細気管支炎を起こして呼吸困難になることもあります。2020年の保育園で幼児が皆鼻汁を垂らしていたのはRhinovirusのクラスターがほぼ全ての保育園で起きていたことを意味します。
<特徴>
言葉に由来する。ヒトで最も一般的なウイルス感染性病原体である。
鼻に見られる温度である33〜35°Cの温度で最も増殖し易い。
ライノウイルスの3種(A、B、C)には、表面タンパク質(血清型)によって異なる約160種類の認識されたヒトライノウイルス(HRV)が含まれている。それらは本質的に溶解性であり、直径が約30ナノメートルの最小のウイルスの1つです。
比較すると、天然痘やワクシニアなどは約300nmで約10倍大きく、インフルエンザウイルスは約80〜120nmである。
★エンベロープという脂質の膜を持たないためアルコール消毒は無効。
★一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。
★RNAウイルスとしては少ない遺伝子を持つ。
★遺伝子変異を修復する酵素を持たないため変異速度が速い。
★腸管で増殖する。
<コロナウイルスの分類>
ここでコロナウイルスの分類について触れておきます。SNSで文系出身の人が「コロナウイルスにはアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4種類あり、アルファがデルタ株に突然変異した。」と書き込んでいてビックリしたので、補足する必要があると感じました。
<頻度と症状>
Rhinovirusの次に多いのが、Coronavirusで、感冒の15%程度を占めています。少ない年で5%、大流行すると40%に達するそうです。過去にホモサピエンスの感染した記録があるのは7種類で、共存することになったのは5種類です。
咳が出るものが多く、鼻汁は4種ある季節性コロナウイルスの場合、鼻汁が出る頻度は50%程度で、比較的鼻汁は少ない方だ。
SARS-CoV-2の従来株は鼻汁が出る頻度は5〜10%程度で、鼻汁が少ないウイルスだった。しかしデルタ株は鼻汁が出る頻度が高い。
従来株による嗅覚障害はヨーロッパでは50〜60%程度で起きていたが、日本人では15〜20%と頻度が3倍違うため、鼻汁の頻度も日本人、少なくともアジアからの報告を待つ必要があると思う。
<Coronavirusの特徴>
★エンベロープという脂質の膜を持つ。
★一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。
★RNAウイルスとしては26-32kbpとかなり長い遺伝子を持つ。
★遺伝子変異を修復する酵素を持っている。従ってRNAウイルスとしては変異速度が遅い。
<Coronavirusの分類>
Realm Riboviria > Orthornavirae界 > Pisuviricota門 > Pisoniviricetes綱 > Nidovirales目(ニドウイルス目) > Cornidovirineae(コルニドウイルス亜目) > Coronaviridae(コロナウイルス科) > Orthocoronavirinae(オルソコロナウイルス亜科)
の中に更に、
1.アルファコロナウイルス属(Alphacoronavirus)
1−1. Duvinacovirus亜属 > HCoV-229E
(1884年頃コウモリ由来ラクダ経由で出現。CD13(アミノペプチダーゼN受容体)から侵入。通常、軽症。)
https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/mSphere.00819-20
1−2. Setracovirus亜属 > HCoV-NL63
(1000-1200年頃コウモリの229E関連ウイルス共通祖先から分岐し出現。ACE2受容体から侵入。細気管支炎の原因になる。)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022283606012988?via%3Dihub
2.ベータコロナウイルス属 (Betacoronavirus)
2−1. Embecovirus亜属
(スパイク状の表面糖タンパク質ヘマグルチニン・エステラーゼ を持つ。N-アセチル-9-O-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)受容体と結合して侵入。Neu5Ac受容体は脳に豊富にあるため、Embecovirus亜属は他のコロナウイルス科に比べて直接浸潤による脳炎やADEMの頻度が高い。ヘマグルチニン・エステラーゼ やヘマグルチニンは赤血球を凝集させるため血栓が起きやすい。ヘマグルチニン・エステラーゼ はEmbecovirus亜属の他にインフルエンザCが持っている。)
> HCoV-HKU1(出現時期不明 ネズミを経由?)
2−2. Embecovirus亜属
> Betacoronavirus1 > HCoV-OC43 (1890年頃出現 牛を経由)
https://journals.asm.org/doi/10.1128/JVI.02675-05
2−3.Sarbecovirus(サルベコウイルス)亜属 > SARS-CoV-1(ACE2受容体から侵入。)
2−4.Sarbecovirus(サルベコウイルス)亜属 > SARS-CoV-2(ACE2受容体から侵入。SARS-CoV-1との遺伝子相同性は80%程度。)
2−5.Merbecovirus (メルベコウイルス)亜属 > MERS-CoV(DPP-4を受容体として侵入。ラクダ肉やラクダ乳を食べて感染。ヒトーヒト感染は少ない。)
3.ガンマコロナウイルス属 (Gammacoronavirus)
4.デルタコロナウイルス属 (Deltacoronavirus)
5.未分類
と主に4つのグループに分かれます。(未分類がたくさんあるので、将来はもっと増える可能性があります。)
1965年に最初にヒトから分離されたB814等、今までに30種類以上のヒトに感染したコロナウイルスが報告されていますが、229E、NL63、HKU1、OC43、SARS-CoV-2の5種以外はヒトに定着できずにいます。
2021年8月時点で世界中に広がっているデルタ株とはSARS-CoV-2の中の重要な変異株に対してαから順に名前を付けていったもので、デルタ株はベータコロナウイルス属 のままです。デルタコロナウイルス属 に突然変異はできません。
<Orthocoronavirinae亜科の分岐図>
上のOrthocoronavirinaeの図中のBetacoronavirusの下の方にSARS-CoV-2がある。
そのSARS-CoV-2の中の変異株(Strain)の分岐
<スパイクタンパクの構造>
β-coronavirus属の Embecovirus亜属(HKU1とOC43)はスパイク状の表面糖タンパク質ヘマグルチニン・エステラーゼ(HE) を持つ。
インフルエンザCも表面にヘマグルチニン・エステラーゼ を持つ。HEは侵入時に使われるHAタンパクと同じ働きを持っているだけでなく、加水分解によって切り出して、細胞から出て行く時にも使用される。
一方、インフルエンザAとインフルエンザBはヘマグルチニン(HA)で細胞に吸着・侵入して、ノイラミニダーゼ(NA)で加水分解して細胞から出て行く。
両方を兼ねているHEの方が遺伝子が変異しにくい。
< HAタンパク> 細胞への侵入に利用。インフルエンザAとBの表面にあるHemagglutinin
⇩
<HEタンパク> 侵入とホストからの切り出しに利用。インフルエンザCとHCoVーHKU1とOC43の表面にある haemagglutinin-esterase-fusion glycoprotein。 ⇩
DNAウイルス
ここからはDNAウイルスです。RNAウイルスのRealmが1個しかないのに、DNAのRealmは3群に別れています。
SpeciesとしてはRNAウイルスの方が多いのですが、バクテリオファージのような原始的なものから、ポックスウイルス科のように真核生物との境界が曖昧になるぐらい進化したものまで多様です。
<Realm: Duplodnaviria>
★第1群 (Group I) - 2本鎖DNA (dsDNA)
Heunggongvirae 界 > Peploviricota門(ヘルペスウイルス属を含む。)
Heunggongvirae 界 > Uroviricota門(多くのバクテリオファージを含む多様性のある一群。Capsidタンパク、Portalタンパク、DNAターミナーゼ複合体を共有している。特に尾部を持つものは単系統群で、最も古いウイルス群である。エンベロープは持たない。海洋中に莫大な量が存在しており、原核生物を殺すことで炭素循環に重要な役割を負っている。)
<ヘルペスウイルス科>
Realm Duplodnaviria > Heunggongvirae界 > Peploviricota門 > Herviviricetes綱 > Herpesvirales目 > Herpesviridae科
Herpesviridae科 > Alphaherpesvirinae亜科 > Simplexvirus属(単純ウイルス属) > HSV-1, HSV-2 (種)
Alphaherpesvirinae亜科 > Varicellovirus属(バリセロウイルス属) > HHV-3 (種)
Herpesviridae科 > Betaherpesvirinae亜科 > cytomegalovirus属 > cytomegalovirus (HHV-5)
Betaherpesvirinae亜科 > Roseolovirus属 > HHV-6A、HHV-6B(CD46を受容体として侵入する)、HHV-7
Herpesviridae科 > Gammaherpesvirinae亜科 > Lymphocryptovirus属 > Epstein-Barr virus (HHV-4)
Gammaherpesvirinae亜科 > Rhadinovirus属 > Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus (HHV-8)
Betaherpesvirinae科はDNAにテロメアと同じTTAGGGの繰り返し配列を持っていて、自身のDNAをサブテロメア領域に組み込む。HHV-6は多発性硬化症、慢性疲労症候群、線維筋痛症、抑欝の原因となったり、EBVを活性化させたりする反面、アポトーシス関連遺伝子を抑制したり、テロメア領域への組み込みを補助するという宿主の生命維持に役立つという共存性も持つ。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S128645791100089X?via%3Dihub
<Realm: Varidnaviria>
★第1群 (Group I) - 2本鎖DNA (dsDNA)
垂直のゼリーロール構造を持ち、疑似六量体カプソマーを形成する主要カプシドタンパク質(MCP)を持つ二本鎖のDNAウイルスを含む。多くの場合、パッケージタンパク質やDNAポリメラーゼも進化的に共通している。尾部を持たない。
垂直のゼリーロール構造とは、対向する4対の逆平行βシート(ゼリーロール)が、カプシド殻面に対して垂直に配置していることを意味する。
(Riboviriaの一部ウイルスも主要カプシドタンパク質にゼリーロール構造を持つが、これらは大半がRNAウイルスであり、またゼリーロールがカプシド殻面に対して平行に配置している。)
<アデノウイルス属>
★第1群 (Group I) - 2本鎖DNA (dsDNA)
二本鎖直鎖状DNAウイルスで、Capsidは直径約80-100nmの正20面体の球形粒子をしており、エンベロープは持たない。
Realm Varidnaviria > Bamfordvirae界 > Preplasmiviricota門 > Tectiliviricetes綱 > Rowavirales目
> Adenoviridae科 > Mastadenovirus属(Aviadenovirus属等、合計6属) > 51のSpeciesのうちHuman mastadenovirus AーGの7speciesがヒトに感染する。
SerotypeがいわゆるAdenovirus 3型とかの「型」に相当する。67型以上が見つかっている。
<ポックスウイルス科 (Family Poxviridae) >
★第1群 (Group I) - 2本鎖DNA (dsDNA)
線状の2本鎖DNAをゲノムとして持つ。
Realm: Varidnaviria > Bamfordvirae界 > Nucleocytoviricota(巨大核質DNAウイルス門) > Pokkesviricetes綱 > Chitovirales目 > Poxviridae科(ポックスウイルス科) > Genus Orthopoxvirus(Variola virus。天然痘), Molluscipoxvirus(Molluscum contagiosum virus。軟属腫)を含む。
以下のような特徴を持つため、最も真核生物に近いウイルスである。
1.DNA依存性RNAポリメラーゼを持つ。
2.サイズが大きいだけでなく、18万bp、187個の遺伝子を持ち、Genomeも大きい。
3.宿主の細胞核では無く細胞質で増殖する。
4.エンベロープを持つ。
近年は代謝系酵素の遺伝子を持つものや、細菌より大きなウイルスが見つかっていて、細菌とウイルスとの境界は曖昧になっている。
将来、2本鎖DNA (dsDNA)のウイルスからポックスウイルス科等の一群が新しいDomainとして独立するかも知れない。
<Realm: Monodnaviria>
★第2群 (Group II) - 1本鎖DNA (ssDNA)
HUHエンドヌクレアーゼ·スーパーファミリーに属すローリングサークル複製酵素を持つことを特徴とする1本鎖DNAウイルス。
単系統ではなく、プラスミドの複製機構などから複数回独立して進化したことが示されている。
<パピローマウイルス科>
★第2群 (Group II) - 1本鎖DNA (ssDNA)
Realm Monodnaviria > Shotokuvirae界 > Cossaviricota門 > Papovaviricetes綱 > Zurhausenvirales目 > Papillomaviridae科 > Firstpapillomavirinae亜科(殆どがFirstーに属する。SecondーにはGenusは1つだけ。) > Alphapapillomavirus属等々 > 160種以上ある。
一本鎖DNAウイルス。エンベロープを持たない。
<最後に>
もう一度、「生命とは何か?」という問題に戻ります。
生命の進化の中で、いくつものMissing linkが残っています。ここで述べることはあくまで確率が高そうな仮説です。
原始的惑星では、N2やCO2がたくさんあり、放電現象も頻繁に起こっていたはずです。
こういった実験環境では複数のアミノ酸が合成されることが分かっています。
原始の海の中のアミノ酸のスープで、どのようにRNAのような巨大分子を複製するようになったのかは不明です。
プリオンは自己複製できないため、自己複製できるRNAが偶然できるまでの道程は遠いように感じます。
ここが最大のMissing linkだと思います。
今でも自己複製できる最小単位はおそらくGroup II intron であり、
次ぎに複雑なものはretrotransposonsでしょう。
retrotransposonsのうち感染性を持つVirionができるようになったものが、Group VI のOrtervirales目(Retroviridae科)です。
我々の中にレトロウイルスのRNAが組み込まれているのではなく、レトロウイルスと共通の祖先としてretrotransposonsから共に進化したと言うべきでしょう。我々の中に組み込まれているのは多くのretrotransposonsによって、
(一方Group VII のBlubervirales目 (Hepadnaviridae科)も逆転写をを行いますが、Group VI とはかなり違ったウイルスで、我々と共存するウイルスではありません。)
更に複雑ですが、retrotransposonsは内部で完結して(retrotransposonsのVirionは作らずに)共存状態にいるものが、Group Iの二本鎖DNAウイルスです。
DNAウイルスの中でもポックスウイルス科と同じ特徴を持った共通祖先から偶然と淘汰を積み重ねたDNAが半分以上、未だにretrotransposonsを使うことで自己複製して同じDNA配列を繰り返して延長させてきた部分が約40%、残りの僅かな部分がボルナウイルス属由来というのが我々ホモサピエンスのゲノムです。
かなり短くなっていたY染色体を、有袋類と分岐したときに、有胎盤類はretrotransposonsによる増幅で伸張させています。
我々はウイルスそのものであったし、今もウイルス(の原型であるretrotransposons)を使って進化しているのです。
retrotransposonsから古細菌までの道程も長いのですが、この部分のMissing linkは繋がりつつありますから、私は楽観的に見ています。
私見ではウイルスは(GibbsのFree energyの空間的最小極値と定義できるため)生命だと思っています。
熱力学・統計力学的にはウイルスと古細菌の差は大きくありません。
おそらくRNAから始まった生命の歴史が受け継がれていくうちに、どこかの時点でチミンがウラシルに置き換わったのだろうと思います。
その段階で既に分化していたからDNAウイルスはSpeciesの数の割にRealm毎に特徴の差異が大きいのでしょう。
海中には1mL当たり9x108個のウイルスがいます。細菌も500個程度はいます。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/MMBR.64.1.69-114.2000
汚いと思うかも知れませんが、その多くは強い病原性を持ちません。
正確に言うと病原性を受けないような感受性の生命の子孫だから何とも無いのでしょう。
最も多いバクテリオファージは細菌を破壊しながら増殖しています。むしろ海を清掃してくれています。
バクテリオファージの多くは我々には病原性がありません。
そして我々真核生物もおそらくポックスウイルス科(との共通祖先)の子孫です。
どこかの段階で他のウイルスから遺伝子をもらったり、あるときは代謝系に関する遺伝子を取り込み、細菌となりました。
そして、その細菌を取り込んで、ミトコンドリアとして共存するようになり、植物の祖先は光合成する細菌を取り込みました。
そしてホモサピエンスのDNAの中にもウイルス由来のDNAがたくさん残っていて、タンパクをCodeする部分でも8%程度はウイルス由来で、(今はそうではないが)ジャンクと思われていたタンパクをCodeしない部分では約40%(最大50%近く)がウイルス由来(retrotransposonsによる増幅)と推定されています。
https://genomebiology.biomedcentral.com/articles/10.1186/gb-2004-5-3-r14
我々は複雑にウイルスを組み合わせたもので、熱力学に特徴付けられ、その法則に従ってうごいている物体に過ぎず、自由意志すらないとも言えるのです。(個人的には頭では分かっていても、感情的には自由意志は無いことを認めたくありませんが。)
ウイルスを排除して生きていくことはできません。
我々がウイルスの子孫であり、共進化してきた存在です。
この話しは2020年以前の知識に基づいています。将来は学説が大きく変わるかも知れません。
私自身の知識の整理のためにまとめましたが、若い人がこれを読んでウイルス学や医学に興味をもってくれると嬉しいです。
(2021/08/09 管理者記載)