CoVID-19の特徴

★新型コロナウィルス肺炎(COVID-19):

infodemicに屈せず,正しい情報を伝える大切さ。

Lancet誌で「infodemic」について議論されています。

災害時にデマはつきものですが,現代ではソーシャルメディアによりその情報が増幅し,ウィルスのように伝播します.その意味で「infodemic」という言葉ができました。

WHOはネットを巡回し,デマを見つけては正しい情報を提供し,GoogleもCOVID-19などが検索された場合,正しい検索結果を示す努力をしています。

マスメディアも情報源の確かさを吟味して報道する必要があります。

学術論文でさえ,玉石混交です。


Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):676



★NEJM誌に,これまでで最多の1099人の入院患者の症例集積研究が報告された。

結論は「症状・重症度・画像所見は多様で,診断は容易ではない」ということ。

最も頻度の高い症状は発熱で入院中には88.7%に認めるが,初診時は43.8%のみ。

咳67.8%,倦怠感38.1%,喀痰33.7%,息切れ18.7%,筋肉痛14.9%,咽頭痛13.9%,頭痛3.6%,下痢3.8%。

診察所見も軽微で,咽頭発赤1.7%,扁桃腫脹2.1%,リンパ節腫脹0.2%,発疹0.2%のみ。

潜伏期は中央値4日。

複合エンドポイントは67名(6.1%),内訳はICU入室が5%,人工呼吸器管理が2.3%,死亡が1.4%。


NEJM. February 28, 2020



★シンガポールからの論文を3つ紹介したい。

まずPCRで診断した18名の症例集積研究.鼻咽頭からのウィルス排出は7日間以上持続が15/18名(83%)。

最長で24日(!)。ただし感染を起こすかは不明。

転帰は軽症10名,酸素吸入6名,ICU 2 名,死亡なし。

酸素吸入を要した6名のうち5名に抗HIV薬ロピナビル/リトナビルを使用したが,3例は改善したものの,2例は呼吸不全で,有効性は不明。


JAMA. 2020 Mar 3.



★2つ目は感染様式について。

患者3人が入院する隔離病室を調べたところ,1名の部屋がウィルスで汚染されていた。

部屋の13/15箇所と,トイレの3/5箇所(便器,流し,ドアノブ)で陽性。

飛沫や便により部屋が汚染し,感染をもたらす。

PPE(個人用防護具)の靴前面も汚染されていた。

他の2名の部屋は,ジクロロイソシアヌル酸による除染が有効だった。

確実な除染と手洗いが必要。


JAMA. 2020 Mar 4.



★3つ目は,母から感染した生後6ヶ月児の報告。

ほぼ無症状であったが,鼻咽頭から高いウィルス排出量が認められ,16日目まで持続した。

血液,便からも検出。

小児は軽~無症状だが,感染源になる可能性がある。


In Infect Dis. 2020 Feb 28.



★中国から小児を対象とした初の症例集積研究。

10名はいずれも軽症.成人への感染が1名で認められ,看病の際の予防対策が必要。

潜伏期は6.5日で,成人の5.4日よりも長い。

鼻咽頭からのウィルス排出を全例で認め,6~22日間持続した。

便も5/6名で陽性で,2週間~1ヵ月以上持続した(!)。

小児では抗ウィルス薬や抗生剤の予防的投与は推奨されない。


Clin Infect Dis. 2020 Feb 28.



★中国から潜伏期が年齢により異なるという報告。

武漢以外の地域の正確なデータを用いて潜伏期間を検討すると,平均5.8日,中央値5.0日。

しかし40歳に分けると有意差があり,40歳以上のグループでは潜伏期間が長く,ばらつきも大きい(図1)。

年齢によって隔離の日数を変えるべき。


medRxiv 2020.02.24.20027474



★北海道大学からの報告。

ヒトからヒトへ感染が何日間で生じるか,28の事例をもとに検討したところ,

中央値4.0日で,潜伏期間の約5日よりも短かった。

発症前に感染を起こすことを意味し,感染対策の難しさを示唆する。


medRxiv 2020.02.03.20019497



★日本からの短報で,閉鎖環境は感染のリスクとなることが報告された。

10のクラスターからなる110名の検討で,27名(29.6%)が二次感染を引き起こした。

閉鎖環境にいた患者は,二次感染をきたすリスクが18.7倍も上昇した。


medRxiv 2020.02.28.20029272



★数理モデルによりDiamond Princess号の検疫を検証した研究が複数報告された。

結論はいずれも検疫・隔離の失敗である。スウェーデンの報告では,船内の基本生産数(R0;1人の患者から何人に感染させるかを表す数)は,当初,武漢の4倍以上高い14.8。

もし防衛手段を講じなければ2920/3700名(79%)が感染した。

検疫・隔離によりR0は1.78まで減少し,2307名が感染から免れた。

しかし患者が10名発生した2月3日に,すぐ全員を下船していれば,感染者は76名で済んだと予測。

(注;最終的に3,711人中706人(19%)が感染した)


J Travel Med. 2020 Feb 28.



★中国の検討では,全期間のRoは2.2.患者数が2倍になる期間は4.6日と短く,早急な対応が必要であった。

2月15日で,PCRは285/930で陽性,うち無症状者は73名(25.6%)。

2月20日で,PCRは634/3063名で陽性,うち無症状は328名(51.7%!)。

すなわち検疫・隔離を行ったとはいえ,無症状感染者が急激に増加してしまった。

疑い例を1000名下船させると,ピークが図の青線から緑線に減少,R0を1.5まで低下できればピークが赤線の3月末にずれて,その間,対策ができた。

それにしても無症状感染者の頻度の高さに改めて驚く.国内でも同様かもしれない。


medRxiv 2020.02.26.20028449



★検疫・隔離が及ぼす精神的影響に関する総説が報告された。

外傷後ストレス症候群,混迷,怒りなどが生じる。増悪因子は長期間の隔離,感染への恐怖,葛藤,退屈,不適切な供給品や情報など.期間は最小限度にとどめ,明確な理由,計画の情報,十分な支給品が不可欠である。

検疫の意義を理解していただき,自主的に同意してもらうことが望ましい。


Lancet. 2020 Feb 26.



★つぎに予後不良を予測する因子が2つ中国から報告された(抗体高力価と血中RNA検出)。

まず患者173名における血清中の抗体価,IgM,IgGについて初めて報告され,seroconversion(抗体陽転)率は順に93.1%,82.7%,64.7%。

陽転までの期間の中央値は11,12,14日であった。

抗体は発症7日目では40%未満であったが,15日には100%に上昇した。

逆に血中RNAは66.7%から39%に低下した。

血中RNAと抗体の組み合わせで病初期でも診断ができ,かつ抗体高力価は予後不良因子となることが分かった。


medRxiv 2020.03.02.20030189



★48名の患者において,血中におけるウィルスの検出(RNA血症)は最重症群において認められ,重症度を反映していた。

またRNA血症は炎症性サイトカインのIL-6レベルと相関した(r = 0.902)。

つまり血中のウィルス検出は重症化の原因となるサイトカイン・ストームを予測し,予後不良を予測する因子となる。

またIL-6は有望な治療ターゲットである。


medRxiv 2020.02.29.20029520



★実際に関節リウマチなどに使用される抗IL-6受容体抗体アクテムラ(トシリズマブ)の効果が,中国科学技術大学において重病患者14名に対し検証され有望な効果がみられた。

この抗体を有するRocheは同剤200万ドル分を中国に寄付したと公表,すでにランダム化比較試験が開始された。



★患者回復期血清を用いた輸血治療について議論されている。

患者血清を用いた治療はSARS,エボラ出血熱,MERS等において行われ,有用性が示されている。

血清中の抗体がウィルス自体や感染細胞のクリアランスに作用すると考えられる。

臨床試験が開始されている。


Lancet Infect Dis. 2020 Feb 27.



★基礎研究で話題になっているのは北京大学の研究。

入手可能な103のウィルスゲノム情報を解析した結果,受容体結合ドメインの機能部位において,

異なる2つのSNPs(一塩基多型)により規定される2種類のストレイン(株)の存在が示唆された。

悪性度の低いS型から高いL型に進化し,ヒトへの感染が急速に拡大したと推測している。

(LとSはそれぞれが連鎖するSNPsのコドンがコードするロイシンとセリンに由来)

L型が7割。武漢の流行初期の感染ではL型が多かったが,今年1月初めから減少傾向。

しかし論文には疫学データや患者症状との関連,動物実験の記載はなく,今後の検証が必要。


National Science Review. March 03



★最後にTravel Med Infect Dis 誌は東京オリンピック開催について言及。

ホスト国はその開催について責任があり,十分な疫学データによる現状の評価を行い,プレイヤーと観客のリスクについて正しく評価し,選手村における適切な予防手段を講じる必要がある。

PCR検査もままならず,世界と同等の科学的貢献ができていない日本には高いハードルのように思える。


Travel Med Infect Dis. 2020 Feb 26:101604.


<以下は、3月20日に追加した情報です。>


岐阜大学神経内科教授である下畑 享良先生に教えていただきました。

今回のキーワードは,イタリア患者激増の理由,発熱の矛盾,重症化要因,安全な検体採取法,臨床試験の結果(メチルプレドニゾロン,抗HIV薬)です。


◆イタリア・ミラノ大学の医師らがJAMA誌に短報を発表.

2月20日,Codogno病院ICUで患者の罹患が判明後,関係各所の迅速な対応にも関わらず重症患者は激増した.注目すべきはICU治療を要する重症患者の頻度.中国ではPCR陽性者の5%.これに対しイタリアでは12%,入院患者に限ると16%(!).テレビでは医療の遅れなどと解説する人もいるが,ロンバルディア州はイタリアで最も発展した地域で,医療水準は高い.著者らは遺伝的背景(ACE2遺伝子多型?),年齢構成,併存症の差など,何か別の原因があると述べている.またLancet誌は,適切な介入ができなければ,ICUを要する重症患者数は指数関数的に増加し,3月中旬に2500床,4月中旬には4000床(!)を要すると予測し,極めて早急な対策を求めている.COVID-19は決して良性の疾患ではない.わが国も決して気を緩めてはならない.

JAMA. Mar 13, 2020;Lancet. Mar 12, 2020


◆重症化要因(1).急性呼吸窮迫症候群(ARDS)ないし死亡の危険因子についての後方視的研究.対象は武漢の201名で,84名(41.8%)がARDSを発症,うち44名(52.4%) が死亡した.両者に共通する危険因子として,高齢,好中球増多,LDH↑,D-dimer↑.高熱(≥39℃)はARDS発症に関連するが(ハザード比1.77),逆に死亡リスクは低下する(0.41)という一見矛盾する知見が得られた(これは他の試験でも認められる).

また生存・死亡の2群間で見ると,ARDSよりもD-dimer↑の影響が大きく,DIC(播種性血管内業症候群)は死亡の危険因子である.またARDSに対し,当初無効と報告されたメチルプレドニゾロンは死亡率を低下させた!(ハザード比0.38).

JAMA Intern Med. March 13, 2020


◆重症化要因(2).

縦隔気腫(図2の矢印)が報告された.通常の縦隔気腫は自然治癒するが,COVID-19では重篤な循環・呼吸障害をきたしうる.胸痛,胸骨切痕部の皮下気腫,心拍に同期した捻髪音(Hamman徴候)にて疑い,画像検査を行う.

Lancet Infect Dis. March 9, 2020


◆重症化要因(3).

併存症(高血圧,糖尿病)が重症化の危険因子となる機序に関するエキスパートオピニオン.これらの治療に処方されるARBないしACE阻害薬が,ウィルス受容体であるACE2発現量を増加させ,感染を助長すると考察している.そして発現量増加の報告のないCa拮抗薬への変更についても言及している.

しかし米国の3つの学会は裏付けとなる臨床データがないことから,医師からの指示がない限り,上記薬剤を中止・変更すべきではないとの声明を即座に発表した.

Lancet Respir Med. March 11, 2020


◆重症化要因(4).

ウィルスはACE2を発現する心臓,腎臓,消化器等も標的とするため,心,肝,腎,免疫系が障害され,併存症の悪化を招き,予後が増悪する.

肺炎のみ群,併存症増悪群,最重症群に分けて治療をすることが提唱されている.

Lancet. March 9, 2020


◆検査・スクリーニング(1).

患者急増地域からの帰国者が新たな感染拡大の原因となる.現在,発熱によるスクリーニングのみ行われているが,長い潜伏期と無症状感染者の存在から,水際対策としてCOVID-19ではまったく不十分である.PCR検査を行うしかない.また患者急増地域からの移動制限や,帰国後14日間の自己隔離が必要となる.

Trop Med Health. 2020 Mar 9;48:14.


◆検査・スクリーニング(2).

PCR検査の検体として鼻・咽頭ぬぐい液を採取するが,咳やくしゃみが生じ,医療者の感染リスクとなる.喀痰が採取できれば最適だが,出ないことが多く,潜伏期ではなおさらである.今回,喀痰誘発法が報告された.

3%高張食塩水10 mLを,酸素とともにマスクで6 L/minの流速で20分間,もしくは痰が出るまで吸入する.

複数回の咽頭・直腸ぬぐい液でPCR陰性であった2症例で,痰のPCRが陽性になった.咳やくしゃみなく,陽性率を上昇できる.

Lancet Infect Dis. March 12, 2020


◆検査・スクリーニング(3).

中国からの小児患者10名の報告.成人より症状,検査所見とも軽微で,PCR検査にて初めて診断ができた

(NEJM. March 18, 2020の論文も,小児171名の検討で,成人と比べ軽症,無症状が多く,感染を媒介するリスクを指摘している).

鼻咽頭からはRNAは14日で検出できなくなるのに対し,直腸からはその後4週間程度排出された(10名中8名で陽性).

つまりウィルスは消化管に感染し,直腸から排出する.トイレを汚染したウィルスから糞口感染が起こす可能性がある.

直腸ぬぐい液によるPCR検査は治療効果の判定,検疫解除の判断に有効.自己隔離では患者とトイレを分離すること,無理であれば使用後の十分な除菌が必要.

Nat Med. March 13, 2020


◆神経症状と機序(1).

いよいよ脳神経障害に関する議論が出てきた.未査読論文だが,

PCRで診断した武漢214名(うち重症88名:41.1%)の検討.神経筋症状は78名(36.4%)に認められ,内訳は

めまい(16.8%),頭痛(13.1%),筋障害(10.7%),意識障害(7.5%),味覚障害(5.6%),嗅覚障害(5.1%).

重症例ほど神経筋症状の合併が多く(45.5%対30.2%;P<0.05),

とくに筋障害(19.3%対4.8%),意識障害(14.8%対2.4%),脳卒中(5.7%対0.8%)は有意に多い.

次に述べるが,意識障害,嗅覚障害の機序はとても気になる.

medRxiv 2020.02.22.20026500


◆神経症状と機序(2).

ウィルスの神経向性(neurotropism)について言及した総説が2つ発表された.

既報のコロナウィルスはほぼ全て中枢神経に浸潤することが知られている.

感染経路は2つあり,SARS/MERSウィルスのマウス感染実験で,嗅上皮細胞から脳幹まで伝播したことから,まず経鼻的に感染する可能性がある(このための嗅覚低下か?).

Netland J et al. J Virol 2008

そして肺・下気道から機械・化学受容器を介して,経シナプス的に延髄へ伝播する可能性も指摘されている.ヒトSARS剖検脳や髄液の検討で,両者にウィルスが存在することも証明されている.

そして著者らはCOVID-19の呼吸不全・死亡の原因として,ウィルスによる脳幹障害を考えている!根拠として眠ると呼吸停止してしまう患者も紹介している(脳幹病変による意識障害もあるか?).

J Med Virol. Feb 27. 2020; ACS Chem Neurosci 2020


◆最後に中国から早くも抗HV治療薬ロピナビル/リトナビル(カレトラ®)のランダム化対照オープンラベル試験の結果が発表された.

対象はSaO2 94%以下(room air)あるいはPaO2/FiO2 300 mmHg未満の成人の入院患者199名.実薬群が99名で,ロピナビル/リトナビル(それぞれ400 mg,100 mg)を1日2回,14日間.

対照群は標準ケア.主要評価項目は,臨床的改善までの期間,具体的には割り付けから7つのスケールのうち2つの改善まで,もしくは退院までのうち,いずれか早いほうまでの期間)とした.

結果は残念ながら無効.修正ITT解析で標準治療群に比べ,1日だけ改善が早くなったものの,基本的に臨床的改善はなく,28日目における死亡率も差はなし

咽頭ぬぐい液におけるRNA量も差はなし

消化器症状のため,23.8%で治療が早期に中止された.



<3月25日追加分>


◆医療者の保護(1).中国34病院の医療者1257名(女性76.7%)の精神状態に対する調査.職種の内訳は看護師60.8%,医師39.2%.結果はうつを50.4%,不安を44.6%,不眠を34.0%で認め,71.5%が苦痛を訴えた.重症となる危険因子は,看護師,女性,最前線での勤務(診断,治療,ケアに関わる),武漢での勤務であった.医療の質を保つために,医療者の精神的負担を軽減する対策を早急に実行する必要がある.

JAMA Netw Open. March 23, 2020


◆医療者の保護(2).Lancet誌のEditorialで,政府による医療者保護の重要性が論じられている.中国では2月末までの報告で3300人が感染し,22人が死亡した.イタリアで20%,スペインで10%の医療者が感染し,重大な問題となっている.肉体的・精神的苦痛,患者選別(トリアージ)の重圧,患者や同僚を失うつらさ,個人防護具(PPE)不足と高い感染リスクへの恐怖,そして家族の感染リスクに苦しんでいる.これから医療は何ヶ月にも渡って,限界を超えた状態になる.しかし医療者は,ベッドや人工呼吸器と違って急ごしらえすることも,長時間フル稼働することもできない.行政は「医療者をコマとしてでなく,人間として見る必要」がある.PPE供給はまず行うべきで,不必要な業務の中止,休養の確保,精神的支援,家族への支援などが必要である.医療崩壊は多くの人命に関わる.

Lancet. March 21, 2020


◆感染と予防(1).不足するマスクの合理的な使用について.マスクに対する方針は国によってまちまちの状態.エビデンスは十分ではないが,まず着用すべき人は,WHOが推奨するように,呼吸器症状がある人や患者のケアを行う人である。

つぎに検疫・自己隔離中の人が何らかの理由で外出するときには,無症状でも着用すべき.高齢者や慢性疾患をもつ人も着用したほうがよい.そしてもし供給が確保できるのであれば,すべての人が着用すれば,無症状感染者からの感染を防止できる(結局,COVID-19のような特殊な感染症の場合,全員マスクは着用したほうが望ましいということになる).一方,マスクの使用可能時間の研究や,再利用可能マスクの開発も進めるべきだ.

Lancet. March 20, 2020


◆感染と予防(2).発症前の感染者からの感染の頻度についての初めての報告.2月8日までの中国の患者468人の検討.次の人に感染するまでの日数(serial interval)は平均3.96日(95% CI 3.53–4.39日)で,MERSの14.6日よりかなり短く,対策が難しい。

また49/468名(12.6%)は,発症前の人からの感染と考えられた(図1).未発症者からの感染を防ぐ対策が必要となる(つまり自覚症状や検温,サーモグラフィーでは見逃しうるため,行動変容による予防対策が大切になる).

Emerging Infectious Diseases. March 19, 2020


◆感染と予防(3).シンガポールでの最初の3つのクラスター(A-C)36名に関する論文.中国への渡航歴があるのはCの2名のみ.この36名と濃厚接触者425名が検疫の対象となった.ウィルスの潜伏期間の中央値は4日(IQR 3-6)で(図2),次の人に感染するまでの日数は3-8日と幅があった。

Aは店頭での接客,Bは会議・会食,Cは礼拝での感染で,握手などの身体的接触があると多くの人が感染してしまう.よって一定の距離を置くことが重要である(社会的距離戦略)。

またそれぞれのクラスターから家族以外の2次感染はなかった.つまり家族のような濃厚接触がない限り,2次感染が生じる可能性は低い。

Lancet. Mar 16, 2020


◆感染と予防(4).当初,市中肺炎と考えられていたものの,のちにCOVID-19であることが判明した重症肺炎患者に対し,2 m以内の距離で,10分間以上エアロゾル発生を伴う医療行為を行った41名の医療者全員が,幸い感染しなかったというシンガポールからの報告.41人のうち85%は手術用マスクを着用し,残りはN95マスクを付け,さらに手指消毒,その他の標準的予防を行っていた.マスク,手指消毒の重要性を改めて示す報告.

Ann Internal Med March 16, 2020


◆呼吸器外症状(1).「消化器症状」を主訴とする症例は予後不良であることが報告された.湖北省の3病院の204名の検討で,99名(48.5%)が食欲低下(83.8%),下痢(29.3%),嘔吐(0.8%),腹痛(0.4%)といった消化器症状を主訴とした(図3)。

消化器症状を主訴とした群は,そうでない群と比べて発症から入院までの期間が長かった(9.0日対7.3日)。これは非典型的な症状のため入院が遅れるためと考えられた.重症例ほど消化器症状を主訴とする頻度が増えた。

消化器症状のみを主訴とした患者が7名(3%)いた.

退院できた患者は消化器症状あり群で少なかった(34.3%対60%)。

既報の便からのウィルス持続排出や消化管のACE2(ウィルス受容体)発現を考えると理解できる結果である.

Am J Gastroenterol. March 18, 2020


◆呼吸器外症状(2).米国初の重症患者の症例集積研究にて「心筋症」の指摘.対象はワシントン州318床の病院のICU(20床)に入院した21名(平均70歳).併存症あり18名(86%).急性呼吸促迫症候群(ARDS)を呈した15名全例が人工呼吸器を装着した.昇圧剤を14名(67%)で使用.7名(33%)が心筋症を呈した.転帰は死亡14名(67%),重症のまま5名(24%),ICUを退室できたのは2名(10%)のみ。心筋症はウィルスの直接感染によるものか,重篤な全身状態に伴うものかは不明と考察。しかし心筋症は他の報告でも指摘されていることや,心臓もACE2を発現することから,心筋炎に伴うものである可能性はある.

JAMA. March 19, 2020


◆呼吸器外症状(3).COVID-19が重症化した病態として,ARDSに加えて二次性血球貪食性リンパ組織球症(secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis; sHLH)がある.発熱,血球減少,高サイトカイン血症(IL2/6/7,GCSF,MCP1,TNFαなど),多臓器不全を呈する致死的病態で,既報の二次性の病態としてはEBウィルス感染が有名.スクリーニングには血清フェリチン↑,血小板↓,赤沈遅延,そしてHScore(https://www.mdcalc.com/hscore-reactive-hemophagocytic-syndrome?fbclid=IwAR2SKpoKSrkYr1xrgz3tTeMJuD39xnWgON-iCBfYw-aBJOW0Xn6FSWseLGU)が有効。

この病態には積極的な免疫抑制療法が有効である可能性が高く,ステロイドパルス,IVIG,サイトカイン阻害剤(トシリズマブ)をトライすべき。免疫抑制剤の有効性については当初から議論があったが,この病態には有効であろう.

Lancet. Mar 13, 2020


◆呼吸器外症状(4).

米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会は,味覚・嗅覚障害をCOVID-19のスクリーニング項目に追加することを提唱している.

https://www.entnet.org/content/aao-hns-anosmia-hyposmia-and-dysgeusia-symptoms-coronavirus-disease?fbclid=IwAR2NLY6PZKF8GVvdaQiy9_aoH3lfLjDMLU0N7DZMhLFb9gGIjhCsidwr8-4


◆新規治療(1).新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する薬剤標的として,ウィルスが複製に使用するメインプロテアーゼ(MPro)がある.αケトアミド分子はこれに結合し,阻害剤となることが報告されていたが,今回,MPro単独及びαケトアミド分子が結合した複合体のX線構造解析に,ドイツの研究者らが成功し(図4),MPro阻害薬のリード化合物(医薬品開発の元となる化合物)が合成された.今後,誘導体化することで,肺への特異性や効果,薬物動態などの点で改良がなされる.最終的には肺への指向性を高めた吸入薬の開発を目指す.

Science. March 20, 2020


◆新規治療(2).ウィルスRNAポリメラーゼ阻害薬ファビピラビル(FPV;アビガン®)35名 vs 対照群としてのロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ®)45名のオープンラベル非ランダム化比較試験が報告された.いずれの群もIFN-α1bの吸入を行っていた。

主要評価項目は,ウィルスが検出されなくなるまでの期間,および14日目の胸部CTの改善とした。

前者はFPV群で4日(IQR: 2.5–9日),対照群で11日(8–13日)とFPV群でかなり短縮(P<0.001;図5),CT所見が改善したのはFPV群で91.4%,対照群で62.2 %とFPV群で良好であった(P=0.004)。

有害事象はFPV群で11.4%,対照群で55.6%で,副作用も少ない。

ランダム割り付けは倫理的な問題でできなかったが,期待できるデータと言える。

Engineering. March 17, 2020


(2020/4/4追加分)


◆ICU治療を要した原因.

対象は米国シアトルの重症24名(64±18歳).併存症は糖尿病14名(58%).全例が低酸素性呼吸不全を呈し,18名(75%)が人工呼吸器を要した.また18名(71%)が昇圧剤を要する低血圧を呈した.予後は12名が死亡,3名は人工呼吸器継続,4名はICU退室,5名が退院.ICU治療となる原因は低酸素性呼吸不全と低血圧である.死亡例中4名に蘇生処置拒否(DNR)指示があった.

NEJM. March 30, 2020


◆感染リスク(1).

米国ワシントン州の長期療養施設の入居者1名が,2月28日に感染していることが判明,3月18日までに167名(入居者101名,スタッフ50名,訪問者16名)が感染.それぞれの入院率は55%,50%,6%,死亡率は34%,0%,6%であった.長期療養施設に患者が1名出ただけで,急速に拡大し,かつ重症化する.感染したスタッフや訪問者を施設内に入れないこと,また感染者の早期発見が重要.

NEJM. March 27, 2020


◆感染リスク(2).

武漢からの報告で,担がん患者のCOVID-19の感染率0.79%(12/1524名)は武漢全体の0.37%より高値と報告.12名は60歳以上が8名,7名が非小細胞肺がんで,3名が死亡.担がん状態は感染の高いリスクとなる可能性がある(オッズ比2.31).原因としては免疫能の低下,化学療法の影響,頻回の病院通院等が考えられる.担がん患者では感染しやすい可能性を考え,外来受診の回数を抑えるなどの対策が必要である.

JAMA Oncology. March 25, 2020


◆母子感染.

9名の感染妊婦の検討で,母子感染(垂直感染)の根拠はないと報告されていたが,否定する複数の報告が出た.まず武漢の感染妊婦から産まれた新生児33名のうち3名(9%)が,生後2,4日目の鼻咽頭・肛門ぬぐい液でPCR陽性となった.しかし6~7日目には陰性化した.なぜ速やかに陰性化するのか不明。

また母子感染による1例報告があり,出生2時間後にはIgM↑とIL6/10↑を認め,(IgMは胎盤を通過しないことから)子宮内感染が示唆された。

さらに,感染妊婦から生まれた6名の新生児の検討で,血清や鼻咽頭ぬぐい液のPCR検査で陰性であったものの,5名でウイルス特異的血清IgG↑,2名でIgM↑が報告された。

JAMA Pediatrics. March 26, 2020

https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2763787

以上より,ウイルスは胎盤を通過し,新生児の体内で抗体産生が生じる.予後は良好.


◆心筋障害.

急性呼吸促迫症候群(ARDS),二次性血球貪食性リンパ組織球症と並ぶ3大予後不良病態の検討.武漢の入院患者416名において82名(19.7%)に心筋障害(定義は高感度心筋トロポニンI↑)を認めた.

心筋障害あり群は高齢で,高血圧が多い.N 末端プロ B 型ナトリウム利尿ペプチド,CK-MBが高値.かつARDS,急性腎障害,電解質異常,凝固異常,低蛋白血症も多かった.

致死率はあり群となし群で51.2%と4.5%であった(図1).

心筋障害の病態解明と対策が必要.

JAMA Cardiol. March 25, 2020


◆COVID-19と神経疾患.

武漢の神経内科医が米国神経学会ブログに寄稿.

神経症状の多くは非特異的で,頭痛,めまい,疲労,筋痛が多いが,痙攣や昏睡,嗅覚・味覚障害もある.

①脳卒中:D-dimer高値や血小板減少を背景として発症する.血栓溶解療法や血栓回収術の適応はCOVID-19の状況を考慮して決める.二次予防に抗血小板薬や抗凝固薬を用いる場合,血小板数や凝固能を頻回に確認する.スタチンも肝機能や筋障害を確認して処方する.またウイルスは血管内皮細胞のACE2に結合するため,著明な高血圧を呈しうる.血小板減少や凝固異常があると脳出血リスクが高まる.降圧薬については配慮が必要で,カルシウム拮抗薬が好ましい(これは否定的意見もあり,次項目で解説).

②髄膜炎:髄液中にウイルス核酸が証明された報告はあるが,ウイルスが直接中枢神経を侵す確実なエビデンスはない.またリンパ球減少も生じるため,結核性髄膜炎のような日和見感染にも注意.

③自己免疫疾患:重症筋無力症(MG)なども重症ハイリスク群である.MGではクリーゼに注意する.免疫抑制薬の中止についても検討が必要.ステロイドについては,MGとCOVID-19の双方を考慮して決める.


◆基礎研究(1).

ACE2はウイルスが感染する受容体であると同時にレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の活性化を抑制する酵素である.

先日,RAASを抑制するACE阻害薬+ARBがACE2発現を増加することで感染リスクを高める可能性が指摘され,米国3学会は十分な臨床データがないとして,薬剤の中止・変更をしないように呼びかけた.

今回,発表された総説は逆にこれらの薬剤は肺や心筋に対して保護的に作用するという仮説を提唱した.

まず内服中止の危険性が示されている.心不全や心筋梗塞患者では症状の不安定性,

予後の増悪をもたらす可能性がある.高血圧患者での中止は,リバウンドによる血圧急上昇の可能性がある.他の降圧剤の切り替え中の血圧上昇リスクや,血圧コントロールは患者によりまちまちであり,状態の増悪をきたす可能性がある.

ACE2はアンギオテンシンII(A-II)に作用し,A-(1-7)に変換することでRAASを抑制する(図2).ウイルスがACE2を介して感染後,ACE2にはダウンレギュレーションが生じ,その結果,RAASは持続的に活性化する(よって患者では血圧が上昇しうる!).RAAS活性化は肺損傷,心筋リモデリングの障害,血管収縮,血管透過性の亢進を引き起こす.実際にSARSでは,A-IIの持続的活性化により肺損傷が起こり,RAAS阻害剤が抑制効果をもつことが示されている.ACE2 KOマウスでは,A-II活性化による急性心筋障害に対し,左室リモデリングが不良であることも報告されている.以上のようにRAAS抑制は肺,心筋保護に繋がる可能性があり,組み換えヒトACE2やARB(ロサルタン)の効果・安全性を検証する臨床試験が進行中である.

N Engl J Med. 2020 Mar 30.


◆基礎研究(2).

COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2は人獣共通感染症(Zoonosis)を起こす.ゲノム配列の75~80%はSARSのウイルスと相同だが,むしろコウモリ・コロナウイルスに近い.つまり自然宿主(最初にウイルスが感染する生物)はコウモリで,中間宿主への感染を通してヒトに感染するウイルスに変異したと考えられている.中間宿主は,SARSはハクビシン,MERSはヒトコブラクダだが,COVID-19では不明であった.武漢の生鮮市場における中間宿主としてヘビ,カメ,センザンコウ(Pangolin)が候補に挙げられていた.センザンコウは密売される絶滅危惧種の哺乳類である.今回,マレーセンザンコウ由来コロナウイルスが2種類同定され,その1つがSARS-CoV-2とゲノム配列で85.5~92.4%の相同性を示し,受容体結合領域のアミノ酸配列に限ると97%が一致した.センザンコウの市場での売買を禁止すること,そして中国や南アジアにおける生態調査が将来の新たな感染症防止に重要であると著者は述べている.

Nature. 26 March 2020


◆閉じ込め政策(1).

シンガポールからの閉じ込め政策の科学的根拠に関するモデル研究.

具体的には,感染者の隔離とその家族の検疫,2週間の休校,検疫強化(PCR検査),従業員の半数を在宅勤務にすることで「大幅に感染拡大を防ぐことができる!」と報告した.

基本再生産数(一人の感染者から生じうる二次感染者数:R0)を,比較的低い(1.5),中程度(2.0),高い伝染性(2.5)とし,「無症状者からの感染」を7.5%と想定した.

閉じ込め政策を行わなかった場合,80日後の累積患者数はR0=1.5で279,000人(シンガポール人口の7.4%),2.0の場合727,000人(19.3%),2.5の場合1,207,000人(32%)と予測.もし上記政策を行った場合,R0=1.5の場合1,800人(99.3%の減少), 2.0の場合50,000人(93.0%の減少),2.5の場合258,000人(78.2%の減少)になった(図3).

ウイルスの伝染力にもよるが,閉じ込め政策は有効である.

Lancet Infectious Diseases. March 23, 2020


◆閉じ込め政策(2).

上記論文に対するコメントが同じ号に掲載されている.

閉じ込め政策では科学的根拠のみならず,倫理的配慮が重要だと強調している.政治家は施行に際して,人種による差別や経済的弱者への重い負担を防ぐ必要がある.

またホームレス,収監者,身体障害者,不法移民のような人々には特別な配慮が必要である.

Lancet Infectious Diseases. March 23, 2020


◆閉じ込め政策(3).

問題のR0はCOVID-19ではいくつなのか?実は「プレプリント(査読なし)」を含めると16の論文が報告されている(図4).

黄色丸が平均値で,赤と青は95%信頼区間の最大・最小値を示す.発表日順に並び,左側10個が査読なし,右側6個が査読ありである.

査読なしに外れ値が2つあり,合議の上この2つを除外すると,査読なしで3.02(95%CI 2.65-3.39),査読ありで2.54(2.17-2.91)であった.プレプリントは慎重な評価を要するが,速やかな情報の共有は有用である.

Lancet. March 24, 2020

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/langlo/PIIS2214-109X(20)30113-3.pdf


◆臨床試験(1).

以下の3つの臨床試験はすべて中国から.C型肝炎ウイルス・プロテアーゼ阻害剤danoprevirと,その血漿濃度を維持するCYP3A4阻害剤リトナビル(高濃度では抗HIV薬となる)を,COVID-19の中等症患者11名に投与する単群オープンラベル多施設共同試験.安全性は確認され,全員が4つの状況(3日間以上の平熱・呼吸器症状の改善・肺病変の顕著な改善・2回連続PCR陰性)を達成して退院した.ダノプレビル/リトナビル併用は有望.

medRxiv. March 24, 2020


◆臨床試験(2).

ロピナビル/リトナビル配合剤群(カレトラ®)と抗ウイルス薬ウミフェノビル群(アルビドール®),そして対照群を2:2:1(21名,16名,7名)に割り付けるELACOI試験が行われた.

7日目ないし14日目におけるPCRの陰性化,および臨床・画像所見の改善に関して,3群間で有意差なし.ロピナビル/リトナビル配合剤群では副作用が多かった(23.8%).

既報の通り,これらの薬剤による効果は乏しい.

medRxiv. March 23, 2020


◆臨床試験(3).

急速な進行を示し,抗ウイルス薬使用に関わらずウイルス量排出量が高く,ARDSと低酸素血症を呈し人工呼吸器を要する重症5名に対し,回復患者からの血漿の効果を調べる単群試験が行われた.特異抗体への結合価が1:1000以上,中和力価40以上に調整されている.主要評価項目は,体温,SOFAスコア(0-24;大きいほど重症),PAO2/FIO2,ウイルス排出量,血清抗体価,ARDS,人工呼吸器・ECMO治療.5名中4名が3日以内に体温が正常化,12日以内にSOFAスコアとPAO2/FIO2が改善.ウイルス排出も12日以内に陰性化(図5).ARDSも12日以内に4名が改善し,3名は14日以内に人工呼吸器を離脱した.3例は入院後51-55日で退院し,2名は37日で病状は安定している.重症例に対しても有効性が示唆されるが,ランダム化比較試験が必要である.

JAMA. March 27, 2020


<2020/04/18追加分>



◆発症前感染の多さ。


中国からの報告。まず患者94名の咽頭ぬぐい液のウイルス排出量は発症時に最も高いことを示している。

次に最初の患者とその人が感染させた患者ペア77組を調べ,その44%(95%信頼区間25-69%)では,最初の患者の発症前に次の患者への感染が生じたと推定している。

発症前2.3日から次の人に伝播が可能となり,発症前0.7日が最も伝播しやすい(図1)

→ 自身が感染しているかもしれないと思って行動する必要がある。

また濃厚接触者の追跡は発症前にまで対象を広げる必要がある。


Nat Med. April 15, 2020

(管理者注:他人へ感染リスクが最高になるのが発症の-0.7〜-0.5日、つまり半日前なのに、PCRの感度が最高になるのは発症の3日後です。このズレは発症後に他人と接触しなくなることで起きます。)


◆鼻咽頭検体採取。

気道粘膜の採取のための手技の動画が公開されている(コメント欄参照)。

注意すべき点として,最近の鼻の手術や外傷,顕著な鼻中隔弯曲症,慢性的鼻腔閉塞,高度の凝固異常症を挙げている。

手技としては,まず鼻をかんでもらい,そのあと少し頭部を後方にそらすと検体を採取しやすい。

また目を閉じてもらうと不快感が軽減できると延べている(図2)。


NEJM. April 17, 2020



◆医療者の死を防ぐ対策。

2論文が報告されている。

まずインターネットを用いた4月5日時点の調査。

198名の医師の死亡を見出した(49名は情報不完全)。

90%(175/194名)が男性,年齢は中央値66歳(28-90歳),57歳以上が3/4を占めた。

内訳は一般開業医(GP)と救急医師が78名,内科専門医11名,歯科医9名,耳鼻科医8名,眼科医7名,麻酔科医6名,呼吸器科医5名と診療科は多岐に及んだ。

国別ではイタリア79名,イラン43名,中国16名,フィリピン14名,米国9名で,イタリアは年齢が69歳と最も高かった。

→ 高齢医師を守る仕組みが不可欠。


medRxiv. April 08, 2020.



2つ目は中国からの論文。

湖北省で23名の医療者が死亡した。

16名が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈し急速に悪化したが,そのうち13名は50歳以上であった。

23名中呼吸器科医は2名のみ,感染症専門医はいなかった。

診療援助のために湖北省に入った42600名の医療者のうち,3月31日時点で感染者(死亡者ではない)はゼロ!

→ 不適切,不十分な感染予防は医療者の死に繋がるが,適切に行えば防止できるという論文。


NEJM April 15, 2020



◆臨床(1)

味覚·嗅覚消失。

スマホアプリ「COVID Symptom Tracker」の157万人超のデータと,PCR検査を組み合わせた英国から研究。

味覚·嗅覚消失はPCR陽性患者579名の59%に認められたのに対し,PCR陰性1123名では18%であった(オッズ比6.59)。

よって味覚·嗅覚消失は感染を示唆する重要な所見と考えられる。

また味覚·嗅覚消失に加え,発熱,持続する咳,疲労感,下痢,腹痛,食欲消失を組み合わると,

感度0.54,特異度0.86,ROC-AUC 0.77となり,PCR検査前の問診に有用である。


medRxiv. April 07, 2020



◆臨床(2)

免疫性血小板減少症(ITP)

65歳フランス人女性.4日間の疲労感,発熱,咳にて入院し,入院後4日目に下肢の点状出血(図3),鼻出血を呈した。

血小板は6.6万で,7日目には8000まで低下した。

抗血小板抗抗体は陰性骨髄穿刺では異常なく,巨核球は増加.免疫グロブリン療法を行ったものの,9日目にクモ膜下出血を合併,血小板も2000まで低下した。

血小板輸血,プレドニゾロン100 mg,エルトロンボパグ(トロンボポエチン受容体アゴニスト)投与を行い,13日目に血小板数は正常化した。

COVID-19では血小板減少が生じることは有名だが,重症例も存在する。


NEJM. April 15, 2020



◆臨床(3)

重度例における脳症·脳梗塞。

ARDSを呈した58名の検討。

ICUにおいて混迷を65%(26/40名),錐体路徴候を67%(39/58名)に認めた。

退院時に注意障害,見当識障害等を36%(14/39名)に認めた。

13名に施行した頭部MRIでは,軟膜造影パターンを8名,脳梗塞を3名(急性期2名,亜急性期1名),前頭側頭葉血流低下を全例に認めた。

7名に行った髄液検査では2名にオリゴクローナルバンドを認めた。

→ 重症例では脳症,脳梗塞に注意が必要。


NEJM. April 15, 2020



◆医療行為と感染リスク(1)

非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)

CPAPなどのNPPVは,睡眠時無呼吸症候群や呼吸不全を合併する神経変性疾患等に使用される。

しかしWHOはこれらを,エアロゾルを生成する高リスク機器と考えており,使用時に医療者はPPE(個人用保護具)を着用する必要があるとしている。

しかし種々の学会ガイドラインではこの点について言及されていない。

SARS-CoV-2ウイルスはエアロゾルになったのち空中に留まることから(半減期1.1時間),NPPV使用が家族や介護者の感染を招く可能性がある。

命に関わる場合を除き,一時的に家庭内におけるNPPV使用を中止し、危険性と有益性の評価を行うべきである


Thorax. April 9, 2020



◆医療行為と感染リスク(2)

心肺蘇生法(CPR)

COVID-19患者のCPRの方針は,医療者に感染リスクをもたらすこと,医療資源が限られていることから従来とは異なるものとなる。

また重篤な基礎疾患を有することが多いため,心筋炎などの心臓合併症を認め,除細動により回復しうる場合を除いては,きわめて生命予後が不良である。

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation),すなわち心肺停止になった時にCPRを行わない状況としては3パターン考えられる。

①患者,家族がCPRを望まない場合(アドバンス·ケア·プランニングがある場合)

②患者,家族が医師からのCPRの中止の推奨に従う場合

③医師が一方的にCPRを行わない場合


COVID-19では②③の選択肢も起こりうる。

②は「インフォームド·アセント」と呼ばれるもので,家族にCPR中止の意思決定の責任を求めるのではなく,医師が一定の責任を負うことを伝えて,家族の心理的負担を軽減するというものである。

論文では具体的な手順を紹介しているが,患者の価値観に焦点を当てた双方向コミュニケーションが重要と強調している。


JAMA. March 27, 2020; BMJ 2020;369:m1387



◆基礎研究(1)

T細胞への感染。

COVID-19ではリンパ球減少が生じ,とくにCD 3+,CD4 +,CD8+細胞の低下死亡率と関連する。

しかしSARS-CoV-2ウイルスがT細胞に感染し,リンパ球減少を招くかは不明である。

研究では感染力のない偽ウイルスと本物のウイルスの両方を用いて,T細胞への感染実験を行っている。

この結果,

①ウイルスはT細胞に感染すること,

②その感染は受容体依存性で,スパイク蛋白を介する細胞膜同士の融合によって生じること,

③感染はスパイク蛋白を介する融合を抑制するEK1ペプチドにより阻止できること

を示した。

しかしT細胞はACE2の発現が極めて低いため,異なる新規の受容体を用いている可能性が指摘している。


Cell Mol Immunol. April 7, 2020



◆基礎研究(2)

重症化因子としての喫煙。

手術時に採取した肺組織を用いた検討で,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者や喫煙者では,SARS-CoV-2ウイルスが感染に使用する受容体ACE2の発現が,RNAおよびタンパクレベルで対照より高いことが示された。

このためCOPD患者や喫煙者は感染リスクが高くなる可能性がある。

また禁煙をした人のACE2発現レベルは非喫煙者と同程度であり,喫煙者は重症化防止のために禁煙すべきと述べている。


Eur Resp J. April 8, 2020



またプレプリントではあるが,12論文(合計9,025名)を対象としたメタ解析では,喫煙者·経験者の重症化率は17.8%,非喫煙者では9.3%で,オッズ比は2.25(95%信頼区間1.49-3.39,P=0.001)と,臨床的にも重症化因子としての喫煙が確認された(図4)


medRxiv. April 16, 2020



◆新規治療(1)

レムデシビル。

エボラ出血熱治療薬として開発されたウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤レムデシビルをcompassionate use(人道的使用;代替薬がないため未承認薬の使用を認める制度)した臨床試験。

対象は酸素飽和度が酸素投与下でも94%未満の症例。

9名の日本人を含む53名が解析の対象.中央値18日間の経過観察後,36名(68%)が改善し,酸素投与が不要になった(図5)。

治療開始前,侵襲的治療が34名に行われていたが(人工呼吸器30名,ECMO 4名),治療により人工呼吸器の30名中17名(57%)が抜管でき,ECMO 4名中3名は離脱した。

最終的に25名(47%)が退院,7名(13%)が死亡した。

侵襲的治療群34名では死亡率が18%(6/34名),非侵襲的治療群では5%(1/19名)であった。

重篤な副作用なし.

→ かなり有効そうに見えるが,それでも対照群がないため評価が難しい。

日本の観察研究も有効であったとしても同じことになる。


NEJM. April 10, 2020



◆新規治療(2)

4月10日に有効そうだと紹介したクロロキン(CQ)·ヒドロキシクロロキン(HCQ)

ブラジルでの440名が参加予定だった高用量CQ(600 mg,1日2回,10日間,合計12 g)ないし低用量CQ(450 mg,1日2回,5日間,合計2.7 g)によるランダム化比較試験で,QT延長症候群が高用量群で25%(7/28名),低用量群で11%(3/28名)に認めた.死亡率も高用量群で高く(17%),81名参加の時点で試験は中止された。

少なくとも高用量CQは用いるべきではない。


medRxiv. April 11, 2020



さらにフランスの4病院から2 L/min以上の酸素投与を要する患者に対し,HCQ 600 mgの効果を検証する181名のリアルワールド·データの検証が報告された。

複合エンドポイントはICU入室+死亡とした。

入院後48時間以内に治療を開始したHCQ群84名と非HCQ群97名の比較では,両群に複合エンドポイントに有意差無し(20.2% vs 22.1%;リスク比0.91)。

HCQ群で8名(9.5%)に治療中止を要する心電図異常を認めた。

低酸素を認める患者にHCQの効果は乏しい。


medRxiv. April 14, 2020



◆新規治療(3)

SARS-CoV-2の薬剤標的として,ウイルスが複製に使用するメインプロテアーゼ(MPro)があり,MPro阻害薬のリード化合物(医薬品開発の元となる化合物)が合成されたことは3月25日に紹介した。


Science. March 20, 2020.



今回,強力なMPro阻害薬として,有機セレン化合物ebselen(エブセレン)が発見された。

本薬剤は日本でも急性期脳梗塞に対して臨床試験が行われており、(Stroke. 1998; 29;12-17),安全性も確認されている。

今後,期待される新たな薬剤候補である。


Nature. April 09, 2020.

<2020/04/26記載>


◆ニューヨークのCOVID-19.

12病院での入院患者5700名(女性39.7%)の検討.人種は白人39.8%,黒人22.6%,アジア系8.7%,その他28.9%.合併症は多い順に,高血圧(56.6%),肥満(41.7%),糖尿病(33.8%).入院時,発熱30.7%,頻呼吸17.3%,酸素吸入27.8%.退院したか,あるいは死亡した2634名で転帰を評価したところ,ICU管理は14.2%,人工呼吸器装着は12.2%,人工透析は3.2%,死亡は21%(553名).この死亡率は武漢の28.3%(54/191名)(Lancet 395:1054-1062, 2020)よりは低い.しかし人工呼吸器装着した人に限ると死亡率は88.1%!(282/320名).また271名は人工呼吸器を装着することなく死亡している.一方,退院した2081名中 45名(2.2%)が再入院した(原因記載なし).ACE阻害薬・ARB内服なし,ACE阻害薬内服,ARB内服の3群の死亡率は26.7%,32.7%,30.6%であり,これらの薬剤が予後を悪化させたとは必ずしも言えない.

JAMA April 22, 2020


◆唾液を用いたPCR検査.

なんと唾液検体からのSARS-CoV-2の検出の方が,鼻咽頭拭い液よりも優れていることが米国より報告された.入院患者および医療者の両検体を比較したところ,唾液は検出感度がより高く,かつ経過を通して一貫した結果が得られた(図1).

さらに自己採取でのばらつきも少なかった.自宅での自己唾液採取は,正確,かつ大規模なCOVID-19調査を可能にするだろう.

→ プレプリント論文だが,本当なら医療者の感染防止のためにも唾液検体へ切り替えるべき.

medRxiv. April 22, 2020


◆ウイルスの安定性.

SARS-CoV-2を様々な環境下におき,感染力を維持する期間を検討した香港からの短報.

①気温の影響:4℃では14日後まで,22℃では7日後まで,37℃では24時間後まで感染力を維持したが,56℃では30分後に,70℃では5分後には感染力を喪失した.

②材質の影響(室温22℃,湿度65%の条件):一定時間(30分,3時間,6時間,1日,2日,4日,7日)の経過後,感染力を測定.コピー用紙・ティッシュペーパーでは30分後まで,木材・布では1日後まで,紙幣では2日後まで,ステンレス・プラスチックでは4日後まで感染力を維持.またサージカルマスクの内側では4日後まで,外側では7日後まで感染力を持つウイルスが存在した!(ただし感染価は当初の1000分の1程度).

③標準的な消毒法(家庭用漂白剤,ハンドソープ液,消毒用エタノール70%,ポビドンヨード等)は室温22度でいずれも有効.

Lancet Microbe. April 2, 2020


◆抗体検査.

4月3~4日に米国カリフォルニア州サンタクララ郡の住民3330名を対象とし,Premier Biotechの検査キットを用いた抗体検査を行ったところ,1.5%(95%信頼区間1.11-1.97%;50名)が抗体陽性であった.

この結果から人口194万人の同郡の,4月初めの感染者数は4.8~8.2万人(2.5~4.2%)と推定された.これは実際の報告数956人より50~85倍も多かった.

ちなみに抗体検査の信頼性の低さが指摘されているが,この研究でも2/371検体が偽陽性であり,検査性能を補正した上で解析が行われている

medRxiv. April 17, 2020.

また報道されているようにニューヨーク州の食料品店や休業中も営業している店での調査では,抗体陽性率はなんと13.9%であった.

→ Stay homeしていない人の感染確率は高い.


◆神経症状(1).

ギラン・バレー症候群(GBS).

イタリア北部の3病院にCOVID-19患者が1000~1200名が入院した約3週間において,5名がGBSを発症した.初発症状は,4名は下肢脱力と異常感覚,1名は両側性顔面神経麻痺に続いて運動失調と感覚異常であった.

これらの神経症候は発症から5~10日後に出現した.

3名で検査髄液では細胞増多なし,PCR検査陰性.電気生理学的には軸索型3名,脱髄型2名.全例,免疫グロブリン療法(IVIG)が行われ,1名では血漿交換が行われた.

治療開始後4週の時点で,2名は人工呼吸が必要な状態のまま,2名はリハビリ中,1名は歩行可能となり退院した.

鑑別すべき病態はcritical illness neuropathy/myopathy.

→ 肺病変が顕著ではない症例で呼吸機能低下が見られる場合にはGBSに伴う呼吸器症状の可能性も考える必要がある.

NEJM. April 17, 2020


◆神経症状(2).

ミラー・フィッシャー症候群(MFS)と脳神経炎.

スペインからの2症例の報告.1名は呼吸器症状,発熱で発症し,5日目に嗅覚・味覚障害とともに,核間性眼筋麻痺,動眼神経麻痺,失調,腱反射消失を呈し,抗GD1b抗体陽性であったMFS.もう一例は下痢,発熱後3日目に両側外転神経麻痺,腱反射消失を呈した.

いずれもPCRは鼻咽頭拭い液で陽性,髄液で陰性.1例目はIVIG,2例目はアセトアミノフェンで治療し,2週後には改善した.

Neurology. April 17, 2020


◆神経症状(3).

急性散在性脳脊髄炎(ADEM).

米国からの初のADEMの症例報告がなされた.

40歳代女性で頭痛,筋痛で発症後11日目に球麻痺,失語症を呈した.頭部MRIでは前頭・側頭葉白質,側頭葉極,外包,視床に異常信号を認めた(図2).

ヒドロキシクロロキンとIVIGによる治療が行われ,神経症状は徐々に改善した.

ADEMはコロナウイルス感染症(MERS,OC43)後に発症した報告がある.

medRxiv. April 21, 2020


◆病態(1).

血管内皮細胞障害.

SARS-CoV-2は2型肺胞上皮細胞の膜表面蛋白ACE2に結合し,エンドサイトーシスによって侵入・増殖するが,今回の報告は多臓器障害により死亡した2剖検例と1名の小腸切除例の病理学的検討の結果,全身の内皮細胞へのウイルス感染と炎症,アポトーシスが確認されたというもの.図3のA,Bは腎臓糸球体係蹄,基底膜における内皮細胞に認めたウイルス粒子,CとDは小腸血管および肺における炎症細胞浸潤とカスパーゼ3陽性細胞を示す.

これらは血管内皮細胞の機能障害が広範囲に生じ,炎症,浮腫,血管収縮,凝固傾向,虚血により臓器障害が生じる可能性を示唆する.

危険因子として知られる男性,喫煙,高血圧,糖尿病,肥満,心血管障害は,この血管内皮障害に関連するのかもしれない.

また同じ号に総説(仮説)として,SARS-CoV-2による「ウイルス性敗血症」が提唱されているが,血管内皮障害が呼吸器病変の増悪や多臓器障害に関与する可能性が指摘されている.

→ 重症化防止に血管内皮保護の観点が必要.

Lancet April 17, 2020


◆病態(2).

サイトカイン放出症候群.

COVID-19が重症化する病態として,二次性血球貪食性リンパ組織球症(secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis; sHLH)がある.

発熱,血球減少,高サイトカイン血症,多臓器不全を呈する致死的病態で,スクリーニングには血清フェリチン↑,血小板↓,赤沈遅延,そしてHScoreが有効という論文を3月25日に紹介した。

Lancet. Mar 13, 2020.


今回,米国よりCOVID-19で認められる急性呼吸促迫症候群(ARDS)が,このsHLHや白血病患者に対するCAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法)時に見られるサイトカイン放出症候群により惹起されるARDSと病態が似ていることが指摘された.

つまりSARS-CoV-2が単球,マクロファージ,樹状細胞に感染した際にIL-6産生の亢進をもたらし,膜結合型IL-6受容体を有する細胞(リンパ球)ではシス・シグナリング,有さない細胞(内皮細胞)ではトランス・シグナリングを介して,サイトカイン放出症候群(いわゆるサイトカイン・ストーム)を引き起こすという仮説が提唱された(図4).

このことはIL6抗体であるシルツキシマブ,sIL-6R抗体であるトシリズマブ,サリルマブを本症で使用する理論的根拠となる.

Science. Apr 17, 2020


◆病態(3).

SARS-CoV-2感染の入り口.

3月13日のFBで,SARS-CoV-2はヒトACE2に結合するために,セリンプロテアーゼであるTMPRSS2を必要とすることを紹介した.

今回,ハーバード大学のグループは,ACE2とTMPRSS2の両者を発現する細胞の同定を,ヒト,アカゲザル,マウスのシングルセルRNA-seq解析により行い,3種類の細胞を同定した(II型肺胞上皮細胞回腸栄養吸収腸細胞鼻の粘液分泌をする杯細胞であった).

またこの論文ではCOVID-19の治療にも使用されるインターフェロンがACE2発現を増加させ,ウイルス感染を助長する可能性も明らかにしている(Cell. April 21 2020).

またSanger Instituteの研究チームも同様の研究を行い,鼻腔上皮細胞がACE2とTMPRSS2を高発現し,感染の入口になっていることを示している

Nat Med. April 23, 2020.

→ あらためて飛沫による経鼻ルートの感染防止が重要.


◆ACE阻害剤・ARBの予後への影響.

ACE阻害薬(ACEI)ないしARBが,ACE2発現量を増加させ感染を助長するため,Ca拮抗薬への変更についても言及している。

Lancet Respir Med. March 11, 2020.


しかし米国の3学会は裏付けとなる臨床データがないことから,上記薬剤を中止・変更すべきではないとの声明を発表した.この問題に対する臨床報告がなされた.

中国からの後方視的研究で,高血圧を合併するCOVID-19入院患者1128名におけるACEI/ARBの使用と死亡率の関連を検討している.

ACEI/ARB使用群(188名)の死亡率は3.7%,非使用群(940名)は9.8%であった(P = 0.01).年齢・性別・合併症・服用薬で補正し比較した混合効果Coxモデルでも,ACEI/ARB使用群の死亡率は非使用群に比べて58%低かった(ハザード比0.42; P =0.03)(図5).

以上より,ACEI/ARBの使用が死亡リスクの増加と関連しているとは考えにくい。

Circ Res. April 17, 2020.


同様の検討が中国の別チームから報告されており,362名の高血圧を合併するCOVID-19患者において,ACEI/ARBの使用率は,重症群と非重症群で有意差なし(32.9%対30.7%; P=0.645).

死亡群と生存群でも有意差はなかった(27.3%対33.0%; P=0.34)

JAMA Cardiol. April 23, 2020

→ COVID-19患者における高血圧治療は従来どおりで良い.


◆ 新規治療.ヒドロキシクロロキン(HC).

トランプ大統領が「医学史上最大の反撃の切り札になる真の可能性を秘めたものの一つ」と推奨した抗マラリア薬.

プレプリントであるが,米国から368名に使用された後方視的解析結果が報告された.内訳はHC群97名,HC+AZ(アジスロマイシン)群113名,対照群158名で,死亡率は順に27.8%(!),22.1%,11.4%.さらに人工呼吸器装着率は13.3%,6.9%,14.1%という結果であった.

AZの有無に関わらず,HCはむしろ有害で,進行中の臨床研究に警鐘を鳴らす結果となった.

→ 薬剤の真の評価は対照群を置かないことには分からない.


<2020/05/03更新分>



◆無症状患者の感染性.

ベトナム・ホーチミンにおいて患者と濃厚接触した14,000名中のうち,鼻咽頭拭い液PCR検査が陽性であった49名のなかから,30名が前方視的研究に参加した.

なんと13名(43%!)は経過を通して無症状だった.

PCR検査の陽性率を症状の有無で比較すると,無症状感染者のほうが19日目まで陽性率が低く(P<0.001;図1),より早くウイルスが除去されているものと考えられた.

また無症状感染者のうち2名(6.7%)が,接触者4名に感染させていた。

→ 無症状感染者はかなり多い,かつ自分が感染していることに気付かず,誰かに感染させうるという根拠となる論文.

感染は症状で分からないので,濃厚接触者にはPCR検査をするしかない.


medRxiv. April 29, 2020.



◆確立した重症化因子.

高齢(65歳など),慢性肺疾患,心血管病,糖尿病,肥満,免疫不全宿主(AIDS,ステロイド・免疫抑制剤長期使用,骨髄・臓器移植),喫煙,腎疾患進行期,肝疾患.


New Engl J Med. April 24, 2020.



◆腹臥位による低酸素血症の改善.

COVID-19では低酸素血症に対して酸素吸入が効きにくく,かつ非侵襲的陽圧換気療法もエアロゾルを発生するため行えない.

このため早期から気管内挿管が選択されるが,これは人工呼吸器不足に拍車をかける.

2017年のChest誌の論文で,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の低酸素血症に腹臥位(うつ伏せ)が有効で,気管内挿管を防止ないし遅らせる効果が報告されている.

本研究では,救急外来に低酸素状態(SpO2 <90%)で来院し,酸素吸入しても改善に乏しい患者50名を対象として,腹臥位の効果を検証した.

酸素吸入しつつうつ伏せになってもらったところ,うつ伏せ前84%(四分位範囲75-90%)が,5分後には94%(90-95%)に改善した(P=0.001).

ただし13名(24%)では効果がなく, 24時間以内に気管内挿管された.

考察には腹臥位→左・右の側臥位→坐位と30~120分で変えていく方法が提案されている.


Acad Emerg Med. April 22, 2020.



◆完全防御の難しさ.

WHOが推奨する個人用保護具(N95マスク,目の保護具,隔離ガウン,手袋)のウイルス防御効果についての検証試験.

救急外来にて,成人ないし小児の患者に対し,気管内挿管と血管確保を,医師2名,看護師2名で行うというシナリオのもと,マネキンに咳による飛沫を暴露させた(紫外線を当てると可視化できる蛍光マーカーを含む飛沫を,MAD Nasalという霧化器を用いて作成した).

4名×2(成人,子供)で8名のマネキンで行った.

結果は露出していないはずの髪の毛に7名,首に6名,靴に4名,耳に1名で蛍光が検出された(図2).

よってPPEでは皮膚への暴露を完全に防ぐことができない可能性がある.

すべての皮膚を覆う衣服の着用が望ましいと著者は言っている.

処置後,顔を触らずに,早めにシャワーを浴びることが良いかもしれない.


JAMA. April 27, 2020.



◆エアロゾル中のウイルスRNAの残留.

武漢の2つの病院内の3つのエリアから採取したエアロゾル中のウイルスRNA濃度を測定した研究.

①患者エリアでは,隔離病棟や風通しが良い病室では非常に低い

しかし換気の悪い患者用トイレでは上昇していた.

②医療スタッフエリアでは,個人用保護具(PPE)着脱室では高い.

しかしPPEの消毒後,ウイルスは検出されなくなった.

③公共エリアではほとんど検出されなかったが,混雑するデパートの入り口と病院隣接地でやや高く,無症状感染者がそこにいたためと考えられた.

以上より部屋の換気,トイレやPPEの消毒は,エアロゾル中のウイルスRNA濃度を低下させ,感染予防に役立つ可能性がある.

ただし本研究では,エアロゾル中のウイルスが実際に感染性を持つかの検討がなされていない.


Nature. 27 April 2020.



◆川崎病.

川崎病は発熱,眼球結膜充血,特徴的な口唇・口腔所見,非化膿性頸部リンパ節腫脹,不定形発疹,四肢末端の変化を呈する小児の血管炎症候群である.

英国から川崎病の診断基準を満たすCOVID-19の6ヶ月女児が報告された.

川崎病治療ガイドラインに従い,IVIGと高用量アスピリンにて治療し解熱した.

著者らはCOVID-19は川崎病を呈しうること,ならびに川崎病とCOVID-19の病態の関連についての検討が必要と指摘している.

→ COVID-19は成人,小児を問わず,血管炎+凝固異常を引き起こしうる.


Hosp Pediatr. April 7, 2020.



◆神経症状(1).

若年患者における主幹動脈閉塞症.

ニューヨークからの報告.2週間で50歳未満の主幹動脈閉塞による脳梗塞を5例経験した(男女4:1,33~49歳).

NIHSSは平均17点と重症.若年主幹動脈閉塞症は,過去12ヶ月では,2週間で0.73例のペースであり,明らかに増加している.

凝固異常や血管内皮障害が関与している可能性がある(D-dimerは52~13800 ng/mlと著増).


New Engl J Med. April 28, 2020.



◆神経症状(2).

筋MRIで異常信号を呈した急性筋炎.

起床後の筋痛,下肢筋力低下(MMT 3レベル),転倒にて発症し入院.発熱や呼吸器症状なし.

CK 25,384 IU/Lと著増.CRP 54 mg/L,リンパ球減少を認めた.

入院4日目に発熱,5日目に胸部CTですりガラス陰影,7日目に酸素投与開始.筋MRIで両側外閉鎖筋と大腿四頭筋に浮腫を認めた.

筋炎に関連する既知の抗体は陰性.

呼吸状態が悪化し,11日目にICU入室.肺胞洗浄液で初めてPCRが陽性となった.

急性筋炎の鑑別診断としてCOVID-19感染も考えるべき。


Ann Rheum Dis. April 23, 2020.



◆神経症状(3).

COVID-19に感染したパーキンソン病患者10名の転帰.

イタリアと英国からの報告.

イタリアの2例は施設入所中の進行期PD.1例は感染後も無症状.認知障害と幻覚を認めた1例は呼吸器症状出現し死亡.

英国の8名(男女6:2)は全例60歳以上であったが,感染後,5/8例でL-ドパの必要量が増加した.

また不安や疲労,起立性低血圧,認知機能障害,精神症状といった非運動症状が増悪し3名が死亡した.

高齢で罹病期間の長い患者(平均78.3歳,罹病期間12.7年)における死亡率は40%(4/10名)と高く,デバイス補助療法 (DBSないしLCIG)中の4名では50%だった.

パーキンソン病において,高齢,進行期,デバイス補助療法は予後不良因子の可能性がある.


Mov Disord. April 298, 2020.



◆抗体の動態と検査の意義.

中国からの報告.

PCR陽性患者285名の検討で,IgGは発症17~19日後に100%が陽転,IgMは20~22日後に94.1%が陽転.いずれも発症後3週間上昇し,IgGは横ばいになるが,IgMは若干低下する.

IgG/Mとも重症例で高力価であった.

また63名で経時的(3日毎)に抗体を測定したところ,入院期間を通じてIgG/Mとも陰性であった症例が2名(3.2%)存在した.

1回目検査で抗体陰性で,その後,IgG/Mの少なくとも一方が陽転化した26名の検討では3つのパターンがあった(①IgGとIgMが同時(9名),②IgMが先(7名),③IgGが先(10名)).

IgGは初回に検出されてから6日で横ばいになった(図3).

MERS(中東呼吸器症候群)の診断基準に採用されている①抗体陽転化,あるいは②IgGの4倍上昇をCOVID-19患者41名に当てはめると,29名(70.7%)が基準を満たした(①は21名,②は8名).

また胸部CTでCOVID-19が疑われたもののPCRが陰性であった52名中4名(7.7%)で抗体が陽性.濃厚接触者でPCR陰性の148名中7名(4.7%)で抗体が陽性であった.

→ よって抗体検査はPCR検査を補うものとして有用である.


Nat Med. April 29, 2020.



◆ワクチンは諸刃の剣.

ワクチンの有効性は,どれだけウイルスに対し抑制効果のある中和抗体の産生を誘導できるかにかかっている.

一方,ワクチンでは「antibody-dependent enhancement (ADE)」と呼ばれる,むしろ病原性を高め逆効果となる現象の存在が知られている.

SARS-CoVの場合,ワクチンにより誘導された抗体が,Fc受容体を発現する細胞(単球,マクロファージ,B細胞)に結合し,これらの細胞にウイルスが侵入しやすくしたり,Toll様受容体の活性化やサイトカインを介して,炎症や急性肺損傷を引き起こすことが知られている(図4).

ワクチンにより誘導される抗体が中和抗体となるか,ADEを引き起こすかは,エピトープの種類,親和性,アイソタイプなどに依存する.

SARSでは,不活ウイルスや,ウイルスベクター・DNAワクチンによるS蛋白によるワクチンがADEを引き起こしたことが報告されている.

さらに高齢者においても,安全で有効な抗体の誘導できるかの検証が必要である.このような制約のあるワクチンよりも,安全で効果的な中和抗体を大量生産して投与するほうが良いかもしれない.

→ 早期の経済活動の再開のためにも,本邦のDNAワクチン開発に期待したいが,ADEによる増悪リスクを忘れてはならない.


Nat Rev Immunol.April 21, 2020.



◆治療薬(1).

降圧剤ACE阻害剤(ACEi)/ARBの結論.

5つの後方視的な臨床試験のメタ解析が報告された.

これらの降圧剤を使用している高血圧合併患者308名は,使用していない1172名と比較して,重症化率は44%減少(オッズ比0.56:95%信頼区間0.34-1.89),死亡率は62%減少(オッズ比0.56:95%信頼区間0.19-0.74)した.

ACEi/ARBはCOVID-19患者に安全して使用でき,おそらく重症化や死亡を抑制する.


medRxiv. April 28, 2020



◆治療薬(2).

米国FDAが緊急認可し,厚労省が「特例承認」を行うレムデシビル(ウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤).先行する臨床試験で有効性が期待できたものの(NEJM. April 10, 2020),対照群がないため評価が難しい状態であった.

今回,武漢の10施設で行われたランダム化比較試験の結果が報告された.

組み入れ基準は18歳以上で,発症から12日以内,低酸素血症と画像上肺炎を認める症例とした.治療群(静注10日間):プラセボ群=2:1で割り付けられた(158名:79名).

主要評価項目は臨床的に改善するまでの日数で,改善の定義は,6段階スケールで2段階改善するまでの日数,もしくは退院までの日数のいずれか早い方とした.

主要評価項目は両群間に有意差なし(治療群:プラセボ群=21.0日:23.0日,ハザード比1.23)(図5).

死亡率も有意差なし(14%:13%).患者発生が減少して予定人数が集まらず,統計的検出力が低下したことを考慮しても,PCR検査によるウイルス排出量や,28日後のPCR陰転化例の割合にも有意差なく,かつ治療群では有害事象のために中止した患者が多かった(12%対5%)ことから,明らかに失敗だろう.

→ 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAD)は,レムデシビルは回復期間を短縮する(11日対15日;P<0.001)とプレスリリースしたが,論文は未発表.

こんな中途半端な状況で日本は本当に「特例承認」するのだろうか?


<以下は2020/06/10追加分>


◆鼻腔の細胞に感染しやすく,肺末梢にはしにくい.


米国からの報告.まずin situ RNA mappingにより,ウイルス受容体ACE2の発現は,気道の入り口である鼻腔でもっとも高く,末梢(気管→気管支→肺胞)では低下していることが明らかにされた.そして新たに作成されたGFPレポーター・ウイルスを用いた実験で,このACE2発現の勾配に一致して,ウイルスの感染性は鼻腔で高く,末梢で低下することが示された.つまりウイルスはまず鼻腔に容易に感染・増殖し,吸気を介して,肺の末梢に広がるようだ.著者らは,鼻腔からの飛沫やエアロゾルの放出を防止するマスク使用は合理的であること,そして病初期では鼻腔感染に対する鼻腔洗浄や,点鼻による抗ウイルス薬・中和抗体が有効である可能性を指摘している.

Cell. May 26, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.042


◆社会(身体)的距離,マスク,眼の保護のエビデンス.


コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2,SARS,MERS)における感染予防法の効果を調べた44試験のメタ解析がカナダから報告された.まず1メートル以上の社会的距離は,1メートル未満に比べて,ウイルス感染を低下させる(pooled補正オッズ比[aOR] 0.18, 95%信頼区間0.09−0.38).つまり感染率が82%も低下する!この予防効果は距離が離れれば離れるほど強くなる(図1).マスクの使用も感染率を85%も減少し (aOR 0.15, 0.07−0.34),その効果はサージカルマスクと比べ,N95マスクで勝る.また眼の保護も予防効果がある(aOR 0.22, 0.12−0.39).社会的距離の確保とマスク着用は感染拡大防止に不可欠である.

Lancet. June 01, 2020(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31142-9


◆発症から8日で感染力は消失する?


PCR陽性はウイルスRNAの検出を意味するが,その検体が感染力をもつとは限らない.このためPCR陽性となった検体の感染力について検討した研究がカナダから報告された.まず発症後21日目までに採取された90検体をVero細胞と培養したところ,26検体(28.9%)で細胞への感染が認められた.感染は発症から8日以上,経過した検体では認められなかった.PCRのサイクル閾値(Ct)の中央値は23(IQR 17~32)であった(小さいほどウイルス量が多い).感染する検体のCt値は,感染しない検体より有意に低く(17回対27回;p <0.001),また発症から検査までの日数は,感染する検体で有意に短かった(3日対7日;p <0.001)(図2).Ct > 24回,または症状発現から8日以上経過した検体では,細胞への感染力は消失していた.→ ウイルス量が少ない,もしくは発症から8日を超えた場合,感染患者の厳密な隔離は不要かもしれない.

Clin Infect Dis. May 22, 2020(doi.org/10.1093/cid/ciaa638


◆患者自身によるPCR検体採取の感度は良好.


医療者による鼻咽頭拭い液の採取と比べて,患者自身が舌,鼻,中鼻甲介から検体を採取する方が,医療者のウイルス曝露を減らし,個人防護具(PPE)を節約できるのではないかと期待されている.しかし患者自身による検査結果は,医療者による検査結果と相関するのか?もしくは感度が劣らないか?という問題がある.米国からの研究で,患者自身が採取した舌,鼻,中鼻甲介の検体の感度は,医療者によって採取された鼻咽頭拭い液と比較して,89.8%(片側97.5%信頼区間78.2−100.0),94.0%(83.8−100.0),96.2%(87.0−100.0)であり,鼻と中鼻甲介については,臨床的に受け入れられるものと考えられた.Ct値に関しては,鼻咽頭ぬぐい液と,舌,鼻,中鼻甲介との相関係数は0.48,0.78,0.86であった(図3).→ 患者自身が採取する鼻,中鼻甲介からの検体を用いたPCR検査は,医療者による鼻咽頭拭い液の採取に替わる検査となる可能性がある.

NEJM. June 3, 2020 (doi: 10.1056/NEJMc2016321)


◆手術を要した患者の生命予後と,死亡のリスク因子.


世界24か国で手術を受けた患者1128名の生命予後の検討.緊急手術が74.0%,待機手術が24.8%であった.主要評価項目である術後30日における死亡率は23.8%!と高かった.肺合併症が51.2%に生じたが,この場合,死亡率は38.0%に増加した.30日後死亡率の危険因子は,米国麻酔科学会全身状態分類3~5(不良)(オッズ比2.35),70歳以上(2.30),男性(1.75),緊急手術(1.67),悪性疾患(1.55),大手術(1.52)であった.→ 手術を要したCOVID-19患者の生命予後は不良.やむを得ない緊急手術を除き,手術を延期するための内科的治療を検討すべき.

Lancet. May 29,2020(doi: 10.1016/S0140-6736(20)31182-X)


◆人工呼吸器装着患者の「空気飢餓感」による心理的トラウマを麻薬で防ぐ.


急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のため,人工呼吸器を装着された患者が経験する高度の「空気飢餓感」が引き起こす恐怖と不安への対策の重要性が指摘されている.高度の「空気飢餓感」は,ICUからの生存者の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の原因として注目されている.筋弛緩薬の使用はこの症状の緩和に無効.プロポフォールの効果は不明.麻薬の使用が最も有効と考えられているものの,実診療では十分に使用されておらず,積極的な使用が望まれる.

Ann Am Thorac Soc. Jun 5, 2020 (doi: 10.1513/AnnalsATS.202004-322VP)


◆神経疾患(1).パーキンソン病(PD)患者は症状が軽い?


PD患者は,一般集団と比較して,COVID-19の感染リスクが高いか?感染の危険因子は何か?また臨床症状が異なるか?について検討したイタリアからの症例対照研究.対象は軽度から中等度のPD患者1486名とその家族(対照)1207名である.それぞれの群で罹患者は105名(7.1%)と92名(7.6%),死亡者は6名(5.7%)と7名(7.6%)で,差はなかった.PD患者において感染した105名は,感染しなかった患者と比較し,2.5歳ほど若く,肥満や慢性閉塞性肺疾患の頻度が高く,ビタミンDの内服が少なかった(年齢調整オッズ比0.56).またPD群で罹患した者は,対照群と比べて,息切れを訴える頻度が少なく(0.33),入院も少なかった(0.41).→ 軽度から中等度のPD患者におけるCOVID-19の罹患率および死亡率は一般集団と変わらず,症状も軽度である可能性がある.またビタミンD内服の有効性について検討する必要がある.

Mov Disord. June 02, 2020 (https://doi.org/10.1002/mds.28176)


◆神経疾患(2).入院中のCOVID-19患者における神経症状(ALBACOVID registry).


スペインからの報告.841名の患者の57.4%が神経症状を呈した.筋肉痛(17.2%),頭痛(14.1%),めまい(6.1%)などの非特異的な症状は,主に感染早期に見られた.無嗅覚症(4.9%)と味覚異常(6.2%)も早期に認められ,重症度の低い患者でより高頻度にみられた.意識障害は19.6%で認められ,主に高齢者と重度例に多かった.頻度は少ないものの,ミオパチー(3.1%),自律神経障害(2.5%),脳血管疾患(脳梗塞1.3%,脳出血0.4%),けいれん発作(0.7%;重積発作なし,6名中4名は進行期,2名は脳出血後),運動異常症(0.7%;ミオクローヌス様振戦が多い)も認めた.脳炎(髄液PCR陰性),ギランバレー症候群,視神経炎を各1名で認めた(いずれも回復期に発症した).死亡の4.1%が,神経合併症によるものであった.→ 神経症状は高頻度に出現する.とくに著しい低酸素血症や代謝変化がないにもかかわらず,意識障害や精神症状が出現した場合には脳神経内科医による評価が必要である.

Neurology, June 01, 2020 (doi.org/10.1212/WNL.0000000000009937)


◆新規治療(1).ファモチジン(ガスター®).


SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬の標的として,ウイルスタンパク質の成熟に必要なペプチダーゼ3CLproがある.市販のH2ブロッカー,ファモチジン(ガスター®)には,この3CLpro阻害作用があると想定され,COVID-19治療の候補薬の一つと考えられていた.

まず米国における入院患者1,620名の後方視的解析にて,入院から24時間以内に84名(5.1%)においてファモチジンが使用され(用量10~40 mg,28%は静注),死亡または気管挿管の発生率低下と関連した(調整ハザード比0.43,95%信頼区間0.21−0.85).つまりファモチジン使用群では,非使用群に比べて,死亡ないし気管内挿管は57%も低かった

(Gastroenterology. 22 May 2020:doi.org/10.1053/j.gastro.2020.05.053).

また,高用量の経口ファモチジン(50~80 mg,1日3回,11日間)を内服した入院していない患者10名すべてにおいて,開始24時間以内に複合症状スコアの顕著な改善を認めた.忍容性は良好であった.今後のRCTでの評価が期待される

(Gut. June 4, 2020;doi.org/10.1136/gutjnl-2020-321852).


◆新規治療(2)回復期患者血漿のランダム化比較試験(RCT).


中国からの報告.対象は割付け前72時間以内にPCRで感染が確定され,胸部CTで肺炎を認めた重症ないし最重症(致死的状況)の患者.ただしSタンパク・受容体結合ドメイン特異的IgG 抗体価が高い患者は除外されている.患者数の減少のため,目標患者数に到達しなかったが,103名が参加した.回復期患者血漿群52名,対照群51名で,重症度によって層別解析を行った.主要評価項目である28日以内の臨床的改善(6段階で2段階の改善)は,回復期患者血漿群51.9%,対照群43.1%で有意差なし(差は8.8%[95%CI,-10.4%~28.0%],ハザード比[HR],1.40[95%CI,0.79~2.49],P=0.26)(図4).層別解析では,最重症患者では有意差はなかったが,重症患者では回復期患者血漿群91.3%,対照群68.2%(ハザード比, 2.15; P =0 .03)と有意差を認めた(ただし重症度との交互作用なし).副次評価項目の28日以内の死亡率は15.7%対24.0%で有意差なし.72時間後,PCRが陰性化した患者の割合は,回復期患者血漿群で,対照群と比較して有意に多かった(87.2%対37.5%, P < 0.001).回復期患者血漿群で輸血後数時間以内に2名の有害事象を認めたが回復した.→ RCTを行なったものの,有効性を証明できなかった.症例数不足で,検出力不足であった可能性がある.しかし,サイトカイン・ストームや凝固異常症が起きている最重症例に,中和抗体のみで治療するのは困難と考えるのが妥当かもしれない.

JAMA. 2020 Jun 3. (doi: 10.1001/jama.2020.10044)


◆新規治療(3).Brutonチロシンキナーゼ阻害剤アカラブルチニブ.


COVID-19重症患者では,マクロファージの活性化を示唆する過剰炎症性免疫反応を示す.またBrutonチロシンキナーゼ(BTK)は,マクロファージのシグナル伝達と活性化を調節することが知られている.具体的には,図5に示すように,ウイルスssRNAがTLR7/8に結合し,それがBTKやMYD88の活性化をもたらし,さらにBTK依存性NFkB活性化を引き起こす.そして下流に存在するIL6をはじめとする炎症性サイトカイン,ケモカイン産生をもたらす.このため選択的BTK阻害剤であり,慢性リンパ球性白血病治療に使用されるアカラブルチニブを,COVID-19重症患者19名(うち酸素投与11名,人工呼吸器管理8名)に適応外使用した.10〜14日間の治療で,アカラブルチニブは大部分の患者の酸素化を1~3日で改善した.CRPやIL-6で評価した炎症や,リンパ球減少症もほとんどの患者で迅速に正常化した.治療終了時,酸素投与群の8/11名(72.7%)は酸素不要状態で退院し,人工呼吸器群の4/8名(50%)は抜管,2名は退院した.現在,アストラゼネカによるRCTであるCALAVI試験が進行中である.

Science Immunol. Jun 05, 2020. (doi: 10.1126/sciimmunol.abd0110)


<2020/06/16追加分>



◆感染拡大防止にマスク着用はきわめて効果的である.


武漢,イタリア,ニューヨーク(NY)における感染拡大にもっとも影響を及ぼした要因は,マスク着用の義務化であったという論文が報告された.図1のAは3都市の感染者数と感染対策の効果について示している.縦線はロックダウンや社会的距離政策の実施日を示し,2つの黒丸はマスク着用の実施日を示す.黒の破線は,マスク着用をしない場合の感染者数予測値である.BとCは,イタリアおよびNYにおけるマスク着用の効果を示し,マスク着用のみで,イタリアでは7.8万人以上,NYでは6.6万人以上の感染者数が減少したと予測された.イタリアとNYでは,マスク着用前に,都市のロックダウンや社会的距離政策が実施されたが効果が乏しかった.これに対しマスク着用とこれらの政策を同時に実施した武漢では感染者数曲線は見事に平坦化し,感染拡大は抑制でされた.この違いは社会的距離政策のみでは接触感染を防げても,エアロゾルを介した空気感染(airborne transmission)が防げないためだと著者らは推測している.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Jun 11;202009637.(doi.org/10.1073/pnas.2009637117


◆COVID-19は季節性呼吸器ウイルスの可能性がある.


COVID-19感染が拡大した8都市(武漢,東京,大邱,コム,ミラノ,パリ,シアトル,マドリード)を,感染が拡大していない42都市と気候データ(緯度,平均気温,平均湿度,平均相対湿度)比較した. 8都市は,北緯30~50度の回廊地帯に位置していた.平均気温は5~11℃,低比湿(3~6g/kg)と低絶対湿度(4~7 g/m3)を組み合わせた,類似した気象パターンを有していた.例えば武漢(北緯30.8度)では死者数3136人,患者数80,757人であったのに対し,この地帯に含まれないモスクワ(北緯56.0度)では死者数0人,患者数10人,ハノイ(北緯21.2度)では死者数0人,患者数31人と少なかった.限定された緯度,温度,湿度の測定値に沿って多い患者発生分布は,季節性呼吸器ウイルスの動向と一致する.この気象モデルを用いることで,今後数週間の間に集団発生するリスクが高い地域を推定することができるかもしれない.→ 本当であればとても嬉しい.

JAMA Netw Open. 2020;3(6):e2011834.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.11834


◆脳病理所見(1)ウイルス感染に関連した脳炎は認めない.


米国から人工呼吸器が装着され,のちに死亡した18名(うち男性14名,中央値62歳)の脳病理所見の報告.発症から0~32日後(中央値8日)に死亡した.全例で急性低酸素性障害を大脳および小脳に認め,大脳皮質,海馬の神経細胞,および小脳プルキンエ細胞が減少していたが,血栓や血管炎はなかった.ウイルス感染に関連した脳炎や他の特徴的な変化(脳卒中,脳ヘルニア,嗅球障害)は認められなかった.5名からの6つの脳切片を用いたPCR検査で,一部の脳標本からウイルスRNAを低力価で検出したものの,力価と発症から死亡までの期間と相関はなかった.また免疫組織化学的検索で,ウイルスは染色されなかった.検出されたRNAは血液由来の可能性もある.

N Engl J Med. Jun 12, 2020.(doi.org/10.1056/NEJMc2019373


◆脳病理所見(2)ウイルス感染に関連した脳炎は認められる.


ドイツからも人工呼吸器が装着され,のちに死亡した6名(うち男性4名,58~82歳)の脳病理所見の報告.発症から2~10日後に死亡した.65歳以上の3名の死因は心肺不全であった.対照的に65歳未満の患者はすべて頭蓋内出血または肺塞栓症で死亡し,COVID-19関連凝固異常症と考えられた.しかし病理学的には両群ともにリンパ球性汎脳炎と髄膜炎を認めた(図2).血管炎はなかった.脳幹に関しては,全例で,迷走神経背側運動核,三叉神経,孤束核,背側縫線核,内側縦束に神経細胞の喪失と軸索変性を伴う血管周囲および間質性脳炎が観察された.梗塞なし.これらの所見がウイルスの直接侵入によるものか,免疫反応にともなう二次的なものかは分からなかった.→ 人工呼吸器装着例を対象とした2つの報告で,脳病理所見に大きな差が見られた理由は不明.さらなる症例蓄積が必要.

Lancet. June 04, 2020. (doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31282-4


◆神経合併症(1)非定型的抗MOG抗体関連疾患.


イギリスからの報告.呼吸器症状にて発症後の7日目に,右手の協調運動障害が徐々に出現した.48時間後に失語と右手の筋力低下が進行したため,脳卒中を疑われ救急外来をへて入院した.頭部MRIでは,T2強調にて左側優位の皮質下深部白質病変を認め,血管周囲の造影所見を認めた(図3A,D).脊髄病変なし.髄液細胞数13/mm3(すべて単核球),タンパク質507 mg/L.オリゴクローナルバンド陰性.咽頭拭い液PCRは陽性であったが,髄液は2回行い,いずれも陰性.入院6日後に失語症や筋力低下,画像所見は増悪した(図B,E).入院6日目からステロイドパルス療法,8日目から血漿交換を開始した.以後,急速な臨床的改善がみられ, 18日目には神経症状は消失し,造影所見も消失した(図C,F).退院後2週間して,抗MOG抗体陽性が判明した.著者らは血管内皮障害により抗MOG抗体が中枢神経内に侵入し,ユニークな臨床・画像所見を呈したと推測している.


Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020 Jun 10;7(5):e813. (doi.org/10.1212/NXI.0000000000000813)


◆神経合併症(2)急性出血性壊死性脳炎.


33歳代女性(米国).疲労,発熱,頭痛にして発症後,4日目にけいれん重積発作をきたした.心筋炎の合併も認めた.鼻咽頭拭い液にてPCR陽性.髄液のPCRはできなかったが,他のウイルス性脳炎は否定された.急性出血性壊死性脳炎はCOVID-19でも1例報告があり(Radiology. 2020 Mar 31:201187),血液脳関門破綻を伴うサイトカイン・ストームに伴って生じる可能性が指摘されている.頭部MRIは対称性・出血性の視床,小脳病変を呈する.→ 意識障害時に,両側性視床病変の確認も必要.


Neurology. June 4, 2020.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000801


◆COVID-19の影響(1)多発性硬化症.


米国からCOVID-19に罹患したMS患者8名(6名が女性;35~74歳)の症例集積研究が報告された.8名中5名が再発性MSであった.6名が低い障害度であったが(EDSSスコア1~3.5),2名は高度障害であった(EDSS7.5と8.5).疾患修飾薬(DMTs)は7名で使用され(インターフェロン1名,グラチラマー酢酸塩1名,ジメチルフマル酸塩2名,テリフルノミド1名,フィンゴリモド2名),その全例で継続されていた.6名は軽症で,ほぼ回復したが,高度障害を認めた2名が死亡した.剖検は行われなかった. DMTsを継続すべきかについて,今後,多数例での検討が必要である.

Neurol Neuroimmunol Neuroinflam. May 26, 2020. (doi.org/10.1212/NXI.0000000000000783


◆COVID-19の影響(2)パーキンソン病(PD)その1


6月8日の記事で,イタリアの症例対照研究にて,軽度から中等度のPD患者におけるCOVID-19の罹患率および死亡率は「一般集団」と変わらず,症状も軽度である可能性があることを紹介した(Mov Disord. June 02, 2020 (doi.org/10.1002/mds.28176)).この原因として,中枢・末梢神経に発現し,PDの原因となるαシヌクレインが免疫防御において重要な役割を果たし,末梢から中枢神経に侵入を防御しているという仮説が提唱された.αシヌクレインは末梢で,赤血球のみならず,免疫細胞にも発現し,感染に反応すること,αシヌクレインKOマウスではT細胞発達が阻害されることなどが根拠としてあげられているが,まだ仮説の域は出ない.ただしつい最近の研究で,孤発性パーキンソン病では末梢(血清)αシヌクレインは有意に増加していると報告され,気になる報告である

(Parkinsonism Relat Disord. 2020 Mar 22;73:35-40. doi: 10.1016/j.parkreldis.2020.03.014)Mov Disord. 2020 Jun 9. (doi.org/10.1002/mds.28185


◆COVID-19の影響(3)パーキンソン病(PD)その2


イタリア,ロンバルディア州在住のPD患者141例のうち,軽症から中等症のCOVID-19症例12例(8.5%)を性別,年齢,罹病期間をマッチさせた36人の「PD対照群」と,MDSUPDRSパートII・IV,非運動症状尺度等を用いて比較した.COVID-19群では運動症状と非運動症状が有意に悪化し,1/3の症例で治療薬の調整が必要であった.症状の悪化は,感染に関連した機序と抗パーキンソン剤の薬物動態の障害の両方によるものと考えられた.最も顕著な非運動障害は排尿障害と疲労であった.認知機能障害はわずかで,自律神経障害はなかった.PD患者は,年齢や疾患期間に関係なく,COVID-19感染により運動症状・非運動症状の大幅な悪化を経験する可能性がある.著者は,まず治療薬の調整の前に,発熱・下痢・食欲低下に伴う脱水による薬物動態の変化を考慮すべきと述べている.軽症から中等症のCOVID-19に関連したPDの増悪は,ウイルスの直接的侵襲ではなく,全身性の炎症反応によって引き起こされている可能性が高い.

Mov Disord. 2020 May 25;10.1002/mds.28170. (doi.org/10.1002/mds.28170


◆中枢神経に侵入するもうひとつの経路:NRP1(ニューロピリン1)


SARS-CoV-2がヒトの臓器に侵入するメカニズム(とくにウイルスの受容体)は治療戦略を考えるうえで重要である.SARS-CoV-2にはタンパク分解酵素furinによる切断サイトが存在し,furinを阻害すると感染効率が落ちる.このためfurinが切断した基質と結合する血管増殖因子ニューロピリン-1(NRP1)に着目した.そして実際に,(1)切断されたスパイク蛋白は嗅上皮に存在するNRP1に結合すること.(2)NRP1結合抗体がヒト培養細胞へのSARS-CoV-2感染を防ぐこと.(3)ヒトCOVID-19剖検例において,嗅上皮と嗅球でSARS-CoV-2感染NRP1陽性細胞が検出されること(図4).また嗅球ではNRP1陽性血管内皮細胞にも感染が認められ,血管の透過性が亢進する可能性があること.(4)マウスを用いた実験で,偽ウイルス粒子の鼻腔内投与後,NRP1依存性に中枢神経に輸送されること(鼻から脳への進入経路があること)が示された.→ NRP1を介したウイルスの中枢神経への移行の可能性が示された.NRP1は抗体療法や,ワクチン開発の標的として有望である.

bioRxiv. June 05, 2020(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.07.137802v1


◆抗体依存性感染増強現象を起こさずサルに中和抗体を誘導する不活化ワクチンが開発された.


中国の企業にて,不活化SARS-CoV-2ワクチン候補であるBBIBP-CorVが開発された.これは抗体依存性感染増強現象(antibody-dependent enhancement;ADE)を起こさず,マウス,ラット,モルモット,ウサギ,非ヒト霊長類(シノモルグザルおよびアカゲザル)において高レベルの中和抗体価を誘導した.そして実際に,BBIBP-CorV(2μg/回)の2回接種は,アカゲザルにおけるSARS-CoV-2の気管内感染に対し,ADEを生じることなく,高効率の防御効果が得られた(図5).さらに,BBIBP-CorVは効率的に生産が可能で,またワクチン開発において良好な遺伝的安定性を示した.今後,臨床試験においてBBIBP-CoVの評価のステージに入る.


Cell. June 06, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.06.008


<2020/06/23追加分>



◆無症状感染者はウイルス抗体価が低く,回復早期に陰性化してしまう.


無症状感染者の臨床像と抗体に関する中国からの報告.濃厚接触者に対し行なったPCRで陽性であった178名のうち,37名(20.8%)が無症状感染者であった.無症状感染群のウイルス排出期間(中央値)は19日で,症状あり群37名の14日より長かった(P = 0.028).またウイルス曝露から3~4週後にウイルス特異的IgG抗体が検出された頻度は,無症状感染群81.1%,症状あり群83.8%で,IgM抗体はそれぞれ62.2%,78.4%であった.しかし無症状感染群は,症状あり群と比べIgG抗体価が低く(p=0.005),この傾向は回復早期にも持続していた.驚いたことに,IgG抗体価は回復早期という短い期間で,無症状感染群の93.3%,症状あり群の96.8%の症例で低下し,かつ抗体価も前値の71.1%,76.2%に低下していた(図1).偽ウイルスを用いた中和活性はそれぞれの群で81.1%,62.2%の症例で低下し,低下率はそれぞれ8.3%, 11.7%であった.回復早期で,無症状感染群の40%,症状あり群の12.9%がIgG陰性(seronegative)となった.→ 回復早期でのウイルス特異的 IgG および中和抗体レベルの低下は,集団免疫の獲得が難しい可能性を示唆する.

Nat Med (2020). (doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6


◆回復期患者血漿の中和抗体価はばらつきが大きく,大半は低力価.


回復期患者149名における中和抗体についての米国からの報告.発症から平均39日後に採取された血漿を用いて,偽ウイルスを用いた中和抗体価を調べるとばらつきが大きく,全体の33%は1:50未満,79%は1:1,000未満で,1:5000を超える力価を示したのはわずか1%であった.抗体配列決定の結果,受容体結合ドメイン(RBD)特異的メモリーB細胞のクローンが拡大しており,各個人に密接に関連した抗体を発現していることが明らかになった.低い力価にもかかわらず,RBDの3つの異なるエピトープに対する抗体は,50%阻害濃度(IC50値)がng/mLという低い値で中和できた.→ ほとんどの回復期血漿には,高力価の中和抗体は含まれていない.しかし強力な抗ウイルス活性を持つRBD特異的な抗体がすべての患者で発見されたことから,このような抗体を誘導するように設計されたワクチンは有効である可能性がある.

Nature. Jun 18, 2020. (doi.org/10.1038/s41586-020-2456-9


◆重症化に関連する2つ遺伝子座の同定 ~O型は防御的に作用する~


イタリアとスペインの7病院で,呼吸不全をきたした重症患者1980名を対象としたゲノムワイド関連解析が行われた.この結果,重症化に関わる遺伝子座として,3p21.31(オッズ比,1.77)および9q34.2(オッズ比,1.32)が同定された.年齢と性を補正した解析でもこれらは有意であった.問題はこれらの遺伝子座のいずれの遺伝子産物が重症化に影響するかである.前者にはSLC6A20,LZTFL1,CCR9,FYCO1,CXCR6,XCR1という複数の遺伝子が存在し,後者はABO血液型遺伝子座と一致していた(図2).後者については,A型の重症化リスクは他の血液型よりも高く(オッズ比1.45),逆にO型では他の血液群と比べて保護効果が認められた(オッズ比0.65).前者の遺伝子の中で注目されるのは,ナトリウム-イミノ酸トランスポーター1(SIT1)をコードするSLC6A20遺伝子で,ウイルス受容体ACE2と相互作用することが知られている.またCCR9やCXCR6はケモカイン受容体をコードする遺伝子であり,病態への関与が推測される.

NEJM. June 17, 2020. (doi.org/10.1056/NEJMoa2020283


◆死亡率を予測する指標;IL-6とCD8+ T細胞数.


院内死亡率の予測を可能とするために,武漢の2施設の1,018名の患者を対象とした後方視的研究が行われた.生存患者と比較して,すべてのTリンパ球サブセット数は,死亡者で顕著に低く(P < 0.001),特にCD8+ T細胞(96.89 vs 203.98 cells/μl,P < 0.001)は低値であった.検討したすべてのサイトカインの中で,IL-6が最も上昇し,生存者と比較し10倍以上の上昇を示した(56.16 vs 5.36 pg/mL, P < 0.001).交絡因子を調整した後,IL-6 > 20 pg/mL(オッズ比9.781)およびCD8+ T細胞数 < 165 cells/μl(オッズ比5.930)が院内死亡率と関連していることが分かった.すべての患者を,IL-6およびCD8+ T細胞のレベルに応じて4つのグループに分けたところ,両者とも異常のグループは,他のグループに比べて高齢者,男性が多く,併存疾患,人工呼吸器装着,ICU入院,ショック,死亡のすべての割合が高かった(P < 0.001;図3).さらに,IL-6(>20 pg/mL)とCD8+T細胞数(<165 cells/μl)を組み合わせたモデルのROC曲線は良好な識別性を示した.→ 今後,IL-6とCD8+ T細胞数を用いて,患者を4つのリスクカテゴリーに層別化し,生命予後予測をすることができる.

JCI Insight. 2020 Jun 16;139024. (doi.org/10.1172/jci.insight.139024


◆神経症状(1)神経合併症の頻度に関するヨーロッパの検討.


欧州神経学会(EAN)のタスクフォースによる神経合併症(neuro COVID-19と名付けている)に関する調査が報告された.オンラインアンケートにて,EAN学会員をはじめとする世界中の医師2,343名(ヨーロッパの神経内科医が82.0%)からデータを収集した.頻度の高い神経学的所見は,頭痛(61.9%),筋痛(50.4%),無嗅症(49.2%),味覚障害(39.8%),意識障害(29.3%),精神運動性動揺(26.7%)であった.脳症,急性脳血管障害はいずれも21.0%であった.神経学的合併症は,複数の全身症状を有する患者に多くみられ,また感染のいずれに時期にも発生していた.

Eur J Neurol. June 17. 2020. (doi.org/10.1111/ene.14407


◆神経症状(2)特異的脳波所見?


フランスからの報告.2020年3月に,原因不明の意識レベルの変化,意識消失,反応性の低下などのため脳波検査を行なったCOVID-19重症入院患者26名の検討.このうち,意識障害や眼球・顔面のミオクローヌスなどを呈した5名で,てんかん放電を伴わない,高振幅,前頭優位の単形デルタ波からなる周期的放電を認めた(図4).この所見が生じるメカニズムは不明で,薬剤による鎮静や低酸素・虚血などの影響も否定できないが,COVID-19に直接関連した中枢神経障害の可能性もある.いずれにしても,経過中,意識障害やミオクローヌスのような発作性の運動異常症を合併した場合には,脳波は有用な検査である.

Ann Neurol. June 13, 2020. (doi.org/10.1002/ana.25814


◆神経症状(3)中枢神経障害の血漿バイオマーカー.


スウェーデンなどからの報告.47名(軽症20名,中等症9名,重症18名を含む)を対象として,一分子アレイ「Simoa」を用いて,中枢神経障害の2つの血漿バイオマーカー候補として,ニューロフィラメント軽鎖(NfL)(軸索内ニューロン損傷のマーカー)と,グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(アストロサイト活性化/損傷のマーカー)を測定した.対照は年齢をマッチさせた33名とした.この結果,重症患者では,GFAP(p=0.001)とNfL(p<0.001)の血漿中濃度が対照群に比べて高値であった.またGFAPは中等症患者でも増加していた(p=0.03).重症患者では,経時的観察で,血漿中GFAPのピークは減少したが(p<0.01),NfLは持続的に増加した(p<0.01).→ 中等症および重症患者における神経細胞傷害とグリア活性化が神経化学的に示された.今後,臨床的イベントとの関連などについて検討する必要がある.

Neurology. June 16, 2020. (doi.org/10.1212/WNL.0000000000010111


◆新規治療(1)回復患者血漿輸血の安全性.


ワクチンが開発されていない現状において,回復患者血漿輸血は,唯一可能な抗体ベースの治療法である.米国から,重症または致死的な入院成人5000名を対象に,ABO適合ヒト回復期血漿を輸血した後の安全性を検討した論文が報告された.輸血後4時間以内の重篤な有害事象の発生率は 1%未満で,死亡率は0.3%であった.36件の重篤な有害事象のうち,死亡4件,輸血関連循環過負荷7件,輸血関連急性肺損傷11件,重度のアレルギー性輸血反応3件を含む輸血関連疑い事象が25件報告された.しかし,治療担当医師が確実に回復期血漿輸血に関連していると判断したものは2件のみであった.7日間の死亡率は14.9%だったが,もともと重症患者が多いことを考えると,死亡率は高いとは言えない. COVID-19に対する回復期血漿輸血は安全である.→ すでに5000名に対して,回復患者血漿輸血が行われていたことに驚く.

J Clin Invest. June 11, 2020.(https://doi.org/10.1172/JCI140200


◆新規治療(2)抗GM-CSFモノクローナル抗体.


イタリアの単施設での観察研究.GM-CSFは受容体に結合し,多彩な炎症を促進する.このため抗GM-CSFモノクローナル抗体(マブリリムマブ)単回静脈内投与(6 mg/kg)を標準治療に追加し,予後が改善するかを検討した.対象は重度の肺炎,低酸素症,全身性炎症(LDH上昇に加えて,CRPかフェリチンも上昇)で入院した18歳以上の患者とした.主要評価項目は,臨床的改善までの期間とした.副次評価項目は,臨床的改善を達成した患者の割合,生存率などとした(図5).人工呼吸器を使用していない患者13名にマブリリムマブを投与し,対照群26名には標準治療を行なった.マブリマムマブ群では対照群に比べて改善が早かった(8日対19日,p=0.0001).28日間の追跡期間中,マブリリムマブ群では患者死亡はなく,対照群では7名(27%)が死亡した(p=0.086).28日目にはマブリマムマブ群では全例,対照群では17例(65%)に臨床的改善が認められた(p=0.030).マブリリムマブの忍容性は良好であった.→ マブリリムマブは,重症肺炎および全身性炎症を示す人工呼吸器未装着患者において予後の改善をもたらす可能性がある.大規模なランダム化比較試験が必要である.


Lancet Rheumatology. June 16, 2020.(doi.org/10.1016/S2665-9913(20)30170-3


<2020/06/30追加分>



◆PCRの試薬不足を補い,コストを抑える「プール検査」


ふたたび患者数が増加して,PCR検査を多数行う必要が生じると,試薬が不足し,検査に要する費用が高額になる恐れがある.この問題に目からウロコのアイデアが米国から報告された.何人かの検体をひとまとめにして検査し,もし陰性ならその全員がPCR陰性と判断し,もし陽性なら各患者サンプルを個別に検査するという「プール検査」という方法だ.このプール検査の効率は,有病率,検査の感度,ひとまとめとする患者数によって変わる.有病率(事前確率)が30%未満であれば効率が良く,かつコストパフォーマンスが高い.よくあり得るシナリオの有病率1%,感度70%とした場合,13人分まとめて検査するのが最適で,全例検査した場合のわずか16%の検査数で済むことが示された.今後,プール検査を導入しても良いように思われる.


JAMA Netw Open. 2020;3(6):e2013075.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.13075


◆抗体検査の有用性は38試験を検討してもいまだ不透明.


エビデンスに基づく医療において最高水準であるコクランレビューが,抗体検査の現状を検討した.38試験を検討した結果,IgG/IgM抗体検査の感度は発症から1~7日では30.1%と低く,データを使用しにくいが,発症8~14日で72.2%,15~21日で91.4%になった.21~35日目は96.0%だがデータが少なく,35日を超えると完全にデータ不足で評価困難となった.一方,特異度は98%を超えていた.この結果から,発症後15~21日目に抗体検査を1000人に対して行った場合,有病率(事前確率)ごとに偽陰性,偽陽性を計算すると,有病率50%の場合(例:呼吸器症状を呈した医療従事者に対する検査),偽陰性43人で,偽陽性7人になる.有病率が20%の場合(例:高リスク環境下での調査),偽陰性17人,偽陽性10人となる.有病率が5%(例:全国調査)の場合,偽陰性4人,偽陽性12人となる.→ このぐらいの検査であることを認識する必要がある.

結論として,抗体検査は,発症後15日以上経過してから使用すれば,過去の感染を検出する有用な検査となる可能性が高い.しかし,抗体上昇の持続期間は不明で,発症35日以降のデータはほぼ皆無であることから,集団免疫による防御を目的とした抗体検査の有用性は不明である.また感度は主に入院患者を対象に評価されているため,軽症ないし無症状感染者で見られる低い抗体レベルを検出できるかどうかも不明である.


Cochrane Systematic Review. June 25, 2020(doi.org/10.1002/14651858.CD013652


◆重症患者では1細胞レベルで大きな遺伝子発現変化が生じている.


イスラエル,フランス,中国のグループからの報告.同じように見える細胞集団でも,ひとつひとつの細胞で遺伝子発現パターンが異なるため,1細胞レベルでのウイルスに対する遺伝子発現解析が重要という考えがある.その検討を実現する方法が「シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)」である.近年,多くの疾患で威力を発揮しているアプローチである.今回,感染細胞と非感染細胞を見分けて,scRNAデータを処理するためのまったく新しいアルゴリズム「Viral-Track」が開発された.まずヒトB型肝炎の生検サンプルなどを用いて,その有用性を検証したのち,重症6名および軽症3名の気管支洗浄液を試料として,Viral-Trackを用いた検討を行った.まず,ほとんどの感染細胞はACE2とTMPRSS2を発現した繊毛細胞と上皮前駆細胞であること,しかしオステオポンチンをコードするSPP1陽性マクロファージにも感染が認められ,このマクロファージはケモカイン(CCL7/8/18)の発現が強いことを示した.つぎに重症患者では軽症患者と比較して,大きな遺伝子発現変化が生じ,とくに免疫系への劇的な影響が示された.また重症のうち1名の細胞には,メタニューモウイルスという鼻かぜを起こす別のウイルスが混合感染しており,抗ウイルス性サイトカインであるⅠ型インターフェロンの産生が顕著に抑制されていた.つまり混合感染は宿主の1細胞レベルの抗ウイルス作用を弱めてしまうため,ウイルスに対抗するため免疫細胞が過剰に活性化する可能性も示唆された.さらに興味深いことに,重症例ではCD4+ T細胞は多いものの,CD8+ T細胞(細胞傷害性T細胞)はほとんど認められなかったのに対し,軽症例では全例にCD8+ T細胞を認めた.つまり細胞傷害性T細胞を誘導できた患者が軽症で済む可能性が考えられる.


Cell. 2020 May 8;181(7):1475-1488.e12.(doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.006. )


◆神経疾患(1)Wernicke脳症類似の2症例.


スペインから,外転神経麻痺と脳症を呈した60歳と35歳の女性の症例報告.頭部MRIでは,共通して,橋,乳頭体,視床下部に異常信号を認め,Wernicke脳症類似の所見であった.PCRは鼻咽頭ぬぐい液で陽性であったが,髄液は陰性であった.ヒトSARS-CoV感染でも,視床下部炎や視床下部障害を引き起こすことが報告されている.Wernicke脳症との鑑別にneuro-COVID-19を挙げる必要がある.


Neurol Neuroimmunol Neuroinflam. June 25, 2020(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000823


◆多発性硬化症(MS)の重症化の危険因子.


MS患者におけるCOVID-19の重症化に関連する危険因子について,フランスから後方視的,観察的コホート研究が報告された.対象はMS患者347名(平均44.6歳,女性249名)で,重症化の定義は7点のスケール(1[入院不要]から7[死亡]まで)で,3(入院していて酸素療法を必要としない)以上とした.総合障害度を示すEDSS中央値は2.0で,284名(81.8%)がDMTを使用されていた.結果として,73名(21.0%)が重症で,12名(3.5%)がCOVID-19で死亡した.重症の割合は,DMTを受けている群に比べて,DMTを受けていない群の方が高かった(46.0% vs 15.5%;P<0.001).多変量ロジスティック回帰モデルでは,年齢(10年あたりのオッズ比:1.9),EDSS(EDSS≧6のオッズ比,6.3),および肥満(オッズ比,3.0)が重症化の独立した危険因子であった.EDSSはCOVID-19重症度スコアの最も高い変動と関連しており(R2,0.2),次いで年齢(R2,0.06),肥満(R2,0.01)であった.以上より,EDSS,年齢,肥満がCOVID-19重症化の独立した危険因子であり,DMTは重症化に関連を認められなかった.


JAMA Neurol. Published online June 26, 2020.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.2581


◆入院患者の57%で神経軸索損傷がみられる.


イタリアから,神経軸索損傷のバイオマーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)を測定した研究が報告された.対象は入院患者131名であったが,神経疾患の併存が見られた24名(認知症19名,最近の脳梗塞・脳出血の既往5名)が除外され,患者107名と対照群54名で検討が行われた.患者の平均値は73.3±89.5 pg/mLで,61名(57%)で対照群より上昇を認めた.上昇していた患者は,そうでなかった患者と比較し,ICU入室,気管内挿管の頻度が高かった(p<0.01).さらにより長い罹病期間を要した(p<0.01).嗅覚・味覚障害,疲労,頭痛などの神経症候と血清NfL値との間には関連はなかった.つまり特定の神経症候を呈さない患者においても,軸索損傷が起こりうる可能性が示唆された.→ 57%もの感染患者でNfLレベルが上昇したことは,脳神経がCOVID-19の標的となりやすいことを示す.


J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020(doi.org/10.1136/jnnp-2020-323881


◆新規治療(1)抗IL-6受容体抗体トシリズマブ,2つの後方視的観察試験


イタリアから,トシリズマブが人工呼吸器管理と死亡のリスクを減らせるか検証することを目的とした後方視的観察研究が報告された.トシリズマブは,体重8 mg/kg(最大800 mg)を12時間間隔で2回に分けて静脈内投与するか,静脈内投与が不可能な場合は162 mgを各大腿部に1回ずつ2回に分けて皮下投与した(計324 mg).主要評価項目は,人工呼吸器装着または死亡を複合したものとした.対象は544名の重度肺炎を有する成人患者とした.標準治療群では365名中57例(16%)が人工呼吸器を要したのに対し,トシリズマブ群では179名中33名(18%)であった(p=0.41).標準治療群では73名(20%)の患者が死亡したのに対し,トシリズマブ投与群では13名(7%,p<0.0001)が死亡した.性,年齢などで調整した後,トシリズマブ投与は,人工呼吸器装着または死亡のリスクを39%低下させた(調整後ハザード比0.61,95%信頼区間0.40-0.92;p=0.020).しかしトシリズマブ群の179名中24名(13%)が新たな感染症を併発したのに対し,標準治療群では365名中14名(4%)と少なかった(p<0.0001).トシリズマブは,静脈内投与でも皮下投与でも,重症肺炎患者における人工呼吸器装着や死亡のリスクを低下させる可能性がある.


Lancet Rheumatology. June 24, 2020(doi.org/10.1016/S2665-9913(20)30173-9


◆もうひとつは米国Cleveland Clinicからの後方視的コホート研究で,画像上肺浸潤があり,炎症マーカーが上昇している低酸素血症を呈する入院患者に,トシリズマブの単回投与(体重8 mg/kg)を行った.全身ステロイド,ヒドロキシクロロキン,アジスロマイシンが大多数の患者に併用されていた.トシリズマブ群28名と非使用群23名の比較で,トシリズマブ群は非投与群に比べて昇圧治療がより短期間で済んだ(2日間対5日間).また統計的には有意ではなかったが,トシリズマブ群は臨床的改善までの中央値と侵襲的人工呼吸の持続時間の短縮をもたらした.今後の前方視的研究の結果が待たれる.


EClinicalMedicine. June 20, 2020(doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100418


◆新規治療(2)デキサメタゾンは重症化例の標準治療となる可能性がある


マスコミ報道(プレスリリース)が先行した,オックスフォード大学が主導する英国内の175の医療機関が参加したRECOVERY試験のプレプリントが公開された.コルチコステロイドは,免疫介在性肺障害を軽減し,呼吸不全や死亡への進行を抑制する可能性がある.このためその効果を検証するRandomised Evaluation of COVID-19 therapy (RECOVERY) trialが,入院患者を対象とした無作為化対照オープンラベル試験として行われた.デキサメタゾン6 mgを1日1回,最大10日間投与した群2104名と,通常治療のみの群4321名を比較した.主要評価項目は28日間の死亡率とした.デキサメタゾン群では454名(21.6%),通常治療群では1065名(24.6%)が28日以内に死亡した(年齢調整率比0.83;P<0.001).比例および絶対死亡率の低下は,割付け時の呼吸補助の状態に応じて変化した.デキサメタゾンは,通常治療と比較して,人工呼吸器管理中の患者では死亡数を35%減少させ(29.0% vs. 40.7%,RR 0.65; p<0.001),人工呼吸器は不要なものの酸素吸入を行っている患者では20%減少させた(21.5% vs. 25.0%,RR 0.80; p=0.002).しかし割付け時に呼吸補助受けていない患者では死亡率は減少せず,有意差はないがむしろ増加した(17.0% vs. 13.2%,RR 1.22; p=0.14).副作用についての記載は乏しいが,COVID-19以外の感染症に伴う死亡の増加はなかった.結論として,入院患者において,デキサメタゾンは,割付け時に人工呼吸器管理または酸素吸入を行っている患者では死亡率を減少させたが,軽症例では無効であった.→ デキサメタゾンは安価で,容易に使用できることから,重症化を予防する治療として今後使用されるだろう.ただし病初期では無効で,感染リスクもあること,解析も予備的な段階で,プレプリントであることから,慎重な態度も必要であろう.


medRxiv. June 22, 2020(doi.org/10.1101/2020.06.22.20137273


<2020/07/05追加分>



◆外来における迅速抗体検査を行うべきではない.


COVID-19抗体検出法の精度についてのメタ解析論文.3つの血清学的検査,すなわち酵素免疫吸着法(ELISA),ラテラルフロー免疫測定法(LFIA),化学発光免疫測定法(CLIA)の感度と特異度を調べている.このなかで,インフルエンザで行うような外来診察室で結果がすぐわかる迅速抗体検査(ポイントオブケア検査)はLFIAによるものである.条件に合った40論文についてメタ解析を行なったところ,迅速抗体検査の検討はわずかに2論文のみであった.問題の感度はELISAが84%,CLIAは最も高く98%,LFIAは最も低く66%であった(図1).また感度は,症状発症1週間以内では低く,3週間後の検査で高くなった.特異度は97~98%であった.→ 既存の迅速抗体検査を継続すべきではない.


BMJ. July 01, 2020(doi.org/10.1136/bmj.m2516


◆positive selectionを受けたウイルス変異株の報告.


コロナウイルスでは増殖を繰り返すうちに遺伝子変異が生じると考えられている.今回,自然淘汰によって変異型の選択が生じ,優位性をもって増加する(positive selectionを受ける)ウイルス株が報告された.この変異により,ウイルス表面のSタンパク質に存在する614番目のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に変わる.614D型は武漢型で,614G型は2月下旬にヨーロッパで出現し,その後増加したためヨーロッパ型と言える(図2).世界レベルで見て,3月1日では10%のみであったが,3月末には67%,5月末には78%にまで増加した.日本でも2月ではすべて614 D型だったが,3月以降は614G型が大部分になった.

問題は2つのウイルス株の病原性の違いである.614 G型の感染者ではRT-PCRのサイクル閾値の低下がみられ,ウイルス量は614 D型と比較して多かった.また培養細胞と偽ウイルスを用いた検討で,614 G型の方が感染力は高かった.しかし2つのウイルス感染者の重症度(入院転帰)には差はなかった.614G型への変異により感染者が増加したのか,本当に重症度に違いがないのかの検討が今後必要である.


Cell. July 03, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.06.043


◆COVID-19では「サイトカイン・ストーム」は適切ではない.


COVID-19ではしばしばサイトカイン・ストームという用語が使用されている.しかし,ほとんどの症例では,サイトカイン・ストームが問題となる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者における血漿中サイトカイン濃度よりもかなり低い.例えば炎症促進性サイトカインであるIL-6を例に挙げると,重症COVID-19患者でも,ARDSの過炎症型患者の10~200分の1にすぎない.サイトカイン・ストームという言葉は印象的で注目を集めるが,COVID-19においてはこの用語を使用することは混乱を招く.


JAMA Intern Med. June 30, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.3313


◆小児(1)虐待による小児頭部外傷が15倍増加.


英国の1病院における報告で,COVID-19のため外出禁止となった3月23日からの1か月間に,虐待によると考えられる小児の頭部外傷が10名受診した.これは過去3年間の同時期の平均である0.67名と比べて,15倍以上も高い頻度であった.外出自粛期間において,医師は一層,小児虐待に注意する必要がある.


Arch Dis Childhood. July 2, 2020(doi.org/10.1136/archdischild-2020-319872


◆小児(2)小児多臓器炎症症候群(MIS-C)の定義.


COVID-19の小児例では川崎病に似た炎症性疾患が報告されている.この病態は最近,「小児多臓器系炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children;MIS-C)」と呼ばれるようになり,アメリカ疾病管理センター(CDC)による定義が報告された.

・RT-PCR,血清(抗体),抗原検査で陽性,または発症前の4週間以内に感染者と接した経験がある21歳未満の小児.

・24時間以上の発熱.

・炎症(CRP上昇,赤沈亢進,フィブリノーゲン↑,プロカルシトニン↑,Dダイマー↑,フェリチン↑,LDH↑,IL-6↑,好中球↑,リンパ球↓,アルブミン↓のいずれかを呈する)

・重症のため入院が必要.

・2つ以上の臓器障害(心臓,腎臓,呼吸器,血液,胃腸,皮膚,神経).

・ほかに当てはまる診断名がない.


CDC(https://emergency.cdc.gov/han/2020/han00432.asp


◆小児(3)小児神経合併症と脳梁膨大部病変.


英国からの症例集積研究.MIS-C 27名のうち4 名(14.8%)に中枢および末梢神経系の神経合併症を認めた.脳症,頭痛,脳幹および小脳の徴候,筋力低下,腱反射減弱を認めた.全例,頭部MRIで,脳梁膨大部における異常信号を認めた(図3).2名で行なった髄液検査は,PCR陰性で,オリゴクローナルバンドも陰性だった.3名に行なった脳波では,軽度,徐波の増加を認めた.NMDA受容体,MOG,AQP4に対する自己抗体はすべて陰性.神経所見の改善は全例でみられ,2名は完全に回復した.全例ほとんど,呼吸器症状は認めなかった.神経症状のみを呈する小児患者においても,COVID-19を考慮すべきである.ちなみに脳梁膨大部の病変は,成人において私どもも報告しており(doi.org/10.1016/j.jns.2020.116941),COVID-19に伴う病変部位として認識する必要がある.


JAMA Neurology. July 1, 2020. (doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.2687)


◆神経疾患(1)COVID-19の神経・精神症状についての大規模研究.


英国からの報告.何らかの神経症状を呈した153名(中央値71歳)のうち,完全な臨床情報が得られた125名について検討した.77名(62%)が脳血管イベントを呈し,内訳は57名(74%)が脳梗塞,9名(12%)が脳出血,1名(1%)が中枢神経血管炎であった.39名(31%)に精神状態の変化がみられ,9名(23%)が特定不能の脳症,7名(18%)が脳炎であった.残りの23名(59%)のうち10名が新規発症精神病,6名が認知症様症候群,4名が情動障害であった.脳血管イベントを起こした患者では60歳以上は82%であったのに対し,精神状態に変化を認めた患者は51%で,より若かった(図4).


Lancet Psychiatry. June 25, 2020(doi.org/10.1016/S2215-0366(20)30287-X


◆神経疾患(2)COVID19での脳梗塞発症は1.6%.


米国からの後方視的研究.ニューヨークの2病院に救急外来を受診ないし入院したCOVID-19患者1916名中31名(1.6%)が脳梗塞を発症した(年齢中央値69歳).一方,2016~2018年においてインフルエンザA/Bにて入院した患者では1486名中3名(0.2%)であった.COVID-19感染の方がインフルエンザ感染よりも脳梗塞のリスクが高かった(調整後オッズ比7.6).またCOVID-19発症から脳梗塞発症までは中央値16日(IQR 5~28日)であった(図5).


JAMA Neurol. July 2, 2020(doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.2730


◆神経疾患(3)3回目の髄液PCRで陽性となった急性壊死性脳症.


スウェーデンからの1例報告.髄液PCR検査で2回陰性を示した後,3回目(発症19日後)に陽性になった.意識レベルは昏睡まで悪化した.頭部MRIでは,視床,島下領域,内側側頭葉,脳幹に対称性の異常信号を認めた.髄液中の単球や蛋白質はわずかに増加しただけであったが,IL6とアストロサイト活性化マーカーであるGFAPは病初期に高値で徐々に低下した.また髄液タウと神経損傷マーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL)は経過とともに増加した.IVIGと血漿交換を行なったところ,神経所見は改善し,発症4週後に抜管できた.脳炎・脳症では髄液の評価を繰り返し行う必要がある.


Neurology. June 25, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010250


◆神経疾患(4)脳炎における髄液サイトカイン.


スペインから脳炎2症例(25歳男性,49歳男性)の報告.3日以内に神経症状,意識障害は回復した.重篤な呼吸器疾患の合併はなし.いずれもPCRは鼻咽頭拭い液陽性だが,髄液陰性であった.髄液IL-β(正常2.56 pg/mL未満)は症例1のみ14.8と上昇,IL6(正常7 pg/mL未満)は症例1で190,症例2で25と上昇.また髄液アンジオテンシン変換酵素(ACE)(正常0-2.5 U/L)も,15.5および10.9と上昇していた.3日未満で急速に回復していることから,脳への直接的なウイルス感染の可能性は低く,髄液中のサイトカインおよびACEの増加に伴う炎症経路の活性化が原因と推定される.


Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. July 1, 2020.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000821


◆神経疾患(5)ICUにおける急性筋炎による弛緩性四肢麻痺.


イタリアから6症例の報告.年齢は51~72歳,男性5名であった.いずれも人工呼吸器からの離脱時に弛緩性四肢麻痺に気が付かれた.全例で電気生理学的検査を気管内挿管の6~14日後に行っている.鑑別診断としてはギランバレー症候群やcritical illness neuropathyないしmyopathy,中毒性ミオパチーが挙げられた.筋電図ではmyopathic changeを認め,神経伝導検査では複合筋活動電位は正常の40~80%に低下していたが,感覚神経活動電位やF波は正常であった.いずれも顔面筋の筋力低下や眼球運動障害を認めず,敗血症で死亡した1例を除き予後が良好であったことから,診断としてcritical illness myopathyが考えられたが,ウイルスによる直接障害の可能性も否定はできなかった.


Neurology. Jun 29, 2020.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010280