国債と円安の行方
2024年6月現在、酷い円安が続いています。国債の発行残高は増える一方で、物価は上昇を続けています。
若い世代だけでなく、全ての世代が不安を感じていると思います。
パンデミックの展望が開けていなかった2021年に、アメリカのヘッジファンドで働く(おそらく日系人の)Mary Oakley という女性がQuoraというSNSに投稿した文章が的確に未来を予想していると思います。
2001年以降、小泉政権が公務員を減らしていき、90万人近くいた公務員は2024年現在、30万人程度まで減っています。
官僚は日々職務に追われ、政策が本当に国民のためになっているのか十分考える時間も無く、深夜2時頃まで仕事をしているようです。海外との交渉にも準備不足で臨むしか無くなり、日本に不利な交渉になることもあるそうです。
(小泉政権の罪に関しては2020年5月にこちらに書きました。)
安倍政権は公務員の人事権を奪い、三権分立を侵して、官僚の意欲や権限を削ぎました。
また好景気になっても国債をジャブジャブ発行し続け、円安とインフレを誘導しました。
2012年末からスタートしたアベノミクスがようやく終わりを迎えようとしています。
日銀は、6月13~14日に行われた金融政策決定会合で、国債買い入れの減額を決めました。
(しかし金利が正常化するのはまだまだ先になりそうです。)
通貨の実力を示す「実質実効為替レート」を見ると、アベノミクスがスタートしてから円の価値は下がり始め、2024年現在は1970年より低いレベルまで下落しています。
アベノミクス前は1ドル80円程度だったのが、2015年には120円台になり、2024年にはとうとう160円となってドルに対する円の価値は半分に暴落したのです。2度の消費増税の影響もありますが、物価高は円安の影響が最も大きいのです。
アベノミクス開始前と比べるとコロナ禍の影響が出る前の2019年度までに消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合指数)は7.6%上昇(よくこの程度で持ち堪えたなと思います。)し、2023年までに14.3%上昇したことになります。一方で、名目賃金指数は104.8までしか上昇していないため、名目賃金指数を消費者物価指数で割ることで求められる実質賃金指数は、2012年を100として2023年までに91.7まで収入が8%以上目減りしたことになります。
社会保険料や税金も上がっていて、同じ年収500万円でも2024年の価値は、2012年と比べると、購買力という点から考えると、実質的に60万円ほど目減りしたことになります。(若い人の生活は大変だと思います。)
アベノミクスによって、最初はじわじわと、しかし2023〜24年に急激に円安が起こった理由は以下の通りです。
パンデミックによる恐慌を避けるため2020年に世界中で日本と同様に通貨の流通量を一気に増やしました。このため世界中でインフレが起こり始めました。
2022年に各国で金利を上げて流通し過ぎた通貨の回収を行いました。
しかし日本では金利を上げると国債の借り換えに困ることから金利を上げにくい状況が続き、2024年6月現在、金利はまだ僅かしか上がっていません。
私の目には、日銀(政府?)は意図的に円安によって国債の残高を半額にしたように見えます。
アベノミクスによって投資家以外の財布や給料袋からお金を奪い、国債の返済(実際には返済ではなく実効為替レートの下落によって半額にまけて貰った)に充て、投資家にばら撒いたことになります。
日本が輸入しているのは食料、エネルギー、クラウドサービスが大きく、なかなか減らすことが難しい物が多いです。食料や電気・ガスを支払い、税金を支払い、社会保障費を支払った残りで生活することになります。
このように手取りが増えないのに物価や必要経費が上がり続けているから、戦後最悪の消費停滞が起きているのです。
(生活必需品ではない海外ブランドは日本でも中国でも買い控えが起こり、セールを繰り返しているようです。)
パンデミックの中でサプライチェーンが寸断された結果、世界の工場だった中国でも不景気が起こり、不動産価格が下落していてバブルが弾けるかも知れません。
リーマンショックの時は中国が白馬の騎士となって投資を増やし、アメリカ発の恐慌を防いでくれましたが、今回は中国も負債が積み上がり公共投資に注ぐ余力がありません。
今回のパンデミックでは1929年の世界恐慌は(今のところ)起こらず、100年間の社会的セーフティシステムの構築は確実に進歩していると感じました。しかし歴史は繰り返します。バロック音楽の旋律のように音程を変えながら必ず繰り返します。
アルゼンチンは国債のデフォルトを起こしても何事も無かったかのように国民の生活は成り立っていました。
食料を生産できるから平然と生活できるのです。
日本は米と水以外は心許ない状況です。
今後もしばらくはインフレに対する備えが必要かと思います。
(2024/6/13 管理者記載)
1100兆円もある日本の借金、日本はどうして破綻していないでしょうか。今後はどうなりますか?
Mary Oakley 2021
この問題、私も最近かなり考えています。アメリカ在住ですが、これは日本だけの問題ではありません。アメリカの国債もかなりやばいことになっています。特にコロナ禍対策で世界各国せっせと公債を増やしてお金を刷っています。年金を日本とアメリカ両方で払っている私にとって、これはかなり重大な問題です。このままで本当に大丈夫なのか?直感的には大丈夫なはずない、と思いますよね。また、この様な金融量的緩和や国家財政危機、またデフレ、インフレは直接金融資産の価値に影響してきます。私はアメリカで投資の仕事をしているので一度きちんと現状を理解しておく必要があると思いました。
そこで、いい機会なので、自分で納得いくまで調べてみることにしました。この回答は私が勝手に調べた情報のまとめです。自分で興味があったことを調べて考えたことを書いています。書く事によって理解が深まりました。Quoraのお陰です。私が出した結論から先に言うと、当面しばらくは大丈夫みたいだけど、永久にずっとこのままはまずい、です。いつか誰かがツケを払うことになるというのが私の結論です。
なお、これは投資に必要な私なりの持論を導き出すための分析で、結局は自己満足です。よって皆さんのご意見とは異なるかもしれません。また私は一応、経済学士と経営(金融)修士を取得していますが、プロのエコノミストではないので、間違ったことを言っている可能性も大いにあります。全て私個人の理解、意見なのでご興味があれば話半分でお読みください(すごく長いです)。またもし間違いをコメントでご指摘いただければ、訂正推敲いたします。使用したチャートの出典は最後にまとめて載せておきます。
始める前にまずお断りですが、知識量が素晴らしいクオランの皆さんは、自国通貨建ての国債と他国通貨建ての国債とは全く違う代物であること、政府の借金は国民の資産であること、日本の国債のほぼ45%はすでに日銀に買い取られて事実上はチャラであることなどはすでにご存知だと思いますので、その辺の解説はすっ飛ばします。
公債残高の現状
それではまず初めに、現状を把握してみましょう。下のチャートはあちこちでよく目にする世界各国の政府公債の残高をGDPで割った割合です。2020年のデータで世界トップ20を載せてみました。日本は200%越えで世界第一位です。これを見て世間がわぁ大変だ!と騒ぐんですね。ですが、この数値は日銀が保有する事実上チャラの国債も数に入っています。また、ベネズエラを筆頭に自国通貨で国債を十分に発行できない国も沢山リストに含まれているので、このチャートを見て日本は一番やばい、とはなりません。実際、2位のベネズエラはハイパーインフレで去年本当にやばいことになりましたが日本はなっていません。
では各国中央銀行が保有している事実上チャラの国債を引いた純国債の比率だとどうでしょうか?このチャートは2017のIMFのデータを元にしてトップ15を載せてみましたが、これによるとやはり日本は世界で一番高いですね。ちなみにベネズエラがこのチャートに出てこないのは、ベネズエラは2017年の時点では35%しかなかったからです。イタリア、ポルトガル、スペインなどの南ヨーロッパの国々、ベルギー、フランス、米国、英国もトップ15に入っています。
こんなチャートも見つけました。同じIMFの純公債データで過去からの推移が見られます。やはり日本は先進国の中で対GDPの公債比率が高いのだな、と納得しますね。それが問題かどうかは別として、とりあえずどう解釈しても他先進国に比べて高い、というのは事実です。
なぜ公債残高が高いのか?歳出歳入と財政赤字
では次に、日本とアメリカの歳出と歳入の内訳を見てみましょう。このチャートは財務省のウェブサイトから拝借しました。
これによると、日本政府の2019年の歳出は101.5兆円、うち、歳入でカバー出来ているのは約7割。あと3割は新規公債発行によって賄われています(Fiscal Deficit財政赤字)。ただ歳出の23%の23兆円は公債費です。この公債費の半分以上の約14兆円は公債の借り換え(リファイナンス)なので9兆円の利子分だけ計算に入れると約19兆円が歳入の足りない分(Fiscal Balance財政収支)で、それは歳出全額の3割ではなく約19%になります。このマイナス19%がゼロになれば、国債の残高増加が止まり、さらにプラスになれば、国債の残高は徐々に減っていく事になりますよね。
では、過去でこの財政収支がプラスだったことはあるのでしょうか?このチャートは財政収支の推移ではなく、財政赤字を歳出で割った率(先ほどの3割に当たります)を公債依存率という線チャートで表示してあります。そしてバーチャートは公債の残高です。これを見るとバブル全盛期の平成2年でさえ公債依存率は1割弱。この1割は財政赤字で公債のリファイナンスを含むので財政収支だとゼロに近かったのかもしれませんが、それでもあれだけノリノリのバブル最盛期でさえ大幅にブラスになっていないとすると、やはり、日本の公債は年々増え続ける事になるのでしょう。実際、このチャートでも昭和49年以来、公債の残高が減ったことは一度もありません。
ではアメリカはどうでしょうか?トランプ政府の発表した2020年の予算案の中にこんな表を見つけました。
これによると、2019年のアメリカにおける歳出超過分(Fiscal Deficit財政赤字)は約1.1兆ドル(日本の約3倍、ちなみにアメリカの人口は日本の約3倍です)。歳出総額が約4.5兆ドルですから約25%が歳入で賄われていません。日本の3割とあまり変わりませんね。GDP に換算すると財政赤字はGDP の約5%。日本の場合も2019年の財政赤字が32.7兆円で名目GDPは約550兆円ですから約6%です。似た様なものですね。
つまり、どちらの国も自分が稼ぐより約2割増し(公債のリファイナンスは除いての)のお金を使って、その足りない分を借金で補っています。どうしてそんなことがずっと続けられるのか?誰がそんなひどい債務者にいつまでもお金を貸してくれるのか?それがこの質問の根本です。
量的緩和のメカニズム
そこで次になぜ、アメリカと日本は(他の国もそうですが、私が興味があるのは特にアメリカと日本なのでそこに特化します)ずっと借金を増やし続けることができるのかを考察してみます。
まず日本から。日本の公債の保有者(日本政府にお金を貸してくれる人)は以下の様になっています。
一番多いのは日銀。平成29年で41%、今は約45%です。次に銀行、保険会社、が続き、海外の保有者は約11%です。注目すべきはこの日銀の保有率がたった5年前までは20%だったこと。これはいわゆる量的緩和(Quantitative Easing, または QE)別名、貨幣印刷(Printing Money)を実行した証拠です。実際に印刷はしないのですが、錬金術のように何もないところからお金を発生させるのは同じことです。量的緩和のメカニズムをおさらいしておきましょう。
お金を刷ると言っても、政府が紙幣を刷ってはいどうぞと誰かにあげるわけではありません。まず、財務省が公債を発行します。これを民間銀行が買い取ります。その公債を民間銀行から日銀が買い取るのです。この時、日銀はその民間銀行のアカウントに買い取った公債の支払い金額をコンピューターで足します。これでお金が湧いて出ました。つまり、日銀が金額をコンピューターでアカウントに足すことがお金を刷ったことと同じなのです。日銀は日本円を発行できるのでこんな事が出来るのです。財務省は政策に使うお金を民間銀行から受け取りました。民間銀行はそのお金を日銀から受け取りました。日銀はそのかわりに財務省が発行した公債を受け取りました。
つまり財務省は日銀にお金を借りているのです。日銀が新しいお金を発行して、ほれ、これ使って赤字埋めろと貸してくれます。これがPrinting Moneyのメカニズムです。財政赤字を繰り返す政府にお金を貸してくれるのは日銀なのです。そして日銀は財務省にお金を返せとは言わないので、これがこの分はチャラだと言われる所以です。厳密には満期がくれば返済されますが、その返済をまた新しく出した公債で賄うので同じことです。紙が入れ替わるだけです。アメリカでも全く同じです。公債の保有残高の推移を見れば分かる様に、日銀が増えた分はそのまま民間銀行の残高割合が減っています。
ちなみになぜわざわざ民間銀行を介するのか?日銀が直接財務省にお金を貸せばいいではないか、と思われるかもしれませんが、中央銀行による公債の直接引き受けは制度で禁止されています。一度市場を介することで財政赤字が続くと政府の資金調達が困難になる、という様な市場制御が働くことが狙いです。実際は日銀が際限なく買ってくれると分かっているのであまり効果はないですよね。でも一応そういうルールになっています。アメリカも同じです。
日銀はさらに公債だけでなく債権や株のETFまで買い取るという未曾有の量的緩和をしていますが(コロナ禍でアメリカでも同じになりました。アメリカではさすがに株は買いませんが。)これの是非はまた別の機会に。
アメリカの様子も調べてみました。一番最近のデータは2019年12月ですがアメリカの公債残高23兆ドル(日本の残高の約2.2倍)のうち、中央銀行であるFederal Reserveが保有するのは8.4兆ドル(35%)で日本の45%までは行かなくても、かなり高い水準です。でもチャートにしてみると、Fedの米国公債の保有率はここ数年下がり傾向だったことがわかります。2013年、2014年は40%越えでした。ただ、率は下がっても、公債残高がどんどん増えているので、Fedの保有する米公債の残高は横ばいです。またアメリカは外国人の保有率が日本よりずっと多くて30%です。これは米ドルがいわゆるReserve Currencyとして各国で使われているからです。日本は中国に次ぐ世界第2位の米公債保有国です。
つまり、両国が毎年毎年の財政赤字を借金を増やすことで補えるのは、最終的には中央銀行が買い取ってくれる(お金を刷って返済してくれる)とみんなが思っているからです。そして実際そうしています。
量的緩和とインフレ、Modern Monetary Theory (MMT)
さて、大学でマクロ経済学などを取られた方は覚えているかと思いますが、こうしてお金を刷って財政赤字を補填するといずれインフレが起きるので、この政策はずっとは使えない、と習ったはずです。でも、もう何年もずっと量的緩和をしているのに日本ではインフレどころかデフレが起きています。アメリカもインフレは十分コントロールされています。経済学の教科書は間違っていたのでしょうか?これは、ものすごいパラドックスでアメリカでも賛否両論です。アメリカがリーマンショックの後2010年ごろから大規模な量的緩和を始めたので、たくさんの投資家は「インフレが来る」と言って金を買ったり債権のデュレイションを短くしたりしました。でも10年たった今もインフレは来ていません。金利は上がるどころか下がる一方です。この現象を見ると、私たちが習ってきた貨幣論は間違っていた様に思えます。
そこで出てきたのがModern Monetary Theory (MMT現代貨幣論)という理論です。MMTは上記の様に従来の貨幣論で説明できない現象を説明しようとしています。MMTは自国通貨で公債を発行できる国は量的緩和(QE, or Printing Money)ができるのでいくら公債を発行しても破綻しないという理論です。いくら財政が赤字でも日銀がお金を刷ってお金を貸してくれるのですから、いつまでも赤字が続いても大丈夫という考えですね。言うなればお金のなる木をたくさん持っているお父さんがいる娘みたいなものです。このお金のなる木は枯れないのでしょうか?
MMTに関しては沢山の議論がなされており、賛否両論です。一部の経済学者が提案している理論で、きちんとピアレビューされた学術論文ではないのでメインストリームの経済学者からはあまり相手にされていないとのご指摘も受けました。
MMTの是非については私は分かりませんが、私の中での1番の議論は破綻するかしないかではなく、お金を刷っているのになぜインフレが起こらないのか、です。MMTの中には中央銀行がお金を刷っても増えるのはモネタリーベース(High Powered Money)だけで、貨幣乗数(Money Multiplier or Credit Multiplier)が変動するのでマネーサプライは増えるとは限らず、中央銀行はマネーサプライをコントロール出来ない、という理論もありますが、それは従来の理論と同じで量的緩和デフレパラドックスの説明にはなりません。強いて言えば私にとっての疑問は、なぜ貨幣乗数が減っているのか、です。
またMMT論者にはインフレ、デフレはマネーサプライの増加、縮小によって起きるのではなく(実際、日本ではマネーサプライと名目GDPの比率は30年ほど前までは約1でしたが最近では約2です)、マクロの需給ギャップによると主張する人もいます。言い換えれば総需要の増加率が経済の生産量(供給量)の増加率を超えなければハイパーインフレは起きないと主張しています。つまり、中央銀行がせっせとお金を刷っても、需要が供給を越えない限りインフレは起きない、という議論です。
この最後の部分をもっとわかりやすく説明してみましょう。これらはみんな短期的な例えですがイメージは掴めると思います。今回のコロナ禍でマスクの値段が急騰しましたよね。これはみんなが一斉にマスクを欲しがったのに供給が間に合わず、お店でマスクが品薄、品切れになりました。そこでマスクが普段の何倍もの値段で売買されました。これがインフレのメカニズムです。この場合は急激な需要の増加に供給が間に合わないという需要供給のギャップです。ちなみに、需要が変わらなくても供給が減るとそれもギャップでインフレになります。例えば最近では中国の乱獲のせいでうなぎの供給が減ってものすごく高くなりましたよね。
その後、みんなマスクを自分で作ったりアベノマスクが届いたりしてマスク需要が減りました。でも高く売れると思って大量入荷したお店もあって供給が増えた結果、価格が下落しています。これがデフレです。ここで、政府がみんなに一律で10万円を入金します。従来の貨幣理論だと、みんなお金が手に入ったから、またマスクを買いに走るはずだから、価格はまた高騰する、となります。でも実際は10万円もらったからって、要らないものを買いに行かないですよね。つまりお金をばら撒いても需要がなければインフレは起こらない、というのがMMTの理論です。
でも、10万円もらったら、マスクは買いませんが、全額そのまま貯金して使わないという人は少数派ですよね?生活に必要な家賃や食費に充てる人も沢山いると思いますが、お給料がそれほど減っていない人は10万円のうちの幾らかは欲しかったものを買う資金に当てたりしないでしょうか?やはり、お金をばら撒けば総需要は少なからず上がるはずです。ところが政府はもう何年もお金をばら撒いているのに(量的緩和で)なぜ総需要が上がってインフレにならないのか?私にとってはこれがパラドックスの根幹でした。
ここから先は私が色々な本や記事を読んだり、仕事で著名なエコノミストのウェビナーに参加したりしてたどり着いた「もしかするとこれかな」という様なこの根幹パラドックスのカラクリです。(完全な私見ですので全く的外れの可能性有りです)。
量的緩和とインフレパラドックスのカラクリ(かな?)
インフレ・デフレは需要と供給のギャップで引き起こされます。量的緩和は需要を少なからず作り出すはず。でもインフレが起きない。ということはその増えた需要を上回る需要の減少がどこかで起こっているか、あるいは供給がどこかで増えている、と考えるしかありません。この需要の減少、また供給の増加が世界的に恒久的に起こっているから、各国が何十年もお金を刷りまくっているのにインフレが起こらないのだろうと考えるのが妥当だと思います。
世界的、恒久的なトレンドとは何か?すぐに思いつくのは先進国の人口増加率の鈍化、人口の高齢化、そしてテクノロジーの進化です。ではこの3つのメガトレンドはどの様に需要と供給に影響するのでしょうか?
まず人口増加率の鈍化。人口が増えるということは需要が増えるということです。考えても見てください。今までミニマリストだった夫婦に子供ができたとします。物入りですよね。いくらミニマリストとは言え、いろいろ買わなくちゃなりません。家は大きくしないといけないかも。食費も増えますね。車も買い替えるかもしれません。とにかく、人口増加は需要を生み出します。ですから、人口の増え方が世界的に減速していることは需要の増加にとってマイナスです。先進国の中でいまだに順調に人口が増えているのはアメリカだけです。後進国の人口は増加していますが、後進国の人口増加はGDPの増加より早いので国民一人当たりのGDPは減って行きます。つまり、国がどんどん貧しくなっています。GDP増加の伴わない人口増加は需要増加を生みません。
次に人口の高齢化。これは先進国はほぼどの国でも問題になっています。日本は特に顕著ですが、アメリカでもベイビーブーマーがまもなく大量に引退し出すので大問題です。ヨーロッパはアメリカよりさらに高齢化が進んでいます。今まで現役だった人が退職して年金暮らしになるとどうなりますか?消費を減らしますよね?つまり、人口の高齢化は需要を引き下げる効果があるのです。さらに、高齢化社会で年金が心配なため、現役世代でも余剰のお金を貯蓄に回す人が増えますね。ばらまかれたお金が貯蓄に回ると需要の増加になりません。
そして、テクノロジーの進歩。コンピューター、インターネット、スマホのおかげで私たちの仕事の効率がここ20年間くらいでものすごく上がりましたよね?私もつい20年くらい前はリサーチしたいことがあったら、会社の図書室で記事を検索して、ハードコピーを読んだりしていました。今は全てインターネットで済みます。物作りもサービス業も全て効率が上がりました。そして、AIの台頭でこれから効率はもっと上がります。効率が上がる、ということは一人一人が同時間内でもっと生産できるということ、つまり、供給が増えるのです。
こうしてみると、世界の3つのメガトレンドが全てデフレの方向(需要を減らす、または供給を増やす)に働いていることが分かります。
さらに、ここ数年のトレンドでは各国、特にアメリカが貿易を減らして、自国の供給率を高めようと動いています。さらに今回のコロナ禍で中国からの輸入に頼りすぎることは危険だとどの国も認識しました。このDeglobalization(脱グローバリゼーション)はコロナ前から起こっていたトレンドですがコロナがそれを加速化させました。つまり、中国に既に供給のキャパシティーがあるのに、各国が自国の供給をさらに増やしていることになります。供給の増加、デフレ要因です。
この様に、ここ20年ほど世界では大きな恒久的トレンドが経済をデフレ方向に傾向させる様に働いていたことが分かります。だから、量的緩和をこれだけしても、インフレになっていないのだと私は思います。
この根本的なデフレ傾向はかなり強いので、もし世界各国が量的緩和をしていなかったら、きっともっとひどいデフレになっているのでしょう。ですから、このトレンドが続く間はおそらく量的緩和を続けてもある程度までなら大丈夫だろうと思います。特にコロナ禍のせいで需要が一気に落ち込みましたから、今量的緩和をしないと、デフレになるでしょう。
量的緩和をずっと続けて大丈夫なのか?私の結論
問題はこの量的緩和を半永久的に続けても大丈夫だ、と解釈する危険性です。沢山の経済学者が色々なMMTのバリエーションを提案していて、それぞれの人が世界経済の将来についての問題点を掲げていますが、世間的にはどうもこの「自国通貨で公債を発行できる国は破綻しない」という部分が一人歩きして「だから量的緩和を続けても大丈夫だ」と解釈する人がいます。
ですが、このお金を刷り続けることに国民が慣れてしまったらどうなるのでしょう?人口の減少率がある程度安定したり、後進国が経済発展して需要が伸びだしたり、ベイビーブーマーが一通り引退した後、テクノロジーの驚異的な進化がひとまず落ち着いたりして強力なデフレプレッシャーがなくなったら?その時、量的緩和を続けたらきっとインフレが来ます。
その時、日本は、そしてアメリカはこのお金の成る木をあえて切り倒せるでしょうか?おそらく無理でしょう。麻薬中毒者に麻薬をやめろと言ってもほぼ無駄なのと同じです。そう、これは痛み止めの薬に中毒になるのと似ています。痛み(デフレプレッシャー)があるうちは痛み止めを飲んでも大丈夫。でも痛みがなくなっても飲み続けると中毒になります。この恒常的財政赤字を量的緩和で解消するという安易な政策を肯定し続けるといずれ麻薬中毒になります(もうなっているかも)。そして中毒から脱出するには物凄い禁断症状が出ると思われます。私たちの麻薬中毒のツケを払うのは私たちの子供の世代でしょうか?
大体、いくらでもお金を刷っていいのなら、税金を徴収しなくても大丈夫、ということになりますよね。それはどう考えてもおかしい。やっぱり、限度があるんです。どこに限度があるのかは経済学者が必死に研究していると思いますが、高齢化、公債のGDP比、共に世界一の日本が実験台になっているのは間違いないと思います。アメリカの様に人口が若くてまだ増えている国は日本やイタリアが今後どうなるか、見てから対応する余裕があります。日本はMMT実験最前線です。モルモットです。
日本でこの先、もし人口減少が止まらず、少子高齢化がどんどん進み、テクノロジーも世界で進むのでそれを輸入して効率をあげ、デフレプレッシャーが半永久的に続くなら、お金を刷り続けても大丈夫なのかもしれません。でもそれって、国としての活力、経済力、影響力がどんどん減っていくってことですよね。先程の痛み止めのたとえで言うと、痛みがいつまでも抜けなくて、体力がどんどん低下していく。そして国として老人となっていく。自力で生活できなくなって、いずれ介護が必要になりそして誰かのお世話になる、つまり事実上、他国に合併吸収される(イタリアがドイツに、日本は中国に?!)そうなって欲しくないです!
デフレのメガトレンドが近年中に方向転換するとは思えませんが、10年20年先はきっと状況が変わっていると思います。その時日本とアメリカはどうやって財政赤字を補填するのでしょう?やはり税金を上げて、年金をカットするのでしょうか?そうすると大不況が来そうです。もっと勉強してみないと今の私には分かりません。もしかすると、デフレのトレンドが終われば世界経済が活性化して、税収も上がり、難なく問題解決!なんて夢の様な事もあり得るのでしょうか?今では想像もつかない新しいメガトレンドがその時には来ているかも知れません。
本当に長くなってしまいました。最後まで読んでくださったあなた、私の戯言にお付き合い頂き本当にありがとうございました。結論としてまとめますと、今は世界的なデフレメガトレンドがあるからインフレが来ていないのであって、もしそのトレンドが将来変わった時、量的緩和を続ければインフレはきっと来ると思います。とりあえず、今はコロナの影響もあるのでどんどんお金を刷っていいと思いますが、それをそのままずっと際限なく続けていいということではないと私は思います。
以下参考記事、出典
https://worldpopulationreview.com/countries/countries-by-national-debt/
List of countries by public debt - Wikipedia
Japan GDP | 1960-2019 Data | 2020-2022 Forecast | Historical | Chart | News
商品価格の変動激しく デノミも効果なし ベネズエラ、ハイパーインフレで打撃
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2019/03/budget-fy2020.pdf
http://www.world-economic-review.jp/impact/plus/impact_plus_001_kumakura.pdf
https://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2018/saimu2018-3-ho.pdf
Treasury Bulletin - Current Issue
国の公債残高と公債依存度の推移 | 探してみよう統計データ|なるほど統計学園
2 高齢化の国際的動向|平成30年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府
<デフレプレッシャー>
1。先進国の人口増加率の鈍化、
2。人口の高齢化
3。テクノロジーの進化
<強力なデフレプレッシャーの消退>
1。人口の減少率がある程度安定する。
(日本は先進国の中では少子化に予算を割いていませんが、出生率が1.2もあり、韓国やシンガポールよりマシです。)
2。後進国が経済発展して需要が伸びる。
(まさに今ここ!ベトナムやタイの伸びは凄く、サハラ以南のアフリカや中央アジア以外はかなり経済発展しています。)
3。ベイビーブーマーが一通り引退して消費意欲が減る。
(まさに今ここ!団塊の世代は70代になり、続々引退しています。)
4。テクノロジーの驚異的な進化がひとまず落ち着く。
(日本は残念ながらずっとここにいます。日本のコンピュータ業界の発展はのんびりしています。)
↓
この時、量的緩和を続けたら(アベノミクスで大量にばら撒きました。)のでインフレが来ている。
という話です。
(2023/1/3 管理者記載)