<ホモサピエンスに至るまでの歴史>
6550万年前に直径10km以上の隕石が衝突して恐竜が絶滅したことで、リス以下のサイズだった哺乳類の祖先は次第に大型化していきました。
恐竜後の世界では哺乳類の天下になるまで、2000万年もの紆余曲折があるのですが割愛します。
「なぜアフリカは動物の宝庫なのか?」は別のページに私見を書きました。
恐竜絶滅直後には体重20kg以上の生物は殆ど絶滅しましたが、まだ恐竜の一部は生き残っていたと言われています。
(隕石衝突から70万年のうちには巨大な恐竜は全て絶滅したようです。)
空へ進出していた鳥類も樹上生活に適応させていたため、少ない食料の中で生き残りました。
9000万年前にゴンドワナ大陸から切り離されたマダガスカル島に住んでいた哺乳類Adalatherium huiは体重が3kg程度あったそうですが、これは捕食者が少ないためにサイズが大きくなれた例外的哺乳類で、現世哺乳類の直接の祖先は6550万年の世界ではリス以下のサイズと推定され、化石も残されていませんが、恐竜が絶滅しても肉食鳥類や爬虫類の追い回されて、小さな存在でしか無かったことが巨大鳥類の化石等から分かっています。
2000万年かかってようやく哺乳類が鳥類を逆転できたのは、胎生が卵生より生存に優れていたからだと私は考えています。(この部分は論文を見つけてはいません。完全に私見です。)
4500万年前に急速に哺乳類は分化していき、樹上に留まるか、陸上に降りるか、更に海に戻るかによって、更に分化します。
枝をつかむものはサルへと進化していきました。
2500万年前にサルから類人猿(ape)が分化しました。
同じく2500万年前に犬と猫の共通祖先から地上に降りたものが狼になり、樹上に留まったものがネコ科になっていきました。
ここも面白い部分ですが割愛します。
日本猿を見て、ホモサピエンスの行動と共通点を見つけることができ、チンパンジーと同程度にホモサピエンスに近いと感じるかも知れませんが、ホモサピエンスとサルは、犬と猫ほどに違うのです。
ホモサピエンスの祖先であるサヘラントロプス・チャデンシスが1000〜900万年前にゴリラの祖先と分岐し、700万年前にチンパンジーの祖先と分岐しました。サヘラントロプス・チャデンシスは二足歩行できましたが、脳の容積は350~380mLで主に樹上生活です。
<ハーレム型から一夫一妻型への移行>
450〜430万年前のエチオピア辺りに現れたアルディピテクス・ラミダスが一夫一妻型の始まりとされ、メスを巡る争いが無くなり、食料を探す時間が増えました。しかし脳の容積は500mL以下で、毛むくじゃらです。
370〜300万年前に存在したアウストラロピテクス・アファレンシスから体毛が減っていき、完全に地上生活に適応しました。
身長はせいぜい150cmで、10名以上で行動し、石器や持たず、昆虫や根茎を食べて飢えを凌いでいました。
240〜140万年前のタンザニア辺りに現れたホモ・ハビリスから棒や石器を使い始めました。
身長はせいぜい135cm以下ですが、脳の容積は初めて700mLと他の類人猿に対して優位に立ちました。
しかし肉を主食にするほど狩猟は上手くなく、肉食獣の残り物からタンパクを摂っていました。
捕食される側でした。
<180万年前に捕食者になり、一度 出アフリカを果たす>
180万年前に出現したホモ・エレクトスは、狩りが上手くなり、捕食者になりました。
タンパクが十分摂れることで、脳は大きくなっていき、5〜7万年前に絶滅する頃には脳の容積は1100mLに達しています。
石器もどんどん進化していき、(ホモサピエンスより濃いですが)体毛が更に薄くなり、発汗できるようになりました。ホモ属以外では発汗できる動物は馬しかいませんが、アフリカのような暑い地域で数kmもの長距離を走らせたら、ホモサピエンスは犬や馬にも勝てます。
手足が長くなり、大殿筋が発達し、身長も高くなりました。出現時は成人男性で150cm程度だった身長は栄養状態が良い地域では180cmに達したようです。
ホモ・ハイデルベルゲンシス(ホモサピエンスの祖先)やネアンデルタールの共通の祖先であり、60万年前に分岐しました。
50万年前には出アフリカを果たし、南アジア、東南アジア、中国にまで達しています。
ジャワ原人と北京原人はホモ・エレクトスそのものです。
中東のホモエレクトスは20万年前にネアンデルタールとの生存競争に敗れて絶滅し、
アジアではホモサピエンスに負けて5万年前までに絶滅しています。
実はホモ・サピエンスも10万年以上前に何度も出アフリカを試みた小集団がありましたが、寒冷化で絶滅しています。
<ネアンデルタールとホモサピエンスの関係>
60万年前に共通の祖先ホモ・エレクトスから分化して以来、ネアンデルタール人は主に中東で暮らし、その後ヨーロッパや中央アジアに広がっていきました。
ホモサピエンスの先祖ホモ・ハイデルベルゲンシスは60〜40万年前にホモ・エレクトスから分岐しました。
そしてホモ・サピエンスが20〜25万年前に現在のボツワナ辺りで誕生しました。
16万年前に東アフリカにいたホモ・サピエンス・イダルトゥが我々の直接の祖先とされています。
アフリカ人の遺伝子多様性は、アフリカ以外に住む世界中の遺伝子多様性より遙かに大きく、アフリカ人全体の遺伝子とアジア人の遺伝子を比べることはあまり意味がありません。
約10万年前にアフリカ系ホモサピエンスと非アフリカ系ホモサピエンスに分かれたと遺伝子時計から推測されています。
遺伝的に最もアジア人やヨーロッパ人と遠いのは、アフリカ南部に住む人々(ボツワナに住むコイサン族など)で、驚いたことに非アフリカ系ホモサピエンスは南アフリカ辺りに暮らしていて、アフリカ東岸を北上し、中東に達したようです。
<ボトルネック、絶滅の危機>
約10万年周期で氷河期と約1万年の間氷期が交互にがやって来ますが、今は約13000年前に始まった間氷期の終わりに近い時期です。(間氷期による温暖化のおかげでホモサピエンスは文明を持つことができました。)
7万4000年前のインドネシアの巨大噴火Toba eventによる寒冷化によって、平均気温は7℃下がり、ホモサピエンスは(アフリカ系の祖先も含めて)1万人以下にまで減って、遺伝的多様性がかなり失われたと言われています。
この頃、絶滅寸前だったほぼ全てのホモサピエンスは南アフリカの海岸沿いに貝などを採って暮らしていました。この頃は数千人のホモサピエンスは将来アフリカ系になる主流派と、将来非アフリカ系になる少数派の2種類のグループしかありませんでした。
<言語能力の突然変異>
ボトルネック後の約7万年前に言語の習得能力が高まる突然変異が伝播し、それは生存にかなり優位な変異だったため、ホモサピエンスが高い言語能力を持つに至ったようです。
(突然変異の継承と伝播には必ず絶滅寸前の減少か、隔離が必要です。
<ホモサピエンスはネアンデルタール、デニソワと混血した>
ホモサピエンスの出アフリカはゲノム研究から6万4000年前と言われています。
複雑な言語を習得したホモサピエンスはアフリカ東部から中東に至り、主に中東で6〜4万年前までネアンデルタール人と分布域が重なり、ヨーロッパや中央アジアでもホモサピエンスとの混血が起きたようです。
アジア人は40万年前にネアンデルタールから分岐したデニソワ人と混血しています。
デニソワ人からも免疫的に有利な遺伝子と、LDLコレステロールを低く保つ遺伝子等を受け継ぎました。
デニソワ人は大きな3〜4個のグループに分かれていて、最初の分岐は36万3000年前にアルタイ系デニソワ人と南下してインド〜東南アジアに移動したグループ、更にパプアニューギニアに移住した第3のグループ、遺伝子の痕跡だけが残っているが、どこにいたか分かっていない第4のグループがありました。
メラネシアの人はデニソワ人のゲノムを最大6%持ち、肌は浅黒いが、青い目を持つ人が時々います。
5万1000年前にパプア人がインド経由で東南アジアに大移動を始め、分岐しました。
更に3万8000年前にコーカソイドの祖先が西に移動していきました。この頃まではラテン民族ですら、現在のウクライナ辺りに暮らしていたようです。
3万5000年前にモンゴロイドの祖先はウラルアルタイ語族になる東アジア人、シベリア人、アメリカ大陸原住民等となるグループと、南下して東南アジアに向かうグループに別れました。
1万3000年前には東アジア人は凍ったベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸原住民となりました。
ウラルアルタイ語族は中央アジアにも分布していますが、我々、東アジア人はバイカル湖辺りに暮らしていて、2万年に及ぶ寒冷地適応として、短い手足や脂肪の厚い眼瞼になったようです。
余談ですが、福建省から台湾先住民として住んでいたオーストロネシア語族は東はイースター島、西はマダガスカルまで太平洋を航海して広がっています。
ホモサピエンス史上、最も冒険心に溢れた人々だと思います。
日本にもその末裔は沖縄、九州南部、紀伊半島、豊橋〜浜松辺りに住んでいると思います。(ここは私見です。)
ヒトゲノム計画や最近の遺伝子の研究からネアンデルタール人の遺伝子は非アフリカ大陸出身者には2〜3%含まれていて、日本人も同様に2〜3%含まれています。
(最新の数値はヨーロッパ人で全ゲノムの1.8〜2.5%、アジア人には2.3〜2.6%含まれる。)
混血率がわずか2〜3%しかないのは、ユーラシアに進出した頃、ホモサピエンスの人口は増え、それに比べるとネアンデルタール人の人口密度は低かったためか、遺伝子が違いすぎると子が生まれにくいためかは不明です。
ネアンデルタール人からは免疫に関して有利な遺伝子がもたらされるとともに、気分障害(主に鬱)や依存症になりやすい遺伝子がもたらされています。
今回はネアンデルタール人からもたらされた遺伝子はCoVID-19に対して不利に働きましたが、決して悪いことばかりでは無いのです。
以下の内容で、「南アジア人の遺伝子の50%がネアンデルタール人由来」という意味では無いことに注意してください。ホモサピエンスもネアンデルタールも全ゲノムが解読されていて、非アフリカ系ホモサピエンスはいずれも2〜3%持っています。
この偏りはおそらくネアンデルタール人の小集団が持っていた遺伝子の伝播に偏りがあったためでは無いかと推測しています。
2020年1月30日のCellによると、アフリカ人にもネアンデルタール由来のゲノムが0.3%以上(1700万塩基対)含まれていて、これはヨーロッパに移住したホモサピエンスがネアンデルタールと混血後に、アフリカに戻ったグループがいるためと判明しているそうです。
(2021/02/22 管理者記載。殆どがNatureとCellに投稿された学説に基づいたものですが、今後の研究によって変化する可能性があります。 )
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