メイアクト、フロモックス、トミロン、オラペネム

小児に安全に投与できる抗菌薬には、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、カルバペネム系、一部のニューキノロン系があります。

特に、

ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系の3つのグループは頻用されています。


<マクロライドによるQT延長>

マクロライドは高用量でQT延長を起こすことが指摘されています。


ピボキシル基によるケトン性低血糖

一方、基本的にペニシリン系やセフェム系では2~3倍量投与までは全く安全だと思いますが、

セフェム系(や経口カルバペネム系)には例外があります。

その例外が

メイアクト、フロモックス、トミロン、オラペネム の4剤です。

これらは元々腸管からの吸収が悪く、吸収を促進するためにピボキシル基という側鎖が付いています。

この基は吸収されるときに抗菌薬本体から離れて、単独の存在になり、カルニチンと結合して一緒に尿中に排泄されてしまいます。

カルニチンとは、脂肪組織から筋肉内にあるミトコンドリアに運ぶ運び屋です。

ミトコンドリアに運んで脂肪をβ酸化によって燃やし、エネルギー源とします。

カルニチンが不足すると、脂肪を利用できなくなります。

「血中の糖(グルコース)→肝臓中のグリコーゲン→筋肉や脂肪を分解して糖を取り出す。」

という順に糖を利用しますが、筋肉が少なく、肝臓の小さな幼児では、容易に枯渇します。

好発時期は1~5歳で、筋肉量の増えてくる10歳以降に起きることは殆どありません

節食不良だけでも血糖が下がり易く、ケトン性低血糖の好発時期と一致します。

0歳は頻回に哺乳し、夜間にも栄養が摂れることから起きにくいです。

ピボキシル基を持つ抗菌薬による低血糖は、ケトン性低血糖と誤診されて、過小評価されている可能性があります。

2012年1月までにピボキシル基を持つ抗菌薬が投与され、且つ血中カルニチンの低下が証明された

低血糖による意識障害患者38例のうち3例が不幸にも脳に後遺症を残したそうです。

これらの症例の9割以上が5歳以下に起きています。

当然のことながら、ケトン性低血糖の起きやすい時期と一致します。

上記抗菌薬の投与による低血糖発作のうち、約3/4が”のべ”2週間以上の合計投与期間によって起きていますが、

約1/4の症例では2週間以内の投与期間でも起きています。


<最短の症例>

最短は、投与開始翌日に低血糖(45mg/dL)による痙攣が起きています。

この症例は1歳で12kgの男児ですから、決して低体重ではありません。

発熱を伴う細気管支炎のため食事摂取が低下していて、

更に治療に出されたフロモックスによってカルニチンが低下したようです。


<メイアクト増量によって痙攣が起きた症例>

血糖21mg/dLで後遺症が残った症例では、中耳炎治療で約4ヶ月間CDTRを投与され、

症状が改善しないため、メイアクトを200mg/dLに増量した2日後に痙攣が起きたようです。

開始数日、もしくは増量数日でも低血糖は起きるようです。


<新生児の症例>

この報告を読むと、

3rd trimester にフロモックスを用いて腎盂腎炎の治療を受けていた妊婦から生まれた新生児に

低カルニチン血症が起き、また母体にも低カルニチン血症が起きていたそうです。


<休薬期間を挟んでいても、合計8日間の投与で痙攣が起きた症例>

2日間内服→2日間休薬→4日間内服→4日間休薬→2日間内服→2日間内服 という16日間で(延べで合計)8日目の投与日に起きた例があります。

フロモックスを途中でメイアクトに替えても意味は無く、同じ薬が継続していることになります。

休薬は効果がありますが、すぐには枯渇したカルニチンは増えません。1日に生合成できる量はせいぜい10mg程度ですから。


<メイアクト発売前の治験>

本来、36μmol/L(n=87例)であった血清中遊離カルニチン濃度は、メイアクトを1週間連用で平均12μmol/Lまで低下し、投薬中止1週間後には、元に近いレベルまで戻っています。

ウイルス性上気道炎を中心とした感冒には抗菌薬は不要ですし、

中耳炎合併例にも、AMPCで十分と思います。

メイアクトやフロモックスは抗菌力の強い薬です。

2~3日内服して改善が無ければ方針変更した方が良いでしょう。

断続的に1週間程度内服したら、少なくとも1週間は休薬しましょう。