テトラサイクリン系抗菌薬
商品名:ミノマイシン
<結論>
★ミノマイシンはクラリスやジスロマック耐性マイコプラズマに対してのみ1週間未満だけ使うことがある。
★小児にはミノマイシンより、ビブラマイシンの方が安全で歯牙黄染は無い。
★とびひや中耳炎では有効だが使うべきではない。(膿痂疹にはバクタが有効)
★感冒には無効。
皮膚科では膿痂疹(とびひ)の治療に使われることがあります。
耳鼻科では中耳炎や感冒の治療として処方されることがあります。
膿痂疹や中耳炎には確かに効くかも知れませんが、
膿痂疹であれば、アクアチム外用で十分だし、
中耳炎であればペニシリン系抗生剤で十分です。
感冒には全く無効です。
小児科医から出されることがあるとすれば、マクロライド(クラリスやジスロマックのことです。)耐性マイコプラズマに対する治療の時だけでしょう。
ミノマイシンの副作用について
東京医科歯科大の教授であった高木裕三先生の講演を参考にしています。
1.MINOは層状に沈着します。
MINOによる黄染患者の抜歯した歯の電子顕微鏡の画像を見せていただきましたが、
1日の投与でも電子顕微鏡では確認できます。土星の輪のように綺麗に並んでいました。
つまり、沈着量は”総投与量に比例”します。
1日の投与でも電子顕微鏡ではしっかり別の沈着層と区別できます。
つまり誰か患者の歯牙が黄染した場合、誰のMINO投与が犯人か、というと答えは
”MINOを投与した全員”です。
2.投与後、すぐには黄色にならず、紫外線に当たっているうちに次第に変色してくる。
3.おそらく”変色”を感じる人間の目には、MINOの沈着量と”変色の度合いという主観”は正比例ではなく、シグモイド用に変化する。
(黄疸が良い例でしょう。T.Bil 0.1 TT.Bil 1 では10倍黄色くは見えません。どちらも普通の肌色でしょう。一方で、T.Bil 100 とT.Bil 200 というものがあればおそらく、どちらも酷い黄色に見えるでしょう。人間の目にはT.Bil 6~8辺りを超えた辺りから急速に黄色くなっていくように見えます。)
4.RCTが行いにくい。
DOXYで歯牙黄染が起きないという論文を30年掛けて書いた先生は偉いですが、
普通は「MINOでRCTをしたい」と申し出たら同意してくれる親は殆どいないでしょう。
5.発売製造元のファイザーの集積例では、1週間の連用で歯牙黄染が認められた例がありますが、
それ以下では報告がありません。
ニューキノロン系(TFLX:オゼックス)は関節障害や歯牙黄黄染の心配はないものの低血糖の心配があるため、夕食を摂らずに寝たりすることは危険です。
永久歯が生えていて、錠剤が飲めるなら、ドキシサイクリン(DOXY:ビブラマイシン)がMRSAにも有効で、
骨や歯への影響も少なく比較的安全です。
マイコプラズマ感染症に対するドキシサイクリンの使用経験
(近畿外来小児科研究会 2012.6.10)
近年、小児のマイコプラズマ感染症ではマクロライド耐性菌によるものがほとんどを占めるようになり、治療上大きな問題になっている。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系薬剤は臨床的に著効を示すものの、小児では歯牙への沈着の副作用のため投与を控えるべきとされている。
ドキシサイクリン(Doxy)はテトラサイクリン系薬剤でありながら、歯牙への沈着がないとされ、小児のマイコプラズマ感染症に対して本薬剤による治療を試みたのでその経験を報告する。
症例は咳、発熱などを主訴として、血清抗体価からマイコプラズマ感染症と診断された1歳6か月から12歳8か月までの10例。
Doxyは初日に4mg/kg、2日目から2mg/kgとなるように1回用量0.5~2錠を投与した。
3歳6か月の1例を除いていずれも内服でき、症状はすみやかに軽快した。Doxyは小児のマクロライド耐性マイコプラズマ感染症の治療に有用と考えられた。
ビブラマイシン(Doxy)は歯牙黄染を起こさない
Absence of tooth staining with doxycycline treatment in young children.
Clin Pediatr (Phila).
Volovitz B, Shkap R, Amir J, Calderon S, Varsano I, Nussinovitch M.
2007 Mar;46(2):121-6. PubMed PMID: 17325084.
彼らの小児喘息クリニックで過去30年間、非定型肺炎の疑われる喘息患者にdoxycyclineを使用してきたが、歯の染色は認められなかった。今回この点をさらに明らかにするためにblind, randomized, controlled clinical studyを行った。
Doxycylineは4mg/kgを初日に分2で、以後9日間は2mg/kgを投与31例は投与群(8歳前に初回投与を行い2年以上経過。21例は4歳前に投与)、30例は非投与群投与群では平均2回投与(15例は1回、7例は2回、5例は3回、4例は4回)。投与群の初回投与後平均6.3± 2.2年 (2.0-12.0年)後に小児歯科医により検査。投与群、非投与群ともに歯の染色はなし。
Tetracylineによる小児の歯牙への沈着が1958年に報告されて以来、doxycylineもこの副作用があるのではないかとの懸念から8歳未満の児には使用を控えるべきという勧告が米国小児科学会などから出されたが、その後、これに反する報告がいくつか出されており、2つの文献で若年小児へのDoxycyline投与による歯の有意な染色はないと。DoxycylineはTetracyclineよりもCaへの親和性が低いことによる。
ビブラマイシン(Doxy)の用量
Children over 8 years: oral , i.v. 2-4mg/kg/day divided every 12-24
hours, not to exceed 200mg/day
アメリカでは2歳以上で投与可能のようです。
Doxycylineは4mg/kgを初日に分2で、以後2mg/kgを投与。
<出典:Pediatric dosage handbook 10th edition>
ミノマイシンにはStevens-Johnson症候群やアナフィラキシーの報告も少なくなく、
肝機能障害の頻度も高いので、外来で使用するには注意が必要です。
一旦、マイコプラズマに感染するとIgMは最長で半年は高値が続き、
IgGは3年程度は十分な抗体価が続くので、1年に何回もミノマイシンを投与することはあり得ません。
2007年頃の報告で、日本ではマクロライド耐性マイコプラズマは30%程度です。
かなり耐性菌が多いですが、それでも7割は有効です。
まずは、クラリスかジスロマックで治療するべきです。