妊娠/授乳中の母体への薬剤投与-総論
(この7章では2009年時点でのFDA、AAP、聖路加国際病院、虎ノ門病院の資料を元に作っています。
稀にしか更新しないため、最新情報はFDAのサイトで調べてください。)
妊娠中の薬剤
・妊娠中はFDAのpregnancy risk category(およびオーストラリアのpregnancy risk category)を元に
投与可能かどうか、慎重に判断しないといけません。
妊娠中のリスクには、胎生16w以前の催奇形性の問題と、16w以降の胎児毒性の問題に分かれます。
一般にFDA category A/Bは投与可能です。アメリカで category C の薬剤でも
オーストラリアでCategory Aならば聖路加国際病院では投与可能と判断しているようです。
我々医療従事者は妊娠可能な年齢の女性には、日頃から総合的にCategory B程度以上の安全性の
薬剤のみを投与するように心掛けたいものです。
(2010年の読売新聞の調査では4組に1組の夫婦が、所謂”できちゃった婚”です。
未婚女性も妊婦である可能性があります。
医学部時代に習った「女性を見たら妊娠していると思え。」という言葉が正しい時代がやって来ました。)
妊娠中の不活化ワクチン
・理論的には、全ての不活化ワクチンは、全妊娠期間中に接種可能です。
実際に奇形を生じた報告もありません。
特に海外では百日咳を含むワクチンを妊娠後期に接種している国が多く、乳児早期に接種する不活化ワクチンを母体に投与することで、胎盤経由で移行抗体を受け渡し、子がワクチンを受け始めるまでの2〜3ヶ月を安全に過ごすことができます。
妊娠中の生ワクチン
・生ワクチンも海外では概ね安全だと確認されていますが、
日本では妊婦への接種は回避するように推奨されています。
実際に海外では、妊娠初期に生ワクチン、特に風疹ワクチンを接種しても奇形は増えなかったという症例報告が多くあります(ランダム化試験はありません)が、理論的には生きているウイルスを打つわけですから、やはり妊娠前に接種は済ませておきたいものです。
ただし、生ワクチンの中で、BCGはウイルスではなく細菌なので理論的にも催奇形性はありません。
授乳中の薬剤
・授乳中はAAPのサイトを元に、殆どの薬剤が投与可能です。
AAPのサイトで”Compatible”は投与可能です。
日本ではアメリカにおけるFDAのような国家機関が責任を持って調べていないので、
安全性の確認は各製薬会社やワクチンメーカーに丸投げされています。
そのため責任を回避するために多くの薬剤は妊婦や授乳婦への投与を回避するように書かれています。
例えば、日本ではわずかでも母乳に分泌されたら授乳を中止するように記載されていますが、
多くの薬剤は体重1kg換算で、母体の1%以下しか乳児に移行しないため、副作用どころか作用すら発現しません。
アメリカとオーストラリア以外ではスウェーデンでもこのようなCategoryが調べられていますが、
信頼されているのがアメリカとオーストラリアのpregnancy risk categoryです。
日本のメーカーの言葉を信じて、堕胎したり、断乳することはバカげています。
せっかく授かった命や、一生に渡って利益をもたらす母乳を無駄にしないでください。
(以上は2010年 作成)