中耳腔の正常細菌叢
繰り返される中耳炎に悩む小児やその親は多いが、耳の中の細菌叢がこうした慢性中耳炎にかかりやすいかどうかを知る手がかりとなるかもしれない―。国立病院機構東京医療センターの南修司郎氏らによる研究から、耳漏のみられる慢性中耳炎がある人とない人では、中耳の細菌叢に大きな違いがあることが分かったという。この研究結果は米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(AAO-HNS、9月10~13日、シカゴ)で発表された。
南氏らは今回、鼓膜形成術を受けた慢性中耳炎患者88人と、中耳炎以外の疾患が原因で耳の手術を受けたが中耳は正常な患者67人を対象に、手術中に中耳から採取した検体を調べた。なお、いずれも成人と小児の患者が含まれていた。
その結果、正常な中耳の細菌叢ではプロテオバクテリア門の細菌が最も多く、次いでアクチノバクテリア門、ファーミキューテス門、バクテロイデス門の細菌が多かった。また、中耳炎患者のうち乾いた状態の非活動性炎症患者の中耳における細菌叢は、正常な中耳の細菌叢と似通っていた。一方、耳漏がみられる活動性炎症のある患者の中耳では、正常な中耳と比べてプロテオバクテリア門の細菌が少なく、ファーミキューテス門の細菌が多かった。
南氏らは「ヒトの中耳には、これまで考えられていた以上に多様な細菌が生息していることが明らかになった。中耳の細菌叢の変化は、活動性炎症を伴う慢性中耳炎に関与している可能性がある」と結論付けている。
この報告を受け、「耳の感染症について理解を深める重要な一歩となる研究結果」と評価するのは、米コーエン小児医療センターのSophia Jan氏だ。同氏は「この研究から分かったのは、慢性の感染症の有無にかかわらず、ヒトの中耳には多数の細菌が生息しているということ。つまり、一部の細菌は問題を引き起こさないことが示唆される」と説明している。
その上で同氏は、今回の研究結果から新たに多くの疑問点が浮かび上がってきたと指摘。「特定の細菌が非活動性あるいは活動性の炎症の原因となっているのか、あるいは遺伝的に耳漏を伴う慢性中耳炎のなりやすい人で特定の細菌が増殖するのかなど、今後明らかにされるべきことが数多く残っている」と話している。
なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。