急性中耳炎

患者にとっては、アトピー性皮膚炎に対する小児科医の治療と、皮膚科医の治療の違いに戸惑うことがあるかも知れない。

1980年代の世界的なステロイド忌避、結果を伴わない厳格な食物の除去という暗黒の時代を経て、現在は結論が出ている。

正しい方針は、「ステロイドは積極的に塗布していく。但し、間欠塗布に持ち込み、副作用を出さない工夫をする。

ステロイド内服は入院患者のみに行う。」これらのことは、2018年に、日本アレルギー学会のガイドラインと、日本皮膚科学会のガイドラインが統合されることで、結実した。


もう一つの齟齬のある分野である”中耳炎”治療に関しては、2018年時点で未だに展望が見えない。

オランダや北欧では、「急性中耳炎は自然治癒傾向が強いので、極力避ける」というのが原則だ。抗菌薬による利益は少なく、不利益が多いというエビデンスもある。

鼻副鼻腔炎では0.5〜2%しかない細菌性のものは、急性中耳炎で細菌性は7割になる。

しかし鼻副鼻腔炎と同様に自然治癒傾向が強いのである。

特に肺炎球菌結合型ワクチンが普及してからは、難治性急性中耳炎は減り、9割の急性中耳炎は経口抗菌薬無しで治癒している。(自検例)

日本耳科学会のガイドラインの最大の問題点は、

1.全身状態の配点より、鼓膜という局所の配点が4倍も高い。局所より全身状態が軽視されている理由は不明である。

2.重症の患者向けで、中等症以下の患者に適用しにくい内容になっている。

(ガイドラインの根拠となっている論文の多くは、大学病院や基幹病院であり、無床診療所では無いからである。

ガイドライン作成委員の先生に質問したら、「診ている患者層が違う」という答えだったが、だったら初めからそういう対象で研究して欲しい。重症例で得た知見を中等症以下にも適用するのは誤っていると思う。)

3.長期的な不利益が評価されていない。

(2008年頃から盛んになった腸内細菌叢の研究では、2歳未満に対して抗菌薬投与することで、アレルギー性疾患が増えること、肥満が増えること、Crohn病が増えること、大腸癌が増えること等が報告されているが、ガイドラインの中で「細菌叢」を気に掛けているのは、点耳薬の有効性を示している部分と鼻汁吸引による鼻腔細菌叢の正常化の部分だけだ。)

一方で、評価できる部分もある。

1.鼻汁吸引による鼻腔細菌叢の正常化の報告と、

2.十全大補湯のエビデンスに触れた部分だ。

おそらく、耳鼻科のガイドラインの元になっている研究対象がもう少し一般的な母集団になり、長期的なOutcomeが考慮されないと、小児科医との溝は埋まらないと思う。


※ 滲出性中耳炎のガイドラインは優れていて、とても参考になる。

※ 鼻副鼻腔炎のガイドラインはもっと酷くて、全く使い物にならない。根拠の症例数が少なすぎる上に、ウイルス同定もできていない。最も多いライノウイルスが出てこないとはPrimerが正しく使われていないのかも知れない。

急性中耳炎への抗ヒスタミン剤

<結論>

急性中耳炎に対する抗ヒスタミン剤投与は、利益が無く、副作用のリスクが5〜8倍になる。

小児の急性中耳炎に対する血管収縮薬および抗ヒスタミン薬(2008 issue 3, Update)

Decongestants and antihistamines for acute otitis media in children.

Coleman C, Moore M.

Cochrane Database of Systematic Reviews 2008, Issue 3. Art. No.: CD001727. DOI: 10.1002/14651858.CD001727.pub4.

Acute Respiratory Infections

最新版(英語版)はこちら

英語版最終改訂年月:27 May 2007.

Clib issue No.; N/U:2008 issue 3, Update

背景急性中耳炎は、ほとんどの症例で自然消退するものの、小児のよくみられる重要な疾患である。血管収縮薬および抗ヒスタミン療法がしばしば推奨される一方で、その利益はわかっていない。

目的急性中耳炎の消退、症状の消失、医薬品の副反応、急性中耳炎の合併症のアウトカムについて、急性中耳炎の小児を対象に血管収縮薬および抗ヒスタミン療法の有効性を判定する。

検索戦略今 回のレビュー改訂において、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(コクラン・ライブラリ2007年第2号)、MEDLINE(2004年1月~2007年5月)、EMBASE(2003 年7月~2007年5月)を検索した。

選択基準小児の急性中耳炎に対する血管収縮薬または抗ヒスタミン療法を評価しているランダム化比較試験(RCT)を含めた。患者指向アウトカムが最も適切であると考えた。

データ収集と分析レビューアが研究を選択するかどうかについて独自に評価し、妥当性を評価し、データを抽出した。二値データを統合し、相対リスクを算出した。近似χ2検定を用いて均質性を評価した。

主な結果今 回の改訂時の検索後に、新たな研究は含まれなかった。2695例を対象とした15件の試験が含まれた。血管収縮薬/抗ヒスタミン薬併用群のみで急性中耳炎 の2週間時点での持続率が統計学的に低かった(固定相対リスク(RR)0.76、95%信頼区間(CI)0.60~0.96、治療必要数(NNT)10 例)。早期治癒率、症状消失、手術、その他の合併症の予防についての利益は認められなかった。介入治療を受けた人では副作用リスクが5倍から8倍増大して おり、血管収縮薬を受けたすべての人は統計学的な有意水準に達していた。妥当性サブ解析から、質の低い研究で利益が認められたが、妥当性スコアがより高い 研究の解析では治療の利益がないことが示された。

レビューアの結論利益がなく副作用リスクが増大することを考慮すると、 これらのデータは、小児の急性中耳炎に対して血管収縮薬治療の使用を支持していない。薬剤の併用により統計学的に小さな利益があるが、臨床的意義は極わず かであり、研究デザインが結果にバイアスをかけている可能性がある。従って、小児の急性中耳炎の治療に抗ヒスタミン薬をルーチンで使用することは推奨でき ない。