<食物アレルギー>

【※ 以下の内容は2007〜2008年に書きました。】

2000年前後からタンパク抗原を避けることは逆に食物アレルギーのリスクを高めるという論文が多数出てくるようになり、

2008年頃を境にアレルギーの方針は世界中で大きく変わりました。

Strikeの線を引いて取り消してあるのは古くなって間違っていることが分かった情報です。

2016年の時点で生後6ヶ月から微量の各種タンパク抗原を摂り続けた方が安全と分かっています。

<アレルゲン感作の普遍的原理>

乳児の食物アレルギーの約90%は、卵・乳・小麦の3つの食品だけで占められています。

これらは普段身の回りにある抗原であり、粉末となって空中に舞って、飛び散って床に落ちていることで、皮膚に触れるからです。

魚や肉は粉末になって飛び散ることは少ないので、感作されにくいのです。

例えば、実家が蕎麦屋であればソバ粉が宙をまっているので、当然感作されるリスクが高いため、生後6ヶ月から微量ずつ食べさせる方が安全で、避けることはむしろリスクを高めます。(身の回りに無ければ急ぐ必要はありません。)


★ 経口摂取する場合、栄養としてタンパク質を同化するために免疫寛容(減感作)が起こる。

★ 皮膚に付くタンパク質は、基本的に食べ物よりも細菌やウイルスということが多く、経皮感作に向かう。

この場合、どちらが勝つかというと、

皮膚からの経皮感作 < 消化管からの減感作

が原則です。

感染のリスクよりも飢餓のリスクを大きく見積もりながら進化してきた訳です。

イスラエル在住のユダヤ人は生後6ヶ月からピーナッツをすり潰して、離乳食に混ぜるそうですが、ピーナッツアレルギーが少なく、イギリス在住のユダヤ人はアングロサクソンと同じように2歳までピーナッツを避けているそうですが、イギリス在住のユダヤ人の方がピーナッツアレルギーが多いという疫学調査が出ています。

日本人に米アレルギーが極めて少ないのは、必ず少量から毎日摂り続けているからです。


但し、例外は皮膚に炎症がある場合です。

最初に敵を発見するのはマクロファージですが、そこまで賢くなくて、近くにあったタンパクを手当たり次第取り込んで、敵としてT cell に提示します。

アトピーや湿疹のある乳幼児の方が、食物アレルギーのリスクが高いのは、このためです。

食物アレルギーがあるから、皮膚が荒れるのでは無く、皮膚が荒れているから食物に感作され、アレルギーを発症するのです。

しかしアトピーがかなり酷い子でも、滅多にお米アレルギーがいないように、消化管からの減感作は通常皮膚の炎症による経皮感作の促進に打ち勝ちます。

<食物アレルギーに対する哺乳・食事指導>

<一般的注意事項>

1.母乳は最低1歳になるまで続ける。分泌量が十分であればミルクや果汁を与えない。

(母乳は母親の食事によって毎日多少味が変わるので味慣らしの果汁は不要です。

人工乳栄養児は月齢4頃から野菜を煮込んだ上澄みを与えても構いません。)

2.離乳食は月齢5を目安に開始する。

AAPでは月齢4~8に開始することになっていますので焦らなくても大丈夫です。)

(月齢4未満に開始しても、月齢6以降に遅らせても食物アレルギーのリスクが上がるため、おそらく月齢5がベストです。)

3.皮膚や下痢等の症状が出ないか観察しながら、急がずに離乳食を進める。

(下痢が止まっていなくても、離乳食を1週間以上止めてはいけない。

1週間経てば、ウイルスは少なく炎症も概ね治まっている。)

4.味付けは薄味にする。

5.野菜の甘味を利用し、砂糖は殆ど使用しない。

6.化学調味料は使用しない。

7.タンパク質を多く含む食品を与え過ぎないようにする

8.肉類は月齢10未満児には与えない

9.青魚等、アレルゲンとして頻度の多い食品は遅めに少量から与える

(AAPは、乳製品は1歳以降、卵は2歳以降、青魚は3歳以降の摂取を推奨していましたが、

これは2008年に撤回されました。遅らせるほどリスクは上がります

<食物アレルギー患者への注意事項>

1.抗原を除去し、代替品でタンパク質を補う。

2.魚介類、肉類等では、同じ食材は4~5日に1回までとする。(回転食)

毎日食べた方が安全だという結果が出ています。既に感作された食品は隔日以上に間が空くとリスクが上昇します。

3.食品によっては、アク抜きや加熱によって抗原性が弱まるものがある。

4.油脂の摂り過ぎはアトピー性皮膚炎を悪化させ得るため控える。(←エビデンスが弱いので、あくまで参考程度に。)

5.加工食品等、食品添加物を含む食品には注意する。

6.外食や市販の菓子類は、使用材料が明らでないものがあるので、

できるだけ手作りの食事が望ましい。

7.食事日記を付け、食事と症状の関連を観察する。


<タンパク質の等価表(タンパク質6g分の食品の重量)>

<カルシウム等価表(1単位=Ca 200mg)>

<卵製品のアレルゲンの強さ>

<卵アレルギーの代替食品>

<タンパク源として>

肉類(牛、豚、馬、羊、鯨等。鶏肉は多くの卵アレルギー患者が摂取可能。)

魚介類

大豆製品

<調味料として>

ノンエッグマヨネーズ

マヨドレE(大豆タンパク使用)

卵不使用のドレッシング

<嗜好品として>

和菓子類(卵の入っていないもの)

せんべい類

ゼリー、寒天

手作りの菓子

<その他>

手作りソーセージ、かまぼこ、ちくわ、アレルギー用ソーセージ

<乳製品のアレルゲンの強さ>

<ミルクアレルギーの代替食品>

<タンパク源として>

肉類(豚、鶏、馬、鯨肉等。牛肉は多くのミルクアレルギー患者が摂取可能。)

魚介類

大豆製品

<飲み物として> 豆乳

<アレルゲン除去調整粉乳>

ミルフィーHP、ニューMA-1、MA-mi、ペプディエット、ボンラクト

<アミノ酸混合乳>

エレメンタルフォーミュラ

<低減化乳製品>

ペプチドE赤ちゃん、ペプティヨーグルト

<バター、マーガリンとして>

菜種マーガリン

<嗜好品として>

ミルクノンビスケット、アマランスビスケット、ペプティミルククッキー

手作りの菓子

<その他>

アレルギー用ミルクを使用した料理

手作りソーセージ、かまぼこ、ちくわ

アレルギー用ソーセージ

自家製カレールウ

アレルギー用カレールウ(市販品)

<乳アレルギー児の注意点>

日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会は2012年2月23日、ミルクアレルギーの小児でビオチン欠乏の恐れが強いと注意喚起し、対策を講じる必要があるとの声明文を発表した。

委員会は「ミルクアレルギー児では常にビオチン欠乏症発症の可能性がある」と強調。ミルクアレルギーを 持つ乳児には、加水分解乳もしくはアミノ酸乳が与えられている現状に言及した。日本の調製粉乳にはビオチンの添加が認められず、必要量が補給できないた め、ビオチン欠乏症に陥りやすい。「乳児早期から長期にわたりアミノ酸乳や加水分解乳のみで養育しないことが重要」との考え方を示した。

ビオチン欠乏症の症状は、顔面や外陰部の皮疹と脱毛。アトピー性皮膚炎と鑑別する必要がある。ビオチン1mg/日を投与すると速やかに皮疹が改善する。

<小麦製品のアレルゲンの強さ>

<小麦アレルギーの代替食品>

<主食となるもの>

ご飯、ビーフン(米麺)、粟麺、稗麺、

上新粉、白玉粉を用いたすいとん、団子

<小麦粉製品の代用として>

雑穀粉(粟、稗、キビ、芋、アマランス)

でんぷん(片栗粉、くず粉、コーンスターチ、タピオカ粉)

アレルギー用カレーおよびシチューのルウ

<調味料>

米味噌、雑穀味噌、雑穀醤油、果実酢、

アレルギー用のソースとケチャップ

<嗜好品、その他>

雑穀菓子(稗クッキー等)

ゼリー、寒天

白玉団子、くず餅

ウーロン茶、煎茶

<大豆(豆)製品のアレルゲンの強さ>

豆科植物の共通抗原がありますが、大豆抗原の多くは他の豆類と共通しないことが多い。

また豆科植物共通抗原に感作されている人も、発酵食品は食べられることが多い。

<大豆アレルギーの代替食品>

<タンパク源として>

肉類、魚介類

<調味料として>

ダイズノン味噌(大麦製)、雑穀味噌、ダイズノン醤油(小麦製)、雑穀醤油(稗、粟)、

魚醤油

<大豆油の代用として>

シソの実油、エゴマ油(これらはαリノレン酸を多く含む。)

菜種油(PCA検査合格済のもの)、菜種マーガリン

オリーブ油(純正のもの)

ノンエッグマヨネーズ

アレルギー用カレールウ

<嗜好品として>

乾燥果実(ノンオイルのもの)

白玉団子、 芋ようかん等

<春雨の代用品として> ビーフン、糸こんにゃく、

<その他> 焼き海苔

<米アレルギー>

米によるアナフィラキシーは極めて稀ですが、アトピー性皮膚炎の悪化という症状を来すことは時々あります。米特異的IgE RASTが陽性でも無症状で摂取可能なことが多い。

<米アレルギーで避けるべき食物>

米、玄米、もち米、

<米製品> もち、ビーフン、上新粉、白玉粉、道明寺粉、

<米を含む食品> 玄米茶、米こうじ、米味噌

<米の代替食品> パン、麺類、オートミール、稗、粟、ジャガイモ、さつま芋

<酵素処理米> ファインライス、ケアライス

<超高圧処理米> Aカットごはん

<魚介類アレルギー>

頻度は、卵、牛乳、小麦に次いで多い。

魚類、貝類、軟体類、甲殻類に分けられる。

甲殻類と軟体類はトロポミオシンが主要抗原であり、両方食べられないことが多い。

魚類はパルブアルブミンが主要抗原であり、甲殻類や軟体類と交差しないことが多い。

イクラによる乳幼児の即時型アレルギーが多く、離乳期にはイクラを与えてはいけない。

<食肉アレルギー>

食肉アレルギーの頻度は比較的少ない。各肉類の間の交差抗原性は比較的少ない。

牛肉、鶏肉、豚肉の順に多く、七面鳥、羊肉、鹿肉アレルギーは少ない。

ミルクアレルギーがあっても牛肉が摂取可能であったり、卵アレルギーがあっても鶏肉が摂取可能であることが多い。

肉類の抗原性は加熱で低下することが多い。

<果物アレルギー (PFASおよびOAS)>

口腔内アレルギー症候群(OAS)に見られるような口腔内に限局したアレルギー症状が多い。

OASの原因としては、キウイ、リンゴ、桃、トマト、メロン、さくらんぼ、スイカ等が挙げられる。

OASを引き起こす抗原の多くは不安定で、十分に加熱すれば摂取が可能になることも多い。

<野菜アレルギー>

ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリンを含み、免疫反応を介さずに、アレルギー類似の症状を起こす。

<ヒスタミンを含むもの> ほうれん草、トマト、とうもろこし

<セロトニンを含むもの> トマト、バナナ、キウイ、パイナップル

<アセチルコリンを含むもの> 茄子、トマト、筍、里芋、大和芋、クワイ

<ニコチンを含むもの> ジャガイモ、トマト

<サリチル酸化合物を含むもの> トマト、キュウリ、ジャガイモ、苺、リンゴ

<離乳食の進め方の目安>

以下の表はあくまで目安です。欧米に比べると日本は進め方がかなり遅いので、最も遅いリミットと考えてください。

生後6ヶ月以降で体重増加不良がある場合、ミルクを足すのでは無く離乳食を増やしてください。

ミルクや母乳だけでは、脂肪が多く、タンパクと総カロリーが絶対的に不足しています。

離乳食を十分食べても体重が増えない場合や、下痢や血便が出る場合はFPIESというIV型アレルギー反応による胃腸炎のため、吸収障害が起きている可能性があります。

FPIESの原因として、ミルク、小麦、卵黄(I型と違い卵白は稀)等が多いとされています。原因の除去によって体重が増え出すことがあります、無闇な除去は体重増加不良を悪化させることがあるため、慎重な判断が必要です。

<IgE-RISTの正常値>

<食物アレルギー患児への食物負荷試験陽性的中率と食物特異的IgE値>