ステロイド忌避について
アレルギー性疾患に対して最も重要な治療はアレルゲンの回避です。
大量のアレルゲンに曝されている患児にとっては、
どんなに強力なステロイドや抗アレルギー剤や漢方薬を用いてもコントロール不能です。
次ぎに薬物治療が試みられます。
ガイドラインでは、抗ヒスタミン剤や抗LT剤と同様に、
ステロイド”外用”はアレルギー性疾患に対する非常に有効で、副作用が殆どない安全な治療戦略です。
例えばアトピー性皮膚炎では、ステロイドを使用しないことによる網膜剥離と白内障は、
眼瞼にステロイドを外用したとき稀に生じる眼圧上昇(緑内障)による失明より遥かに多い
という統計があります。
掻痒を放置しておくと睡眠が浅くなり、成長ホルモンの大量放出(surge)が抑制されて低身長になります。
カポジ水痘様発疹症もステロイド治療群より無治療群の方に多いのです。
また荒れた皮膚からは直接抗原感作が進むと言われています。
ステロイドを頑なに忌避することはある意味、子どもへの虐待とも言えるのです。
こういったことが理解されずに、1980年代に雑誌やテレビでステロイドが徹底的に叩かれました。
今ではステロイド忌避の母親は少なくなったようですが、それでも時にステロイド忌避傾向を持つ親に出会うことがあります。
こうした母親達をステロイド忌避にさせる原因の多くが、以下のようなステロイド”内服’時の副作用によるものです:
<頻度は低いが重大な副作用>
・易感染性→発熱、咽頭痛、倦怠感、
・副腎機能抑制→だるい、吐き気、下痢、
・耐糖能低下、糖尿病→口渇、多飲、多尿、食欲増進、
・消化性潰瘍・胃腸出血→胃痛、腹痛、下血(血液便、黒いタール状の便)、吐血
・膵炎→上腹部~背中の強い痛み、嘔気、嘔吐
・抑うつ、憂うつ→気分がひどく落ち込む、やる気がでない、悲観的、不安感、不眠
・骨粗鬆症→骨がもろくなる、背中や足腰の痛み、骨折
・目の重い症状(緑内障、白内障)→見えにくい、かすんで見える、ゆがんで見える、見え方が変、目の痛み、頭痛
・血栓症→手足の痛み・はれ・しびれ、胸の痛み、突然の息切れ・息が苦しい、
急に視力が落ちる、視野が欠ける、目が痛む、頭痛、片側の麻痺、うまく話せない、意識が薄れる
<重要度は低いけれども、やや頻度が高い副作用>
・いらいら感、不眠
・消化不良、下痢、吐き気、食欲増進、食欲不振
・にきび、肌荒れ、毛深くなる、頭髪の脱毛
・生理不順、むくみ、血圧上昇、体重増加
・脂肪の異常沈着(顔がふっくらする、肩やおなかが太る)
・コレステロール値の上昇、低カリウム血症
これら内服(もしくは点滴治療)で現れる副作用と外用(吸入、塗布、点鼻)で現れる副作用を混同しているケースが多いようです。
腫瘍や移植後、膠原病や腎疾患ではステロイド内服の副作用が現れても、
生命や臓器機能予後を優先してステロイド内服を続けることが多く、副作用は必発です。
しかしアレルギー性疾患では最重症患者以外でステロイド内服を長期間続けることはありません。
各種ガイドラインにおいてステロイドの扱いは以下のようになっています:
・食物アレルギーではステロイド内服は無効で、ガイドラインにも記載すらされていません。
・通年性アレルギー性鼻炎のガイドラインでは、中等症以上の患者に対してステロイド点鼻は有効な治療方法ですが、
ステロイド内服は治療法の候補とされていません。
・花粉症のガイドラインでは、軽症以上の患者に対してステロイド点鼻は有効な治療方法です。
最重症で鼻閉が強い場合、短期間(4~7日間)のステロイド内服が考慮されます。
・喘息のガイドラインでは、ステロイド吸入は有効で軽症持続型以上の患者に使用されます。
中発作以上でしばしばステロイドの点滴静注が行われます。
喘息の重症持続型の長期管理としてステロイド内服を行う場合、入院管理の上で開始します。
・アトピー性皮膚炎では軽症以上でステロイド外用剤を使用します。
最重症患者では原則として入院とし、一時的にステロイド内服を行うことがあります。
喘息発作時を除き、ステロイドの全身投与は極力回避するようになっています。
そしてステロイドの外用療法には副作用が少ないことが判っています。
吸入ステロイドでは、通常の用量を守っていれば低身長になることはありません。
副腎抑制も起きません。(大量投与時には副腎抑制の報告があります。)
満月様顔貌も肥満も起きません。
唯一と言っていい、口腔内カンジダ症(鵞口瘡)のみに注意すればいいのです。
これはファンギゾンシロップとステロイド薬の変更で治療可能です。
ステロイド塗布でも同様で、通常の用量を守っていれば低身長になることはありません。
副腎抑制も起きません。満月様顔貌も肥満も起きません。
皮膚カンジダ症と皮膚線条が問題になりますが、前者は抗真菌剤塗布で治療可能で、
ステロイド中止後も残ってしまうのは皮膚線条のみです。
逆にステロイドを使用しないと、喘息では窒息死するケースが毎年数十例が報告されていますし、
アトピー性皮膚炎では色素沈着、苔癬化、カポジ水痘様発疹症といった合併症はむしろステロイド忌避群に多いのです。
ステロイド内服については、低身長、副腎抑制、目への影響から慎重になる必要がありますが、
ステロイド外用についてはこれらがないため積極的に行うべきです。