急性ウイルス性上気道炎
気道症状を伴う熱性疾患の90%以上がウイルス感染症と言われています。
ウイルスには抗生剤が全く効きません。
またインフルエンザや水痘等の一部例外を除き、多くのウイルスに対しては抗ウイルス剤が存在しません。
従って麻黄、桂枝、甘草の持つ抗ウイルス作用に期待して漢方薬を処方するのが得策と思われます。
(ただし溶連菌に対しては漢方薬単剤では除菌率が低く、乳幼児の細菌性の下気道感染症も抗生剤が必要です。
これら抗生剤が必要な疾患を見落とさないように検査することも重要です。)
・発熱がなく鼻閉を主訴として受診し、風邪症候群と診断された月齢3~6の乳児に
麻黄湯1g/dayを分4で哺乳前投与した結果、
投与2日後までに鼻閉が改善した児は52%、投与4日後までに鼻閉が改善した児は計83%でした。
・咽頭痛を主訴とする急性上気道炎患者に対して桔梗湯を4日間投与した。必要があれば更に4日間投与した例も含む。
著明改善3%、中等度改善50%、軽度改善37%、不変10%、悪化0% であった。
頭痛の改善率は63%、悪寒100%、倦怠感80%、食欲不振80%といずれも高い改善率であった。
リンパ節腫脹の改善率は13%と低かった。
有効例の87%が4日以内に効果が発現した。
(筆者注:咽頭培養で溶連菌(2+)以下の溶連菌感染症例で小柴胡湯加桔梗石膏のみで除菌できたのは41%だけ
という報告があり、やはり細菌性であれば抗生剤の方が除菌率が高い。
程度の強い咽頭炎では咽頭溶連菌抗原検査が勧められます。)
・風邪症候群における麻黄附子細辛湯群とNSAIDs群の効果比較検討
投与0日目を麻黄附子細辛湯投与群100%、NSAIDs投与群100%として、
投与1日後も発熱が持続する患者の割合は、麻黄附子細辛湯投与群55%、NSAIDs投与群で87%に減少、
投与2日後も発熱が持続する患者の割合は、麻黄附子細辛湯投与群40%、NSAIDs投与群で67%に減少、
投与3日後も発熱が持続する患者の割合は、麻黄附子細辛湯投与群21%、NSAIDs投与群で50%に減少、
投与4日後も発熱が持続する患者の割合は、麻黄附子細辛湯投与群 0%、NSAIDs投与群で28%に減少、
最終的な有熱期間も約2日間の有意差が付いた。
NSIADs投与群が全例解熱したのは投与7日後であった。
・咽頭痛に対する麻黄附子細辛湯群とNSAIDs群の効果比較検討
投与0日目を麻黄附子細辛湯投与群100%、NSAIDs投与群で100%として、
投与1日後で麻黄附子細辛湯投与群80%、NSAIDs投与群で89%に減少、
投与2日後で麻黄附子細辛湯投与群61%、NSAIDs投与群で77%に減少、
投与3日後で麻黄附子細辛湯投与群39%、NSAIDs投与群で62%に減少、
投与7日後にようやくNSAIDs投与群の咽頭痛有症状率が40%となった。
つまり4日間の差が出た。
・咳と痰に対する麻黄附子細辛湯群とNSAIDs群の効果比較検討
投与0日で麻黄附子細辛湯投与群100%、NSAIDs投与群で100%として、
投与1日後で麻黄附子細辛湯投与群82%、NSAIDs投与群で95%に減少、
投与2日後で麻黄附子細辛湯投与群68%、NSAIDs投与群で90%に減少、
投与3日後で麻黄附子細辛湯投与群56%、NSAIDs投与群で82%に減少、
投与4日後で麻黄附子細辛湯投与群40%、NSAIDs投与群で72%に減少、
・DB-RCTによって250例の感冒患者を無作為に割り振って小柴胡湯の有効性を検討した。
プラセボに対して、痰の切れ、食欲、関節痛、筋肉痛について有意に優れていた。
(筆者注:小柴胡湯群の副作用頻度はプラセボ群より低く、疾患自体の症状を副作用と訴えたようです。)
・風邪症候群後持続性咳嗽に対する麦門冬湯の有効性の比較検討
風邪症候群罹患後に咳嗽が2週間以上持続した患者のうち、
副鼻腔炎、慢性呼吸器疾患、アトピー歴、ACE阻害薬内服、胸部X線異常所見、呼吸機能異常、好酸球血症、血清IgE高値
を持つ者を除外し、残りの患者に対して麦門冬湯もしくはデキストロメトルファン(メジコン)を投与した。
服用1週間後の咳嗽消失率は、デキストロメトルファン(メジコン)と比較して麦門冬湯は有意に改善率が高かった。
麦門冬湯は基礎疾患やアレルギー素因を持たない者の咳嗽にも有効性が高い。