<アトピー>

保湿剤外用によるスキンケアとステロイド外用が治療の柱です。

2歳以上ではステロイド外用の代わりに顔面~頚部にタクロリムス軟膏(プロトピック)を外用します。

ステロイドと違い、皮膚線条や眼圧上昇を起こさないことと、健康な皮膚からは殆ど吸収されないことが 利点です。

1歳未満の乳児でステロイド外用によるコントロール不良例では必ず食物アレルギーの検索をします。

乳児アレルギーの74%(最も少ない統計でも35%)は食物アレルギーが中心的に関与していると言われており、

こういった乳児では外用治療よりも食物の正しい除去が最も重要な治療です。

食物負荷試験は危険が伴うため、除去食物の解除に当たって、食物負荷試験を国立病院機構相模原病院小児科に依頼しています。

アレルギー性疾患は漢方治療が得意とする分野ですが、アトピー性皮膚炎はその中でも難しい分野で、

漢方専門医があれこれ試しながら試行錯誤しても改善率はせいぜい7割程度と言われています。

アトピー性皮膚炎に有効な処方は黄連や黄ごんといった苦い生薬を含むものが多く、

小児には内服困難な処方が多いことも治療をより難しくしています。

痒くて眠れないことは著明な成長障害を引き起こします。

睡眠が浅いと、通常就眠1時間後に訪れる成長ホルモンのsurge(大量放出)が起きにくくなるからです。

荒れた皮膚からも抗原感作が進むと言われており、ステロイド外用治療を排除すべきではないと考えます。

ステロイド外用による副作用のうち休薬によって戻らない可能性がある副作用は、

皮膚線条と眼瞼に塗ったとき稀に起きる眼圧上昇だけです。

しかし眼瞼へのステロイド外用によって眼圧上昇しやすい体質の人は1%もいません。

一方、思春期以降の重症アトピー性皮膚炎患者の50%程度に、眼底検査で網膜剥離や白内障の徴候が観察されると言われています。

ステロイドを塗って稀に起きる眼圧上昇と、ステロイドを塗らないと時折起きる網膜剥離とどちらが危険でしょうか?

色素沈着や苔癬化はアトピー性皮膚炎自体による症状で、ステロイド外用はむしろこれらを改善させます。

・原因除去と外用剤塗布によって十分な効果の得られなかったアトピー性皮膚炎患者に対して、

柴胡清肝湯エキスを12週間投与した。

掻痒感は投与開始後1週間目には有意に減少した。

特に掻痒のため夜間目が覚める者の割合は、投与前が88%であったが、

1週間後には72%となり、2週間後には全例で掻痒による夜間覚醒は消失した。

寝付きの悪い者の割合は、2週後に52%、4週後に48%、8週後に32%、12週後に19%と減少した。

しかし皮膚症状の改善度は、著効例はなく、改善とやや改善を合わせて68%であった。

(筆者注:掻痒感の改善によって掻爬が減り、掻爬の減少によって皮膚も弱冠改善した可能性があります。)

・消風散を8週間投与したところ

掻痒、紅斑、苔癬化、掻爬痕は4週目までに有意な改善傾向を示したが、その後はあまり変わらなかった。

中等度以上の全般改善度は、2週後46%、4週後69%、8週後も4週後と同等であった。

消風散の効果判定は4週間が適切と思われる。

・小児アトピー性皮膚炎患者187例に補中益気湯を投与。

掻痒は4、12、24週でそれぞれ、38%、56%、71%の改善率であった。

潮紅は4、12、24週でそれぞれ、43%、62%、86%の改善率であった。

丘疹が4、12、24週でそれぞれ、48%、61%、82%の改善率であった。

小水疱、びらんが4、12、24週でそれぞれ、49%、58%、73%の改善率であった。

肥厚・苔癬化が4、12、24週でそれぞれ、32%、58%、70%の改善率であった。

掻爬痕が4、12、24週でそれぞれ、48%、66%、77%の改善率であった。

12週後の全般改善度は、著明改善15%、中等度以上改善46%、軽度改善以上は80%であった。

12週後の有用率は49%であった。外用ステロイドは12週後には有意に減量できた。

24週後では著明改善24%、中等度以上改善62%、軽度改善以上86%、

補中益気湯の効果判定は最低3ヶ月、できれば6ヶ月以上が望ましい。

・黄連解毒湯を8週間投与し、重症度と皮疹の状態は有意に改善した。

掻痒の程度は減少傾向だったが有意差はなかった。

好酸球数とIgEは変化無しだが、LDHと血中ヒスタミン値は減少した。

血中サイトカインはIL-2、sIL-2R、IL-10は有意に減少した。

黄連解毒湯は皮疹を改善させるが、掻痒の改善に乏しい。

・梔子柏皮湯を8~16週間投与し観察した。

最終的に皮疹スコアは約40%、痒みスコアは約55%減少した。

止痒効果は投与後4~6週後より顕著になった。

血中好酸球数、神経成長因子(NGF)、サブスタンスP、sELAM-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10の有意な減少、

IL-4+CD4 T cellの有意な減少を認めた。

皮膚組織に好酸球数、肥満細胞の有意な減少を認めた。

・Zemaphyte(PSE101):防風、芍薬、甘草、荊芥、ハマビシ、仙人草等10種類の構成生薬からなる漢方製剤である。

DB-RCTクロスオーバー比較試験によってイギリス人小児アトピー性皮膚炎患児47名を

Zemaphyte群とプラセボ群に割り振って、間に4週間の休薬期間を作り、クロスオーバーさせて8週間ずつ連日投与を行った。

結果はZemaphyte群はプラセボ群より有意に有効性が高かった。

イギリスから出されたZemaphyteの有効性の報告5編はいずれも有意差があり、

イギリス人成人アトピー性皮膚炎患者40名を対象にしたZemaphyteの臨床研究はLancetに掲載された。

イギリス人小児アトピー性皮膚炎患児を1年間追跡調査したものでは、

30%程度で完全寛解し、25%が連日内服で皮疹がコントロールされた。

イギリス人成人アトピー性皮膚炎患者の1年間の継続治療では71%の患者に90%以上の皮疹改善率が見られた。

しかし中国人成人アトピー性皮膚炎患者40名に対して行われた同様の研究1編では有意差がなかった。

これは国毎による皮疹の評価方法の違い、人種間での効果の差異、薬剤の標準性などが原因と考えられている。

・RCTによってアトピー性皮膚炎患者65例を

小柴胡湯8週間投与+吉草酸べタメタゾン外用群と吉草酸べタメタゾン単独外用群に割り振った。

「やや有効」まで広く有効例を採用すると、前者は95%の有効性、後者は88%の有効性であった。

また前者(併用群)でステロイド外用剤を減量できたのは83%の症例であった。

・別の研究で、小柴胡湯による中等度以上の改善率はアトピー性皮膚炎患者のみを対象として56%、

アトピー性皮膚炎患者を含む湿疹皮膚炎群全体でも同様に56%であった。

・アトピー性皮膚炎患者92名を対象に、34例では白色ワセリン+柴胡清肝湯を開始、

残りの58例ではステロイド外用をすでに行っていたため引き続き同一の外用薬を変更せず、柴胡清肝湯を追加。

結果は、著効と有効を合わせて外用ステロイド群では46%の有効性、白色ワセリン群では53%の有効性であった。

有効以上の成績を示したのは、重症例で37%、軽症例で75%であった。重症例では有効性が低い。

・小児アトピー性皮膚炎患児に対して、柴胡清肝湯を12週間投与した。

掻爬の程度、皮膚症状、臨床検査値を観察し、治療効果を判定した。

投与開始と共に痒みの軽い症例が増え、2週間以降から掻痒が消失した例も現れた。

皮膚症状も投与2週間以降から有意な改善を認め、投与期間が長くなるほど、効果は明確になった。

改善率は、「やや改善」も含めて68%であった。

・アトピー性皮膚炎患者35例、脂漏性湿疹30例、貨幣状湿疹15例、慢性湿疹31例に対して、消風散を4週間投与。

有効率はそれぞれ、69%、82%、79%、67%であった。

・成人のアトピー性皮膚炎患者31例に消風散を8週間投与。

4週間投与後の改善率は66%に達したが、その後改善率の上昇は見られなかった。

消風散の効果判定は4週間が適当と思われる。

・柴朴湯を成人のアトピー性皮膚炎患者26名に8週間投与。69%に有効であった。

効果発現時期は、有効例の75%が2週間以内であり、最も多かった。

・柴朴湯を成人のアトピー性皮膚炎患者51名に8週間投与。有効率は51%(軽度改善以上で83%)であった。

罹病期間の長い症例(11~20年)と短い症例(10年以下)では、有効率と効果発現時期に有意差はなかった。

・18名のアトピー性皮膚炎患者に補中益気湯を12週間以上長期投与した。

かなり有用が55%、やや有用以上では89%であった。

乳児アトピーでは、

・十味敗毒湯(+温清飲)

・治頭瘡一方

・黄耆建中湯

・白虎加人参湯(+桂枝湯)

・黄連解毒湯+消風散

といった処方が使われますが、十分なエビデンスとなる研究はないようです。