<漢方>

<漢方の有効性と適応疾患 ~要約~>

漢方薬の生薬である、麻黄、桂枝、甘草には抗ウイルス作用が証明されています。

これら3生薬を含む”麻黄湯”はインフルエンザ罹患時にタミフルに匹敵する抗ウイルス作用が示されています。

感冒全般(ウイルス性上気道炎)に対して漢方薬は治癒までの期間を1.7日短縮します。

多くの生薬に非特異的免疫賦活化作用があり、長期内服をしていると風邪を引きにくくなります。

夜泣き、起立性調節障害(OD)、片頭痛等にしばしば奏効します。

喘息患児に対して柴朴湯12週間内服の有効率は73~95%と高く、対象を難治例に限っても約半数に有効です。

残念ながら、アトピー性皮膚炎に対する漢方薬の有効性は50~70%程度と低めです。

滲出性中耳炎に対する越婢加朮湯+小青竜湯1週間投与の有効率は75%で、クラリス+ムコダイン1週間投与の有効率は39%です。

抗生剤4週間投与が無効であった慢性副鼻腔炎の難治例に対して辛夷清肺湯4週間投与の有効性は81%でした。

小児慢性便秘症に対する大建中湯の有効率は投与2週間後で79%でした。

ウイルス性胃腸炎(特に嘔気・嘔吐)に対する五苓散注腸の有効率は83~85%です。

ステロイド外用(ケナログ)と比べて黄連湯は口内炎の罹患期間を半分以下に短縮します。

解熱剤は有害無益です。熱性痙攣を全く抑制できませんし、インフルエンザ罹患時の意識障害を増加させます。

また最終的な解熱を遅らせますし、動物実験では死亡率が高くなることが示されています。


<漢方の勧め>

全国的に産婦人科や内科では漢方を積極的に処方している医師は多いようですが、

当院では小児科としては珍しく漢方治療を推奨しています。

多くの小児疾患の治療においても、成人と同様に漢方は有効です。

治療効果の判定は成人の場合よりも迅速に行えることが特徴です。

欠点は味が苦いためコンプライアンス(服薬遵守)が悪いことで、

甘い飲料や菓子類と混合内服しても最も服薬が難しい1~3歳代という年齢層では内服できる子はせいぜい半数程度です。

乳児期と学童期ではこれよりもコンプライアンスは良好ですが、それでも内服できない児は大勢います。

しかし(疾患にもよるのですが、)内服さえできれば投与した児の30~90%程度に有効です。

インフルエンザと水痘以外のウイルス感染症、夜泣き、起立性調節障害(OD)、片頭痛、種々の不定愁訴等、有効かつ安全な治療法がないとされている疾患にはしばしば奏効します。

またインフルエンザに対する麻黄のように、タミフルに匹敵する抗ウイルス作用が示されたものもあり、

麻黄剤の併用によって有熱期間が短縮されます。

喘息やアトピー性皮膚炎のように多くの知見や科学的根拠(エビデンス)に基づいたガイドラインが

確立されている疾患については、当然ガイドラインに沿った治療が中心になります。

当院でも、喘息に対するステロイド吸入、アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用、

花粉症やアレルギー性鼻炎に対するステロイド点鼻を比較的早期に導入します。

アレルギー性疾患に対するステロイド外用療法は非常に有効で副作用が少なく、基本的な治療戦略です。

このガイドラインに沿った治療法に付加的に漢方治療を併用して治療を行うと、

しばしばステロイド外用(吸入、塗布、点鼻)が減量もしくは中止できます。

ここでは主に漢方治療の科学的根拠を紹介していますが、まだまだ研究が不十分です。

RCTやDB-RCTといった科学的信頼性の高い方法で行われた研究も存在するのですが、

多くの研究は60~90例といった100例に満たないものが多く、症例数としての説得力に欠けることは否めません。

症例集積研究で症例数が多いものでも800例程度で、1000例を越えるものは殆どありません。

しかし逆に無効性を示す研究は(少しはあるのですが)殆ど出て来ないことから、

十分な研究がなされていないだけで、今後大規模なDB-RCTに基づいた研究によって

今後、漢方治療の有効性が確立されていくと思われます。

(筆者注:以下に示した全ての研究において「有効率」とは、特に断りのない場合、

「やや改善」を除外して、”中等度以上”の改善のみを意味します。

特に”RCT”や”DB-RCT”といった断りのないもの以外は症例集積研究による統計です。)


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