<BCG>
成人は通常”肺”結核として初感染しますが、乳幼児ではしばしば結核性髄膜炎や全身播種性結核という重症結核で発症します。
特にそれは0~2歳に多く、その時期の重症結核を防ぐためにワクチンが導入されました。
1950~1970年までの20年間にイギリスの26465名の小児を対象とした大規模な無作為比較試験で
0~5歳で84%、5~10歳で69%、10~15歳で59%という有効性が証明されました。
アメリカとインドでBCGが無効という結果の研究がありますが、
1994年までに世界各地から出された1264編の論文をWHOとCDCの専門家がメタアナリシスで調査した結果は
prospective analysisでは、結核予防効果は全体で51%、結核死亡を71%減らし、
case-controled studyでは、結核予防効果は全体で50%、結核性髄膜炎に限ると64%有効で、全身播種性結核を78%減らす
という結果でした。
また乳児だけを対象にしたメタアナリシスでは結核予防効果は全体で74%と更に高く、
乳児結核による死亡、髄膜炎、全身播種性結核では全年齢を対象としたものとほぼ同等の有効率でした。
日本における新規登録患者は約45000人、年間死亡者数は約3000人です。
このうち小児の新規登録患者は約300人と全体の1%に未満ですが、上述のように重症化することが多い。
この小児結核患者の約50%が0~3歳に集中しています。
また乳幼児の重症結核はほぼ例外なくBCG未接種例です。
結核に対しては細胞性免疫に依存しており母体から移行抗体では防止できないため、早期の接種が勧められます。
中国のように新生児期から接種できる国もありますが、日本では現在、生後3ヶ月~5ヶ月の児に行われており、
この時期を逃した児には厚生労働省は無責任にも策を講じていません。
<BCGの副反応および注意事項>
1.エイズ患者ではワクチン用の弱毒株でも実際に全身性の結核を発症することがあります。
2.乳児ではBCGリンパ節炎や皮膚結核になることがあり、
リンパ節腫脹だけなら経過観察で良いのですが、穿孔排膿したらINH等による抗結核薬治療を開始します。
(厚生省のガイドラインによる。WHOでは無治療で良いとされています。)
腋窩や鎖骨上窩のBCGリンパ節炎は疼痛や熱感は通常ありません。ある場合は他の疾患を疑います。
BCGリンパ節炎が出現する確率は0.8%です。好発時期は4~6週後、大きくても2cm程度で
殆ど全てが2ヶ月程度で縮小~消失します。穿孔・排膿することが0.02%程度あります。
3.ヨーロッパの国々で行われている皮下接種では膿瘍を作ったり、副反応が強く出ることがありますが、
日本の皮内接種法では膿瘍を作ることが少なく、優れた接種方法です。
4.BCG接種を行った児がアメリカに渡ると、ツベルクリン反応陽性者(=結核感染者)として扱われ、
抗結核薬による治療が行われてしまいます。
抗結核薬は副作用が出ることもあり、投薬が半年以上の長期間に渡るため児に不利益が生じます。
無駄な治療を受けないように渡米する前にBCG接種を受けたという英文証明書を書いてもらうことを勧めます。
<成人型結核の症状>
小学生以降は成人型となります。
微熱が続き、食欲が衰えて倦怠感が続きます。次第に痩せが始まり、深い咳嗽が目立つようになります。
喀痰の検鏡や培養の検出率は成人同様60~70%と高い。
胸部X線でも空洞と浸潤像が検出されることが多い。
<乳幼児型結核の症状>
高熱が1~2週間続き、通常の感染症として対処されている間に突然痙攣や意識障害を来して結核性髄膜炎と判明したり、
突然呼吸困難を生じ粟粒結核であったという例がしばしばあります。
また父母や祖父母の排菌が見つかり、家族健診で見つかることも多い。
喀痰、胃液の検鏡で結核菌の検出率は10%以下で排菌は認められないことが多い。
胸部X線検査でも空洞型は認めません。
総じて乳幼児の結核は発見しにくく重症化する傾向が強い。
近年11剤耐性結核菌が見つかっており、治療が困難になってきています。
はやり乳児期にBCGで予防しておくことが大切です。
<世界各国の結核予防対策>
乳幼児結核の予防や重症化の予防の効果が広く認められている(80%程度の有効性)が、
成人結核に対する効果は調査地域などによるばらつきが大きいため(0-80%、総合すると50%程度)、
BCGワクチン接種を実施するかどうかについては、国ごとに判断が分かれています。
* 特定年齢で一律接種:フランス、インド、ロシア、日本、韓国など
* ハイリスク群にのみ予防接種:ドイツ、オランダ、スウェーデンなど
* 予防接種実施せず:アメリカなど
インドのチングルプットでの15年間の追跡調査報告(1980年)で成人結核には全く予防効果が見られませんでした。
このほか比較的小規模な調査結果まで合わせると、
カナダ、イギリス、ハイチなどでは有効性を支持する結果が、
インドとアメリカでは有効性が低い結果がそれぞれ得られています。
日本では初期に行われた小規模な調査結果からその有用性が支持されています。
アメリカでは結核を予防せず、ツベルクリン反応によって定期的に感染をスクリーニングして
感染者がいれば治療するという方針です。
BCG接種を行っていたオランダ、スウェーデン、旧東ドイツ、 チェコスロバキア等では、
アメリカに倣って一旦接種を中止しましたが、中止後小児結核が増加したためBCG接種を再開しました。
国によって有効性に差が出ている理由は、BCG株の違いが挙げられています。
BCG株が各国で培養を繰り返されているうちに変異して、有効性を失った株が使用されていた可能性が指摘されています。
また上述のチングルプートは結核の頻度が極めて高い地域であったため、
ほとんどの乳幼児がワクチン接種前に結核菌と接触してしまっていたことが、
BCGワクチンの効果が見られなかった理由の一つとして考えられています。