<ジフテリア>
ジフテリア(diphteria)はジフテリア菌(Corynebacterium diphteriae)の感染によって生じる上気道粘膜疾患ですが、
眼臉結膜・中耳・陰部・皮膚などが侵されることもあります。
感染、増殖した菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡する危険が高くなり、
致命率はワクチン未接種者で抗生剤投与や抗毒素療法が行われないと30~50%、
迅速に抗生剤投与や抗毒素療法が行われれば5%以下です。平均5~10%とされています。
日本におけるジフテリア患者の届出数は、1945 年には約8万6000人(その約10%が死亡)でしたが、
最近10年間(1991~2000 年)では21人(死亡2人)と著しく減少しました。
ジフテリアを含む三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風:DPT )は世界各国で実施されており、
その普及とともに各国においてジフテリアの発生数は激減しています。
旧ソ連では、かつてはDPTの普及によってジフテリア患者数は極めて少数となっていましたが、
政権崩壊のあおりを受けてワクチンの供給不足と安定性の低下によって国民の免疫レベルは低下し、
その結果旧ソ連圏一帯でジフテリアが再び流行しました。更には北欧にも感染が波及しました。
1990~1995年で12万5000人の患者が発生し、少なくとも4000人以上が死亡しました。(死亡率は3%以上)
国際協力によるワクチンの接種強化により、旧ソ連でのジフテリアは再び沈静化しました。
このようにワクチン接種率が低下すると、ジフテリアは再び流行する危険性があります。
<臨床症状>
2~5日間程度の潜伏期を経て、発熱・咽頭痛・嚥下痛などで始まります。
鼻ジフテリアでは血液を帯びた鼻汁、鼻孔・上唇のびらんが見られます。
扁桃・咽頭ジフテリアでは発症して1~2日の間に扁桃・咽頭周辺に白~灰白色の偽膜が形成されます。
時に喉頭~気管にまで進展することがあります。
ジフテリアの偽膜は厚くその境界は鋭利で剥れにくく、剥がすと出血しやすい。
(この特徴が他の偽膜との鑑別になります。)
頸部リンパ節炎が特徴的で、高度に腫張すると牛頚(bull neck)状となります。
軽症では7~10日で軽快しますが、重症の場合は口蓋麻痺、心筋炎、神経炎等の合併症を伴い、
7~10日で昏睡状態となって死亡することもあります。
喉頭ジフテリア(真性クループ)は咽頭ジフテリアから発展する場合が多く、嗄声・犬吠性咳嗽が特徴的です。
気道にも偽膜が形成されるため、呼吸困難が生じます。
偽膜形成が声門、気管支まで進展すると、気道閉塞を来し死に至ることがあります。
合併症としては早期(1~2 病週)および回復期(4~6 病週)にあらわれる心筋炎が最も予後不良で、
主症状が改善した後も突然死に対する慎重な観察が必要です。
末梢神経炎による両側運動神経の麻痺は合併症の頻度として高いが、予後は比較的良好です。
軟口蓋麻痺は発症3週目頃に多く、嗄声、嚥下困難が見られます。
眼筋麻痺が発症5週目頃に出現することがあり、霞目、内斜視などが見られます。
<病原体>
・ジフテリア菌(Corynebacterium diphteriae)に感染した患者や無症候性保菌者の咳などにより飛沫感染します。
毒素産生菌、非産生菌とも重症化の可能性があります。
・ウシの常在菌であるCorynebacterium ulcerans はジフテリア様の臨床像をきたす人獣共通感染症の起因菌です。
一般にウシやヒツジとの接触、または生の乳製品などを摂取することにより感染することが知られています。
<病原診断>
・ジフテリアの確定診断には患者の病変部位からジフテリア菌を分離培養することが重要です。
<ジフテリアの予防と治療>
・治療開始の遅れは予後に著しい影響を与えるので、臨床的に本症が疑わしければ確定診断を待たずに治療を始めます。
治療には動物(ウマ)由来の血清療法が行われるので、アナフィラキシーに対して十分な配慮をする必要があります。
・抗生剤としてはペニシリン、エリスロマイシンなどに感受性がありますが、予防に勝る治療法はない。
予防接種の普及により、日本では現在年間0~3名程度の発症が報告されているに過ぎませんが、
今後海外からの持ち込みにより流行の可能性が懸念されます。
・培養細胞法で抗毒素価(中和抗体)が0.1 IU/ml 以下の場合にはジフテリアトキソイドによる予防接種が必要です。
抗体は約10年しか持たないため、DTワクチン2期接種後も10年に1回のDTワクチン接種が理想的です。