<水痘>

<水痘ワクチンの利点>

・水痘に罹患すると1万例に10人以下ですが、第3~8病日に急性小脳失調症や髄膜炎/脳炎などの神経合併症が現れます。

80%は治癒しますが、20%は後遺症が残るか死亡します。広範な脳炎は更に稀で1万例に2.7人程度です。

水痘脳炎は日本で年間40人以上は発生していると推定されます。

稀ですがReye症候群(症状はインフルエンザ脳症に似ています。)を合併することもあります。

ワクチンではこういった重篤な神経症状の副反応を合併することは殆どなく、熱性痙攣が0.1%以下に起きる程度です。

・自然感染すると小児は比較的軽症で済む場合が多いのですが、成人では15%に肺炎を合併し死亡率が小児の10~30倍高くなります。

水痘に自然感染した水痘ワクチン未接種者400人に1人以上が入院を要し、水痘ワクチン未接種者4万人に1人が死亡します。

日本での入院事例は、肺炎、気管支炎、熱性痙攣、脳炎、脳症、髄膜炎、脱水症といった合併症によることが多い。

主な死亡原因は、細菌性二次感染症と肺炎です。近年はA群溶連菌による劇症型感染やSSSSがしばしば見られます。

他の死因は、脳炎、出血、肝炎、関節炎、心筋炎、Reye症候群等があります。

・水痘ワクチンを接種した健常児の3%未満(免疫不全児では10%以上)が7~20日後に発熱しますが、その多くが38℃程度の微熱です。

水痘に自然感染すると70%が発熱し、一部の患者は40℃以上になります。

・水痘ワクチンを接種した人の2~6%が0~2日後に局所の発赤を生じます。

アナフィラキシーは殆どなく0.1%以下であることは間違いありません。

・水痘ワクチン接種7~20日後に発疹や水疱が約2%の健常児に、免疫不全児では約20%に現れます。

発疹の数は通常50個以下で軽症です。0~2日後に出ることもあります。

自然感染では当然100%の患者に水疱が出現し、ワクチン未接種であれば通常水疱は全身に250~1000個程度出現します。

掻痒感が強く、掻きむしって膿痂疹やSSSS、時には蜂窩織炎となって瘢痕を残すことがあります。

美容の点からもワクチンの方が有利です。

・水痘ワクチンの予防効果は86%ですが罹患した場合も軽症で済むことが殆どで、合わせて有効率はほぼ100%です。

ただしワクチン接種後5~7年経過した遠隔罹患が10~30%に見られますが、これも軽症で水疱は通常50個以下です。

・急性白血病児の場合、自然感染後の帯状疱疹累積発生率は約16%で、これに比べてワクチン接種児では約4%です。

免疫が付きにくい児でも帯状疱疹のリスクを1/4に減らせます。

免疫が正常な健常児ではワクチン株が神経根にまで到達しにくく、リスクは更に減らせるはずです。


<水痘ワクチンの対象者>

・接種対象者は生後12カ月以上の水痘既往歴のない人で、1年を通じて接種できます。

1歳になったらMRワクチンの次に早く受けるべきワクチンです。

乳児前半は以下のような理由で、接種対象ではありません。月齢8~9頃からは接種対象となり得ます。

『最近経験した小児帯状疱疹例の検討(原著論文/特集)

Author:西野 泰生(西野小児科アレルギー科医院)

Source:小児科臨床(0021-518X)55巻10号 Page1907-1913(2002.10)

1997~2001年に経験した帯状疱疹(HZ)12例について水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)-IgG抗体を中心に検討した.乳児期に水痘罹患した4例中3例は平均約2年でHZを発症し,1歳以降の水痘罹患例に比べより早期にHZを発症した.よって,乳児期の水痘罹患はHZの早期発症要因として大いに考えられた.発症部位は右側胸髄域が多く,次いで頸髄域であった.発熱,疼痛,皮疹等の症状は一般に軽度で,皮疹も一部で視診のみでは確診困難な症例もみられた.確定診断としてVZV-IgG法を用いたが,経時的検索は極めて有用であった.しかし,HZ時のIgG値は5病日以降は急上昇するので,初期検査は4病日以内に行う必要があり,5病日以降の検査成績の判定には留意が必要と思われた』

<水痘ワクチンの接種法>

・理想的には2回接種すると80%の人にブースター効果があり遠隔罹患も減らせるので、2回接種することが望ましい。

2回目の接種で副反応は増えない。しかし1回だけでも流行を制圧するのに十分である。

<水痘の症状>

水痘の潜伏期は8~21日程度で、多くは14~16日です。

水痘ワクチンは生ワクチンですので、副反応の観察期間も2~3週間と考える必要があります。

自然感染による発熱は全くない場合から、40℃の高熱まで様々ですが、約7割に発熱を認めます。

発熱は水疱出現とほぼ同時に起きます。

水疱は紅斑の出現から2~3日のうちに急速に増加し、掻痒感の強い水疱が全身に250~1000個程度となります。

ウイルスの排出は水疱出現1~2日前から、約5日間。水疱が出来始めてからアシクロビル(ACV)の内服を始め、

ACVを5日間飲みきった頃には水疱は全て痂皮化し、ウイルスも排出されなくなっているという経過です。

しかし家族内二次・三次感染例では幼稚園・保育園での感染に比べて侵入ウイルス量が多いため、

水疱は500~1000個、高熱が出て、治癒するまでに7~10日とやや長期化することが多いようです。

<感染形式・感染力>

寒い時期に流行する傾向があり、飛沫感染だけでなく空気感染や接触感染もします。

感染力はとても強く、麻疹に準ずるほどです。

このため水痘では咳があまり出ないにも関わらず学校や園内で大きな流行となります。

温度や湿度が高いと感染しにくいですが、夏にも感染者が出ます。

一方、帯状疱疹は季節性がありません。

<妊婦の水痘>

水痘はTORCH症候群と言って、妊婦が妊娠初期に感染すると胎児に奇形を来す可能性が高まります。

また出産5日前~出産2日後に妊婦が水痘を発症した場合、新生児は生後5~10日頃水痘を発症し約30%が死亡します。

ですから水痘感染が不明な若い女性は妊娠前に必ず打つべきです。

水痘の免疫を保有しない母親から生まれた新生児は移行抗体がありませんので水痘に罹患するおそれがあります。

またたとえ母親が水痘の免疫を保有していても移行抗体の効力は生後1カ月くらいまでで、

生後2カ月以降は水痘に罹患してしまうことがあり、それも重症になり易いと言われています。

更に妊娠している女性が出産直前に水痘に罹患すると、生まれた新生児は重症の新生児水痘になる危険があります。

このため女性は妊娠する前にワクチンを受けておくことが必要です。

この場合、接種前1カ月間は妊娠していないことを確かめ、接種後約2カ月間は妊娠しないように注意する事が大切です。

<家族内発症時の対応>

水痘のウイルスは感染力が強く、家族の一人が罹患しますと水痘に対する抗体を保有していない家族は次々と感染してしまいます。

家族に水痘患者が出た時点で接触感染を起こしているものと考えてよいでしょう。

水痘患者と接触後72時間以内にワクチンの接種を行いますと水痘の発症が約80%阻止されるので、

場合によっては緊急接種も必要かと思います。

(家族内感染に限れば、接触時期が比較的はっきりしており、ほぼ100%予防可能という報告もあります。)

水痘ワクチンは、たとえ自然感染の水痘の潜伏期中に接種したとしても、ワクチンの副反応が強まることはありません。

水痘症例は発疹出現の1~2日前から他者への感染性を持つようになり、約5日間感染性を保ちます。

家族の罹患に気がついたときは接触後2日日ぐらいと判断して下さい。

水疱がかなり広がってから気付いた時は72時間以上経過している可能性が高く、この場合はACVによる治療が主体になります。

<帯状疱疹>

水痘患者は唾液からも多量のウイルスを排出し、非常に強い感染力がありますが、

帯状疱疹患者の唾液中には殆どウイルスを認めず、主に水疱部分にのみウイルスが検出されます。

帯状疱疹の患者に接触した場合に水痘を発病することがありますが、帯状疱疹の患者から感染する率は低いと考えられています。