<インフルエンザ>
<インフルエンザウイルスとインフルエンザ脳症>
スペインかぜと呼ばれた1918年のインフルエンザH1N1の世界的流行では、世界全体で2000〜5000万人が死亡しました。
また1918年は第一次世界大戦中でしたが、アメリカ兵戦死者の80%はスペインかぜによるものだったそうです。
1918年に日本でも人口の1/3が罹患し、10万人以上が死亡しました。
現代でもインフルエンザは毎年日本人の5~10%程度が罹患し、
日本全体で毎年100~300名のインフルエンザ脳症が発生します。
インフルエンザ脳症患者の8~9割が5歳以下の幼児です。
インフルエンザ脳症の発症は4歳までに多く、ピークは1歳にあります。
5歳以降は年齢と共にインフルエンザ脳症の発症は減少しますが、毎年小学生や中学生の死亡例が報告されます。
稀ですが20歳代のインフルエンザ脳症の報告もあります。
0歳児の脳症は少なく、特に月齢6未満児では症状がマイルドでインフルエンザ脳症の報告は殆どありません。
しかしインフルエンザに化膿性髄膜炎、尿路感染症、中耳炎、肺炎が合併した例の報告も少数ながらあり注意が必要です。
また熱性痙攣を誘発するウイルスとして最も頻度が高いのがインフルエンザです。(これに突発性発疹症とプール熱が続きます。)
<インフルエンザ脳症の治療と予後>
脳症は第1病日~第2病日に起きます。
日本における脳症の死亡率は30%、後遺症と合わせて50%程度でしたが、
近年は死亡率は15%程度まで低下しています。
インフルエンザ脳症の予後改善のために少なくとも発症初日のステロイドパルスは有効です。
その他の治療法についてはまだ検討中ですが有効の可能性はあります。
<インフルエンザの症状と感染経路>
飛沫感染および飛沫核感染します。
気道粘膜に吸着後、約20分で粘膜細胞の中に入り込み増殖を開始します。
約8時間後には完成された無数のウイルス粒子が初感染細胞から飛び出して、他の細胞に移っていきます。
1~2日間の潜伏期後に悪寒、頭痛、咽頭痛、倦怠感等を伴って発熱します。
発熱は通常3~5日続き、時には解熱するのに1週間程度かかります。
腹痛や下痢といった胃腸症状を伴うこともあります。
解熱後も1週間程度は倦怠感が続くことが多い。
<インフルエンザ・ワクチン>
ワクチンの効果は大体半年が目安で、1年も経つと抗原変異したウイルスには対応できなくなります。
そのためワクチンは毎年接種する必要があります。
血清型(HxNx)が違えば1シーズンに2回A型に罹患することがあり、またAとBの同時感染が起こることがあります。
乳幼児では4~5週間隔で2回接種する必要があります。
(少なくとも3週間以上の間隔が望ましい。1~2週間隔よりは6週間隔の方が良い。)
2回目の接種から2週間以降に中和抗体が上昇してきて、4週後当たりがピークとなります。
しかし数ヶ月後にはかなり低下し、1年後には1/10程度まで低下します。
1回目を11月中に、2回目を4週間空けて12月に打つことが理想的ですが、
あまり早い時期に接種すると3~4月頃には抗体価が下がってきて感染することがあります。
月齢3の乳児でも4倍以上の抗体価上昇が報告されていますが、乳児期は抗体が十分上昇する児は30%程度しかいません。
ワクチン接種児でもインフルエンザ脳症の報告がありますが、インフルエンザ脳症患者の中では少数です。
まだ十分な信頼性を持った統計データではありませんが、脳症のリスクを減らす可能性があり月齢6以降の接種が勧められます。
7歳未満の幼児期ではインフルエンザAに対するワクチンの有効率が50~60%、7歳以上で70~80%。
7歳未満の幼児期ではインフルエンザBに対するワクチンの有効率が20~30%、7歳以上で60%程度である。
成人では1回の接種で2週間後にはピークに達し、数ヶ月は抗体価が維持できますが1年後には相当低下しています。
<インフルエンザ・ワクチンの接種回数>
アメリカではインフルエンザワクチンは月齢6から9歳未満は2回接種、9歳以上で1回接種となっています。
日本では決まったルールはありませんが、小学生までは2回、中学生以降で1回とする施設が多いようです。
これは前年のワクチン血清型、インフルエンザ罹患歴等によって変更可能です。
成人では1回接種と2回接種で有意差はありません。
小児では有意差がありますが、2回接種すること以上に毎年接種するということが抗体上昇に影響します。
<インフルエンザ・ワクチンの副反応>
インフルエンザ自体の潜伏期が1~2日しかないように、ワクチンの副反応が出る時も通常接種48時間以内に現れます。
10~20%の接種者に接種した局所の発赤、腫脹、疼痛等を起こしますが、2~3日で消失します。
5~10%の接種者に発熱、頭痛、悪寒、倦怠感、関節痛がみられますが、やはり2~3日で消失します。
ワクチンに対するアレルギー反応として蕁麻疹や掻痒等が数日間見られることも稀(0.1%以下)にあります。
一般的に乳児では副反応は少なく、インフルエンザ自体が軽症化するのと同様です。
接種後に、ギランバレー症候群、痙攣、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、肝機能障害、喘息発作、紫斑が現れた報告がありますが、
ワクチンとの因果関係は証明されていません。
ただしアメリカでは上記のうちギランバレー症候群の既往歴がある患者のみ接種禁止とされています。
日本人小児(健常児)に対するインフルエンザワクチン接種により引き起こされた可能性が完全には否定できないとして、
救済対象と認定された死亡事故は約2500万接種あたり1件でした。
<インフルエンザの治療法>
日本では人種的にインフルエンザ脳症が多く、またオセルタミビル(タミフル)が世界で最も使用されている国であることから、
インフルエンザに関する調査が進んでいる国の一つです。
http://www.medicalhi-net.co.jp/article/2006/info_1026.html#sankou
に今のところ、数千例というサンプル数ですが、
オセルタミビル(タミフル)やアセトアミノフェン、抗生剤併用の功罪の評価が為されています。
<要約>
・タミフルは異常行動を増やすことも減らすこともない。
・(別の研究ですが)770例の0歳児へのタミフル投与の結果、全例で意識障害はなく、
問題となる副作用は4例で低体温(35℃台)が起きたことであった。
・タミフルは肺炎、中耳炎、クループといった合併症を有意に減らす。
・抗生剤は肺炎、中耳炎、クループといった合併症を有意に増やす。
・アセトアミノフェンは肺炎、中耳炎、クループといった合併症を減らすことも増やすこともない。
・アセトアミノフェンは意識障害を有意に増加させ、異常言動、痙攣も増加傾向(有意水準10%)を認めます。
(筆者注:アセトアミノフェンは脳症を増加させますが、脳症の予後を悪化させることはありません。
成人用解熱剤は脳症の予後を悪化させます。)