グルテンフリー食は「心血管にメリットなし」

グルテンへの免疫反応が原因で発症するセリアック病患者を除けば、誰にでもグルテンフリー食が勧められるわけではない可能性が米・Columbia UniversityのBenjamin Lebwohl氏らによる研究で示された。米国の医療従事者10万人超を約26年間追跡した前向きコホート研究のデータを解析した結果、グルテン摂取量と冠動脈疾患(致死性および非致死性の心筋梗塞)リスクとの間に有意な関連は認められなかったという。同氏らは「グルテンの摂取量を制限すると、心血管に保護的に働くとされている全粒穀物の摂取量が減る可能性があるため、グルテンフリー食はむしろ心疾患リスクを高める可能性がある」との見方を示している。研究結果の詳細はBMJ(2017; 357: j1892)に発表されている。

米国の成人の3人に1人が「グルテン制限に挑戦中」との調査結果も

 グルテンは小麦やライ麦などに含まれる蛋白質で、セリアック病患者が摂取すると小腸に損傷をもたらし、栄養を十分に吸収できなくなる。そのため、同患者にはグルテンの摂取を回避するグルテンフリー食による治療が行われる。

 一方、グルテンフリー食や、グルテンの摂取量を減らす低グルテン食は、セリアック病がない人の間でも健康食あるいはダイエット食として流行している。米国民保健栄養調査(NHANES)では、グルテンフリー食を実践している人のほとんどがセリアック病患者ではない健康な人であること、さらには2013~14年の調査時にセリアック病がない人のうちグルテンフリー食を実践していた人の割合は1.69%を占め、2009~10年調査時(0.52%)のほぼ3倍であることが明らかになっている。さらに2013年に米国で実施されたある調査では、成人の約3人に1人が「グルテンの摂取量を減らす努力をしている」と回答するなど、グルテンフリー食や低グルテン食は一般的な米国人の間にも広く浸透しているという。

 ただ、Lebwohl氏らによると、セリアック病ではない人がグルテンの摂取量を制限した場合の冠動脈疾患といった慢性疾患リスクへの長期的な影響を検討した前向き研究は、これまでに実施されたことがなかった。そこで、同氏らは今回、米国の大規模前向きコホート研究であるNurses' Health Study(NHS)に登録された女性の看護師6万4,714人と、Health Professionals Follow-up Study(HPFS)に登録された男性の医療従事者4万5,303人を対象に、グルテンの摂取量と冠動脈疾患(致死性および非致死性心筋梗塞)の発症リスクとの関連について検討した。

グルテン含む主要な食品はパスタやシリアル、パンなど

 Lebwohl氏らは、まずNHSとHPFSの両コホートで1986~2010年に4年ごとに実施された食事調査のデータ(136項目の食品摂取頻度に関する調査)を用いてグルテンの摂取量を算出した。グルテンを含む小麦やライ麦などを使用した加工品については製造企業の情報を、家庭料理の場合は料理本を参照した。なお、ベースライン(1986年)の調査データでは、摂取されている食品で最もグルテンが多く含まれる食品はパスタ、シリアル、パン(ダークおよびホワイト)、ピザだった。

 1日当たりのグルテンの平均摂取量を最も少ない群から最も多い群まで5群に分類したところ、ベースライン調査時には最高5分位群で女性7.5g、男性10.0g、最低5分位群でそれぞれ2.6g、3.3gだった。その14年後に当たる2010年の調査時には最高5分位群でそれぞれ7.9g、9.2g、最低5分位群で3.1g、3.7gだった。

サブグループ解析でも関連認められず

 その結果、227万3,931人・年の追跡期間中に6,529例が冠動脈疾患を発症し、10万人・年当たりの冠動脈疾患の発症率はグルテン摂取量が最低5分位群の352件に対し、最高5分位群では277件と、75件少なかった。

 また、年齢や人種、BMI、身長、糖尿病などの交絡因子で調整して解析した結果、グルテン摂取量の最低5分位群と比べた最高5分位群における冠動脈疾患リスクの有意な上昇は認められなかった〔ハザード比(HR)0.95、95%CI 0.99~1.02、傾向P=0.29〕。さらに、これらの因子と全粒穀物の摂取量で調整後の最低5分位群と比べた最高5分位群における冠動脈疾患のHRは1.00(95%CI 0.92~1.09、傾向P=0.77)だった。一方、これらの因子と精製穀物の摂取量で調整後の冠動脈疾患のHRは0.85( 0.77~0.93、傾向P=0.002)で、グルテン摂取量の増加は冠動脈疾患リスクの低下と関連していた。

 この他、男女別のサブグループ解析でもグルテン摂取量冠動脈疾患リスクとの間に有意な関連は認められず、冠動脈疾患のうち致死性心筋梗塞と非致死性心筋梗塞を個別に検討した場合も、グルテン摂取量との間に関連は認められなかった。

「セリアック病患者以外の人に勧めるべきでない」

 Lebwohl氏らは、今回の研究でグルテン摂取量と全粒穀物および精製穀物の摂取量との間に正の関連が認められたことに触れ、「全粒穀物は心血管に保護的に働くことが分かっているが、グルテンの摂取量を制限すると全粒穀物の摂取も減ってしまい、心血管アウトカムに悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘。その上で、「セリアック病患者ではない人に対し、冠動脈疾患予防のためにグルテンフリー食を取り入れることは勧めるべきではない」との見解を示している。

 なお、Columbia Universityのプレスリリースによると、同氏らは現在、グルテンフリー食ががんや自己免疫疾患のリスクにどのように影響するかを明らかにするための研究を計画中だという。

年齢、人種、BMI、身長、糖尿病、アスピリンまたは非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用、スタチンの使用、マルチビタミンの使用、アルコール摂取、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、高血圧、脂質異常症、身体活動、ホルモン療法、閉経など


Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study.

Lebwohl B1,2, Cao Y3,4,5, Zong G5, Hu FB5,6, Green PHR1, Neugut AI1,2, Rimm EB5,6,7, Sampson L5, Dougherty LW5, Giovannucci E5,6,7, Willett WC5,6,7, Sun Q5,6, Chan AT8,4,6.

BMJ. 2017 May 2;357:j1892. doi: 10.1136/bmj.j1892.

Abstract

Objective

To examine the association of long term intake of gluten with the development of incident coronary heart disease.

Design
Prospective cohort study.

Setting and participants

64 714 women in the Nurses' Health Study and 45 303 men in the Health Professionals Follow-up Study without a history of coronary heart disease who completed a 131 item semiquantitative food frequency questionnaire in 1986 that was updated every four years through 2010.

Exposure

Consumption of gluten, estimated from food frequency questionnaires.

Main outcome measure

Development of coronary heart disease (fatal or non-fatal myocardial infarction).

Results

During 26 years of follow-up encompassing 2 273 931 person years, 2431 women and 4098 men developed coronary heart disease. Compared with participants in the lowest fifth of gluten intake, who had a coronary heart disease incidence rate of 352 per 100 000 person years, those in the highest fifth had a rate of 277 events per 100 000 person years, leading to an unadjusted rate difference of 75 (95% confidence interval 51 to 98) fewer cases of coronary heart disease per 100 000 person years. After adjustment for known risk factors, participants in the highest fifth of estimated gluten intake had a multivariable hazard ratio for coronary heart disease of 0.95 (95% confidence interval 0.88 to 1.02; P for trend=0.29). After additional adjustment for intake of whole grains (leaving the remaining variance of gluten corresponding to refined grains), the multivariate hazard ratio was 1.00 (0.92 to 1.09; P for trend=0.77). In contrast, after additional adjustment for intake of refined grains (leaving the variance of gluten intake correlating with whole grain intake), estimated gluten consumption was associated with a lower risk of coronary heart disease (multivariate hazard ratio 0.85, 0.77 to 0.93; P for trend=0.002).

Conclusion

Long term dietary intake of gluten was not associated with risk of coronary heart disease. However, the avoidance of gluten may result in reduced consumption of beneficial whole grains, which may affect cardiovascular risk. The promotion of gluten-free diets among people without celiac disease should not be encouraged.