牛乳の多量摂取で骨折・死亡リスク上昇
実験系でD-ガラクトースの老化促進作用が示されていることを受け,
スウェーデン・Uppsala大学外科のKarl Michaelsson氏らは,同国の大規模コホートを対象に
日々の牛乳摂取が全死亡および骨折に及ぼす影響を検討した。
「牛乳を多く摂取している群では,骨折および死亡リスクが有意に上昇し,
特に女性でこうした傾向は顕著である」とBMJ(2014;349:g6015)で報告した。
D-ガラクトースの影響はヒトでも見られるか
牛乳には,カルシウム,リン,ビタミンDなどの骨格系維持に重要な栄養素が多く含まれており,
1日3-4杯の牛乳摂取により骨粗揺症関連の医療コストを20%以上削減できるとの指摘もある。
その一方で,乳糖の代謝産物であるD-ガラクトースは,酸化ストレス,慢性炎症,神経変性.
免疫応答低下,遺伝子転写機構への影響を介して老化に関わっているとの動物実験結果も報告されており,
マウスではD-ガラクトース100mg/kgの皮下注射により、老化が促進されるとの報告がある。
これはヒトでは6-10g、すなわちコップ1-2杯(コップ1杯=200mlの牛乳に相当する量であるという。
酸化ストレスの増大や軽度の慢性炎症が,心血管系疾患,がん,骨量低下,サルコペニアの発症機序の1つとされていることを考えると,
“牛乳をたくさん飲んで骨折予防につなげる"ことが本当に可能なのかどうかを
あらためて検証する必要があるとし、Michaelsson氏らは,牛乳の多量摂取が骨折・死亡リスクに与える影響を検証するため,コホート研究を実施した。
対象は同国の2つの大規模コホートで、Swedish Mammography Cohort(以下,女性コホート)では
39-74歳の女性約9万人を対象として1987-90年と97年の2回Cohort of Swedish Men(以下,男性コホート)では
45-79歳の男性約10万人を対象として97年に,食物摂取頻度調査票を送付。
有効回答が得られた女性コホート6万1,433人(2回目は3万8,984人), 男性コホート4万5,339人について,
多変量の生存時間解析モデル(Cox比例ハザードモデル)により牛乳摂取量と骨折・死亡までの期間との関連を検討した。
女性コホートで全死亡・骨折リスクがともに上昇
ベースラインにおける1日当たりの平均牛乳摂取量は女性コホートで240g, 男性コホートで290g。
女性コホートの平均追跡期聞は20,1年で,その間に1万5,541人が死亡しており,
死因は心血管系疾患が 5,278件,がんが 3,283件であった。
骨折は1万7,252人が経験しており,うち4,259人は大腿骨近位部骨折であった。
男性コホートの平均追跡期間は11.2年で,その間の死亡は1万112件
(心血管系疾患によるものが4,568件、がんによるものが2,881件)であった。
骨折を経験したのは5,379人で,うち大腿骨近位部骨折は1,166人であった。
牛乳を1日当たりコップ3杯以上摂取する群(多量摂取群)を1日1杯未満の群(少量摂取群)と比較したところ,
女性コホートの多量摂取群における全死亡の調整後ハザード比(aHR)は1.93(95%CI 1.80-2.06),
骨折のaHRは1.16(同1.08-1.25), 大腿骨近位部骨折のaHRは1.60(同1.39-1.84)であった。
全死亡との関連は男性コホートでも認められたが,女性コホートほど顕著ではなく,
少量摂取群と比べた多量摂取群の全死亡のaHRは1.10(同1.03-1.17)であった。
男性コホートでは牛乳摂取量の多寡による全骨折・大腿骨近位部骨折発症の有意な変化は見られなかった。
1日1杯の牛乳摂取を1単位として,1単位ごとの影響についても解析したところ,
全死亡のaHRは女性コホートで1.15(95%CI 1.13-1.17),男性コホートで1.03(同1.01-1.04)との結果が得られた。
骨折への影響を検討したところ,牛乳摂取による骨折リスクの減少は確認されず,
女性コホートにおける牛乳摂取1単位当たりの全骨折のaHR は1.02( 同1. 00-1.04),
大腿骨近位部骨折のaHRは1.09(同1.05-1.13) ,男性コホートにおける全骨折のaHR は1.01(同0.99-1.03),
大腿骨近位部骨折のaHRは1.03(同0.99-1.07) であった。
発酵乳製品では逆の結果
これに対して,牛乳以外の乳製品(ヨーグルトなどの発酵乳製品,チーズ)では,
牛乳とは逆の傾向が認められることが感度解析から明らかになった。
チーズや発酵乳製品の摂取量が多い女性では,同摂取量が少ない女性と比べて全死亡リスク,骨折リスクともに低く,
1日1サーピング摂取するごとに全死亡および大腿骨近位部骨折のリスクは10-15%(P<0.001)減少するとの解析結果が得られた。
ただし男性におけるリスク低減は,ほとんど見られないか,あってもわずかなレベルにとどまっていた。
さらに,サブグループ解析で牛乳摂取量と酸化ストレスのバイオマーカーである尿中8-iso-PGF2αや
主要炎症マーカーである血中IL-6には正の相闘が認められたが, 発酵乳製品とIL-6は逆相関の関係にあった。
Michaelsson氏らは,こうした知見が得られた理由について考察し
「乳糖の構成成分であるD-ガラクトースが鍵を握っている可能性がある」と推察。
シリアルや野菜,果物にもガラクトースは含まれているが,牛乳(非発酵乳)に含まれる約5g/200mLと比べると微々たるものだとしている。
しかし, D-ガラクトースと酸化ストレスマーカー,炎症マーカーとの関連および、老化への影響は,実験系で確認されているにすぎず,今回の観察研究デザインでは, 残存する交絡因子や逆の因果関係の存在を排除できていない。
したがって,「ヒトでの牛乳の影響については今後,慎重に検討を重ねていくべきであり,
骨折予防を目的とした牛乳摂取推奨を見直すべきかどうか、本考察のみを根拠に論じることは厳に慎むべき」と注意を呼びかけている。
(管理者注:推測だが、Clostridium属と同様に、乳児の消化管と免疫を早く成熟させるために炎症を惹起することが、幼弱哺乳類には必要なのかも知れません。)