<母乳の欠点>
一方、母乳にはビタミンK、D、鉄分、(稀に亜鉛)が不足しています。
ビタミンK欠乏症により、出血性疾患が増え、
ビタミンD欠乏症により、くる病や低カルシウム血症によるテタニーや痙攣が報告されています。
鉄欠乏性貧血も時折見られますし、
亜鉛の不足によって腸性肢端性皮膚炎が起きることがあります。
ビタミンKとDに関してはAAPのやり方で欠乏症を防止するのが最善です。
鉄分に関しては離乳食中に多く含まれるように注意していく必要があります。
母乳中の鉄分は十分量ではないため、強い貧血があれば月齢6以前でも鉄剤を投与することがあります。
月齢2~9の著明に体重が増加する時期に外用療法で改善しない(特に陰部に強い)皮膚炎を見たら、亜鉛不足を疑う必要があります。
亜鉛欠乏は稀で、必要所用量も少ないことからAAPでは方針を打ち出していません。
欧米では母乳強化物に十分な亜鉛含有量があり、腸性肢端性皮膚炎が起きることはまずありませんが、
日本の母乳強化物に亜鉛含有量が少なく、児の体重のみが急激に増えて相対的に亜鉛の必要所用量に追い付かず、亜鉛欠乏症になることがあります。
また母乳中の亜鉛濃度は、母体の血中亜鉛濃度とは無関係に分泌されるため、
母親がいくら亜鉛を摂取しても児の皮膚は改善されません。
直接児に亜鉛を投与する必要があります。低亜鉛母乳の原因は未だ不明です。
ヨーロッパでは母乳中のヨード不足が問題とされているが、
日本では食文化の違いのため胎児期からヨード過剰になることが多いようです。
ヨードは母乳中にも分泌されるので、乳児期にも過剰になることがあります。
但しこれらの殆どが一過性高TSH血症で終わるようです。
高TSH血症を見た場合は母親の食事中の海草類摂取量のチェックが必要です。
これら以外の点で、母乳が人工乳に劣っている点はありません。
逆に母乳が人工乳に勝っている点は今も無数にあり、今後もこれらは研究されていくでしょう。