<育児法>
~エビデンスに基づいた育児法~ 愛着形成と自主性
<育児書の紹介>
小児科医は病気を治すのが仕事ですが、しばしば治すことが困難な心の病気に出会います。
子どもにとって最も大切な乳幼児期に、親が育児に失敗した例が多く、
これを修正することは、小児科医だけでなく児童精神科医にとっても非常に困難な作業となります。
このような事例をたくさん経験してきた佐々木正美先生という児童精神科医の書いた本:
「子どもへのまなざし (福音館書店) 佐々木正美 著」
をぜひ読んでください。子を持つ全ての親に読んで欲しい育児書のバイブルです。
要点を手短に説明しましょう。
1.(目安として)2歳になるまでは、親は子の要求をできる限り受け入れて叶えてあげることが重要です。
親が子どもの要求を満たすことで、子どもは親に対して”信頼”するようになります。
親との”愛着形成”が行われ、こうしてできた「人への信頼」が社会性の基礎になります。
愛情を十分に受けず、「人への信頼」が持てない子にとって、親から厳しく指導されても ただの虐待にしかなりません。
親からの愛情を感じながらの指導とは全く別物になってしまいます。
このような物心付かない時期に、人を信頼する基礎ができ上がっているのです。
昔から日本人は往々にして子どもに厳しく指導しがちでした。
しかし人間の子はライオンの子とは違います。
谷に突き落として脚力を鍛えるよりも、人を信じることができる心を育てることが重要な第一歩なのです。
ライオンのようにエサを取らないと生きられない動物とは違い、
お金に困ったり、病気になったり、怪我をしても周囲と良好な人間関係があれば誰かが助けてくれます。
ある実例なのですが、受験勉強はとてもできるけれど人格に問題があり社会で孤立して、
複数の国立大医学部と東大文Ⅰに合格しては周りとうまくいかず中退を繰り返した知人がいました。
そしてその人は40代に脳梗塞になって、現在身体障害者として生活保護を受けながら暮らしている と聞きました。
その人もおそらく母親からそのような育児を受けてこなかったのでしょう。
赤ちゃんの時期にお腹が空いて泣き叫んでも決まった時間にしか母乳やミルクを与えられない環境に いた子と、母親の元で好きな時に好きなだけ哺乳した子では、将来我慢強くなるのは後者なのです。
前者は要求しても満たされない日々が続くことから、すぐに諦めてしまう子になるそうです。
これは筆者の勝手な私見ではなく、医学的根拠のある調査に基づいた事実なのです。
育児をしていてとても大変で、毎日疲れているかも知れませんが、
この”愛着形成”を乳児期にし損ねて、幼児期にしようとすると何倍も労力が要るし、
思春期以降にやろうと思ったら、もう絶望的に困難です。
2歳までの要求なんて”お腹が空いた”とか”おんぶして欲しい”とかたわいもないことです。
学童期~思春期以降に取り戻そうとすることに比べたら乳幼児期に頑張っておく方が遙かに楽です。
2.危険な行動、社会常識から大きく外れた行動をした時には穏やかに理由を説明しながら諭します。
幼児期も乳児期同様、子の要求にはできるだけ応えることが重要なことには変わりないのですが、
親から子への要求は必要最小限なものに絞ってください。
苛だったり叱ったりする必要はありません。
賞罰を与えながらするのは強制することに等しいと考えてください。
そうではなく、なぜしてはいけないか、なぜした方が望ましいのか、 理由を何度も何度も根気良く説明するのです。
3.親の希望を強要してはいけません。子どもには自主性が必要です。
これもしばしば親が犯す過ちです。
英会話でもスイミングでも公文式でも何でもいいのですが、子どもに直接強制したり、
賞罰を与えながら半ば強要することは子どもの自主性や自立心を奪います。
親が楽しそうに挑戦していれば、子どももやってみようという気になります。
強要するのではなく、見本を見せて動機付けやきっかけを与えましょう。
モーティべーションを引き出せなかったらとりあえず諦めてください。
もう少し月日が経って、友人がやっているのを見たらまた挑戦したくなるかも知れません。
一流の進学校に通っている子どもが犯行を犯すケースが時々報道されています。
報道の中では、子どもは勉強はできたが親に勉強することを強要されており、
時には父親は息子を殴って勉強の指導をしていたそうです。
父親からすれば息子への愛情もあってのことでしょう。
「将来、勉強で苦労させたくない。」とか「将来、自分と同じ職業に就いて欲しい。」 という気持ちが あったと思います。
でも育児としては最悪の方法を採ったことになります。
親が子どもを一人の人間として扱っていない、自主性を尊重せず、
無意識に自分の付属物として扱っていることに親自身が気付いていないのです。
ある意味、親が子どもに依存しているのです。親も家庭や社会で孤独なのかも知れません。
だからといって子どもを自分の孤独感を癒す道具にしてはいけません。
4.人の子を預かり、自分の子を預けることによって子どもの社会性が育ちます。
佐々木先生の経験では、虐待をした母親はほぼ例外なく孤独で相談する人がいないそうです。
母親はできるだけ地域社会に出て色々参加すべきです。親の社会性を手本にして子が育ちます。
また最も基本的で小さな社会である家庭(=夫婦)が仲良ければ、大抵子どもは真っ直ぐ育ちます。
社会性を育てる第一歩は夫婦関係なのです。
そして次ぎに地域社会があります。
父親も家族ぐるみのつき合いや社会的活動に積極的に参加し、 母親の悩みを緩和するように耳を傾けることが重要です。
母親が孤独でなく、相談する人が大勢いて、社会とつながって生きられたらイライラは少なくなります。
そして子どもにも”社会”の中で生きているということを実感させてあげてください。
<要点>
「子どもへのまなざし 佐々木正美 著」という育児書を読むことを、全ての親にお勧めします。
1.人を信頼する心は、親から愛情を受け要求を叶えてもらうことによって2歳頃までに最も大きく育ちます。
(愛情を与えられず、要求が叶えられないと人を信頼する心が育たず、諦めやすい子になります。)
我慢強さ(”諦めやすさ”の裏返しです。)や協調性(我慢できることが必要です。)がこれを基に育って行きます。
乳幼児期に愛情をたっぷり注いでください。この時期の”愛着形成”が全ての人間関係の基礎です。
2歳までの子どもの要求を叶えすぎて我が儘な子になるというのは迷信であり杞憂に過ぎません。
2.躾や社会常識を教えるのは(目安として)2歳以降からでいいのです。
危険な行動、社会常識から大きく外れた行動をした時には、穏やかに理由を説明しながら繰り返し諭していきます。
3.親の希望を強要してはいけません。子どもには自主性が必要です。
賞罰による指導は、親の希望を強制する行為です。
4.人の子を預かり、自分の子を預けることによって子どもの社会性が育ちます。
親自ら社会に交わり、子どもの見本となってください。
最後に佐々木正美先生から育児に関するアドバイスが書かれたサイトを紹介します:
http://mindsun.net/fra_menu/fra_sasaki.htm
更に知識を深めてください。